広告テンプレートの変更を考えるときの視点について

ソリューション推進局 コミュニケーション事業推進部
青島弘幸
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※本記事は2015年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

1.はじめに

広告クリエイティブのテンプレートの大幅な刷新は、マーケティング戦略の中でも重要な意思決定になるでしょう。一般的に企業の組織改編や宣伝部長の交代に伴って大きな変更が起こりやすいようですが、本来はブランドと広告の関係性などの把握によって判断されるべきものです。本稿では、クリエイティブを刷新すべきかどうか、その判断についていくつかの視点をあげて捉え方を提示し、その内のひとつの視点について事例を交えてご提案します。

2.評価の視点

定期的に広告とブランドの評価を測定し、関係性の変化を「線」で捉えているデータがあると、広告クリエイティブのテンプレート変更を客観的に判断する時に役に立ちます。つまり消費者の広告接触から、広告評価、ブランド評価、そして実際の購買行動までを時系列で捉えたデータがあると理想的ですが、例えば消費者に広告の評価をしてもらうことで行動に影響を与える可能性あるので、通常はいくつかの調査を組み合わせて判断しなければならないでしょう。

当社ではその一助になればという目的で、カテゴリ名刺激提示によるブランド再生・広告想起を2週あるいは4週間隔で測定する「Mind-TOP」と呼ばれる調査を実施しています。

この調査は【図表1】のような枠組みで関係性の変化を捉えることを目的に設計されました。

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「広告量→広告想起」の関係性では、広告出稿量に応じて想起されているのかという点と、出稿されなかった時に忘却されづらいものになっているのかがポイントになります。時系列でみたときの変化や競合ブランドとの比較の中で、基準を置いて判断材料とする考え方です。

「広告想起→ブランド考慮」の関係性では、そもそもブランドが考慮されなくなっているのかという「水準」の変化・トレンドがまず判断のポイントになります。その上で、広告想起とブランド考慮の関係性が好ましいものかどうかに焦点をあてていきます。例えば、 広告想起率が上がっているのにブランド考慮が下がっている場合は、広告は覚えられていますが、考慮されることに貢献していない点が問題です。また、ブランドに好ましいイメージを付与させることを目的に出稿している場合は、意図したイメージをブランドに付与できているかということも重要な判断材料となるでしょう。

「ブランド考慮→購入経験・推奨」の関係性では、「Mind-TOP」でも調査間隔に沿って購入経験を捕捉していますが、より好ましいのは、実際の購買データと広告量やブランド考慮との関係性をみることでしょう。購買行動に影響を与える要因は様々ありますが、特に購買行動に直接影響力が強い店頭やECサイトの施策の効果を除去して把握することや、広告との相乗効果を把握することが大切だと思います。

本稿では、広告量→広告想起の関係性から広告テンプレートの変更を考える判断材料を提示します。他の視点における考え方や判断材料については、別の機会に本誌でご紹介したいと思います。

3.広告量と広告想起の関係について

3.1. データを捉えるモデルについて

広告量と広告想起の関係性は、『広告想起=a×広告量』のような単純な式で表すことができません。確かに広告想起は広告量にあわせて上下する関係性はありますが、人は出稿がない場合でも広告を覚えていたりするでしょう。例えばインパクトの強い広告クリエイティブは忘れがたく、緩やかに忘却されていくはずです。

カテゴリ名刺激の再生調査の場合、消費者がブランド名再生できるような記憶の位置に留まれるブランドは常に3つくらいなので、消費者の記憶の中で過去の広告が居座って、現在テレビで広告されているブランドが座るイスが無いということもあります。

このような現象が再生調査のトラッキング・データの中にはきっと埋まっているでしょう。これを捉える には、次のようなモデルを当てはめると抽出することができます。

当期の広告想起率

= a ×広告量 + b×前期の広告想起率+調整項

この式の概念を図で表すと【図表2】のようになります。

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当期の調査回で得られた広告想起率の数字は、前回から忘却されずに残った継続分と、当期の出稿の効果により新たに増加した分が足されたものだと考えます。つまり、広告量にかかるaは広告想起率に与える当期の広告効果で、いわゆる短期効果を表しています。一方、bは前期の広告想起率にかかり、忘却されず維持される割合を示しているので長期効果といえるでしょう。

3.2. 事例紹介

【図表3】は花王「エッセンシャルシャンプー」の テレビ CM の GRP と広告想起の関係性における、 長期効果と短期効果の推移です。

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非常に競争が激しいシャンプー市場にあって、"エッセンシャル"は"メリット"と並ぶ超ロングセラーブランドです。「ダメージ・ケア」を商品名に付与し、基本的には毛先の補修などの機能訴求CMを展開しています。

図表より2006年から2007年かけて1000GRPあたりの広告想起の増加率が1%から4%へ上昇しており短期効果が急騰していることがわかります。これは2006年8月から出稿開始した「カワイイはつくれる!」というキャッチコピーのもと展開されたCMのインパクト効果であろうと推察されます。これより過去においては髪のきれいなイメージのある女優やモデルを起用していましたが、視聴者にはとても親近感ある南海キャンディーズのしずちゃんや山咲トオルを起用し、CMタレントのイメージにおいては全く異なるベクトルの表現戦略をとったことが効を奏した感じです。また、「カワイイ」という言葉がエロかわいいとかキモかわいいなど、様々なことを褒め表す表現として若い女性に使われ始め、その使い勝手の良さからもブームから定着へと向かった時流にフィットしたことが理由に挙げられるでしょう。

長期効果が高まると広告量を抑えてもブランドが忘れられにくくなり、テレビ以外のマーケティング施策に予算を配分することがしやすくなります。エッセンシャルでは2009年に前期の広告想起の維持率が70%となり、この年をピークに下降しており、2012年には50%近くに落ちていますが、すばやく広告テンプレートを見直し2013年初頭から梨花・ローラといった人気モデルを起用、このクリエイティブは2007年と同程度の短期効果の高いものとなりました。2014年夏より、CMタレントは嵐の櫻井翔に代わって短期効果が低くなっていますが、長期効果は60%ラインに達し忘却されにくい状況だと評価できるでしょう。

広告の長期効果が高まるとブランドにとって有利なマーケティング環境になると思われます。つまり、本稿のテーマである広告テンプレートの変更に対する考え方は、特に長期効果の指標に対して、『いつまでに、例えば60%を維持できていなければ変更を行うといった判断基準を設定する』ということです。これまで、社内で感覚的に広告テンプレート変更の意思決定が行われてきたとしたら、このようなデータの見方は意思決定場面で客観的な判断をサポートするでしょう。

例えば、【図表4】はシャンプーのある上位ブランドの推移をみたものです。2006年の発売 時に大量投下され初年度でも70%を超える長期効果を示していました。そして、タレントを入れ替えることによって話題性を持続していましたが、飽きられたのか2010年から長期効果だけでなく短期効果も下降しています。

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そこで従来の広告テンプレートを2011年末に見直しており、再び短期効果は上昇しています。しかし、長期効果の下降は止まっていないようです。2014年では短期効果も下がり始めておりインパクトは無くなって来ているようなので、そろそろ広告テンプレートの刷新が求められているのではないでしょうか。

ただし、これはあくまで「広告量→広告想起の関係性」からみた判断材料だということにご留意ください。ブランド・マネージメントにおいて、より重要な指標は売上やブランド力であるので、前段で述べた「広告想起→ブランド考慮の関係性」や「ブランドイメージとの関係性」、そして「ブランド考慮→購買との関係性」についての状況を把握して、総合的に判断を下さなければならないことでしょう。

4.おわりに

本稿では、広告テンプレートの刷新を考える際の判断材料として、ひとつの見方・考え方を提示しました。一番大事なのは、自社のブランドの広告が消費者の心の中に届いているのか、いないのかを測っていくことです。測定がなければ改善することもできません。

昨今、PDCAサイクルの期間がどんどん短くなっている傾向があります。そこで、広告の効果も即座に把握可能なツイッターやSNSの書き込み数といった反応で把握する会社もあると思います。その反応は本稿では広告想起の短期効果にあたるでしょう。シャンプーの事例でみたように、短期的に反応があっても長期効果が獲得できないクリエイティブならば、消費者は広告刺激に次第に慣れてしまうものなので短期効果は落ちていきます。そのような広告を続ければ、やがて購買に影響が出てくることでしょう。そのことを察知するにはセールスが好調な時でも過信せず、本稿で取り上げたような方法で広告効果の把握をしていくことなどが大切ではないでしょうか。

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