「DAZN」の出現により変わる日本の動画視聴スタイル

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Synapse編集部
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※本記事は2017年6月に発刊した「Synapse」に掲載されたものです。

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DAZN コンテンツ制作 本部長 水野 重理

1992年、日本放送協会入局。スポー ツ、ニュースや報道・ドキュメンタリー番組の制作を担当。主な番組 にNHKスペシャル「変革の世紀」「地球大進化」「女と男」などがある。 2016年、Perform Investment Japan株式会社に入社し、現職。

OTTに求められる機動力とチャレンジとは

――水野さんの前職について教えていただけますか?

「NHKに24年間、勤務していました。1992年にディレクター職で入局し、スポーツ、ニュース、ドキュメンタリーなどを撮りました。スポーツとの関わりにフォーカスすると、ずいぶん前になりますが、アトランタオリンピックの時に、柔道やテニスの試合を中継したり、その後も、シドニーオリンピックやワールドカップなどを担当しました。最近でいえば、『球辞苑(きゅうじえん)~プロ野球が100倍楽しくなるキーワードたち~』という〝プロ野球を100倍楽しむキーワード〟をテーマに、〝ファースト〟とか〝ホームスチール〟といったキーワードでプロ野球を深堀りしていくマニアックな番組も手がけました。他にも『為末大が読み解く! 勝利へのセオリー』『超人たちのパラリンピック』など、少し視点を変えたスポーツ番組の立ち上げも担当しました」

――Perform Investment Japan に入社されてからは、どのようなお仕事をされているのでしょうか。

「入社したのは、2016年の4月になります。現在は、ダ・ゾーン・ジャパンで配信している月間約500番組の中継と中継以外のものも含めて、すべての番組の責任者をやっています。昨年、弊社が10 年間の放映権契約を締結したJリーグの試合は、毎週会社でモニタリングしているか現場に足を運んでいます」

――既存の放送局で長年の経験がおありの水野さんから見て、放送局とダ・ゾーンのようなOTTサービスの最大の違いはなんでしょうか?

「機材の数やクルーの人数の差もありますが、一番の違いは編成の概念ですね。ご存じのようにテレビ局というのはリニアの放送ですから、編成も時間軸に沿っています。一方、OTT(Over The Top)はノンリニアなので、編成の概念がまず違います。たとえば、野球の試合が延長になった場合、テレビでは5分毎、10分毎に階段編成を敷いていきますが、OTTはそういうことをする必要はありません。そういった意味では、すごくラクです。ただ、OTTの場合、同時に10でも20でもライブを配信していきますから、従来のテレビにない機動力が必要なうえ、従来のテレビとは違うチャレンジもあります」

――機動力が必要といっても、テレビ局と比べて、中継コストを抑えておられるのでは......。

「逆に、テレビ局よりコストをかけていると思います。OTTをいわゆるストリーミングサービスだと思っている方には、民生機器で出来るんじゃないかとよく勘違いされるのですが、機材は放送機器ですし、Jリーグ全体の放映レベルを向上させるために、コストをかけています。正にそこが、ストリーミングサービスとOTTの最大の違いだと思います。そもそも、アメリカでOTTという言葉が発祥したのは、『ケーブルテレビの先を行け』という意味ですから。画質はハイビジョンが基本で、今後は4Kも導入します。それを、視聴するデバイスに応じて画質を落としていく。その逆はありません。もともとネットストリーミング用の機材でやっている会社の映像は、大画面に映すと粗くて視聴できませんが、弊社の場合、中継も最低でもハイビジョンクオリティでやっていますから、大画面テレビでも高解像度の映像が視聴可能なのです」

――もうひとつの従来のテレビとは違うチャレンジとは何でしょうか?

「スポーツ中継の場合、試合が行われるプライムタイムは決まっています。そのため、NHKでも民放でも、時間をずらして編成しますよね。NBAにしても大リーグにしても、ライブ配信せず録画にするとか。一方、弊社は、ライブがあったら、全て見逃し配信を行い、独自にハイライトも作っているので、編成を気にしなくていいのがメリットだといえます。チャレンジというのは、ライブがない時間帯に、どういうコンテンツで視聴者を惹きつける必要があるのかを考え、実行する必要がある点です」

―― それは、たとえば特集を制作するという意味ですよね?

「そうです。1年前にスタートしたときは、海外のスポーツ中継が中心だったので、実況と解説の声を日本でローカライズして出していくオフチューブ制作を中心に考えていました。しかし、国内の放映権が増えてきて、JリーグだけでなくVリーグも配信することになると、中継だけでなく各リーグと共にどうやって価値を上げていくかということが大事になってきます。そうなると、必然的に特集やハイライトでもっと分析的な番組を作るとか、魅力あるコンテンツを増やしていく必要があると考えています」

――現在、ダ・ゾーンの制作スタッフは何人体制ですか?

「デザイナー、ディレクター、編集や編成も含めインハウスの制作が60名くらいです。今後は、もう少し 増えるかもしれません。もちろん外部の、フリーランスやパートナーの方々にも協力してもらっています。会社の雰囲気は、外国人比率が高く、全体的に若いですね。パフォームグループが運営するダ・ゾーンは、ドイツ、オーストリア、スイスのドイツ語圏でも展開しているので、情報を共有し、中継に付加価値を付けるためのフォローもしてもらっています。たとえば、Jリーグの場合、制作の主体はあくまでもJリーグですが、弊社の場合、カメラの配置や、どういうアングルで撮るかといった、ヨーロッパのサッカー中継のノウハウを、日本でも取り入れています」

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J1では9カメ体制高度化した中継映像

――たしかに、Jリーグを見ていても、映像がこれまでとは違いますね。

「昨年との大きな違いは3点あります。まず、最大の差はカメラの配置です。日本の場合、これまでメイ ンスタンド側にカメラをずらりと並べる慣習がありました。それを、反対サイドにも置き、これまでなかったオフサイドカメラも置きました。もちろん、それぞれのカメラには明確な役割があります。このカメラは何を撮るためにあるのかということがきっちり決まっているのです。  

2つ目は、それぞれのカメラが撮った動画を全部再生できるようにして、全ての映像をリプレイに出す ようにしたことです。日本の場合、リプレイ映像はせいぜい2~3点でしたが、9カメ全部の映像をリプレイに出せるようにしました。  

3つ目は、カメラの台数です。昨年までは、平均5~6台でしたが、今年からJ1の場合、最低9カメ。毎節1試合は16カメでやっています。ライブで撮る映像は、1カメのベース、2カメで撮るアップ、メインスタジアム側の真ん中にある回転台のついた3カメを左右自在に振りながら選手に寄れる特徴的な映像。この3つがメインカメラですが、この他に6つのカメラを配置しているため、何か起きた時にリプレイで必ずいろんなアングルから再生できるのが9カメ体制にする肝です。ゴールが決まったあとも、3~4つくらいのスロー映像が出ますが、それは、それぞれのカメラがきちんと役割を果たしているからこそできること。さらに、スーパースローカメラも導入しています。日本の一般的な放送用のカメラの場合、1秒30フレームですが、スーパースローカメラの場合、1秒間に90フレーム。通常のカメラよりも3倍スローな映像が見られます。  

このように、カメラの台数もスペックも上がっています。高価なリ プレイマシーンも追加しました。当然のことながら、制作費は上がっています。  

さらに、昨年までそれぞれの制作会社が持っている機械で作っていたグラフィックスを、イタリアのデルタトーレがデザインをする体制に切り替えました。その機械をJリーグが管理して、オンラインでデータをやり取りしながらリアルタイムでどんどんデータを更新していく。そのため、グラフィックスの内容も上がっていますし、試合ごとのバラつきもなくなりました」

――つまり、映像の品質と全体の統一感の両方が向上したわけですね。

「はい。それだけでなく、試合前に、チームがバスで来るところから撮影し、必ず監督のインタビュー 撮り、必ず控室の画もあって、というように、中継の構成自体もバラつきがでないようにしています。今までは、試合ごとに、この部分の映像があったりなかったりという状態でした。特に、控室とか更衣室の映像はないことも多かった。そういったところでも、かなり質を上げています。J1は9カメ体制、J2は5カメ、このJ2が去年のJ1の標準体制です。そしてJ3は4カメ。J3自体は、昨年は中継はやっていませんので、Jリーグさんへの反響も大きいですね。『Jリーグ・ゾーン』をもっとやって欲しいという声もあります。 

今年は1043試合中継する予定ですが、そのボリュームとその質が、視聴者の方々に伝わればいいな、と思っています」

多角的なアプローチで好循環を起こす

――日本ではスポーツビジネスは儲からないと言われていますが、英国でのスポーツビジネスの手法を取り入れていくご予定はありますか?

「パフォームはもともとスポーツコンテンツビジネスの会社ですから、持っているノウハウの数も種類 も多い。例えば、バックエンドで言えばストリーミングや配信の技術ですけど、それ以外にデータ提供や、スポーツデータブランド『Opta』もありますし、ニュースも配信しています。マーケティングも各リーグと連携をとって、CM制作も行っていますし、世界各国で一緒に仕事をしています。また、スポーツ選手をどうやったら格好良く撮れるかといった撮影ノウハウもあります。そういう意味で、放送で何ができるかだけでなく、アプローチの間口が非常に広いと感じています。  

弊社には『Goal.com』という世界最大のサッカーサイトがあるのですが、この媒体とクラブに自由に使っていただけるようなコンテンツを作り、サイトやソーシャルメディアで展開できるようしていく予定です。  

このような多角的なアプローチをすることで、Jリーグがなんとなく気になっていた方も、Jリーグを見る機会が増える。それによって関心も高まり、Jリーグのスタジアムに足を運ぶ人が増えて、ひいてはダ・ゾーンの加入にも繋がる。そういった好循環をどうやって繋いでいくのか、というのが今後の課題だと思っています。そのためのノウハウやネットワークは、惜しまず注ぎこむというのが弊社のポリシーです。  

たとえば、付き合いのある欧州リーグの知っている人を呼んでくるとか、海外のノウハウや最新の技術を取り入れていく。逆にいえば、Jリーグをどうやって海外に売り出していくかということまで視野に入ってくると、エキサイティングになりそうな気がしますね」

加速度的に変化しているOTTを取り巻く環境

――様々なOTTサービスが日本でスタートしていますが、今後どのように普及していくと思われますか?

「Netflixが本格的にスタートしたのが2015年9月、弊社が2016年の8月、その前からスタートしていたHulu が100万人突破したというニュースが2015年3月にあ り、アマゾンプライムも参入といった具合に、ここ20カ月くらいでOTTを取り巻く環境は加速度的に変化してきています。以前も、ネットでの動画配信は注目されていましたが、配信側の技術も、視聴者が持っているデバイスの種類も追いついていないという印象でした。それが、ここ1~2年くらいで急速に技術が上がってきました。それは制作して送り出す方の技術もそうですし、受信して見る方の技術もしかりです。iPhone が出てきて、スマホが定額制になって、ようやく誰もがネットで動画配信を楽しめる時代がきた、今がそのタイミングなのだと思います。  

また、AbemaTV も含めて、様々な新規参入組が動画ビジネスに入ってきていることも、すごくいいことだと思っています。やはり今は、ライバルとしてというよりは、動画配信ビジネスのマーケット全体が盛り上がることが大切だと思います」

――OTTサービスの中で、ダ・ゾーンの位置づけは?

「数あるOTTの中でも、弊社のやっていることは一番ハードルが高いと思っています。といいますのも Netflixやアマゾンプライムが販売しているのは、コンテンツのパッケージソフト。つまり定額制動画配信のVODです。Hulu が、これからライブ配信を始めるようですが、やはりライブに特化してやるというのは技術的にも非常に大変です。ローエンドのストリーミングではなくハイエンドの映像クオリティでストリーミングをやっていくのは、まだまだ難しい。弊社が世界展開しているからこそ可能な事業だと思います。ここを社会にも伝えていきたい。  

また、見られるデバイスが多いので、テレビの大画面の前でゆっくり見たり、通勤途中にモバイルで見 たり、こっそり仕事の昼休みにタブレットで見たりと、使い分けできるのも、ダ・ゾーンの大きな特徴です」

――最後に、OTTの将来性についてお考えを聞かせてください。

「私は、電車の中で人を観察するのが好きなのですが、1車両に10人座っているとして、4年くらい前ま では、まだガラケーの人が4割、何もしていない人が2割くらいいました。この1年くらいでガラケーの人はいなくなり、10 人中4人はスマホで動画を見ています。この急激な変化を思うと、今後は今まで以上に、加速度的に動画視聴スタイルは変化していくのではないでしょうか」

テレビとメディアを応援する雑誌「Synapse」

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発行元: 株式会社ビデオリサーチ

発刊サイクル:季刊誌。3月、6月、9月、12月の年4回発行

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