解剖中国市場 VOL.4 新型都市化と県域市場

王 静秋
国際事業室
王 静秋
  • facebook
  • facebook
  • Twitter
  • HatenaB!

※本記事は2015年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

経済発展を促すために、長年、都市化を推し進めてきて第2位の経済大国に成長した中国は、ここ数年、GDPの成長が二桁から一桁へと減速しています。2014年度は7.4%まで下がり、20数年間維持してきた8%以上という「保8」の数値目標を初めて断念しました。韓国や台湾が陥った「中所得国の罠(経済の成長が中所得国のレベルで停滞すること)」を避け、いち早く先進国入りすることを目指して、2014年3月16日、中国政府が新しい都市化ガイドライン「国家新型城鎮化規劃(2014-2020年)」を公布しました。今回はこの新型 都市化政策とその対象となる「県域市場」を概観します。

新型都市化で格差解消

新型都市化政策である「新型城鎮化規劃」を説明する前に、現在の中国の地方行政構造を簡単に説明しておく必要があります。

【図表1】で示すように、中央政府の下には、省級政府→地級政府→県級政府→郷級政府の 4つの行政階層があります。上級政府が下級政府を管轄し、下級政府の活動には上級政府の許可が必須となります。省級と地級に相当する直轄市、省都と地級市は25万人以上の非農業人口を有する大規模な都市ですが、県級以下は市部と農村部に分かれます。通常、市轄区のある市と県級市は市部、県は農村部と見なされます。農村部とされる県の下に鎮と郷があって、その下の末端が村となります。ただし、水道、電気、道路が通って、かつ都市化建設が進んでいる鎮・郷も市部と見なされるため、県の全域が農村というわけではなく、市部と農村部が混在します。

2015_544_20-24_01.jpg

2013年度の県級以上の市部区画数は、直轄市4、地級市286、市轄区872、県級市368です。郷級には合計40,495の街道弁事処・鎮・郷があり、うち77%の31,305区画が県域、つまり農村部に属する鎮・郷です。このように、農村部の行政区画数は都市部に比べて圧倒的に多いのですが、人口で見ると、同年度の市部人口比率(全国人口に占める都市部人口の割合で、中国では「城市化率」または「城鎮化率」と言い、諸外国で使われる「都市化率」と同じ指標です)が53.7%と、都市部人口のほうが農村部を若干上回っています。この市部人口比率を先進国の中でトップレベルの日本と比べると、1955年(56.1%、2010年が90.7%)ごろの水準に過ぎず、中国政府は2020年までに、市部人口比率を60%台に引き上げる農村部の都市化を計画しています。

建国以来の「省→地→県→郷」のたて型行政管理体制は上級政府に有利です。特に改革開放が始まって以来のこの30数年間は、中小都市を捨てて大都市と特大都市の経済成長を図る「棄小城鎮謀大城市、特大城市」の方針に基づき、地級以上の都市の発展を最も優先させてきました。県級以下では、国に納める税収と食糧の他に「提留」と呼ばれる上級政府の財政収入となる上納金を納めなければならないため、中小都市ないし農村部に残される資金・資源が少なくなり、下級に行くほど生産性が低く、医療、教育、労働条件、社会保障などの生活環境が低下します。生活の改善と職を求めて大量の農民が都会に出て行き農村部が過疎化するのに対し、都市部は人口過密、地価高騰、水不足、環境汚染、交通混乱、治安悪化といった「都市病」に陥っています。

都市部と農村部の格差が埋まらず、大きな社会不安となっているため両者の格差を縮小し、更なる内需拡大を目指す国家政策が「新型城鎮化」です【図表2】【図表3】。2014年から2020年にかけて、今まで地級政府の下に置かれていた県級行政区画を順次引き上げ、県内の主要な中小都市を軸に、周辺にある小さめの都市及び農村と統合させ、地級レベルの都市を増やしていく政策です。行政レベルの向上によって、中小都市の資金力がアップし、インフラの整備や労働環境が整えば、都会に出て行った流動人口が再び地元に戻り、大都市の負荷が軽減されるとの効果も見込まれています。2014年9月に、国務院が2省(江蘇省と安徽省)、3単列市(省級待遇の重要経済発展都市)、7省都、24地級市、24県級市、2鎮の合計62地域を新型都市化改革の重要実験地域に指定し、都市化改革を本格的に始動させました。

2015_544_20-24_02.jpg

2015_544_20-24_03.jpg

県域の旺盛な消費力

新型都市化の推進により、これから変貌していく「県域」と呼ばれる県級以下の中小都市とその周辺の農村部は9億人の規模であると言われています。マーケティング領域で初めてと言っていいほどスポットライトが当てられた「県域」における消費者の生活の現状を、中国CTR社が行った調査結果で都市部と比較しながら紹介したいと思います。残念ながら、「県域」と「都市部」を同時に調査したデータがないため、ここでは、県域データとして「2014県域市場と消費者研究」、都市部データとして「2013CNRS」を用います。

県域世帯の平均家族人数は3.7人で、主要60大都市の平均3.1人を上回ります【図表4】。3人世帯が最も多く、次が4人と5人世帯です。両親に1人から3人の子供という家族構成が全体の75.7%を占め、大都市より子供の人数が1、2人多いことを示しています。行政地域別に比べると、東北の世帯人数が最も少なく、華南が最も多いことが分かります。

2015_544_20-24_04.jpg

県域住民が普段よく行うレジャー活動を主要大都市と比較すると、「テレビ鑑賞」がどちらも1位ですが、県域では2位以下に倍以上の大差をつけ、一人勝ちしています【図表5】。インフラが主要大都市部ほど整備されていないためか、県域での「インターネット・PCゲーム」が4人に1人程度、主要大都市と20ポイントほどの開きがあります。「麻雀・トランプ」「友人と外食」「友人とのホームパーティー」「カラオケ」といった他人と一緒に行う活動が主要大都市より高く、大勢でわいわい楽しむことが好きなようです。

2015_544_20-24_05.jpg

【図表6】は県域住民の過去3ヶ月間の商品購入率です。車・バイク・電動自転車といった移動のための交通機器の購入水準が食品と同じレベルで2位に上がり、同じ耐久財である「家電」「通信機器」が「タバコ・アルコール飲料」「飲料」を上回っているのを見て、不思議に思う方が多いかもしれません。これは、衣食に事欠かない生活水準「温飽」を経て、まずまずの生活水準「小康」に達して間もなく、奮って耐久財を買い揃える、またはスペックのいい物に買い換える県域消費者が大勢いるためです。今後持続的な経済成長が見込まれる「県域」では、消費者の購買意欲は長期にわたって一定の水準に保たれるでしょう。

2015_544_20-24_06.jpg

独特なメディア接触傾向

県域住民のメディア到達率では、テレビが首位メディアとして圧倒的な強さを持っています【図表7】。 次がインターネットで、新聞、ラジオと伝統的屋外広告(注1)が10%強、雑誌と交通広告は極めて低率です。大都市と比べて分かるのは、公共の電波放送であるテレビとラジオに関しては、県域と主要大都市でほぼ同じ到達率となっている一方で、都市 建設のレベルの違いによって、伝統的屋外広告と交通広告での差が極めて大きくなっていることです。また、主要大都市で多いパソコンによるインターネット利用は、県域ではモバイルによる利用に譲っています。プリント媒体での差は配荷による影響であると推測できます。

図表2015_544_20-24.jpg

2015_544_20-24_07.jpg

インターネットの利用状況を地域別でみると、華南の県域での1日あたりの平均利用分数が最も長く、最短となっている西北の県域と2時間ほどの差が現れています。県域での月平均利用料金は華中が最も安く、全般に県域が主要大都市の3~4割と大分安くなっている理由は、県域ではインターネット回線が主要大都市部ほど整備されておらず、モバイルによる利用が主流であるため、Wi-Fiを多く利用することで料金が節約されているためです。

今までの中国における消費者調査は、主に大都市を対象としていましたが、今回、行政ランクの低い県の中心である中小都市の調査結果を目にして大変新鮮に感じたためご紹介した次第です。どの国でも経済発展の方向は国の政策に大きく左右されますが、これからの中国は「保大城市並謀小城鎮」(大都市を守りつつ、中小都市の発展を図る)時代になると思われます。中小都市の内需の拡大に連れてマーケティングリサーチのフィールドも県域へと広がっていくでしょう。

出典:中国の統計データ:2014 中国統計年鑑 日本の市部人口比率:国立社会保障・人口問題研究所 人口統計資料集 2015年版

県域データ:CTR社 2014県域市場と消費者研究

79県都 3,503s

都市部データ:CTR社 2013CNRS 60都市 94,144s

この記事をシェアする
  • facebook
  • facebook
  • Twitter
  • HatenaB!