OOHメディアの現状と効果指標 〜日米の現状比較と今後〜

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#広告 #広告効果検証 #用語解説

※本記事は2001年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

20世紀末から、メディアの環境は大きく変化し始めました。そして21世紀、OOHメディアもIT進化によって急速に変貌しつつあります。今回はこの古くて新しいメディアの現状と、その効果指標について、アメリカの事例も含めてご紹介して参ります。

1.OOHメディアとは:日本におけるOOHの定義

日本の広告菓界において「OOHメディア」という言葉が−般的になったのは、つい最近のことです。「Out-Of-Home Media(消費者が自宅外で接触可能なメディア)」を総称してこのように呼びますが、その範疇を簡単にまとめると以下のようになります。

従来の屋外広告(ビルボード・ポスターボード・ネオンサイン・屋上広告塔等)

交通広告(車内広告・駅広告・バスラッピングなど)

施設内広告(スタジアム・空港・流通店舗内広告など)

シネアド(映画館での本編上映前広告)

その他(飛行船・街頭イベントなど)

上記領域内では次々と新しい媒体が開発されており、昨年は都バスのフルラッピングや湘南のビーチ・スタンピングが、テレビでも話題になりました。空間のあるところ、これ全てOOHの媒体スペースといえます。特に、モバイル化が進んだ日本においては、今後それらの機器普及と関連付けた新しいOOHメディアが、多数出現する可能性があります。

2.アメリカの現状:目に見えない日米の大きな相違点とは...。

まだ好景気が持続しているアメリカですが、OOH業界も同様に伸びています。この数年OOHメディアの伸び率は広告費全体、GDPの伸び率をも上回っています。 これは、たばこの屋外広告が全米で規制された後、ドットコム企業がその後を埋めつくしたなどの要因があげられています。

アメリカと日本のOOHメディアの大きな違いは、まずクルマ社会と電車社会の違いから生まれる、交通系媒体の形態でしょう。日本では常識の中吊り広告はNYの地下鉄にすらありません(写真1)。OOHという範暗に含まれる交通広告は、例えば「バスシェルター」(写真2.屋根付きのバス停留所の壁面広告)、や「テレフォン・キオスク」(公衆電話ボックスの広告)、あるいはバス、トラック、個人のクルマのラッピングなどをさしています。

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むしろ日米OOH業界の大きな違いは、普通あまり目に触れない次の2点です。

①アメリカには屋外広告専門のメディア会社が存在する事(ポスターボード主体)

②アメリカでは屋外広告の効果指標が基本的にルール化されている事

特に①については意外に思われるかもしれませんが、日本には現状このような仕組みがほとんどありません。日本では通常、総合広告代理店が、分散所有されている各媒体を押さえていくというシステムが一般的ですが、アメリカではメディア会社が各自ネットワーク化されたポスターボードを所有・管理しており、それを広告代理店が買うというのが−般的です。

また、②についても日本では各社各様の管理データは存在するものの、業界ベーシックなものはありません。

アメリカではこのベーシックなデータを全米で監査する機関「TAB」(Traffic Audit Bureau)が存在し、標準データの信頼度を担保しています。この2点をまとめてみますと「ネットワーク化されたポスターボードが業界標準データで管理され、売買されているのが日本とアメリカの大きな違い」と言えます。(図1)

では、この業界標準データとはどんなものでしょうか?

<図1:アメリカのOOH業界構造>

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3.OOHメディアの効果指標とは:アメリカはどこまでデータ整備を行なっているのか。

(1)アメリカの現状

基本指標が整備されているのはOOHメディアの中でも、ビルボード、バス・シェルターなどです。同じビルボードでも長期契約のものなどは、個別立地が精査されるものの業界標準データで管理される事は少ないようです。

①TABという第三者機関で監査され、出される基本データとは以下のようなものです。

DEC「Daily Effective Circulation」=

その屋外広告の可視範囲を通過する1日の通過者人数(満18歳以上)

測定の方法

簡単に言いますと以下の2種類が正式なもの。

a)国・州・市等の発表している公式データ(自動車対象)

日本における「交通センサス」のようなデータです。ただし、アメリカでは機械によ って年中24時間測定されたりしています。(この公式データは監査対濠データ全体の6割にのぼります)

b)ハンドカウント(歩行者はほとんどすべてこの方法)

おなじみのカウンターによって計測するやり方。

上記a)b)については、下記の調整パラメータが与えられてDECとして公表されています。

*調整パラメータ

・その屋外広告の照明時間を加味した露出時間

・交通の方向性(上り・下り)

・車に乗っている平均人数(1.38人)

②このDECを使って標準化された効果指標

効果指標データ:SHOWING

DEC(=1日の有効サーキュレーション)

SHOWING=---------------------------------------- ×100

そのエリアの18歳以上の人口

(つまり「その屋外広告が1日に到達可能なエリア内人口の割合」。50SHOWINGとは、例えば東京23区内にこれだけの屋外広告を出せば、23区内の18歳以上の5b%が1日でこの広告に接触する可能性があるという意味合いになります。)

屋外広告の売買では25・50・75・100というSHOWINGの単位が使われますが、50SHOWING以上が一般的な取引と言われているそうです。このSHOWINGはGRPと同じ意味で使われており、例えば1ケ月の50SHOWINGは、

1日あたり50GRP X 30日 =1500GRP

と、こんな具合です。

③その他の効果指標

これ以外に効果指標がないかと言いますと、例えばこの「TAB」の上部団体である「OAAA」(Outdoor Advertising Association of America)は、R&F推定モデルのPCソフト開発、アイ・カメラ等を用いた広告注目率実験など、SHOWINGの後の認知効果レベルの研究を行なっています。

ただし、これらは業界で一般的に行われている事ではなく、まして広告の売買基準として使用されることはありません。

(2)今後の日本における効果指標:屋外広告調査フォーラムの存在とその方向

前述しましたように、日本にはSHOWINGのような業界標準として使われているデータは存在していません。この整備については、広告代理店及び屋外広告製作会社33社が集い、現状「屋外広告調査フォーラム」(事務局はビデオリサーチ)として活動を続けており、今年3月には何かしらの方向性が示される予定です。

アメリカの状況をまとめた「'00アメリカ屋外広告視察報告書」は、本年1月会員社にCD−ROMの形で配布されましたが、その成果からは

・まず、業界標準データのルール作る

・広告取引効率化のためのビジネスモデルを構築する(ネットワークボードの検討等)

という方向性が見えてきます。

ただし、全てアメリカをモデルにした業界標準データ(すなわちSHOWING)が良いのかというと、先程のクルマ社会・電車社会の違い、人種や所得で居住エリアが明確なアメリカと平均的な日本、グローバル・スタンダードを意識するのかデファクトスタンダードとして新たに確立すべきなのかなど、考慮すべきことは無数に出てきそうです。

今後このフォーラムでは、このような共通指標の検討議論が進められていきます。昨年、フォーラムの中の議論から、まず当社「ACR」(Audience Consumer Report)の2001年5月調査で、「首都圏の主要エリアの来街実態」を追加する事になりました。主要エリアの来街率を得声ことにより、このエリアに設置してある屋外広告の効果性が他のメディア接触や消費性向との関連で見る事ができるようになります。(結果は2001年9月以降発刊)

また、ACRでは今年の3月に交通広告についてのデータ(トランジットメディア・レポート)をリリースする予定です。

更にOOHメディアのひとつである「シネアド」では、(株)電通00H局と(株)サンライズ社が共同企画・実施した「劇場来場者1700人の実態調査」のデータがオープン化されるなど、21世紀に入り、OOHメディア業界全体で広告効果データの整備がより一層進んでいきそうです。

データ・取引形態の整備とともに、メディアミックスやクリエイティブの研究、及び官庁・自治体の規制対応など、今後の課題は多々ありそうですが、現状各自治体は規制緩和の方向に動いておりOOHメディアの追い風となりそうです。

「地下鉄ジャック」「駅ジャック」「街ジャック」などインパクトのあるOOHプロモーションが開発されたり、全国自治体が映画のロケに対する積極支援に乗り出したこと(フィルム・コミッション)など、「街」を媒体化する動きにどう対応していくのか等OOHメディアは、ますます面白味が増していきそうです。

写真3:エ事現場では必ず見受けられる「ウォールスケ⊥プ」という広告(NY)。

日本では規制によるのか、このような広告形態がほとんどありません。

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市場調査局 消費者マーケテイング部 石原 義之

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