ドクターKの「ブランド・コミュニケーション論」講座 ACT 4

VRDigest編集部
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※本記事は2000年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

日本型ブランド・エクイティ・モデル パート(Ⅰ)

 ブランド・エクイティは顧客の側に形成された「見えざる資産」です。「ブランド・マネージメント」は、このブランド・エクイティ即ちブランド資産(価値)の形成をコントロールすることでもあります。ブランド資産形成メカニズムとその因果構造を明らかにすることはマーケテイング理論としてばかりではなくマーケテイングの実践の場においても非常に重要な意味を持っています。

 本講座では、2回に分けて Aaker(1991)のブランド・エクイティ概念に基づいた因果モデルやKeller(1993)の「ブランド知識」モデルなどとの比較検討を通して日本型「のれん」概念を組み込んだ独自の因果モデルについて解説したいと思います。

§1 日本型ブランド・エクイティ概念モデルの構築

 日本型経営風土を踏まえてブランドの価値管理について考えるとき、その基本となる概念は「のれん」です。これは、Aaker流の「ブランド・エクイティ」に対比して「コーポレイト・エクイティ」(Corporate

Equity)とも言える概念です。

 但し、このコーポレイト・エクイティ概念はブランド・エクイティに取って代わるという概念ではなく、むしろブランド・エクイティとの間で相互作用が想定される構成概念として捉えるのが自然でしょう。

1-1 Aakerのブランド・エクイティ概念

 Aakerの概念モデルではコーポレイト・エクイティは「企業にとっての価値」という表現でブランド・エクイティがもたらす一種の恩恵あるいは、因果関係の結果として捉えられています。同時に、「顧客にとっての価値」を経由してブランド・エクイティの影響を受けるという関係が想定されています。

左図はAakerの考える「ブランド・エクイティ」と「企業」と「顧客」との関係を表現したものです(図1-1)。

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1-2 Kellerの「ブランド知識」概念

 

ブランド・エクイティが顧客の側に形成・蓄積される「見えざる資産」という観点から、Keller(1993)は「ブランド知識」を媒介として企業のマーケテイング活動に対する顧客の反応としてのブランドに対する知覚、選好、行動が規定されるという概念モデルを提唱しています(図1-2)。

 Aakerの「ブランド・エクイティ」概念に対応する形で「ブランド知識」を位置付けている点がKellerのモデルの特徴です。

1-3 Bielのブランド・イメージ概念

 Biel(1993)はブランド・エクイティに対する広告の役割に注目する立場から「ブランド・イメージ」がブランド・エクイティを規定し、更にそれがブランドの市場価値を規定するというモデルを提起しています(図1-3)。Aakerのモデルと対比すると極めて「ブランド・イメージ」重視の概念モデルであると言えます。また、彼はブランド・イメージを構成するサブ・イメージとして企業イメージを位置付けていますが、それらの相互作用についてはとくに注目していません。

1-4 コーポレイト・エクイティ概念

 AakerやKeller涜のブランド・エクイティにコーポレイト・エクイティとの相互作用を組み込むと、以下(図1-4)のような「日本型ブランド・エクイティ概念モデル」が考えられます。

 このモデルは、ブランド・エクイティがコーポレイト・エクイティとの相互作用の中で形成され、コーポレイト・エクイティはブランドからの恩恵を、企業イメージや市場(業界)での地位という形で「のれん」の形成と蓄積が行われることを想定したものです。このような観点からの実証研究の試みはほとんどありません。但し、西尾(1989)は企業イメージがブランド選択の規定要因として、ポジティブな影響を与えるという観点からの実証研究をビール市場について行っています。

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1-5 日本型ブランド・エクイティ因果モデル

 日本型ブランド・エクイティ概念モデルでは(図1-5)、AakerとKellerのモデルを統合した形でブランド・エクイティは顧客の側に形成・蓄積された「見えざる資産」という観点からそれを規定するのは顧客が持っているそのブランドに関する「知識」であると想定しています。「コーポレイト・エクイティ」≒「のれん」は、その「ブランド知識」と「ブランド・エクイティ」の形成に影響を与えると想定しています。さらに形成されたブランド・エクイティはコーポレイト・エクイティの形成に対して因果的な影響を及ぼすことを想定したモデルです。

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§2 モデルの検証

 以上のAaker(1991)、Biel(1993)、Keller(1993)の ブランド・エクイティに関する概念モデルは彼らのブランド・マネージメントに関する経験的洞察に基づく仮説にすぎません。「日本型ブランド・エクイティ・モデル」も同様です。

 しかしながら、構成概念(Construct)としてのブランド・エクイティを直接観察したり、測定することはできません。そこで、構成概念とデータとを結びつける諸指標(indicator)を通して問題の概念モデルが理論としての妥当性を有する仮説であるかどうかを経験的に確かめる必要があります。

2-1 方法論

 ここでは、ブランド・エクイティをはじめとする構成概念に対応して測定される諸指標間の相関関係(分散・共分散関係)から各モデルで示された構造的因果関係を解明するための分析手法として「共分散構造分析法」を用います。

 この手法は構成概念を因子と考えると、確認的因子分析法であり、構成概念間の因果関係を分析する手法としては、回帰分析の一種であるパス解析を組み合わせた手法です。こうした構成概念間の関係や構成概念と指標の関係を表す方程式のパラメータを同時に求めるための統計モデルとしては、Joreskog(1978)の LISRELモデルがあります。今回は、LISRELモデルをターゲットに開発されたSASのCALISプロシジャを用いて各理論モデルの構成概念妥当性の検討を行いました。(豊田、前田、柳井,1992)

 一般に統計的分析モデルは、そのタイプを因子分析のような「測定方程式」を用いるモデルと、回帰分析のような「構造方程式」を用いるモデルに分けることができます。共分散構造分析モデルは、この2種類の方程式を用いて、検証したい仮説又は理論の構成概念すなわち潜在変数間の因果関係を表現することに適した分析手法として近年、多くの適用事例がみられるようになりました。

2-2 パラメータの推定方法

 共分散構造分析モデルのパラメータの推定方法としては最尤推定法(レーベンベルグーマルカートの方法)を用いました。

2-3 分析アプローチ

 ブランド・エクイティ 概念モデルの構成概念妥当性及び実証モデルを検討するにあたって次の2つの分析アプローチが考えられます。

(1)Market-Based Approach

(2)customer-Based Approach

 第1のMarket-Based Approachはブランドそのものを観測対象(標本)とするマーケット・レベルの集計済データに基づくアプローチです。第2のCustomer-Based Approachは、消費者あるいは顧客を観測対象とするブランド・レベルの標本個別データに基づいたアプローチです。

 最初にMarket-Based ApproachによってAaker及びKellerの概念モデルを中心にブランド・エクイティの構成概念妥当性の検証を行います。

 次に、Customer-Based Approachでは標本個別データを用いて特定のブランドについて概念モデルの構成概念(潜在変数)間の因果関係という観点から消費者(顧客)の心理的・行動的プロセスの中でブランド・エクイティ がどのように形成、蓄積、発現されるのかを Market-Based Approachで得られた知見をベースに分析を行います。特に、Customer-Based Approachではブランド固有のマーケット・ポジションと概念モデルの構成概念(潜在変数)間の因果関係の強度と方向に関する情報(パス係数)からブランド・マネージメント上の診断的知見を得ることが期待されます。

§3 Market-Based Approachによる概念モデルの比較

 Aaker及びKellerの概念モデルと日本型ブランド・エクイティ・モデルの比較を中心にモデルの妥当性の検証を行います。

3-1分析データ

 分析に用いた観測変数はトイレタリー関係の主要な38ブランドの1992年11月時点の集計済データです。次ページ表は、各観測変数ラベルとデータ・ソースとの対応関係を示したものです。

3-2 Aaker のブランド・エクイティに関する因呆モデル

 このモデルはブランド・エクイティがすでに存在し、その発露(観測結果)として"Awareness"や"Loyalty","usage"が想定されていることを示しています。

Aakerのモデルでは、更に企業はブランド・エクイティの影響を顧客を通じて間接的にも受けるという因果連鎖が想定されています。

3-3 Aaker Modelの推定結果

 図3-6はAaker Model(多重指標型モデル)の推定結果を標準化係数で示したものです。モデル全体の適合度を示すGFI(Goodness of Fit Index)は、0.8557とまずまずの結果です。モデルの安定度を示す AIC(赤池の情報基準量)は、6.9427と非常に安定したモデルであることを示しています。

但し、ブランド・エクイティを構成する観測変数の内、"Brand Loyalty"の係数がゼロに近く仮説通りではありません。又、"value to Firm"を構成する観測変数である「企業好感度」の係数についてもあまり高くありません。更に、上記の2つの変数のt値は有意ではないという推定結果でした。但し、他の変数のパス係数のt値は全て有意です。

 モデル全体としての妥当性が認められるが、部分評価としてはやや問題があると言わざるをえない結果です。

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3-4 Kellerモデルの推定結呆

 Keller(1993)は、ブランド・エクイティが構成概念としての「ブランド知識」を媒介として形成・蓄積されると仮定しています。顧客側の心理的反応メカニズムを通して、「ブランド認知」と「ブランド・イメージ」の形でブランド資産の蓄積が行われると仮定し、その結果として、当該ブランドの購入確率(=ブランド・シェア)が規定されていると考えています。しかし、今回は利用可能な観測データ上の制約からブランド・イメージを「ブランド知識」に対応づけることが出来ないので図3-8のようなモデルを設定しました。

 推定結果は、GFIが0.693でAICが37.772 とモデルの全体評価としてはあまり良い結果ではありません。但し、個々の係数のt値は全て有意で部分評価としては良い結果が得られました。更に、「ブランド知識」からブランド・エクイティへのパス係数が0.588と高いことは構成概念間の関係に関する仮説を支持する結果であるといえます。

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3-5 日本型ブランド・エクイティ・モデルの推定結果

 日本型ブランド・エクイティ・モデルの全体評価は、Aakerのモデルと比べるとGFIが0.008であまり良くありません(図3-9)。

AICに関しても33.267でKellerの修正モデルよりやや安定していると言える程度です。

問題の構成概念間のパス係数については"Corporate Equity"「ブランド知識」の原因と見るには00196 と言う値は低く、同様に"Brand Equity""Corporate Equity"相互関係についても0.0515と0.0854とかなり低く、t値も有意ではありません。「ブランド知識」から「ブランド・エクイティ」へのパス係数については0.8792で仮説通りの因果関係が認められます。尚、各観測変数と潜在変数間の推定値のt値は全て有意でした。以上の推定結果は、モデル全体としての妥当性を否定するものではないものの、モデルの構造や観測データについて再検討の余地がある事を示唆しています。

3-6 Market-Based Modelsの比較検討

 各モデルについてAICを評価指標にして比較するとAakerモデルが相対的に優れていると言えます。しかし、Kellerモデルと日本型ブランド・エクイティ・モデルは構成概念(潜在変数)に対応した観測変数(調査データ)に制約がある中での分析であることを考慮すると、それぞれのモデルは適合度及び安定性において一定水準の妥当性を示す結果と言えます。

 但し、日本型ブランド・エクイティ・モデルではコーポレイト・エクイティに対応する観測変数として企業イメージの「企業好感度」項目のみを用いている点など測定データに課題が残されています。

 次回はパートⅡとして、顧客ベースの分析結果を紹介します。

     研究開発センター 木戸 茂

      ※ 参考文献は次回に掲載します。

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