ブランド診断からコミュニケーション・コンセプトを検討する「ブランド・カルテ」

ソリューション推進局 メディア・コミュニケーション事業推進部
河原 達也
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「ブランド論」は1990年代の後半から盛んに議論されるようになり、マーケティングの重要な課題と認識されるようになりました。実務においてもブランド資産を測定・管理する試みが拡がり、現在では多くの企業がブランド診断調査を実施しています。

実務で行われているブランド診断調査は、Aaker(1991)やKeller(1998)のフレームワークを参考にしたものが多く、ブランド資産を正確に測定することに力点が置かれています。しかし、ブランド資産を測定する本来の目的は、そのブランドの強みと弱みを理解し、ブランド・ロイヤル層の維持・拡大に繋がる戦略を検討することです。従って、ブランド診断調査には、ブランドの課題を的確に把握するだけではなく、マーケティング施策を発想する手掛かりになることが求められます。

当社のブランド診断調査「ブランド・カルテ」では、ブランド力の向上に繋がるマーケティング施策の手掛かりを以下のステップで抽出していきます。

1.ブランド浸透プロセスのボトルネックを特定する

2.アピールすべき消費者ベネフィットを絞り込む

3.消費者ベネフィットを訴求するための 表現方法を検討する

4.ポテンシャルの高いターゲットを明らかにする

1.ブランド浸透プロセスのボトルネックを特定する()

ブランド・マネジメントの最終ゴールは、ブランド・ロイヤル層を増やすことで、持続的な競争優位を実現することです。購買ファネル分析では、潜在顧客がブランド・ロイヤル層に至るまでの浸透プロセスをファネル(じょうご)に例え、どの浸透段階に問題があるのかを特定します。 

【図表1】は「ブランド認知→特徴理解→購入意向→購入経験→主使用」という浸透プロセスを設定して、アルコール飲料のブランドAとブランドBの購買ファネルを比較したものです。

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購買ファネル分析では、浸透段階の転換率(コンバージョン・レート)を競合ブランドと比較することで、浸透上のボトルネックを特定します。この例ではブランドAの「特徴理解→購入意向」の転換率が37%(購入意向÷特徴理解)とブランドBに比べて低くなっており、ブランドAのボトルネックは購入意向であることが分かります。消費者に知覚されているブランドAの特徴が、購入意向に繋がっていないということです。

ブランドAの特徴が購入意向に繋がらない理由としては以下の2つが考えられます。

1 ブランドAの特徴が消費者にとって重要でない

2 ブランドAの特徴が競合ブランドと差別化されていない

以降では、購入意向を上げるために注力すべき消費者ベネフィットを、「重要性」と「優位性」の2つの視点で絞り込む方法をご紹介します。

2.アピールすべき消費者ベネフィットを絞り込む

消費者に伝達するベネフィットを絞り込むために、各ベネフィット・イメージの「重要性」と「優位性」を評価します。分析対象とするベネフィットは製品属性に由来する「機能的ベネフィット」だけではなく、商品の所有や使用に伴う感情に由来する「情緒的ベネフィット」も含めておきます。積極的にアピールすべき消費者ベネフィットは、消費者にとって重要で競合優位性のあるベネフィットです【図表2】。

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まず、各ベネフィットの影響度と対象ブランドにおけるベネフィット・イメージの強度を確認します。【図表3】では、横軸を対 象カテゴリにおける各ベネフィットの購入意向に対する影響度、縦軸を対象ブランドにおける各ベネフィット・イメージのスコアとして、各ベネフィットをプロットしています。

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望ましいのは消費者に複数の重要なベネフィットを提供できている状態、つまり、【図表3】の右上に複数のベネフィットがプロットされている状態です。

各ベネフィットを【図表3】の右上のポジションにシフトさせる方法の1つは、対象ブランドで既に定着しているベネフィット・イメージ(図の上方にあるベネフィット)が、消費者にとってどのようなメリットがあるのかを訴求して、そのベネフィットの影響度を高める(右側にシフトさせる[A])ことです。これは対象ブランドが既に所有しているイメージ資産を活用してブランド力を高めようという発想です。

もう1つの方法は、消費者にとって既に影響度の高いベネフィット(右側にあるベネフィット)のベネフィット・イメージを強化する(上方にシフトさせる[B])ことです。これは既に顕在化しているニーズに対応してブランド力を高めようという発想です。

既に影響度が高いベネフィットについては競合ブランドが先行しているケースが多く、そのイメージを強化したとしても、ブランドの差別的優位性に繋がる可能性は高くありません。しかし、そのイメージで先行している競合ブランドの強みを消し、競合ブランドの優位性を消失させることができます。

続いて各ベネフィット・イメージの差別性を確認します。明確な競合が存在する場合には、対象ブランドとその競合ブランドのベネフィット・イメージのスコアを比較して、差別化可能なベネフィットを特定します。明確な競合が存在しない場合には、カテゴリ全体でのベネフィット・イメージの総量から差別化可能なベネフィットを検討します。

【図表4】がカテゴリ全体を対象にして、差別化可能なベネフィットを検討するためのアウトプットです。横軸は各ベネフィット・イメージのスコアをカテゴリ内の全ブランドで合計したスコア、縦軸は対象ブランドにおけるベネフィット・イメージのスコアです。図の右側にあるベネフィットほど競合が多いベネフィットと解釈することができます。

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差別化されたブランドは、競合にはない強いベネフィット・イメージを持っています。従って、図の左上にベネフィットが多くプロットされているほど、差別化されたユニークなブランドだということです。左上にプロットされたベネフィットが消費者にとって重要であれば、そのブランドは競争優位性を持つことになります。

一方、図の右側にあるベネフィットは既に多くの競合が持っているベネフィット・イメージで、そのベネフィットを訴求したとしても競争優位を生み出すことはできません。しかし、競合が多いからといって訴求しなくてもよいということではありません。それが消費者にとって重要なベネフィットであれば、そのベネフィット・イメージを持つことが購入の選択肢に入るための必要条件になるからです。購入の選択肢に入るための「共有化ベネフィット」と、その選択肢から選んでもらうための「差別化ベネフィット」の両立が必要になります。

3.消費者ベネフィットを訴求するための表現方法を検討する

ブランディングにおける広告コミュニケーションの主要な目的の1つは、ブランドについて消費者が連想すること(ブランド連想)と消費者ベネフィットを強く関連づけることです。そうすることで、消費者がブランドに接触したときに、そのブランドから得られるベネフィットを想起できるようになります。

表現方法を検討する段階で参考になるのは、消費者ベネフィットに繋がる連想を抽出したデータです。例えば【図表5】は「うまみがある」、「スッキリしている」という消費者ベネフィットから連想されることを、「使用者」、「製品属性」、「使用場面」の3つの軸で抽出したものです。

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抽出された連想語は消費者の記憶に残すブランド連想の候補であり、広告コミュニケーションで使用される表現要素の検討対象になります。

既に消費者に浸透しているブランドの場合には、新たなブランド連想を創造するよりも、既存のブランド連想を活用・強化することを優先します。なぜなら、新たな「ブランド連想―消費者ベネフィットネットワーク」の構築には多大なコストがかかると共に、強くてユニークな「ブランド連想―消費者ベネフィットネットワーク」の構築には、継続的で一貫したコミュニケーションを行う必要があるためです。

既存の「ブランド連想―消費者ベネフィットネットワーク」を探るには、対象ブランドのブランド連想を抽出した後、ブランド連想とベネフィットとのつながりを分析します。ブランド連想は、製品属性、使用場面、ブランドパーソナリティ、組織イメージなど、できるだけ幅広い連想を抽出するようにします。ブランドパーソナリティや組織イメージは模倣するのが困難なため、消費者ベネフィットとの繋がりを強化することができれば、持続的な競争優位を実現することができます。

4.ポテンシャルの高いターゲットを明らかにする

セグメント別にコミュニケーション戦略を立案したい場合には、各セグメントのポテンシャルを評価し、ターゲティングの優先順位を検討します。各セグメントのポテンシャルは「カテゴリの消費ボリュームシェア」と「ブランド KPI(購入意向など)のスコア」で評価することができます。

【図表 6】がセグメントのポテンシャルを評価するためのアウトプット例です。

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この図の横軸は各セグメントにおける対象カテゴリの消費ボリュームシェア、縦軸は対象ブランドの購入意向です。この例ではシニア層の消費ボリュームシェアが27%と最も高い一方、購入意向のスコア(色の着いた部分)が他のセグメントに比べて低くなっています。シニア層における非購入意向層(色の着いていない部分)の面積が大きいことから、シニア層のポテンシャルが高いことが分かります。

コミュニケーション戦略を立案する段階では、ターゲットに合わせてメディア戦略や表現戦略を精緻化していきます。ターゲットに合わせたメディア戦略の立案には、ターゲット別のメディア到達状況を推定する統計モデルを活用することができます。また、ターゲットに合わせた表現戦略の立案には、CMクリエイティブ調査の蓄積データを利用して、ターゲット別の表現嗜好を分析することが有効です。

本稿ではブランドが注力すべき消費者ベネフィットを特定する方法を中心に、コミュニケーション・コンセプトを検討するための分析フレームをご紹介しました。

メディア接触の分散化の進展に伴い、コミュニケーション・メッセージを消費者の記憶に定着させることが難しくなっています。ブランド資産を蓄積していくためには、あらゆる情報接点を統合的に管理し、一貫したコミュニケーション・メッセージを効果的かつ継続的に発信しなければなりません。そのためには、分断されがちな「ブランド管理」と「キャンペーン管理」を連携し、キャンペーン単位の予実管理による継続的な改善が必要になるでしょう。

引用文献

Aaker, D. A.(1991)Managing Brand Equity, The Free Press.(邦訳:陶山計介・中田善啓・尾崎久 仁博・小林哲訳(1994)『ブランド・エクイティ戦 略』ダイヤモンド社.)

Keller, K. L.(1998)Strategic Brand Management, Prentice-Hall, Inc.(邦訳:恩蔵直人・亀井昭宏訳

(2000)『戦略的ブランド・マネジメント』東急エー ジェンシー .)

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