ドクターKの「ブランド・コミュニケーション論」講座 ACT 5

VRDigest編集部
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※本記事は2000年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

日本型ブランド・エクイティ・モデル パート(Ⅱ)

§4 Customer-Based Approachによる独自モデルの検証

ここでは、前回紹介したMarket-Basedのモデルとして妥当性が一応確認されたコーポレイト・エクイティ概念を組み込んだ「日本型ブランド・エクイティ・モデル」について顧客ベース(Customer-Based)での分析結果を紹介します。

顧客ベース分析の利点は言うまでもなく個別のブランドについての分析が可能になる点です。この結果として、ブランド固有のマーケット・ポジションと概念モデルの構成概念(潜在変数)間の因果関係の強度に関する情報(パス係数)からブランド・マネージメント上の診断的知見を得ることができます。

4-1 分析データ

Market-Based Approachで用いたA社のブランド・リサーチの標本個別データを利用しました。「日本型ブランド・エクイティ・モデル」のKey Constructであるコーポレイト・エクイティに対応する「企業イメージ」の「観測変数」は測定された18個の(1,0)型の評価項目を因子分析して3因子に縮約した上で、それぞれの因子に所属する各評価項目への対象者の反応の有無を因子別に合計した値を用いました。抽出した因子は以下の通りです。

       Ⅰ.消費者志向因子 (5)

       Ⅱ.一流企業因子  (5)

       Ⅲ.成長性因子   (3)

 尚、この調査では4社(花王、ライオン、P&G、資生堂)が企業イメージの測定対象となっており、各社別の因子分析の結果がほぼ共通した因子構造であったので、4社分のデータをプールして(4社×603人=)2412件のデータとして分析しています。

4-2 モデルの比較評価

顧客ベースの「日本型ブランド・エクイティ・モデル」を検討するにあたって構成概念(潜在変数)間の因果関係を規定するパスの張り方が異なる図3-10ような4つのモデルについて比較しました。

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上記の表1-2(1)~(4)は、歯磨き、歯ブラシ、シャンプー。リンス、洗剤の4つの製品種類別にブランドをプールして「ブランド全体」として4つのモデルについて評価した結果です。

モデルの適合度の評価指標であるGFI(AGFI)と安定度とモデルの選択基準であるAICで比較すると全ての製品種類についてモデルA、モデルB、モデルCはほとんど差がなく非常に良い推定結果を示しています。モデルDは僅かながらフィットが相対的に悪いという結果でした。Market-Based Modelとの対比の観点から、図3-11の「モデルB」の援用が妥当と考えます。

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4-3 対象ブランドの市場位置

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 衣料用重質洗剤の主要なブランドについて日本型ブランド・エクイティ・モデルの適用を試みました。次の図3-12はVR homeScanデータ(1992年11月度)の「金額シェア」と「継続購入率」の関係からみた対象ブランドの市場位置を示したものです。

 シェアでみると、B1をトップ・ブランドとする典型的な寡占市場が形成されていることがわかります。更に、ブランド拡張の観点からみると、A1をコア・ブランドとしてA4が、C1に対してC3がそれぞれブランド拡張されているという市場です。

4-4 ブランド別分析

以下は、顧客ベースの「日本型ブランド・エクイティ・モデル」を適用してブランド別に分析した結果です。モデルの全体評価では、全てのブランドについてGFIが0.94以上あり、モデルとして非常に良くフィットしています。

 尚、図中の数値は全て標準化係数です。また、ns記号の付いた係数はt値が有意でなかったことを示しています。

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4-5 ブランド別分析結果の検討

洗剤の主要10ブランド別に日本型ブランド・エクイティ・モデルを適用した場合、「ブランド・エクイティ(BE)」を中心に「ブランド知識(BK)」、「コーポレイト・エクイティ(CE)」などの基本的構成概念が相互にどの程度の因果関係の強度で結ばれているかを要約すると以下の通りです。

(1)「ブランド知識(BK)」から「ブランド・エクイティ(BE)」への因果関係の強度を表すパス係数(γ4)は次図の通り約0.65から0.80の間にあり、全ブランドに共通して仮説どおりの高い値を示しています。

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(2)「ブランド・エクイティ(BE)」と「コーポレイト・エクイティ(CE)」相互の因果関係の強度を表すパス係数β2、β3によって各ブランドをプロットすると、大きく2つのグループに分かれます(図3-16)。

トップ。ブランドであるB1を中心としたブランド・エクイティがコーポレイト・エクイティに強く寄与しているブランド・エクイティ(BE)グループと、コーポレイト・エクイティの恩恵を-方的に受けているコーポレイト・エクイティ(CE)グループです。C1は両グループの中間に位置するがどちらかというとCEグループに近い位置づけです。

(3)「ブランド拡張」診断の観点から見ると、B1を中心とするブランド群はブランド・エクイティが蓄積しているブランド拡張の核となる「親ブランド群」であると考えられます。

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§5 ブランド・エクイティの個別性問題

分析結果の解釈

ブランド・エクイティ概念モデルとして「ブランド・エクイティ(BE)」と「コーポレイト・エクイティ(CE)」相互の直接的な因果関係を想定した拡張モデルを選択して分析を行った結果、主要な構成概念間の関係など当初の作業仮説を大旨検証することが出来ました。特に、ブランド拡張の際の診断情報としての利用可能性が示されたと言えます。

以上の因果関係の分析結果から、トップ。ブランドであるB1を中心としたBEグループのブランド群は「ブランド・エクイティ」が「コーポレイト・エクイティ」に大いに寄与しているという因果関係(パス係数)が統計的に有意であることが仮説検証できました。しかし、その逆方向のコーポレイト・ブランディング戦略はかえってマイナス効果となることが推察されるブランド群であると解釈できます。つまり、これらのブランドはメーカー名で売れているのではなく各ブランドが過去から蓄積してきた「ブランド・エクイティ」によって現在の市場位置を築いていると考えられます。尚、このグループに属するブランドのほとんどは新発売後5年以上を経過した比軟的歴史のあるブランド群でもあります。一方、統計的に因果仮説の検証ができなかったブランド群(A2、A3、A4、C3)の多くは図3-16で見ると明らかなようにCEからBEへのパス係数がプラス方向にあり、統計的には有意では無いがコーポレイト・エクイティの恩恵を一方的に受けているブランド群であると解釈されます。つまり、これらのブランドはコーポレイト・ブランディング戦略が有効であるか、あるいは、コーポレイト・ブランディング戦略に適したブランド群であると考えられます。ブランドC1はその両者の中間に位置する第3グループと言えるブランドです。

ブランド診断情報

「ブランド拡張」診断の観点から見ると、B1を中心とするブランド群(A1、B1、B2、C2、C4)はブランド・エクイティが蓄積しているブランド拡張の核となる「コア・ブランド群」であると考えられます。今後のブランド拡張、又は、ライン拡張はこのブランド群に属する「ブランド」が有力候補となります。現実に、A4はA1のライン拡張ブランドです。

「広告戦略」の観点からは、B1を中心とするコア。ブランド群の場合は個別ブランド訴求型の広告戦略が効果的かつ効率的であると考えられます。一方、コーポレイト・エクイティの恩恵を一方的に受けているブランド群に対しては、コーポレイト・ブランディング型の広告戦略が有効であると考えられます。

ブランド個別性問題の源泉

以上のように、ここでの分析結果はブランド管理上のインプリケーションに富んだものですが、一方では個々のブランドによってその位置づけに大きな違いがあることも明らかになりました。このブランドによる差あるいは個別性がそのブランドのマーケティング上の「パーフォーマンス」に大いに関係していることは明らかです。このことは特に、広告の効果と効率にみられるブランド個別性問題の源泉が「ブランド・エクイティ」にあることを示唆しています。

更に、分析上の問題点や課題は数多くありますが、ブランド個別性の問題を解く鍵が「ブランド・エクイティ」と「コーポレイト・エクイティ」相互の因果関係の解明にあるのではないかと思われます。

                         

研究開発センター 木戸 茂

参考文献

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