電気通信高度化ビジョンについて(上) 

VRDigest編集部
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※本記事は1987年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

―電気通信審議会通信政策部会報告より―

 この6月、電気通信審議会通信政策部会(部会長 下河辺淳 総合研究開発機構理事長)は電気通信高度化ビジョンの最終報告書をまとめ郵政大臣に報告される。この報告は、5年後の昭和66年度におけるわが国の電気通信の各分野の発展動向を社会、経済的に定量的に展望し、電気通信の高度化を円滑に推進するためのガイドラインとなるものなので、その中間報告から本誌にその概要を抜すいし2回にわたって紹介することにした。

―メディアミックス時代の到来と電気通信による新しい社会経済への構造変革―

 わが国の社会経済は、21世紀に向けて、ソフト化、サービス化、情報化、国際化、都市化、高齢化等のトレンドのなかで、国民の生活意識や、社会経済の枠組みが大きく変化しつつある。この背景には、GNPで世界の1割を占めるに至った経済力の増大と、エレクトロニクス分野に代表される著しい技術革新がある。

 今日、内需拡大、経済構造の変革が喫緊の政策目標とされ、更に一昨年秋以降の急激な円高を契機に、輸出環境の悪化、雇用不安への対応が目下の課題としてクローズアップされている。こうした一連の動向は、これまで進行しつつあったわが国社会経済の構造変化が、貿易摩擦、円高といった外的圧力によって一気に加速されたことによるものであり、新たな経済社会到来の前兆ともいうべきものである。

 一方、近年における情報通信分野の目覚ましい発展は、このような構造変化要因の一つにもなっているが、同分野においては、急速な技術進歩に支えられて、多種多様な情報通信の活用が可能となっており、また、昭和60年には、電気通信制度の改革が実施され、多数の電気通信事業者の出現により、様々な情報通信サービスを提供する体制が整えられた。

 今後は、このような電気通信事業者によるVANサービス、パソコシ通信サービス、ビデオテックスサービスをはじめとする多彩な情報通信サービスが提供されるばかりでなく、通信衛星の利用、光ファイバ網の構築等により、従来考えられなかった情報通信の新規活用分野が開拓されていく。また、放送サービス分野においても、文字放送、衛星放送の普及、CATVの新たな活用分野の開拓が進んでいく。更に、現在技術開発が進められているテレターミナルシステム、ハイビジョン等、新たな情報通信サービスの出現が予想される。

 今後の情報通信分野は、ますます多様なメディアが出現し、本格的なマルチメディア化が進行するとともに、各種メディアそれぞれの特性を活かして、その機能を自在に組み合わせた新たな活用方法が考案されていくメディアミックス時代の幕明けを迎えることとなる。

 情報通信の高度化に伴い、わが国では、社会経済の諸活動分野において高度化する情報通信がビルトインされていくが、情報通信の活用は、個人の欲求充足、企業の生産性向上を促進するに止まらず、個人や企業が、既存の産業、社会の枠組みを超えた活動を展開することを可能にし、個人のライフスタイル、産業構造を変革していく原動力となるものである。こうした情報通信の活用がもたらす社会経済の構造変化が、わが国の新たな括九新たな文化を創造していく鍵となるものと期待されている。

 今後5年間は、わが国の産業構造が、社会経済のソフト化サービス化、情報化国際化等に対応した変革を遂げながら、国際的にも調和のとれた経済社会を創りあげるとともに、国民が新しいライフスタイルの形成を図るための重要な移行期であり、その鍵を握る情報通信が、産業、家庭、地域社会等、各分野において、それぞれの特徴を生かしながら工夫され、受容され定着していく時期となろう。

 合後5年程度先を見通した電気通信各分野の発展動向を、電気通信がどのように活用されていくのか、電気通信がどのように高度化していくのか、更に情報通信産業がどのように発展していくのか等の観点から、具体的、定量的に展望したものである。

Ⅰ 電気通信をめぐる今後の社会経済の動向

● わが国は、今後、社会経済のソフト化・サービス化、グローバリゼーション(世界化)の進展、個人生活におけるライフスタイルの多様化、成熟化等の基本的潮流にのって社会経済全般に渡り構造変化を遂げていくが、こうした構造変化の要因としで情報通信の高度化があげられる。また、逆にこのような構造変化が情報通信の高度化を促進していくこととなる。

● 今日、構造変化の前兆として、内需拡大への対応、産業構造変革への対応、大都市経済化と地域活性化への対応等の諸課題に直面しているが、こうした課題解決に向けて情報通信の高度化が大いに貢献する。

1.社会経済のソフト化・サービス化

① 多様化、高度化する市場ニーズを諸々の社会径済活動に有機的にフィードバックできる体制作りが本格化し、情報通信ネットワークの活用はあらゆる分野に浸透していく。

② 情報通信ネットワークの活用が、社会経済のソフト化・サービス化の進展を一層加速する。

2.社会経済のグローバリゼーション(世界化)

① わが国の経済活動や社会制度全体が世界構造の-部として位置付けられ、産業分野における国際分業体制(製品輸入、海外直接投資、国際提携等)が進展する。特に、わが国と東南アジア、北アメリカ等環太平洋地域との関係が一層緊密化していくことが予想される。

② 一方、外国企業等の日本進出が活発化し、わが国の社会制度の在り方にも大きなインパクトを与えると共に、日本の首都「東京」がニューヨーク、ロンドンと並ぶ国際都市として一大金融・情報センター化していく。

③ 国際社会・経済のソフト化・サービス化の進展に伴い、国際貿易における「サービス」貿易のウエイトが高まり、現在の「もの」に関する貿易摩擦から「サービス」へ摩擦対象が拡大していくことが予想される。このため、今後、グローバリゼーションの進展と共に、各国の相互理解に基づいた国際的協調体制の確立が不可欠となってくる。

④ グローバリゼーションが国境を超えた情報化を促進すると共に、国際情報通信の高度化が、グローバリゼーションを一層加速する。

3.産業構造の変革期

① 国際分業化の進展に伴う生産一供給体制の見直しから、企業の取引関係の見直し、新たな業務提携、グループ戟略化等の展開により、産業組織が従来の固定的なヒエラルキー型からワールドワイドなネットワーク型へと変化していく。

② このためわが国においては、これまでの製品、商品を生産する産業中心の産業構造から、商品、サービスを直接市場に提供する流通・サービス産業およびこうしたネットワーク構造をサポートする情報通信産業中心の産業構造へと構造変革を遂げていく。

③ 産業構造変化への対応から、情報通信ネットワークの活用による従来の産業の枠を超えた「情報」を核とした融業化が進展する。

④ 新たなリーディング・インダストリを発展させていくとともに、急激な産業構造変化に伴う業種間での雇用調整が課題となる。

4.内需拡大への対応

① 21世紀の経済活動、国民生活の基盤となるソフトインフラとして全国的な情報通信ネットワークの高度化、都市機能のインテリジェント化等が重要となる。

② 産業分野においては、今後、生産の合理化、省力化、更には市場ニーズに適格に対応するための経営戦略支援を目指した情報通信システムに対する設備投資ニーズは、ますます高まる。

③ こうした産業分野の情報武装化により、魅力ある多品種、多種類の商品、サービスが提供されることとなり、新たな個人消費の創出につながっていく。

5.ライフスタイルの多様化・成熟化

① 個人の価値観が、個性的で自由な発想や行動を求める方向へ変化していく。「遊、休、知、美」といった、新しい洗棟されたコンセプトを求める人々が若い層を中心に増加する。

② 個人生活においては、自由時間の増加に伴い、余暇時間をどう使っていくかという「時間開発」が重要なテーマとなる。

③ 供給サイドにおいては、多様な消費ニーズに対応する商品・サービスの開発.販売を機動的に行うための体制作りが不可欠となり、そのための情報武装化が急速に展開されていく。

6.大都市経済化の進展と地域活性化

① 大都市「東京」がわが国のみならず世界の金融・情報センター機能を有する国際的24時間都市へと変貌していく。これに伴い、情報中枢機能等、様々な大都市機能をサポートするための情報関連ビジネスやニュービジネスが誕生し、大都市産業群を形成していく。こうしたグローバルで活力ある大都市文化、大都市経済力により、東京の存在自体がわが国の経済、文化を支える大きな柱となってくる。

② 一方、地域社会においては、現在、依然として中央との間で経済力、情報力等において格差が生じているうえ、急激な産業構造変化の影響を受けており、今後、従来にも増して地域活性化が重要課題となってくる。

Ⅱ 社会経済各分野における電気通信高度化の状況

● これまで、企業、家庭、地域社会等、各分野において個別に情報通信の活用が「検討、試行」されている段階から、企業、家庭、地域社会等、諸活動分野を有機的に一体化していくために、高度化する電気通信が新たな時代のバックボーンとしてビルトインされていく時代を迎える。

● 電気通信によって新たな社会経済の構築を実現するためには、電気通信各分野において技術開発を推進していくとともに、その利用者もマルチ化していくメディアを目的に合わせて自在に組み合わせ、活用していく工夫が必要となる。

(1)企業における電気通信の高度化動向

● 現在の情報通信の多様化、高度化ニーズは産業分野を中心に推移している。国際化する競争市場の中で、変貌する市場動向に適切に対応していくため、産業分野における情報通信の活用ニーズは、今後一層強くなり、利用サイドからの電気通信高度化の牽引的役割を果たしていく。

● 情報武装化を契機として、業種業態変化が加速され、こうした動向に柔軟に対応できない企業は、生存自体を脅かされる。

1.企業情報化の動向

① これまでの企業内(本―支店間)システム、取引企業間(系列企業間)システムという閉鎖的な単一メディアネットワークから、データ通信、ファクシミリ、パソコン通信、ビデオテックス等、各種メディアそれぞれの特性を生かし、組み合わせた異企業間、異業種間ネットワークへ、更には家庭にまで拡張する開放型マルチメディア・ネットワーク化が進展していく。また、この中で、従来大企業を中心としていた情報化も中小企業を含む形で発展していく。このような開放型のネットワーク化動向に対応するため、公衆回線の利用ニーズが倍増するとともに、VAN(付加価値通信網:Value Added Network)サービス利用が活発化していく。

② 企業のグローバリゼーションに伴った海外支店、海外生産拠点、海外提携企業等との国際ネットワーク形成が急速に進展していく。

③ 企業内の情報化のためLAN(構内情報通信網‥Local Area Network)シ女テムの導入が活発化し、パソコンが基本的通信端末として位置付けられてくると共に、テレビ会議システムの導入が進む等、多様化するメディアの特性を活かしたマルチメディア・ネットワーク化が展開される。

④ 企業の情報化に対応するためインテリジェントビル、インテリジェント工場の建設が進む。

⑤ 企業のVAN事業への参入の活発化にみられるように、企業の情報化を契機とする情報通信事業分野への参入が相次ぐ。

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2.業種別情報化動向

① 卸、小売業を中心とする流通部門における情報化は、今後急速に進行し、産業分野における情報化を牽引していく役割を果たすものと考えられる。

また、金融部門は早期から情報化への取り組みが進められてきた分野であり、現在、産業界において最も情報化の進んでいる分野である。今後も、更に高度情報化への取り組みが進められ、流通部門とともにわが国の情報化の牽引的役割を果たす。

② また、産業分野の情報武装化の進行に伴い、産業全般に渡って情報通信の活用を契機とした急激な業態変化が招来され、従来の業種区分を超えた融業化が本格化し、各企業は従来の業界構造の枠内に止まることはできなくなる。

製造業

● 製造部門においてもLANの導入が活発化し、FA(Factory Automation)システム間のネットワーク化が本格化するとともに、製造部門のみならず設計、開発、生産管理、販売管理等経営全体の効率化を実現する経営システムを確立するための総合ネットワーク化(CIM:Computer Integrated Manufacuturing)への取り組みが本格化する。

● こうした総合ネットワーク化により、高度化する市場動向に対応できる多品種少量生産体制、最適在庫管理体制等の確立が進んでいく。

● また、グローバリゼーションの影響を一番強く受ける産業であり、生産拠点、販売拠点の見直しに伴う国際分業体制化が進み、国際通信ネットワークが整備されていく。

流通業

● 従来、情報化が遅れていた流通部門においては、変動する市場動向への対応が急務となっており、顧客管理、商品管理、在庫・物流管理を目的とするデータ通信、POSシステム、カードシステムの導入、更には市場への商品のプロモーション手段としてのビデオテックス等の導入等、情報武装化が急速に進展する。

● 特に流通業は、多数の企業との取引関係があることから、公衆回線を利用したネットワーク化が進むとともにVANサービス利用が活発化していく。

● 流通分野においては情報通信システムの活用により無店舗販売機会の増大、卸機能の見直し等、製造機能一流通(卸)・物流機能(小売)全体に渡る急激な業態変化が生じ、業界構造が変化していく。

(2)家庭における電気通信の高度化動向

● 現在は、放送(テレビジョン放送、ラジオ放送)および電話が中心であるが、パソコン通信、ビデオテックス、衛星放送、文字放送等、家庭においてもマルチメディア化が着実に進行していく。

● ライフスタイルの個性化により、メディアの活用態様、視聴態様の多様化が進んでいくため、一つのメディアについても多機能化、マルチタイプ化に対するニーズが強まる。

① 家庭へのニューメディアの普及に当たっては、システム導入コスト、システム運用時の通信料の多寡、操作の容易性、情報ソフトの充実がポイントとなる。

② 個人生活における自由時間の増加に伴い、「時間開発」が重要なテーマとなり、余暇時間の過ごし方の中で、ニューメディアの活用が工夫されていく。

③ 人口構成からみると、ニューメディアになじみのない高齢者の層がある一方で、ニューメディアになじんだ新しい世代が急成長し、家庭へのニューメディア導入への抵抗感が薄れていく。

④ ホームバスシステムを組み込んだニューメディア対応住宅(インテリジェントハウス)等の建設、販売が開始され、家庭における情報化のインフラ整備が進んでいく。

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(3)地域社会における電気通信の高度化動向

 ● わが国のみならず世界的な中枢管理機能.情報中枢機能が集積する大都市部(特に東京)においては、国際都市、24時間都市としての機能を果たすうえで不可欠なテレポート等の情報通信インフラの整備が進められていく。

● 更に、大都市部に進出する内外企業向けに、情報通信機能を具備したインテリジェントビルの建設が都市再開発等を契機に急増していく。

● 地方都市は産業構造変化の影響を受け、新しい時代に対応できる都市づくり、コミュニティづくりが重大な課題となっており、テレトピア計画、テレコム・リサーチパーク建設等、情報通信を様々に活用し、新たなコミュニティタウン形成、新地域産業育成、新技術開発力育成等を目的とした多様な地域振興施策が展開されていく。

① 今後、こうした地域社会における情報化プロジェクトにおいて構築が進められている、ビデオテックスシステム、データ通信システム、双方向CATV等の本格的な稼動が開始され、全国的なデジタル化の進展、ビデオテックス網等、高変な情報通信ネットワークの整備とも相まって、新時代に対応できるネットワークが形成されていく。

② サービス業をはじめとした産業基盤の層が厚い大都市部に比べ、地方都市の産業基盤は層が薄く、産業構造の変化の中で、地域内での労働力のスムーズな移行が課題となっている。地方での情報通信産業をはじめとするニューリーディング産業の育成、更には、情報通信ネットワークを活用した産業の地方分散等、新産業社会における大都市部と地域社会の新たな相互補完体制が構築されていく。

③ わが国の文化形成の面からは、大都市部からだけの情報発信のみでなく、地域社会からの情報発信力の確立が不可欠であり、大都市部と地方都市間のネットワークとともに、地方都市間のネットワーク形成が進められていく。

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