解剖中国市場 Vol.5 ズールウ グァンガオ 植入広告

王 静秋
国際事業室
王 静秋
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※本記事は2015年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

このタイトルを見て首を傾げる方が多いかもしれません。日本語に「植入」という言葉がないので、どんな広告かは想像がつくまで少し考えを巡らせる必要があります。漢字の「植」と「入」から「植え込む」「植えつける」を連想できれば、答えが見えてくると思います。中国で言う「植入広告」とは「プロダクトプレイスメント」のことです。このごろ、日本では話題にのぼる実例をあまり見かけませんが、海を挟んだ中国大陸ではプロダクトプレイスメント熱が起きています。

広がる植入広告

「プロダクトプレイスメント」(以降はPPと略称)は決して新しい宣伝手法ではありません。PPの草分けはいつ、どの作品なのかについて幾通りもの説がありますが、最も早いのは1929年からスタートしたアメリカのコミック「ポパイ」と言われています。中国で最初のPPは、1991年に放送されたテレビのコメディドラマ「編集部物語」に出稿されました。映画やドラマの生産量がまだ少ない時代にあって、小道具としてこのドラマに出稿された家庭用のミネラル整水器「百龍鉱泉壺」が一夜にして全国に知れ渡り、ひと夏で販売拠点が100都市以上に広がって、生産が追いつかなくなるほどの快挙を達成しました。

その後、PPは中国映画にも取り入れられるようになりました。日本とも関わりのある一番いい例は、中国人の北海道観光ブームの火付け役となった2008年のお正月映画「非誠勿擾(和名:狙った恋の落とし方)」です。主人公を乗せて北海道の大地を巡るスバルレガシィが映画公開後、中国での販売台数が大幅に伸びたそうです。

中国ブランドが外国の映画にもPPを積極的に出稿するようになりました。映画「トランスフォーマー」シーズン2に初めて1商品を出稿してから、シーズン3では4商品、シーズン4では10商品に増えました。以前のシーズンで使われていたAppleのパソコンが今はLenovoに変わり、アジア系の俳優が「May I finish my SHUHUA milk?」と言い放って、中国のパック入りミルクを30秒かけて飲み乾すなどのシーンが視聴者に強いインパクトを与えました。現在制作中の「ミッション:インポッシブル5」「X-MEN」「バットマンVスーパーマン:ドーン・オブ・ジャスティス」などの作品にも中国ブランドが登場するとのことです。

メイン舞台は衛星テレビ局

PPはテレビ、映画、アニメ、ゲーム、ネット小説など、多岐に亘るコンテンツに存在しますが、露出が最も多いのはやはりテレビです。

国がテレビCM出稿量への規制を年々厳しくして出稿枠が減る中、PPは「ソフトな広告」として、また、広告料金が安いことから、広告主のチャレンジ意欲を引き出しています。

中国には2,000以上のテレビチャンネルがありますが、全国放送しているのは中央テレビ局(CCTV)と各省の衛星局の合計60チャンネルほどです。中央テレビ局は国の最高の放送機関として、広告料金が格段に高い反面、放送の自由度は低く、それに比べて各省の衛星局に対する国の規制は比較的緩いため、海外の高視聴率番組とライセンス契約を結んだり、自社制作をしたりして人気のバラエティ番組やヒットドラマを輩出する局が少なくありません。PPを取り入れやすい番組編成であるため、衛星局が精力的にPPを招致しています。【図表1】は2014年下期の主要衛星局のPP出稿主数です。

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上位5局は全て東部沿岸地域の局です。

衛星局のヒット番組の広告販売は冠、通常CMとPPを抱き合わせた特別協賛パッケージが多く、入札方式でスポンサーを決めます。【図表2】に協賛費が1億元を超えた2014年放送のバラエティ番組をリストアップしました。「爸爸 去哪儿(パパ、どこ行くの)2」はシーズン1で得た人気実績でトップの3.12億元(60億円相当)の協賛費を得、現在放送中のシーズン3は更に5億元(100億円相当)を獲得しました。

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広告モニタリング調査を実施しているCTR社の2014年9月の統計結果【図表3】を見ると、PP露出回数の多い上位10局では、6局が衛星局で、残りの4局が中央テレビ局のチャンネルです。当時「中国好声音 Voice of China」というオーディション兼音楽評論番組が大ヒットした浙江衛視のPP露出回数が最も多く、月間11,931回で、1日24時間の放送として、1時間に平均16.6回の計算になります。13のチャンネルを持つ中央テレビ局では、2番目の財経チャンネルCCTV-2のPP露出回数が最も多く、月間8,331回で、1時間に平均11.6 回です。トップ10の最下位の安徽衛視でも1時間に平均5回のPP出稿があるようです。

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【図表4】は2015年第1四半期の衛星局におけるPP出稿時間が多い広告主です。現在、衛星局の主なPP出稿はほとんど中国本土の企業に独占されています。ここで言う「有効露出時間」は実際の放送時間ではなく、PPの種類や大きさ、露出の位置、音声効果などでウエイト計算したもので、広告効果を評価するための指標です。実際の放送時間は【図表5】のように、有効露出時間の数倍ないし十数倍になる可能性があります。

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手探り中の植入広告業界

テレビでのPPの出稿形式にはたくさんの種類があります。商品を小道具に、または賞品として映す、企業のロゴや商標をスタジオの壁や床に背景として作り込む、ブランド名やキャッチコピーを出演者に言わせる、ロゴや商品を画面の隅っこにポップアップさせる、商品の紹介を字幕として流す、景観として広告を直接取り入れる、イメージキャラクターを出場させるなど、番組の企画・制作段階から、あらゆる工夫を駆使して巧妙に番組の内容に溶け込ませたり、宣伝内容を意図的に注目させたりして出稿しています。

広告らしくない広告であるPPは、露出の方法とタイミング、それから露出の時間を上手にコントロールしないと視聴者から反感を大変買いやすく、裏目に出てしまう恐れがあります。

中央テレビ局の2010年「虎年春節聯歓晩会」という中国旧暦大晦日の夜8時から全国放送 されるNHK紅白に相当する番組では、4時間半ほどの番組に大量のPPを組み入れ、6.5億元、当時では約100億円相当の広告収入を得ましたが、視聴者から噴出した批判が翌年の同番組制作チームを自粛させ、PPの0出稿「零植入」へ転じさせた例があります。

有効なPPを提供するには、メディア側はレートカードの作成とシステマティックな製作システムの確立が欠かせません。上海文広伝媒集団(SMG)が中国で率先して2007年からPP販売の標準化を実現させたように、他メディアグループも負けじと努力して、ここ数年で中国のテレビPP出稿を本格的に拡大しました。一方、第三者による公正な効果測定も求められるようになりました。出稿形式と露出回数、秒数といった基本的なモニタリング以外に、番組視聴率との総合評価も必要です。更に、テレビ出稿にインターネットやイベントなどを連動させた総合キャンペーンの場合、例えば、テレビで放送したQRコードなどのPPコンテンツを、視聴者がスマートフォンをシェイクすることによって、スマートフォンにより詳細な商品説明や優待商品券などの販促情報を自動的にダウンロードさせてしまうテレビ出稿に対しては、インターネットなどによる2次拡散の効果評価もあったほうがいいとの声もあります。これらの評価を実現するにあたっては、【図表6】のような番組ジャンルとPP出稿形式との相性や、PPの露出種類と露出時間・回数との関係のノーム値を見出すためのデータの継続的な蓄積が必要となります。

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中国のプロダクトプレイスメントが今の旺盛な生命力を保ち続けるか、それとも月下美人の開花のように一晩で終わる「曇花一現」になるかどうか、今後も見続けていきたいものです。

※広告統計データの出典:CTR MI

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