ラジオのはなし 聴取率測定編(第3回)

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#ラジオ #用語解説

※本記事は2000年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

〜ローカルピックアップ方式〜

先月号では、ラジオは受信機でありながら、自分自身が電波を発射する送信機でもある、とお話しました。

その発射する電波(ローカルシグナル)をキャッチし周波数を測定すれば、ある計算式により、自動的に「今どの放送を聞いているか」が特定できます(表1)。

カーラジオの場合、計算式はAMでは、ローカルシグナル‐450kHz、FMなら+10.7MHzでした。

写真1はローカルピックアップ方式によるカーラジオメータ第1号試作機です。ラジオ受信機のケースを開けて、周波数をピックアップするためのコードを中に差込んで測定します。

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【道路を走る車を自動測定】

この考えをさらに発展させ、車両から飛び出してくる微弱なローカルシグナルを、高性能受信設備を道路脇に設置することで、測定点を通過する車がどの放送を受信しているか自動計測できないかを考えてみましょう

(図1)。

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【技術的問題点】

1)AMは測定できない

これは、この連載の中で何度も触れてきた波長と関係しています。FMを受信する時のローカルシグナルは、表1から約70MHzであることが解ります。70MHzを波長に換算してみましょう。

「波長(m)=300÷周波数(MHz)」ですから波長は約4mになります。ラジオの中の配線や、部品をローカルシグナルが流れる時に、この配線材などがアンテナの役割をして空中へ漏洩します。しかし、この配線材などの長さが仮に1cmだとしたら、波長4mに対して4百分の1の長さでしかありません。標準的なアンテナは波長の半分か4分の1の長さであることと比べると、極めて性能の悪いアンテナとなります。

理論上はそうなりますが、実験してみたところ高性能受信機なら車から数m離れた場所でも、漏洩して来るローカルシグナルをかろうじてキャッチできました。

一方、AM受信時のローカルシグナルは周波数が約2MHzなので波長は150mとなります。1cmのアンテナは波長に対して1万5千分の1です。これではローカルシグナルを全然漏洩しません。ラジオのケースを開けて、特殊なピックアップセンサーを回路基板に押し付けてやっと検出できる程度でした。

2)数の測定が出来ない。

もうひとつ原理上解決できない問題があります。車3台が全てNHK−FMを受信していたとします。どの車からも71.8MHzのローカルシグナルが漏洩して来るのですが、ローカルシグナルは無色透明無音のきれいなサイン波なので、この3台を区別する方法がないのです。くっついて走行していると3台が聴取中でも、1台とカウントします。(図2)

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3)ローカルシグナルの漏れ量減少。

ラジオ受信機から漏れ出すローカルシグナルは「不要幅射」と呼ばれ、本来漏れてはいけないものです。たとえば600kHzのラジオ放送を聴く場合の、ローカルシグナルは600+450=1050kHzです。

これはAM放送用に割り当てられた周波数帯内です。もしこの1050kHzが漏れ出すようなら、そして偶然1050kHzに他のラジオ放送局があり、隣を走っている車が聞いていたら、「ピー」というビート妨害が起きます。

メーカーはラジオからの「不要額射」を押さえるよう改良を進めているので、今後、第3者がこれをピックアップするのはますます難しくなるでしょう。

4)換算式が複数になった。

AMとFMの受信回路の共通化で最近ではAMでもFMと同じ10.7MHzの周波数に変換するローカルシグナルを用いる機種が増えてきました。

たとえば600kHzのAM放送を受信する場合のローカルシグナルは、600+450=1050kHzではなく、0.6+10.7=11.3MHzです。

また一部のFMラジオでは「受信周波数=ローカルシグナル+10.7MHz」ではなく「受信周波数=ローカルシグナル‐10.7MHz」を採用しはじめました。

つまり表1のように「82.5MHzを受信中には、71.8MHzのローカルシグナルが漏れて来るはず」とは断定できないのです。この場合は82.5+10.7=93.2MHzが漏れてきます。さらに93.2MHzとえいば日本ではテレビの1チャンネルです。

車から漏れて来る電波より、東京タワーからのテレビ波の方が強く、やはり実用上は非常に問題が多いと言えます。

技術開発部 田中博

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