広告の売上効果を明らかにする ~ブランド力を取り入れた広告効果モデリング

河原 達也
マーケティング事業推進局 企画開発部
河原 達也
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※本記事は2017年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。著者の所属部署は当時。

1.はじめに

昨今、マーケティング・ミックス・モデリングという統計解析が注目を集めています。マーケティング・ミックス・モデリングは製品の売上に効果的なマーケティング施策を特定することを目的としており、アウトプットとして各マーケティング施策の売上への効果が算出されます。

一方、企業が行うマーケティング施策はすぐに売上に直結するものばかりではありません。例えば広告は、製品のブランディングを通して、中長期的に売上に影響すると言われています。広告のブランディング効果を重視する企業は、広告の効果指標としてブランド好意度や購入意向を設定することが多いようです。

実際には、広告に短期的な売上効果を求めるか否かは企業や製品によって様々です。しかし、ケラー(1998)が指摘するように、短期的な売上効果にもブランド力が重要な影響を与えることが知られています。従って、広告効果を捉えるには、広告の目的が短期的な販促かブランディングかに関わらず、ブランド力を取り込んだ分析が必要になるということです。

本稿では、広告の売上効果とブランド力の関係について取り上げます。広告がどのように売上に影響するのかを整理した後、実際のデータを用いてブランド力が広告の売上効果に与える影響を算出します。

2.広告はどのように売上に影響するのか

広告から売上への効果の流れを示したのが【図表1】です。広告から売上への影響には3つのルートがあると仮定しています。

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1つめが「広告→ブランド力→売上」のルートです【図表1の①】。このルートは、好ましいブランドイメージが形成されることによって生じる売上効果を表しています。好ましいブランドイメージは継続的な広告出稿により少しずつ形成されていくことが普通です。従って、ブランドイメージの形成を伴う売上効果は、短期的には小さくなりがちです。一方、ブランドイメージの形成を伴う売上効果は、そのブランドイメージが忘却されない限り継続すると考えられます。つまり、継続的な広告出稿により強く好ましいブランドイメージを形成することに成功すれば、その効果は中長期的に持続するということです。

2つめは、広告が売上に直接影響する「広告→売上」のルートです【図表1の②】。このルートは、ブランド力の上昇を伴わない広告の「販促効果」を表しています。広告の販促効果には、消費者への効果と流通への効果が存在すると考えられます。消費者への効果とは、消費者が広告によってプレゼントキャンペーンや価格キャンペーンを認知することによって生じる効果です。一方、流通への効果とは、広告によって店頭配荷や特別陳列などの店頭展開が促進される効果を表しています。

ブランド力の効果で忘れてはならないのが「ブランド力」が「広告→購買」の矢印を経由する3つめのルートです【図表1の③】。魅力的なブランドが行うキャンペーンへの反応率は、そうではないブランドが行うキャンペーンへの反応率よりも高くなると考えられます。また、広告に合わせた店頭展開を行う際、消費者の評価が高いブランドの方が流通からの協力を得られやすいでしょう。このように、ブランド力を高めることは広告の短期的な販促効果を高めることにも貢献しています。より広く言えば、ブランド力の向上は様々なマーケティング施策の投資効率を上昇させるということです。

3.広告の売上効果のモデリング

3-1. 分析データ

実際に【図表1】の関係を検証してみましょう。検証を行うにあたり、カスタマー・コミュニケーションズ(CCL)株式会社にご協力いただきました。CCL社では全国のスーパーマーケット、ドラッグストアなどの顧客ID付POS情報を収集しています。多数のカード会員組織を横断した購買履歴は、延べ5,000万人規模に及びます。

今回は、CCL社が保有する購買履歴情報と、当社が保有する広告出稿量およびブランド評価データを組合わせて分析を行いました。分析データの概要は以下のとおりです。

[対象ブランド]

ヘアケアカテゴリーの4ブランド

・エッセンシャル(花王) ・パンテーン(P&G)

・ラックス(ユニリーバ) ・h&s(P&G)

[分析指標]

・世帯GRP   ・購買個数

・ブランド考慮率※1 ・平均購買単価

[データ期間]

2013年12月~2015年11月(2週間単位)

3-2. 広告効果のモデリング結果

【図表2】がモデリングの結果算出された各指標間の関係です※2。世帯GRPやブランド考慮率の他に、平均価格の効果も併せて推定しています。

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まず、「世帯GRP→ブランド考慮率→購買個数」の関係をみると、「世帯GRP→ブランド考慮率」の関係、「ブランド考慮率→購買個数」の関係ともに、すべてのブランドでプラスになっています。CMの出稿がブランド考慮率を上昇させ、結果として購買にプラスに影響するということです。「ブランド考慮率→購買個数」の数値がブランド間でかなりばらついていますが、その数値が最も高いのは価格が安いエッセンシャルです。このことは、価格が安いブランドは購入のハードルが低いため、ブランド考慮率の上昇が購買に繋がりやすいということを表しています。

「世帯GRP→購買個数」の関係についてもすべてのブランドでプラスになっており、CM出稿の短期的な「販促効果」が生じていることが分かります。今回、注目したいのが「世帯GRP→購買個数」の数値のブランド間の違いです。図表1の整理では、「広告(世帯GRP)→売上(購買個数)」の関係はブランド力(ブランド考慮率)に影響されるということでした(図表1の③)。そこで、ブランド考慮率の水準と「世帯GRP→購買個数」の数値の関係をグラフ化してみました【図表3】。

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これをみると、分析期間の平均ブランド考慮率が高いブランドほど「世帯GRP→購買個数」の数値が高くなっています。ブランド考慮率が最も低いh&sと最も高いパンテーンを比べると、CMの販促効果に大きな差があることが分かります。

ここでブランド考慮率の上昇がどの程度の広告効果の違いを生み出すのかをシミュレートしてみましょう。シミュレーションの対象ブランドはh&sとします。h&sのブランド考慮率は約10%なので、ブランド考慮率が10%の場合と20%に上昇した場合の広告効果を比較してみます。

ブランド考慮率が10%の場合、1,000GRP出稿したときの広告効果は、

①「世帯GRP→購買個数」(CMの販促効果) =593個

②「世帯GRP→ブランド考慮率→購買個数」 =269個

計 862個

となります。「世帯GRP→ブランド考慮率→購買個数」については、1,000GRP出稿するとブランド考慮率が1.5%上昇し、その上昇が269個分の購買個数の上昇をもたらすという計算をしています。

一方、ブランド考慮率が20%の場合、1,000GRP出稿したときの広告効果は、

①「世帯GRP→購買個数」(CMの販促効果) =775個

②「世帯GRP→ブランド考慮率→購買個数」 =269個

計 1,044個

と計算できます。「世帯GRP→ブランド考慮率→購買個数」についてはブランド考慮率が10%の場合と同様で、269個の上昇です。しかし、「世帯GRP→購買個数」の効果は775個となっており、ブランド考慮率が10%の場合の約1.3倍となっています。ブランド考慮率を10%から20%に上昇させることで、CMの販促効果が約30%上昇するということです。

4.売上につながる広告プランニングの実現に向けて

マーケティング施策の効果指標としてブランド好意度や購入意向を測定しているが、それが売上に連動しないという話をよく聞きます。【図表1】で言えば「ブランド力→売上」の関係がみられないという現象です。【図表2】で「ブランド考慮率→購買個数」と「世帯GRP→購買個数」の数値を比べると、すべてのブランドで「ブランド考慮率→購買個数」の数値が小さくなっています。商品の価格や店頭展開などの諸条件によっては、ブランド力と売上が連動しないということも起こり得るのかもしれません※3。

しかし、ブランド力を高めることは、様々なマーケティング施策の投資効率を上昇させることにも貢献します。本稿ではブランド考慮率の「世帯GRP→購買個数」というCMの販促効果への影響を示したのみですが、他のマーケティング施策への影響を含めると、ブランド力を高めることの効果はさらに大きいことが予想されます。これはAIDMAのような消費者の心理変容のみを想定した広告効果モデルでは、真の広告効果を見誤るということを意味します。ブランド力によるマーケティング施策の投資効率の上昇を積極的に評価すべきです。

広告プランニングの視点で言えば、まずブランド力を高めることが重要になります。ブランド力が低い状況では、販促施策の投資効率が高くなりにくいからです。ブランド力を高めるには、ブランドの独自性や魅力を伝えるための一貫した広告コミュニケーションを継続して行う必要があります。一方で、ブランド力を高めることに成功したからといって、販促活動が必要ないということではありません。多くの競合ブランドが販促施策を展開する状況では、高いブランド力がそのまま消費者の購買に繋がる可能性が低いからです。ブランド力が高いからこそ、そのブランド力を活かした販促施策を展開すべきです。

本稿では、広告の売上効果とブランド力の関係を整理しました。ブランド力に応じた有効な広告プランニングを行うためには、広告キャンペーンの認知、態度変容を調査するだけでは不十分です。ブランド力の定期的な診断を行って、競合ブランドと比較した場合の当該ブランドのブランド力や独自性を捉えておくことが重要になります。

当社では、クリエイティブカルテやキャンペーンカルテなどの広告診断ツールに加えて、ブランド力をトラッキングできるMind-TOP®(マインド・トップ)を提供しています。それらのツールを組合わせて、広告の売上効果を高めるためのプランニングのお手伝いができればと考えています。

[ 引用文献 ]

Keller, K. L. (1998) Strategic Brand Management, Prentice-Hall, Inc. (邦訳:恩蔵直人・亀井昭宏訳 (2000)『戦略的ブランド・マネジメント』東急エージェンシー)

※1 ブランド考慮率は、ブランド名やパッケージを提示しないで回答してもらう純粋想起の指標です。

※2 ブランド力を目的変数とするモデルと購買個数を目的変数とするモデルを別々に作成しています。

モデリングには階層ベイズモデルという手法を用いています。

※3  もちろん測定している指標が不適切ということもあり得ます。多くの競合ブランドが存在する状況では、消費者の頭の中でのシェア

(マインドシェア)が重要なため、ブランド名やパッケージを提示しないで回答してもらう純粋想起の指標が適切な場合が多いです。

Mind-TOP®調査概要

調査単位 : 年12回(4週間間隔)または24回(2週間間隔)

調査地域 : 1都6県

調査対象者 :上記地域に在住の18~59歳男女個人

約3,150人の個人パネル

調査方法 : インターネット調査

調査対象カテゴリ : 飲料、日用品、耐久財、金融・保険など、

約30カテゴリ

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