若者と消費意識 <変化する社会>と<変化する若者> ~「ACR」時系列データに見る若者の消費意識の変化~

渡辺 庸人
調査分析局 調査分析部
渡辺 庸人
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※本記事は2015年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

■ 変化する社会

消費意識や消費行動は、その人が生活する社会環境や経済環境に大きな影響を受けます。特に若者に目を向けると、育った社会環境がその後の彼・彼女らの意識や行動、生活に大きな影響を与えることは、容易に想像がつきます。また、若者よりも上の"大人世代"から若者を見た場合には、育った"時代"が大きく異なるため、自分たちが若者だったときと比較して大きなギャップを感じ、驚かれる方も多いでしょう。

さて、今私たちがテーマとして取り組んでいる若者(18~24歳)が生まれてから現在に至るまでの25 年程度を振り返ってみると、日本社会は大きく変化してきました。経済状況では、1989年に日経平均株価が4万円近くまで上昇したものの、1991年にバブルが崩壊します。その後、「失われた10年」と呼ばれる長い不況の時期がやってきます。それが過ぎ、2000年代前半からいわゆる「いざなみ景気」と呼ばれる好景気となりますが、2008年のリーマンショックにより景気は大きく後退します。そして、現在の「アベノミクス景気」へとつながります。また、このような経済状況の変化が、「就職氷河期」「非正規雇用」に代表されるような現象をひきおこし、若者を翻弄してきたことは皆さんもよくご存じかと思います。

国際状況では、1991年にソビエト連邦が崩壊し冷戦が終結。そして、2001年のアメリカ同時多発テロ以降「テロとの戦い」の時代となりました。また、中国、韓国との関係は外交的な問題だけでなく、経済的・文化的に大きなインパクトを日本社会にもたらしました(例えば、中国が日本をGDPで抜いて世界第2位の経済大国になる、韓流ブーム、韓国企業のエレクトロニクス分野での発展など)。

さらに、パソコンの普及、携帯端末(ポケベル、携帯電話・PHS、スマートフォンなど)の発達、そしてインターネット利用の拡大は、社会のあり方そのものを以前とは大きく変え、かつては想像も出来なかったような革新的なサービスや文化が生まれ続けています。

このような社会の変化の中で、若者たちの消費意識はどのように変化してきたのでしょうか。今回は、消費と大きな関係がある"消費へのこだわり"と"ブランドへの意識"および"お金に関する価値観"に焦点を当てて、「ACR」(関東30km圏)の調査結果の時系列変化を見ていきたいと思います。

■ 若者の"消費へのこだわり"と"ブランドへの意識"

まずは、"消費へのこだわり"について時系列の変化を見てみます。消費について「流行のものを選ぶ」と「自分なりの考えでものを選ぶ」のふたつのスコアを男女別にまとめました【図表1】。

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男女ともに「自分なり」が「流行」を上回っており、消費においては"自分なりの考え"を重視している様子が分かります。時系列では、「流行」が増加し、「自分なり」が減少する傾向が男女ともにみられます。特に女性では、1990年代後半にその傾向が一気に進んでいることが分かります。逆に言えば、90年代前半までの若い女性は、現在以上に"自分なりの考え"を消費の上で重視していたということになります。

やや余談ですが、この消費における"自分なりの考え"については、1990年に出版された精神科医の大平健さんによる『豊かさの精神病理』という本でも、当時の若者の意識の一端としてうかがい知ることができます。この中には、1980年代終わりに生きる、ブランドにとてもこだわりを持つ人たちの事例が登場します。そして、ただブランドものであればいいということではなく、どのブランドをどのように選ぶかで個性を演出している若者の様子が描かれているのです。

この話も踏まえると、1980年代終わりから1990年代前半頃の女性は、現在よりも"消費によって個性を表現しようとしていた"、そんな様子も感じられます(この点については、今後ぜひ、若者も大人世代も交えて話を聞いてみたいところです)。

では、"ブランドへの意識"はどうでしょうか。「外国ブランドにはこだわらない」「安ければブランドにはこだわらない」「高くてもブランドを買う」の3つの意識についてまとめました【図表2】。

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全体として、男女ともに「安ければブランドにはこだわらない」が上昇し、「高くてもブランドを買う」が減少していく傾向がみられますが、女性では2000年を境にして一気にその差が広がっていきます。また、それに呼応するように「外国ブランドにはこだわらない」も女性では増加しています。

1980年代の時点でも、女性は「安ければブランドにこだわらない」が「高くてもブランドを買う」よりも高い、"価格重視傾向"ではあったのですが、それが2000年頃からより顕著になっている状況です。つまり、"若い女性のブランド離れ"と呼ばれる現象が起こっていることが分かります。これは、特にユニクロ、しまむら、H&M、フォーエバー21など、2000年代に一気に広まったいわゆる「ファストファッション」も大きく影響していると考えられます。

このように"消費へのこだわり"と"ブランドへの意識"を見てきましたが、どうやら男性に比べて女性の方が意識の変動は大きいようです。また、1990年代終わりから2000年頃にかけて、大きな変動の時期があったことがうかがえます。

■若者の"お金に関する価値観"

続いて、若者の"お金に関する価値観"を見ていきます。消費の前提には、当然ながらお金に関する考え方が重要な役割を果たします。例えば、"お金は得難く、節約しなければならない"という意識が強ければ強いほど、消費には慎重になることが想定できます。

では、若者のお金に関する意識はどのように変化してきたでしょうか。まずは、「将来に備えてお金を貯める」についてまとめました【図表3】。

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女性の方が男性よりも貯蓄意識はやや高く、5割程度が「将来に備えてお金を貯めるほうだ」と答えています。また、やや変動があるものの、若干ながら高まっている傾向もみられます。少なくとも最近15年程度では、貯蓄意識は横ばいかやや上昇傾向ということはいえそうです。

次に、「今の生活を楽しむためにお金を使う」についてまとめました【図表4】。

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こちらも、やや変動がありますが、男女ともに最近15年程度では大きな変動は見られず、おおよそ7割程度が「今の生活を楽しむためにお金を使う」と考えていることが分かります。

このように、"お金に関する価値観"は、1998年頃から比較しても、極端に変わっていないことが分かります。若者は、4~5割程度は将来のために貯蓄するほうだと考えており、7割程度が"今"のためにお金を使うのです。

ただし、これはあくまで"価値観"であり、使う金額については、経済状況や、お金を使う対象などによって変わります。この点についてはより詳細な分析が必要になりますが、別の機会にしたいと思います。

■変化する意識と変化しない意識

以上のように、"消費へのこだわり""ブランドへの意識""お金に関する価値観"について、時系列で変遷を見てきました。そして、"消費へのこだわり"と"ブランドへの意識"では大きな変化が見られる一方で、"お金に関する価値観"では、極端な変化は見られませんでした。

若者といえば、かつて多くの若者がお金を費やしていた物事を消費しなくなった「○○離れ」という話が、様々に指摘されています。"消費へのこだわり"と"ブランドへの意識"が変化したという結果を踏まえれば、確かに実際の消費行動の上では大きな変化が起こっているということは、容易に想像がつく結果でした。具体的には、デフレ時代も経てか、価格の安さを重視する傾向が強まっていることが分かりました。

一方で、"生活を楽しむためにお金を使う"という意識には、大きな変動はあまり見られませんでした(ちなみに、この意識は年代が高くなるにつれて低くなっていき、若者ほど高くなる傾向があります)。今も昔も、若者は生活を楽しむためにはお金を使う気持ちを持ち続けているのです。

では、結局、若者の何が変わったのでしょうか。

■変化したのは<若者の生活>

おそらく、若者の消費意識の変化は、世の中の変化とともに<若者の生活>が変化し、それにともなって"生活を楽しむための方法が変わってきた結果"なのではないか、と考えることが出来ます。特に、消費の中でも生活必需品以外の娯楽やレジャー、ファッション関連商品などが大きな話題になるかと思いますが、こういった生活を楽しむための物事への態度が、社会によって大きく"様変わりさせられている"、という考えです。

冒頭にも述べたとおり、この25年あまりを振り返ると、日本社会は、例えば経済状況ひとつを見ても、景気と不景気を繰り返しながら大きく変化してきました。また、パソコン、携帯電話・スマートフォン、インターネットと、情報環境についても、極めて大きな変動がありました。そして、それらの影響を受けて<若者の生活>もどんどん変化してきました。極端に言えば、

・ アルバイトで学費や生活費を稼ぎながら

・ スマートフォンを片手に企業のインターンへの参加や就職活動をし

・ ボランティアにも参加しながら、撮影した写真をネットで瞬時に仲間と共有し合う

そんな生活は、まさに2010年代だから可能な生活です。20年前、30年前には想像も出来なかった生活であるかと思います。

このように、生活が変われば、欲しいものやお金の使いどころが変わることも、想像にかたくありません。同じ"若者"であっても、社会・経済・情報環境が変わり、生活が変われば、生活の楽しみ方も変わっていき、結果として消費意識やお金の使いどころも変わっていく、こう考えられるのです。

■自分たちの若いときのことはさておき...

このように社会の変化や若者の変化を見てきましたが、今後より一層、若者を理解していく上では、<若者の生活>を多角的にとらえ、さらには、"若者が何を楽しみに生活しているのか"ということについて、深く理解することが必須であるといえます。

そしてそのためには、「自分たちの若い頃と比べて今の若者は」と論じてしまいがちな大人世代も、自分たちの若いときのことを一度忘れる必要があるかもしれません。昔とくらべて、今の若者の生活環境が違うことに驚いている大人の方は特にそうだと思います。

今の若者はまるで違う生活をしているのですから、自分たちの若いときのことはさておき、まずは純粋に目の前にいる若者に向き合って、話を聞いてみるとまた新たな発見があるのかもしれません。

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