箱根駅伝と正月番組について考えてみた

丁 慶明
ソリューション推進局 テレビ事業推進部
丁 慶明
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※本記事は2015年に発刊したVR Digest に掲載されたものです。

今年も「箱根駅伝」は人気

皆さんは、年末年始にはどういった番組をご覧になりますか。我が家では毎年、「紅白歌合戦」 と「箱根駅伝」を見て過ごしています。特に「箱根駅伝」については、今年はどこの大学を応援するか、誰に注目しているかなどを話したりする正月に欠かすことの出来ない番組です。

箱根駅伝は今年で91回目を迎え、大学の三大駅伝(他は出雲駅伝、全日本大学駅伝)の中で最も歴史のある大会です。視聴率は、紅白とともにここ十数年は年間の高視聴率番組でも上位にランクインし続けている優良コンテンツと言えるでしょう。今年も青山学院大学の歴代最速タイムによる初優勝や、山の神と呼ばれた柏原竜二選手(現 ・ 富士通)の 5 区のタイムを破った神野大地選手の活躍など、多くの感動を生み、 視聴者を釘付けにしたと思います。結果、今年の箱根駅伝は往路 28.2%、復路 28.3%(関東地区)の高視聴率を記録しました。そこで今回はその箱根駅伝と同時間帯の他局番組について考えてみたいと思います。まず、どれくらいの人がテレビを通じて箱根駅伝に触れたのかみてみます。箱根駅伝は 6 時間以上の長時間番組ですが、30 分以上視聴した世帯は往路、復路ともに半数を超えています。中でも放送時間の半分以上(3時間以上)を視聴した世帯は往路、復路とも約3割、更に、放送時間の大半(5時間以上)を視聴した世帯は往路、復路ともに約15%に達しており、そういったリーチの高さが高視聴率に結びついています。性年代別データでは、視聴の中心は男女 50 才以上で、特に中高年層に人気の高い番組だといえます。

箱根駅伝は関東学生陸上競技連盟の主催する地方大会ですが、関東以外のエリアでの人気はどうなっているのでしょうか。往路、復路の平均でみると、関西地区以外は 20%前後の高視聴率となっています。中でも静岡や福島地区においては 25%を上回り、関東地区と同レベルにまで達しています。この点から見ても箱根駅伝は、全国的な正月の風物詩と言ってよさそうです【図1】。

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「箱根駅伝」の歴史を振り返る

日本テレビで中継が始まった第63回大会(1987年)からの歴代番組平均視聴率(15ページ参照)をみると、当時から、20%前後の番組だったことがわかります。その後、第 65回大会(1989年)に完全中継が始まり、同時期に山梨学院大学の留学生ランナーが活躍し始めたころから、徐々に視聴率が上昇しているようです。第69回大会(1993年)には大会前から注目されていた渡辺康幸(今大会の早稲田大学監督)が、1年生ながら花の2区を走り、早稲田大学の往路および総合優勝に貢献し、視聴率も往路復路共に25%を超えました。以降、コンスタントに 25%以上の高視聴率をマークしています。第 79 回大会(2003 年)の復路においては、雪の降る悪天候の中行われたことと、駒澤大学が8区、9区の力走で逆転優勝を果たすなど、目が離せない展開であったためか、視聴世帯の割合も多く、視聴時間も長くなり、30%を上回ったこともありました。

「箱根駅伝」の人気の理由は

箱根駅伝は各区間 20キロ前後の長距離と言うこともあり、その時の、チームの勢い、レース 中の故障によるブレーキなどが影響し、必ずしも実力通りとなるわけではありません。そのため他の駅伝に比べ、歓喜や感動、ハプニングなど多くのドラマが生まれやすいことが魅力なのではないでしょうか。翌大会のシード権争いも注目の的となっており、優勝校がゴールした後も高い視聴率を維持し続けます。さらに、毎年のようにスター選手が生まれることや、歴代タイムを更新する面白味、繰り上げスタート前に襷が繋げられるかどうかといったこともふくめて、箱根駅伝は様々な楽しみ方があると考えられます。

視聴率が高くなる要素としては、視聴の間口が広いことも言えそうです。箱根駅伝は全区間を見続けるファンもいますが、花の2区や、山登り、またはゴール直前だけを見て楽しむことも出来ます。どこから見始めても楽しめるポイントが設定されているので、途中だけ視聴する世帯や、スタートからしばらく視聴し、その後一端離れるものの、後半に再び視聴する世帯も少なくありません。こういった途中から参入してくる世帯によっても、箱根駅伝の視聴率が支えられています。

そして、箱根駅伝をより魅力的に演出するのは日本テレビによる取材力と、徹底した番組の作り込みです。6 時間という長い中継の中、常に選手やチームなどのエピソードを視聴者に伝え続け、それまでまったく知らなかった選手を身近な存在に感じ、選手や周りの人の頑張りや支えあう姿に共感し応援したくなる気持ちにさせてくれます。いつどんなドラマが生まれるかわからず、予期せぬ瞬間に立ち会いたくて、長時間にわたり中継を見守っているのかもしれません。

箱根駅伝は純粋に競技として見ることもできれば、ドラマやドキュメンタリー番組の気分でも見ることができるので、「スポーツ中継」以上の集客力を持っているのかもしれません。

また、箱根駅伝は毎年見続けることで、楽しみは倍増します。例えば、前年活躍し注目を集めた選手に対しては、今年はさらなる飛躍を見せて欲しいと期待をし、一方で結果を残せなかった選手には雪辱を果たして欲しいと願います。昨年の出来事を知っているからこそ、選手に対する思い入れも増し、まるで物語の続編を視聴している気分にもしてくれます。そのため、前年の往路を 60 分以上視聴した世帯のうち、8 割前後は翌年の往路も(60 分以上)視聴します。このように多くのリピーターを生むことも、箱根駅伝が毎年 25%以上の高視聴率を維持している大きな理由だと考えられます。

「箱根駅伝」に対抗するには?

箱根駅伝放送時の他番組の視聴状況はどうなっているのかみてみると、今年も新作よりも過去のドラマ、バラエティの再放送、傑作集などが多く放送されていました。結果、高視聴率に結びつかず、対抗するラインナップに各局の苦労が忍ばれます。日本テレビで箱根駅伝の放送を開始した当初から、この時間帯は日本テレビが常にトップとなっていますが、その傾向は以前に比べ強くなりつつあるようです。これを検証するため、駅伝放送時間帯(2日と3日の 8:00-14:00)における他局の視聴状況(日本テレビを除いた民放4局とNHK総合の視聴率の単純足し上げ)をみます【図表2】。ここから、近年、視聴率はやや減少傾向にあり、他局が苦戦している様子がうかがえます。併せて、その時間帯のHUT(総世帯視聴率)の推移をみても、2000 年代後半から緩やかにではあるものの、微減傾向にあることがわかります。駅伝がコンスタントに視聴率を獲得していることを考えると、HUT を伸び悩んでいる要因は他の番組にあると推察されます。

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お正月の生活行動の変化がテレビ視聴環境に影響を与えていることも要因のひとつですが、お正月の編成面における変化をみてみると、2000 年代前半まで生放送や新春特番が連日10本前後は放送されていました。しかし、ここ数年は 5 本未満と減少しています。かつては、2 桁の視聴率をマークしたアニメやジャニーズ出演番組などの放送もなくなり、箱根駅伝以外の選択肢が減ってきている様に思えます。

今も昔も人気番組である箱根駅伝に対抗していくのは容易なことではありません。一方で箱根駅伝をまったく見ない人がいることも事実です。箱根駅伝以外の選択肢が少なくなることにより、その人たちのテレビ視聴量も減少していきます。この時間帯の視聴状況を2000 年と比較したところ、男女 50才以上の視聴量こそ増えていましたが、それ以外のターゲットは減少傾向となっています。

今後、ターゲットを絞るかどうかという課題はあり ますが、もう一度同時間帯から離れてしまった視聴者をテレビの前に呼び戻すために、ジャニーズなどの人気タレント出演番組や、お笑い、バラエティ、 アニメなど、若年層や家族構成が若めの世帯が家族と一緒に見ることが出来る番組をラインナップとして揃える事が対策のひとつとして考えられます。箱根駅伝・非視聴者の普段見ている番組や、正月に見ている番組を確認すると、そういったタイプの番組が上位に挙がってきていることから、彼らに選択肢を与えることにより、テレビの前に再びたくさんの人が集まってくることが期待できます。また、元旦の日中に放送されている新春バラエティもよく見られており、お正月らしい番組を流すことがより効果的だと考えられます。

ただ、強い番組に挑むも、挑まざるも各局の編成の戦略だと思います。「初夢」「初詣」「初○○」 と1 年の始まりを祝う時期に、テレビ欄に「旧作」 が並ぶのは、生活者の祝賀気分にそぐわないような印象があり、メディアの元気や勢いに疑問を抱かせる結果になっている可能性はないでしょうか。今回は、箱根駅伝の視聴状況と、人気の秘密について少し触れ、同時に、その裏で起きている視聴離れの現状とそれを回復するための方策について考えてみましたが、箱根駅伝の枠に限らずそれ以外の時間帯においても、テレビがどのように見られ、どのような番組がその時間帯に合っているのかを、当社は日々分析しています。

視聴率データの提供だけに留まらず、テレビ業界の活性化に繋がるよう、今後も皆さまと一緒にテレビの未来について考えていきたいと思います。

※本文の視聴率は特に説明がないものについては、すべて関東地区のものです。

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