US Media Hot News 「タイムワーナーvsディズニー」

VRDigest編集部
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※本記事は2000年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

米国で番組放映をめぐり騒動

 5月の初め、ニューヨークやロサンゼルスなど全米11の地域で、39時間にわたり350万世帯のテレビに全米放送局ABCブロードキャスティングの番組がまったく映らなくなるという"事件"がありました。番組の代わりに画面を覆ったのは「Disney has taken ABC away from You.」の文字です。慌てた視聴者がテレビ局やケーブル会社、果てはディズニーにまで電話をかけて事情を問い合わせる騒動となり、米国で話題になりました。

 慌てたのは視聴者だけではありません。当のABCとディズニーも事態に顔色を青くしました。米国ではテレビ番組の新シーズンが始まるのを前に「スイープス」と呼ばれる期間を設け、その間の視聴率をもとに広告料金を設定します。5月はその期間にあたり、39時間の空白は巨額な広告収入の損失につながりかねません。とくにABCでは新しいクイズ番組「億万長者になりたいのは誰?」が平均視聴率20%を超える大人気で、高額の広告レートを期待していました。そんな突先の出来事ですから、慌て驚き、憤るのも無理ありません。

 事件の犯人はタイムワーナーのケーブル運営子会社でした。番組配信の条件をめぐりディズニーと対立し、決着できずに強硬手段を行使したのでした。

 米国では、1992年に制定された「連邦ケーブル法」でケーブル回線を利用した番組配信の条件などを定めています。それによると、番組局は放映を義務付ける「マスト・キャリー」か、合意に基づき許可を与える「リトランスミッション・コンセント」のどちらかを選択できるようになっています。番組を一つしか制作していないような非営利団体やローカル局は無償で番組を供給する代わりに放映を確約させることが多く、番組をたくさん抱える全米ネット局などは通常、後者を選んで番組と引き換えに放映料を受け取ります。ほかの番組と束ねて(バンドルして)放送を要請することもでき、評価の定まっていない新番組や比較的人気の低い番組の放送にこぎつけるにはいい方法です。ただし、この場合はケーブル会社にも選択権があり、内容に満足できない場合には放送枠から外すことができます。

 契約は3年ごとに更新され、今回タイムワーナーとディズニーは'99年末に切れた契約を見直しているところでした。ところがホームラン番組を抱えて強気なディズニーが「法外な料金を提示して無理な放送枠を押し付けた」(タイムワーナー幹部発言)ため交渉は難航しました。タイムワーナーはディズニーに抗議する意味で強硬手段を選びましたが、ディズニーが弱者の立場を演じたことで事態は思わぬ方向に発展しました。

 ディズニーはコンテンツ制作では申し分なく、配信手段もテレビ、ラジオ、インターネットと多様ですが、ケーブル会社を持っていません。一方、タイムワーナーは全て揃え、AOLによる買収が完了すれば、多くのケーブル番組視聴世帯やインターネットユーザーを掌握することができます。AOL・タイムワーナー帝国の誕生を目前にして、自社番組の締め出しを懸念するディズニーはあの手この手で買収阻止に動き、首都ワシントンではロビー活動を展開しています。今回の事件では「タイムワーナーの

行為は独占禁止法に抵触する」と主張して、米連邦通信委員会(FCC)に泣きつきました。

 タイムワーナーが受けた打撃は甚大です。FCCは独禁法違反との主張は跳ね退けましたが、スイープスを妨害したことでタイムワーナ一にお咎めを与えました。悪者のレッテルを貼られたタイムワーナーは公式な場で謝罪を繰り返した上、2日分のケーブル料金の返還と有料チャンネルの1ケ月間無料サービスを視聴者に約束しました。同朋からも「騒ぎを公にせず、穏便に解決すべきだった」(コムキャスト・ケーブルのB・ロバーツ会長)、「消費者の利益を最優先しなかった行為を恥じる」(AT&TのM・アームストロング会長)などと非莫臣を浴びました。

 ディズニーとの契約更新も先方の要望をほとんど聞き入れた格好になり、業界では「タイムワーナーの全面降伏」との判定がもっぱらです。

 しかし、テレビ業界の抱える問題点にスポットライトを当てた点では、タイムワーナーの勇気ある行動にプラスの評価を与えてもいいのではないでしょうか。

 ひとつは、ケーブル法が時代にそぐわなくなってきていることです。そもそもこの法律は、当時、サービス料金を年間平均で約40%値上げしていたケーブル会社の力をそぐためのものでした。しかし、今では衛星放送やインターネットなど多様な配信手段が出現し、ケーブル会社の力は以前のように強くなり得ません。タイムワーナーのように子会社に裁量が与えられている分権型の企業では、ケーブル子会社を抱えていると言えども番組の内容が良くなければ放送枠を貰えず、環境は決してラクではありません。

 番組コストの上昇が消費者に転嫁される構図が出来あがっていることも問題です。このところ番組料金は天井知らずで、年間平均10%ずつ上昇しているとの統計があります。とくにオリンピックやフットボール放映権の高騰ぶりは目覚しく、ネット局は広告収入で賄いきれない部分をケーブル局からの番組料に求めています。ケーブル局はと言えば、そのコストをサービス料金の値上げという形で消費者に転嫁しており、一番損をするのは消費者です。

 ケーブル法の改正を求める業界の声に、議会などは「審議の余裕はない」との態度を取りました。確かに、夏休みの閉会が迫っている上、今年は大統領選挙の年にあたり、今から議題にかける時間はありません。しかし、競争と番組コストの上昇の狭間に立たされたケーブル企業が番組制作局を相手に苦悩の選択に迫られる状況はこれからも続くものと思われます。

Video Research USA, Inc.

                                    

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