f2ラボ取材班が行く vol1.よしの女性診療所院長 吉野 一枝 先生

村田 玲子
ソリューション局 ひと研究所 f2ラボリーダー
村田 玲子
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※本記事は2017年に発刊したVR Digest に掲載されたものです。

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(右)よしの女性診療所院長 吉野 一枝 先生


産婦人科医、臨床心理士。高校卒業後、芸能プロダクション
などでの勤務を経た後、帝京大学医学部に入学。
1995年東京大学医学部産科婦人科学教室に入局。
長野赤十字病院、藤枝市立総合病院などの産婦人科を経て、
2003年によしの女性診療所を開院。女性の健康に関する書籍を
執筆するほか、新聞や雑誌にも寄稿している。

「モヤモヤの正体をつかめ」

ミドル女性に起こる3つの変化を産婦人科医 吉野先生にうかがいました。

あらためてミドル女性を理解するために、まず最初に向かったのは女性医療の現場。30年近くに渡って一人ひとりの女性の体と心に丁寧に向き合ってこられた先生から、今をとりまく女性たちの現状や女性の根本となる体の違いについての知っているようで知らなかった深い世界をじっくりとお聞きすることができました。

――私たちはF2(35~49歳)に注目して研究していますが、その年代ではどのような変化がありますか?

 女性は30代後半からホルモン低下が始まる頃で、40代に入ると一気に落ちます。一般的には50代に入ると閉経する方が多く、閉経を挟んだ10年間を更年期といいますが、この45歳~55歳くらいの間は、体が大きく変わり心も揺れ動きがち。その時期に女性が担う仕事、特に家族関係のケアワークが重くなる時期が重なってきます。そこは30代にはないところですね

――ミドル女性はフィジカルの変化の上に、メンタル、ソーシャルの変化が重なって起きてくるということですね。考えるだけでも辛そうですが、男性だってつらいよという話もあって。そもそも男女の違いはどんなところにあるのでしょうか?

 男性ももちろんつらい思いをされている方がたくさんいらっしゃいます。でも、うつ病の患者数でいうと女性のほうが男性の2倍多いですね。これは、女性のほうがメンタルが弱いからというわけではなく、女性ホルモンが関係しています。女性の体は小児期、思春期、性成熟期、更年期、老年期といった年齢による大きなホルモン変動と、月経周期中の日々のホルモン変動の二つに揺さぶられています。そもそも男性にはホルモンの種類が1つしかなく、朝と夕方に少しホルモン量が落ちるくらいで変わりませんが、女性には2種類あり、それぞれが複雑に上下することで1日の中ででも日によってでも変わるんですよ。体調が変われば気分が変わる。ホルモンの変動によって気分も変わって、うつっぽくなるのも当たり前なんです。また更年期はジェットコースターといわれるほど大変動期でもありますし、不安感は抱いて当然でしょうね。

――なるほど。男性と女性の体の違いは大きいのですね。その上で女性は年代的に大きな変化を迎える時期にあると。長く女性を診てこられて、最近の傾向として先生がお感じになっていることはありますか?

 とにかく働く女性が増えましたね。私の子どもの頃は働くお母さんは少なかったですが、今はクラスの4分の3は働いている感じがします。専業主婦が減り女性が社会に進出しているのは事実ですが、"活躍"している方はまだ一握りではないでしょうか。いわゆるパートや非正規の仕事が多く、現実にはまだまだ給与格差、待遇格差がある。日本はジェンダーギャップ指数(※)が先進国中最下位。経済的にも社会的にも地位があり、"認められている"女性はとても少ないです。その上女性は家事や育児をやって当たり前で評価されないですよね。男性の仕事は評価の対象ですが、女性が担っているケアワークは日本では依然としてシャドウワークです。今、政府は女性の活躍の場を増やそうとしていますが、働き続けたい女性をフォローするためのシステムがありませんよね。今まで社会がそういうことをしてきてこなかったわけで、議論されている育休2年延長の制度にしても、保育園の待機児童問題しかり、今もなお女性がケアワークをする前提でシステムが考えられている部分がある。時代が変わっても自己主張しない"女らしさ"や"内助の功"が暗に女性に求められています。社会もダブルスタンダードですが、女性自身も内面はダブルスタンダードを抱えているように思えます。

――価値観のダブルスタンダード。確かに私の中にもあるような気がします。それがモヤモヤの原因で、女性のつらさにつながっているのかもしれませんね。

 実際、私のところにこられた患者さんで、非常に優秀な方なんだと思うのですが、女性活躍の折で女性管理職を増やさねばと無理に管理職に抜擢されてしまって。本人はやりたくなかったのですが、断りきれなくて引き受けてしまい、うつになってしまったという方もいました。

――先生がストレスや悩みを感じている女性に行われているアドバイスはどんなものですか?

 まず現在の生活で日々なし得ていることを認め、褒めています。専業主婦で小学生の子どもをもつお母さん方に、「子どもを小学校まで無事に育てることは大変なこと。あなたは良くやった」と褒めると全員泣きますよ。だれもそういってくれる人が周りにいないんです。皆さんに共通することですが、自分ができないことがダメだって思うですよね。「専業主婦なんだから子育てとか完璧にやらなくてはダメだ」と。でも子育てそのものが凄いことですよね。子どもは小さいうちはほっといたら死んでしまうし、なにがあるかわからない。授乳している間は24時間営業のようでお母さんも神経を張り詰めている。「外で働くよりも凄いことだよ」と患者さんにいうと、みんな泣いてしまいます。そうやって認められて褒められたことがないんです。できて当たり前、できないのは能力がないからと思っている。医者として海外のデータもみますが、まず日本の女性は相当我慢強いと思いますよ。でも悪く言えば流されている。社会への抗議という方向には向かわないで自分を責めてしまうんです。冒頭の話にも戻りますが、働け、そして子どもを生んで育てろ、で介護も全部女性の仕事。本来なら冗談じゃないよと思わないといけないのに声をあげにくい風潮がありますよね。

――それはなぜなのでしょうか?

 そもそも女性でトップになる人が少ない。そう思わないように育てられてきたんだと思います。でも今は労働力不足だから、グローバルスタンダードだからと女性を引き上げよう、そして何%かを上位にと方針に則って社会も会社も動き出しました。女性からすると急に言われてもついていけないですよ。社会に出て頑張って働いて何かを成したいという気持ちと、結婚して子どもを産んで育ててみたいという気持ちがあって、本当はそれが両方できるのが当たり前ですが、今は多くの女性にとってそれができない仕組みになっている。すると誰かが何かを犠牲にしなくちゃいけない。それはもの凄いストレスになっていると思います。

――そのような状況にある今の女性たちに対して、企業側はどのようなサポートができるとお考えですか?

 ひとつは、正しい情報を届けるということでしょうか。私自身は女性の多い企業では講座を開いたりしています。ホルモンの話をしたり体の健康の話をしたりの講演会をやったり。大企業が多いですが、女性の健康のための相談室を作ったり、女性特有の不調などに対応する部署をつくったり、悩み相談を受けるところとか、サイトを立ち上げたり社員向けの発信したという話も聞きますね。企業内ではそういった取り組みが増えていけばよいと思っています。

――ホルモンの変化のことなど私も詳しくは知りませんでした。女性同士でも話題にしづらく情報が少ない気がします。

 知識を持つことは武器です。知識があれば将来自分にどういうことが起こってくるかという予測がつきます。更年期も今はテレビ等で割と取り上げられるようになりましたが、少し前までは更年期の症状と理解されず、病院を渡り歩く人が多かったです。汗をかいたりするだけが更年期ではなく、うつっぽい症状ややる気がでない、元気がない、疲れやすい、といった症状もあれば、関節痛や筋肉痛、皮膚が乾燥してかゆくなることもあります。女性はホルモンと健康の関わりが大きいので、できれば婦人科のドクターを主治医に持って、いろいろ健康管理していく、そういう意識を持ってほしいですね。でも日本は病気にならないと産婦人科に来ないんです。特に女性は、子ども、夫が先で自分はいつも後回しなんですよね。子どもの病気だと一生懸命病院に連れて行くのに、自分の検診も忙しくて来ない。それはダメですよ。女性はこれからは自分ファーストが必要です。

※世界経済フォーラムによる「The Global Gender Gap Report2016」によると、ジェンダーギャップの日本の順位は調査対象144ヶ国111位。(前後はネパールとコロンビア。1位はアイスランド、最下位はイエメン。)なお日本は2015年の101位から順位を落とした。http://www3.weforum.org/docs/GGGR16/WEF_GGGR16_Full_Report.pdfより

取材を終えて

 芸能プロダクション勤務から医師へ転身された吉野先生は、広告業界にも造詣が深いのですが、女性をとりまく社会のジレンマを医療者の枠に留まらず社会に働きかけていこうと女性三師会(医師、歯科医師、薬剤師)を立ち上げられたとか。ホームドクターとして女性に寄り添われる一方で、産婦人科学会でもトップは女性医師より男性医師が多く、最近まで女性の更年期や思春期に関する研究の優先度が高くなかったことや、法制面でも日本には女性を守る健康法案がないこと等には衝撃を受けました。短い時間ではありましたが吉野先生のすべての悩める女性への温かいまなざしに包まれ癒されながら、今なお残る女性問題への解決に向けたパワフルな活動にも刺激をいただいた時間となりました。この場を借りてお礼を申し上げます。

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