「AbemaTV」のこれから。1周年を迎えて思うこと

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Synapse編集部
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※本記事は2017年6月に発刊した「Synapse」に掲載されたものです。

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サイバーエージェント代表取締役社長 藤田 晋

青山学院大学卒業後、1年のサラリーマン経験を経て、1998年にサイバーエージェント設立。2000年に当時史上最年少の26歳で東証マザーズ上場。「Ameba」を始めとするメディア事業を統括し、総合 プロデューサーとして指揮する。

開局後から1年を迎えた「AbemaTV」の成果

――AbemaTVは昨年4月に開局してから順調にユーザー数を増やしていますね。そちらについてご自身としてはどのように感じていらっしゃいますか?

「アプリのダウンロードは5月7日時点で1700万を突破し、1週間の利用者数も、GWに過去最高の 550万人を記録しました。AbemaTVは新たな動画配信事業で、比較できるビジネスモデルは今のところ他にはありませんが、我々の中で計画していた数字を上回って推移しています」

――10年ぶりにコンビを復活した極楽とんぼのレギュラー番組や、中学生棋士・藤井聡太四段の対局、亀田興毅との対戦など、エッジの効いたコンテンツが多いですね。

「『亀田興毅に勝ったら1000万円』は開局1周年の目玉番組として企画したのですが、対戦相手の応募が殺到しました。これは企画時点でイケてるなと確信できた番組です。大晦日には人気のラップバトル番組『フリースタイルダンジョン』の特別番組を放送しましたが、視聴数は340万人とその時点での最高記録になりました。このような独自の生放送番組に加え、24時間いつでも最新情報が得られるニュースをはじめ、アニメ、音楽、ドラマ、スポーツ、格闘技、ゴルフ、釣り、将棋、麻雀など、約30チャンネルを無料で配信しています」

――番組放送中にコメントを書き込めるチャット機能もあり、番組と一緒に見ると面白いです。

「あくまで映像がメインですが、ツッコみたくなる衝動に駆られた時に、インタラクティブな機能によって、他の人も自分と同じように感じていることが分かると楽しめますよね。特にサッカーや麻雀などの番組では解説したがる人が多いので、その人たちのコメントでも楽しむことができます。これまでは横画面のみでしたが、4月3日からは縦画面でも視聴できるようになったので、コメントの表示部分を大きくすることができました。コメントの一覧が見やすくなり、投稿もしやすくなったほか、番組表も見やすくなるなど、操作性が向上しています」

――テレビ局とタッグを組んで番組を制作される上で、何か驚きはありましたか?

「1つはテレビ朝日の制作力のレベルの高さで、もう1つは、これまでに培われたテレビ業界の常識で す。後者は、例えばスポンサー企業に配慮してビール瓶のラベルがわからないようにしたり、タレントの裏かぶりを気にしたりなど、元々業界外の僕からすると自主規制が過剰すぎるのではと感じました。そのようなことは一度振り出しに戻して判断した方がいいと思い、AbemaTVのスタッフにもそのことは何度も伝えています」

―― 御社や藤田さんご自身にとって、AbemaTVを作って良かったことは何ですか?

「良かったことはたくさんあります。これまでにない新しいモデルでサービスを始めたことで、新分野を開拓しているというチャレンジ精神は社内にいい影響を与えています。そしてテレビ朝日と一緒に仕事をすることで、クオリティの高い番組をAbemaTVでも放送できるようになりました。4月10日からはテレビ朝日の看板報道番組である『報道ステーション』が、『AbemaNewsチャンネル』の放送ラインナップに加わりました。これは大きな強みです。これまでたくさんのコンテンツを提供してきましたが、『アメーバブログ(アメブロ)』やコミュニティサービスの『アメーバピグ』にしても、ネットだけで完結するので、外部の企業の力を借りる必要がありませんでした。それだけに今回、共同で事業を行う大きなメリットを感じています」

――制作にはどのくらいのスタッフの方が関わっているのでしょうか?

「A b e m a T V の社員数は250~300名。そのうちの30~40名が番組制作に関わっています。社内でアプリ開発を行っているので問題を見つけたらスピーディーに対応できますし、世の中的にもサービスのユーザビリティなどを評価していただき、技術者たちは自分たちのプライドにかけて変なものは出したくないと、日々、頑張っています。外部の企業に発注していたら、このようにはならないでしょう」

――そういう体制ですと、緊急時も迅速に対応できますよね。

「熊本地震の時には『AbemaNewsチャンネル』の編成を切り換えて、最新ニュースはCMを入れずに緊急編成で放送しました。49時間半にわたって地震関連の最新情報を伝え続けたわけですが、これも現場が判断し、迅速に対応した結果。みんなオーナーシップを持って番組制作に取り組んでいます。これまでの私の経験から、ネットサービスを提供する場合、技術者を自分たちで抱えることは必須だと思いますね。開局1周年を迎えるに当たって、初のキャスター採用を実施しましたが、入ってきた人たちはみんな、〝AbemaTVで活躍したい〟と言ってくれています。チャレンジ精神あふれるスタッフが集まり、番組の企画チームとは週に一度の頻度で企画会議を行っていますが、とがった企画が出てきて、みんなのやる気を感じます。僕自身、仕事の95%がAbemaTVというくらい、今、注力しています」

――AbemaTVの視聴者層は若い人が多いですよね。

「ええ、ユーザーの約70%は10代から20代、それより上でも30代前半までと、若年層の取り込みに成功 しています。元々、狙っていたのがテレビを見なくなった若い層なので、我々としては狙い通り。若いユーザーが集まっているから、彼らに見せたいコンテンツを若いスタッフが制作し、それによってまた若いユーザーが集まってくるといったように、AbemaTVがポジティブスパイラルになっています。若い人はあくまでテレビデバイスをあまり見ないというだけで、動画コンテンツを見ないわけではない。スマートフォンで動画コンテンツを配信するということが若い人を取り込めた理由だと感じています」

―― 若い人のテレビ離れについて、藤田さんはどう思いますか?

「今のテレビ番組は、昔からテレビを見ているシニア層に向けて、居心地良く作られているように思いま す。例えばゴールデンの番組であれば、派手なセットにたくさんの出演者、そして笑い声が聞こえ、たくさんのテロップが入るというのが王道で、見る人にも安心感を与えます。ただ若い人の場合、必ずしもあのスタイルがいいとは限らないんです。今ではテレビ画面が大きくなり、部屋もスタイリッシュになってきました。そんな環境の中に昔ながらのスタイルの番組が流れると、正直、違和感を感じる人もいるわけです。僕自身、そういうこともあって、テレビを見なくなっていた面もあるので、従来のゴールデンタイムの番組作りに象徴されるようなスタイルは、AbemaTVでは必要としていないことを、スタッフには最初のタイミングからコンセプトとして伝えています」

視聴率という指標によりテレビは成長した

――AbemaTVでは視聴数のランキングを毎日出しておられますが、テレビにおける視聴率について は、どう思われていますか?

「今、独自でドラマ制作も行っていますが、ドラマの作り方自体が、視聴率を意識した作り方になっているように感じますね。テレビ番組制作において視聴率はなくてはならない指標で、視聴率が取れれば拍手喝采で、逆に下がると人が離れていくほどの影響力があります。視聴率のすごいところは、世の中を巻き込んでいること。月9のドラマの視聴率は良くても悪くてもニュースになるし、数字が取れる役者やタレントが重宝されたりもするので、出演者まで視聴率を気にしています。僕も『報道ステーション』に出演した時に、あまり数字が良くなかったので、正直、落ち込みましたね(笑)。視聴率がどれだけシリアスかということは、実際に制作現場に入るとよく分かりました。そんな状態なので、視聴率を気にせずに番組を作ることは不可能でしょう。ただ視聴率のような指標があったおかげで、コンテンツのレベルが向上したのだと思います。日本のテレビ局は視聴率で競争した結果、番組のクオリティが相当高くなりましたよね。だからAbemaTVでも番組の視聴数を表示するようにしていますし、視聴数のランキングについては毎週、スタジオにも貼り出しています」

――ネット広告をずっと生業にしてこられた藤田さんは、AbemaTVでの広告の売り方について、どのようにお考えでしょうか。

「当社では創業期からネット広告を扱ってきたこともあり、どのような手法がいいのか、経験上、理解し ています。例えば動画を見る前に出てくる広告などは、途中でスキップされがちです。すでに見たい動画が決まっていて訪れている人に、受動的に見させる広告はあまり効果が望めません。一方、Yahoo!などの検索サイトを見た時に受動的に受け取る広告は、意外と効果があるものなのです。AbemaTVは広告収入による無料配信モデルですが、今はコンテンツによってユーザーに視聴習慣をつけさせる時だと判断しているので、広告のことは正直、あまり意識していません。経験値で広告効果の高いメディアが何かを知っていますし、ネットでの収益化にはいろいろなやり方があることを分かっているので、何も心配していませんね」

―― 広告展開としては、視聴者のデータを詳細に取れているから、個々に向けて、機械的に配信することをお考えでしょうか。

「A b e m a T V では主にデイリーやウィークリーのユニークユーザー、アクティブユーザーなどをチェックしています。ネットではどのユーザーが週に何回、何時間視聴しているかなど、非常に細かいデータを取ることができます。その細かさや正確さは、視聴率の比ではありません。ただそのビッグデータを使って、広告をターゲティングするかというと、そんなことはしません。人によってはターゲティングした方が効率的だとか、興味のない人に広告を見せても無駄だとか言いますが、実はそうではなく、ターゲティングすることで、マスの数を小さくしてしまうんです。そうなると一定規模以上の広告効果が上がらないし、メディアとしてもビジネスになりません。一度興味を持ってくれてサイト等に訪れた人に対して、リターゲティングを行うのは有効ですが、新製品をより広く告知したり、ブランディングする上では、ターゲティングはあまり適さない方法だと思います。これまでのテレビのように、受け身で見ている人に広告を見せるという方法は、これからも残さなくてはいけないと思います。AbemaTVは受け身メディアで、番組の合間にCMが入っています。だからユーザーにストレス無く視聴してもらうことができると考えています」

――地上波テレビでは、有料モデルは確立出来ていません。一方で御社は有料会員モデル『Abemaビデオ』を、月額960円(税込)で開始されました。こちらの感触は如何ですか?

「地上波テレビが有料モデルを確立出来なかったのは、家電メーカーがビデオを製造した時に、タイムシ フトを許してしまったことが原因だと思います。本来ならDVDを買ってもらえるところが、録画した番組で間に合ってしまう。そしてCMは早送りでとばされてしまう。いずれの収益も危うくしてしまうので、ビジネスモデルが成り立たなくならざるを得ない。AbemaTVでは、番組を録画したいという声が多く、オンデマンドで見てもらえるコンテンツも十分に揃ったことから、4月6日から『Abemaビデオ』のサービスをスタートさせました。これは見逃した番組を、いつでも見ることができるもので、AbemaTVのコンテンツを一定期間、好きな時に見たいだけ見ることができます。生放送で視聴できない番組は事前に登録しておくことで、ビデオ録画機能として利用することもできます。これらの機能によって、AbemaTVの利用シーンや楽しみ方が、さらに広がると思います」

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AbemaTVにおけるネットとテレビの融合とは

――10年以上前、堀江さんがニッポン放送に、楽天の三木谷さんがTBSにそれぞれ買収を仕掛けた際、〝放送と通信の融合〟が叫ばれました。が、当時はその両者がどのように融合するのか、個人的にはイメージが湧きにくかったのですが、藤田さんはどうご覧になっていましたか?

「テレビ朝日とサイバーエージェントが組んだAbemaTVを、その延長線で語られることはありますが、僕から見たら全く関係ないことで、その延長でもありません。当時はテレビの力があればネットビジネスが伸ばせると考え、時価総額が低い今がチャンスだという考えで買収に至ったのでしょう。でも我々は新規事業をやる上でテレビ局の力が必要だったから、共同でやることになったに過ぎません。当時、僕は放送と通信が融合なんてするわけないと言っていました。2005年にはUSENがネットの商業放送事業として『完全無料パソコンテレビGyaO (現GYAO!)』を始めていましたが、その未来の形に関しても、個人的にはイメージが湧いていませんでした」

――そこから10年以上経って、AbemaTVはある意味での融合をした感じがありますが、ご自身ではどうお感じですか?

「私がA b e m a T V を始めたきっかけは、〝新たな視聴習慣を創出したい〟というビジョンを持ったからです。今のインターネット動画サービスは膨大な数のコンテンツがある反面、見たいものを探すのに、少なからず手間がかかってしまいます。一生懸命探したり、録画してまでは見たくないけど、何か面白いものはないのかなと、まるでテレビのスイッチを入れるような感覚で触れるサービス。そのような動画の視聴スタイルを、AbemaTVで実現したいと思っています。スマートフォンが世に出てきて、さらに、スマートフォンのコンテンツをテレビで見ることができる『Apple TV』や『Chromecast (クロームキャスト)』が登場したことで、テレビは大きなデバイスとなりました。テレビでネットのコンテンツを見るという新たな習慣が生まれ、その逆のテレビのコンテンツをスマートフォンにとばして、外出先で見るという行動も出てきました。その背景には、Wi-Fiの普及、4Gや5Gなどの通信回線技術が出てきたことも影響しています。ユーザーにとってはどれがテレビの番組で、どれがネットの番組なのかは正直どちらでもいいことなのです。そして、それを意識しなくていいことが、本当の意味でのネットとテレビの融合なのだと思います。AbemaTVでも、テレビ朝日の『報道ステーション』を放送するなど、様々な部分で実際に融合をしています」

これからのテレビ業界に求められるものとは?

――藤田さんの目には、今のテレビ業界はどのように映っていますか?

「そもそも各テレビ局が制作している番組数が少ないので、どれか一つの番組で失敗した時のダメージが大きいのだと思います。そのリスクを恐れるために、冒険してリターンを得るよりも、ついつい手堅くなってしまい、ヒットした番組の二番煎じや三番煎じが増えているのではないでしょうか。でも、それは当然のことだと思います。とは言え、今の状態が、僕は少なくとも30年以上は続くと考えています。1回身に付いた視聴習慣はそう簡単には変えられないし、若年層がテレビを見ないと言っても、全員が見ないわけではなく、一定の割合の若い人たちはテレビを見ています。その人たちが老人になるまで、今のようなテレビのスタイルは存在するでしょう。これまでの枠組みは維持して、その部分は残存した利益として取っておいた方がいいですね。ラジオや新聞の歴史を見ても、新しい文化が出てきて何度も苦戦したでしょうが、布石を打つことで、今も存在しています。テレビも現状を維持していることがスゴイと思います。しかし今後、テレビ事業だけで大きな成長は見込めないと思うので、AbemaTVのようなネットサービスと協業して、新しい利益を得られるように考えるべきではないでしょうか。成長分野に布石を打たずに、今後のことを心配している状況は、精神衛生的にも良くないと思います」

―― AbemaTVと同様のインターネットテレビのサービスが、他にも出てくると思われますか?

「昨年は100億円投資しましたが、今年はさらに200億円投資する予定です。こんなに赤字を出す事 業を、マネしたいという企業は、そう簡単には出てこないと思いますよ(笑)。だからここからは自分た ちとの戦いです。新たな視聴習慣を創出できるよう、面白いコンテンツを制作していくだけ。今はいろいろと実験的にサービスを行い、AbemaTVの可能性を探っています。我々としては、今後、多くのテレビ局が新しい番組作りに挑戦していく過程で、AbemaTVがプラットフォームになれればいいなと考えています。ただしそうなるためには、大株主のテレビ朝日の意向が大きく影響します。我々としてはテレビ朝日が一緒に事業をやってくれていること自体が、奇跡的なことなので、この関係は大切にしていきたいと思っています」

――AbemaTVの今後の企画について、お考えになっているところをお聞かせください。

「開局1周年記念として、7日間にわたってスペシャルライブを開催し、それを独占生中継しました。そ のほか日本のアニメ史を代表する大ヒット映画の日本初配信や、『欧州チャンピオンズリーグ』、『K -1 WORLD GP』などのスポーツ・格闘技の生中継などなど、1ヵ月間にわたって様々なジャンルの特別番組を毎日放送してきました。それがようやく終わったところなので、今はひと段落といった感じですが(笑)。とは言っても、すでに今後の開発スケジュールはびっしり詰まっていますけどね」

――この先のユーザー数の推移についてはどのようにお考えですか?

「何かをきっかけにユーザー数が爆発的に伸びるということはまずないでしょうから、テレビの視聴習慣 がなかった人に対し、ひとりずつAbemaTVを見るように変えていくといった、着実に市場を開拓する努力が必要です。この事業は腰を据えて、10年は取り組もうと考えています。少なくとも今年は同じペースで投資すると言っているのは、今、サイバーエージェントのゲーム部門が好調で、AbemaTVの赤字をカバーできるくらいの収益が得られているから。ですがこの先もずっとゲームの収益で補填できるわけではないので、その対策もちゃんと考えています。AbemaTVの広告と、Abemaビデオの課金で十分な収益が得られなかった場合のために、放送外収入のような、番組と連動して収益が上げられるものが何か検討中です」

――たとえばどのようなサービスでの収益を想定されているのですか?

「具体的にはこれからですが、これまでのサイバーエージェントの歴史を知っている人なら、〝藤田なら最終的に何とかするだろう〟と思ってくれています。新しいサービスは出遅れたら終わりなので、常に先行投資してきました。一般的には、新しくて誰も見たことがないコンテンツだと、〝海外に同じような事例はあるのか、この事業に投資して、絶対黒字になる根拠はあるのか〟などと問われて、足を引っ張られてしまいがちです。  

でも僕にそんなことを聞いてくる人はいません。〝前もうまくやったし、今回もうまくいくでしょう〟といった風に受け取ってもらえるので、最近は特に仕事がやりやすくなりました。もちろん成功する保証や根拠は、僕自身にもないわけですが。  今はまだ2年目なので、本当にこのAbemaTVのビジネスモデルが成り立つのか、新たな視聴習慣として若い人に根付くのかは、みんな疑問に思いながらも、とにかくやるしかない。そう思っています」

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