ブランドコミュニケーション戦略の為の情報システム〜Mediamarketing Presentationより〜

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#ブランディング

※本記事で紹介しているMind-TOPはサービスを終了しています。
※本記事は2000年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

去る1999年12月3日に"Mediamarketing Presentation"として「ブランドコミュニケーション戦略の為の情報システム」と題したセミナーを開催しました。

本稿では、
1.ブランドへの取り組み
2.Mind−TOP
3.実験結果
に絞って紹介します。

1.ブランドへの取り組み

ブランド管理論の隆盛を受けて当社でも1997年から社内プロジェクトが発足し、新たなデータ・サービス構想の検討が始まりました。(セミナー第2部「ブランド管理論と実験調査結果の分析」で講演をされた青木学習院大学教授は発足当初から顧問として参加されています。)

検討に当たっては、「日常的な管理情報」を「迅速に低料金で安定して」提供するという目標を設定しました。つまり、視聴率、広告統計、ACR、MCR、TVCMカルテなどと同様なシンジケートデータサービスを目指すということです。

ブランド周辺のシンジケートデータを整理すると図1のようになります。

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「広告素材」及び「広告統計」データは当社でサービスを行っており、「購入(売上)」データは各社のPOS及び消費者パネル調査でサポートしています。ブランド・マネージメントを軸とした場合に欠けているのが「認知情報」であるということがわかります。

一口にブランドの認知情報といっても様々な情報が連想されますが、その中で「心理的POSデータ」をコンセプトとしたサービス''Mind−TOP"を計画しました。

2.Mind−TOPとは...

Mind−TOP は Mind States Time Of Purchaseの略です。購買時点での心の中の想起・考慮ブランドをPOS情報のように提供しようと考えました。

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図2にMind−TOP「心理的POS」のデータ構成を示しましたが、想起率・考慮率、第1位想起率仁Top of Mind)は従来から一般的に使われてきた指標ですらそれらに加えて、
●想起・考慮集合内での「継続率」
●想起・考慮集合外からの「参入率」
●想起・考慮集合外への「離脱率」
が測定可能となっています(想起・考慮のダイナミズムがわかります)。

では、昨夏の実験調査結果からポイントを紹介します。

3.実験調査結果

<調査概要>

[標本数]720人
[対象者]男女15−59歳
[地域]東京30km圏
[抽出法]当社所有の定性モニター・リストより性年齢区分割付に基づいて抽出
[時 期]1999年7月〜9月(12回)
[方 法]VR−Dial※(in-bound式電話調査)

最大の特徴である想起・考慮のダイナミズムを測定するためパネル標本化をしました。本実験調査では想起・考慮をパネル標本で継続的に調査することの可能性を検証するという課題も含んでいます。

※VR−Dialとは、各パネル標本が予め決められた電話番号に電話し、音声ガイダンスに沿って質問に答えていく方式です。有効標本数の確保、パネル標本別の質問設定が可能などの利点があります。

調査時期・回数は1999年7月〜9月で12回(週)実施しました。

[A set]自動車、ビール、パソコン(男)/口紅(女)、即席麺、富士通
[B set]清涼飲料、アルコール飲料、テレビ、銀行、東芝
[C set]お茶飲料、ドリンク剤(男)/シャンプー(女)、CVS(コンビニエンスストア)、松下電器
[D set]缶コーヒー(男)/化粧品(女)、携帯電話・PHS、ファミリーレストラン、日立、シャープ

対象者の負担軽減と調査カテゴリをできるだけ多くするため、上記のようなカテゴリのグループ分けをしました。1人の対象者は1回の調査で5つのカテゴリを答えます。A setが第1週目、B setが2週目、C setが3週目、D setが4週目の調査対象カテゴリになります。5週目にはA setに戻ります。この方法で、23カテゴリを4週間隔で3回調査しました。

実際の音声ガイダンスは以下の通りです。
1)○○と聞いて思い浮かぶ「商品や銘柄」を幾つでも結構ですのであげてください。<想起>
2)では、買ってもよいと思っている○○の「商品や銘柄」は何ですか。幾つでも結構ですのであげてください。<考慮>

1カテゴリ当たり2問と至ってシンプルです。但し、自動車の場合は「商品や銘柄」の代わりに「車種や車名」に、銀行・CVS・ファミリーレストランの場合は買ってもよいの代わりに利用してもよいなどの調整をしました。また、○○を企業名とするパターンも用意しました。その場合は、「商品ジャンルや商品種類」を測定しています。

次の4つのグラフは、カテゴリ毎に想起集合と考慮集合のサイズを比較したものです。
横軸が「1人当たり平均想起ブランド数」、縦軸が「1人当たり平均考慮ブランド数」です。

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注)数値は各カテゴリ3回調査の平均
注)図3−Dは想起(考慮)された商品種類・カテゴリ

想起集合サイズでは、3〜6ブランドの範囲で差が見られますが、考慮集合サイズは2〜3ブランドの範囲に集中しています。購入検討候補となるブランドは多くの場合せいぜい3つ以下であり、その集合の中に常に入っていることの重要性を示唆しています。

次に、ビールを例にとって具体的な結果を紹介します。
次ページの表はビールの3回目調査(1999/8/29−8/31)の考慮集合への含有率・上位10ブランドです。

含有率 1位 2位

1.スーパードライ 47.0 25.7(55) 13.0
2.一番搾り 41.6 18.0(43) 15.9
3.ラガー 23.2 9.2(40) 5.8
4.エビス 18.8 7.7(33) 4.1
5.モルツ 16.6 5.4(33) 5.2
6.バドワイザー 13.7 4.1(30) 3.9
7.黒ラベル 13.3 4.6(35) 4.1
8.淡麗 10.8 2.1(19) 4.1
9.キリン 7.5 5.0(67) 0.8
10.ハイネケン 6.0 0.4(7) 1.7

( )内は1位考慮ブランドとして全体にしめる比率(シェア)%。

余談になりますが、ビールとして思い浮かぶ(買ってもよい)ブランドを対象者の言葉通り記録しますので、様々なブランド名が収集されます。メーカー名だけのパターン、メーカー名+ブランド名のパターン、ブランド名だけのパターンや、数は少ないのですが存在しないブランド(アサヒ淡麗、サントリー一番搾りetc)さえあがってきます。上表のスーパードライには「スーパードライ」、「アサヒスーパードライ」、「アサヒビールスーパードライ」の回答パターンが含まれます。

「スーパードライ」と「一番搾り」に注目すると、考慮集合含有率はそれぞれ47.0%と41.6%となっていますが、1位考慮率は差が広がってスーパードライが25.7%、一番搾りが18.0%、1位考慮/含有率の比率にするとそれぞれ55%と43%になります。スーパードライが考慮集合に入っている人の55%が1位にスーパードライをあげているということです。一番搾りの場合はその比率が43%です。

以上の関係をグラフに表してみます。

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ビール以外のカテゴリでも考慮集合含有率と考慮順位の構成に関して1位ブランドと2位ブランドを比較してみました(各カテゴリとも3回目調査の数字)。

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多くのカテゴリで、考慮集合含有率がトップのブランドは考慮集合含有率そのものが高いだけでなく1位に考慮される比率も高いことが確認されています。これは、考慮集合に包含される重要性もさることながら何位に考慮されるかも大切な指標であることを表しています。

今実験では自動車を測定対象に選びました。前に述べましたように自動車の場合は「車種や車名をあげてください」としたのですが、図4−Dにあるように「トヨタ」「日産」といった企業名が上位にランクされました(「ホンダ」「BMWJ「クラウン」「ベンツ」「マークⅡ」が続きます)。消費者の心の中では車種や車名よりも企業名がブランドとして意識されているということが考えられます。同時に自動車の場合は車種や車名レベルでの測定の困難さを感じさせる結果となっています。

それぞれのカテゴリは3回調査されていますので、3時点の時系列変化をビールを例に、テレビ広告量との関係で見てみました。

注)テレビ広告量は本数ベース世帯GRPシェア(ShareofVoice)

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1位考慮率とGRPシェア、両者ともに全ブランドを合計すると100になるという相対的な指標です。

スーパードライは3時点目にGRPシェアを13.0%→8.5%に減らしています。1位考慮率はそれに反応するかたちで27.6%→25.7%にやや減少が見られます。また、一番搾りは、2時点目に18.2%のGRPシェアを獲得し、3時点目も17.0%の高水準のTVCM出稿を行いました。その間の1位考慮率は15.2%→17.7%→18.0%と漸増傾向にあります。

今まで述べてきた範囲は従来の認知率調査でも補足できる内容でした。Mind−TOPの最大の特徴は、想起・考慮集合への「参入」「継続」「離脱」が測定できる点であると述べました。

想起・考慮集合の変化のダイナミズムを把握し、各ブランドの顧客基盤の強さ・弱さを確認できます。

図6−A〜Fは3回目調査を中心に2回目調査からの考慮集合ダイナミズムを表した模式図です

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スーパードライの3回目調査の考慮集合含有率は48.2%、その内訳は、2回目からの継続(2回目、3回目ともに考慮集合内)が28.5%、参入(2回目は考慮集合外、3回目は考慮集合内)が9.7%から構成されています。参入率と離脱率の大きさを比べると参入率が、離脱率を上回っています。

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考慮集合含有率2位である一番搾りは、スーパードライより4ポイント継続率が低いのですが、継続・参入・離脱の構造は変わらない様です。

以下に、お茶飲料と缶コーヒー、それぞれの1位2位ブランドを図示します。

これらは、集合含有率だけでは捉えられなかった指標です。

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本稿で紹介しました事例は、実験調査の限られたデータからの事例に過ぎません。今後は蓄積されたデータの分析・解析を行い、指標の妥当性を検証していきます。

現在当社では、Mind-TOPの本格サービスに向けて、調査規模・頻度・サービス携帯等々の課題を解決し幅広く利用できる仕組みづくりに着手しています。

研究開発センター 鈴木 暁

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