2017年を振り返って思ったこと

石松 俊之
ソリューション局 兼 デジタル推進局 兼 テレビ事業局
石松 俊之
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※本記事は2017年12月に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

2017年の日本は10月の衆議院選挙とそれに至る過程では政治が揺らぎ、経済でも尾を引く東芝の不正会計問題、秋以降も日産自動車の検査不正(9月)、神戸製鋼の性能データ改ざんの発覚(10月)など企業の信用を揺るがす出来事がいくつもありました。

それらは経済指標にも影響を及ぼしそうなものですが、日経平均は11月9日一時1996年1月以来の23,000円台を回復、米国の株高の影響もあって、大納会までにはもう一段の上値を試す流れのようにも見受けられます。安倍政権の支持率低下の折、衆院選は終わってみれば、野党の分裂などもあって与党が2/3以上の議席を得る圧勝、政権の安定が経済指標の安定にも一役かっているのでしょう。

共謀罪が紆余曲折して成立したテロ等準備罪法案、憲法改正論といったこれからの国のあり方に関わるテーマ、北朝鮮の度重なるミサイル発射実験と核実験による緊張の高まりもありつつ、今(11月末)もっぱらメディアをにぎわしているのは「日馬富士暴行事件」と、幅と落差のある状況で、大事なことや国民の関心を捉えにくくなっている表れなのかもしれません。  

そんな今年を振り返ると、最年少でプロ入り、デビューから無敗で29連勝をあげた藤井聡太四段の活躍が注目を集めたのはさわやかな話題でした。

毎年1年を振り返ってみると災害のない年がないことに直面しますが、7月に九州北部豪雨があり、九州は昨年の地震に続いて自然災害を被った年になりました。積雪・水害・台風の被害にあわれた方々へ、謹んでお見舞い申し上げます。

さて、そんな1年は、テレビ業界にとってはどんな年だったのでしょうか。恒例により、放送・通信・ITまわりを見渡して【10大トピックス】をあげて振り返ってみたいと思います。

2017年10大トピックス

■日本の広告費(2016年)6兆2,880億円 地上波テレビ 1兆8,374億円
■首位 日本テレビを追う2位の競争激化
■総合視聴率にみるドラマの強さ
■関東地区 個人(ALL)、P+C7取引の来年導入へ
■ネット配信に大型企画が続々と
■大分朝日放送 ローカル局のブランディング
■放送受信者等の個人情報保護に関するガイドライン制定(5月)
■プラットフォーム事業参入する地上波/JOCDN第三者増資、PPJ設立
■スマートスピーカー 続々登場
■フェイクニュースとマスメディア

概況~2016年のテレビ広告費と2017年視聴率動向

 電通「日本の広告費」によれば、2016年の地上波テレビ広告費は1兆8,374億円、前年比101.6%で前年を上回りました。番組広告(タイム)は、リオデジャネイロ五輪など大型スポーツ物件が推進力となったものの、通年ではわずかに前年に及ばず。

スポット広告は1~3月が好調に推移、7~9月は円高による抑制ムードや五輪提供などの影響で減少、10~12月に化粧品、スマホ端末関連の広告増加で好調に推移し、前年比102.8%となりました。

衛星メディア関連は1,283億円 前年比103.9%、BS、CS、CATVがそろって前年を上回りました。いわゆる通販系広告の増加がありつつ、BSでは金融、事務機器、音楽系、CSではIT系、飲料、薬品の拡大がみられたようです。

 インターネット広告費は、1兆3,100億円、前年比113.0%と昨年に続く2桁成長、また媒体費が初めて1兆円を越えたことがトピックスにあげられます。インターネット広告媒体費 1兆378億円の内 7,383億円は運用型が占めており、「運用型」へのシフトはさらに拡大しているといえそうです。

PCポータル系やアドネットワーク型からモバイル・スマートフォンへの市場シフトは16年も続いており、それも運用型へのシフトを後押ししているようです。16年の動向では、売り手と買い手が限定されたプライベート・マーケットプレイス(PMP)サービスへ広告会社、メディアレップなどが対応を拡充、テレビスポットと運用型動画のメディアプランニング需要の増加など、データを活用した高度なプランニングへの期待が、市場を支えている面がありそうです。

 さて、視聴率動向としては、米国トランプ大統領の就任、韓国では大統領の弾劾・逮捕、北朝鮮情勢の激化など大きな海外ニュースが途絶えず、国内政治でもモリ・カケ問題、失言、不倫、パワハラといった議員トラブルがテレビのニュースをにぎわしました。

一般論としては、事件、事故、災害はテレビ視聴の追い風となりますが、17年は国内外、硬軟様々の話題はあったものの、全日(6~24時)のHUTでは若干16年を下回る推移、11月までの途中経過ですが、いわゆるプライムタイム(19~23時)の低下がやや目に付きます。

局別にみると日本テレビは昨年レベルを維持、ゴールデンタイム(19~22時)とプライムタイムでテレビ朝日とTBSが競っており、年末まで予断を許さない状況となりそうです。※執筆時点は11月末のため、年末までで結果が異なる場合があります。

「総合視聴率」でわかるドラマの集客力

 当社が毎年発表している「年間高世帯視聴率番組上位30」、2017年の結果は紅白歌合戦など年末編成の結果を待つ必要がありますが、スポーツ中継と日本テレビの24時間テレビが上位に並びそうです。これは放送と同時に見られたリアルタイム視聴の結果ですが、16年10月から測定・提供を開始している「総合視聴率」でみると、違った視聴者の評価を感じていただけると思います。

総合視聴率は、1クールごとに当社ホームページでも公表していますが、この時点の総合視聴率は、「ドクターX・外科医・大門未知子」(テレビ朝日10月12日)が29.8%(視聴率 20.9%、タイムシフト視聴率 10.7%)が最も高くなっています。

 16年 年間高世帯視聴率上位30(関東地区)の内、ドラマは5本でしたが、17年 総合視聴率上位30番組のラインナップでみるとその数は倍以上になりそうです。ドラマが以前ほど見られなくなったというよりも、生活の変化、デジタル機器の普及に伴って「見方が変わった」、ということを表していると考えられます。

 18年からタイムシフト視聴も加味した広告取引が順次始まる見込みとなっています。加えてこれまでの世帯指標から、個人(呼称 ALL)への転換も標榜されています。

番組平均(P=Program)と7日内に再生された広告枠(C7)を組み合わせた「P+C7」を指標とする取引だけでも、相応に取引に関わるシステム等々の変更負荷も生じますが、今後さらに配信系も含めて、いわゆるテレビというメディアや番組の定義、広告枠の設計とセールス、これらを俯瞰的に捉えて、再設計、転換していく初めの1年になりそうです。

インターネットの中の「テレビ」への挑戦続く

 今年の半ば、とある講演用に配信サービスのランキングの推移を眺めていたら、以前はほとんど過去にテレビで放送された作品や海外ドラマで構成されていたものが、徐々に「オリジナル作品」が目立つように変化していました。

Amazonプライム・ビデオなどはその典型ですが、「オリジナル」というだけでなく、「戦闘車」のように目に見えて「お金がかかっていそう」と思えるスケールの拡大も作品タイプの変化として指摘できそうです。

有料・無料を問わずVODタイプのサービスでは、比較的長い期間で視聴数を獲得する方向にあり、数百、数万、時に億の単位で視聴数を得ることもありますが、放送と同様にライブ配信の形式で千万単位の視聴数をAbemaTVが集めたのは新しい可能性を示していると思われます。

1周年企画の「亀田興毅に勝ったら1000万」、11月の「稲垣・草彅・香取 3人でインターネットはじめます『72時間ホンネテレビ』」は千万単位の視聴数を配信時間内に集めたことが報じられています。

制作頻度や視聴者を集める時間軸の使い方のように、放送と配信ではまだまだ違うことも多くありますが、出演者のメジャー感や予算規模の垣根はだいぶ変ってきているようです。有料と無料か、オンデマンド型とライブ配信型、放送と配信は相互に乗り入れる状態が、またひとつ進んだ今年であったように思います。

ローカル局のブランディング戦略を考える

 テレビ局の配信への向き合いは、スマホシフトが進むメディア環境変化を踏まえると避けては通れなさそうな反面、有料と無料広告の体重のかけ方は局によって異なり、さらに議論されているIP同時配信(放送と同一内容のネット配信)のことも考慮すると、ローカル局では系列の影響や自社の体力など、進むにも、距離を置くにも様々の課題があると思われます。

とはいえ、配信においては関西局がTVerに参加したり、中京テレビが2016年に独自にネット動画配信サービス「Chuun」を開始したりで裾野は広がっているところです。

 7月、月刊ニューメディアとマル研(マルチスクリーン型放送研究会)の共催企画「ネット配信とローカル局の今後を考える」宿泊研究会が開催されました。当社からも参加していましたが、局から41名、総勢90名で盛会であったとのことです。

会場の大分朝日放送は、地上波民放で最初に4K一貫制作システムを整備したことで知られ、4Kコンテンツを最も多く所有する局の位置づけにあります。研究会の開催日は、まさに九州北部豪雨(7月5日・6日)と重なり、参加した局の方からは「研究会を受け入れるホストと、地元報道機関として緊急放送をにらむ状態とを両立させながらの対応には感銘を受けた」との声もお聞きしました。

4K対応のブランディングは2015年(企業風土改革はさらにその前)から積み上げられたことではありますが、研究会と自然災害対応が偶然にも重なり、このめぐり合わせが一層、参加者が大分朝日放送のモデル・考え方を学び、考える視点を深くすることになったのでないかと思い、今年のトピックスにあげさせていただきました。

テレビは、より本格的な双方向メディアへ?

 5月に「個人情報の保護に関する法律の改正」があり、放送領域でも「放送受信者等の個人情報に関するガイドライン」が改正され、視聴履歴の取り扱い・活用の手続きが明確化されました。

 BSデジタル放送が始まった頃、視聴者を会員として囲う動きがあったり、個人情報を名簿として持つことのリスクからそれを解散する動きがあったりしましたが、改めて、個々人の視聴行動をビジネスできる方向へ舵が切られたと捉えられます。

ただし、放送事業者の場合、事前同意の必要、それを回避する匿名加工情報としての利用など、「やってみないと、何がどこまでできるか、まだわからない」ということは多くありそうです。しかし、これまで「不特定多数」に向き合うメディアだった無料広告放送が、「個々の視聴者」に向き合う機会や要請といったものは増えてくることになるのでしょう。

 それに呼応するかのように、放送局が新たにプラットフォームを作る動きも今年は目につきました。2016年にIIJと日本テレビで設立したJOCDN株式会社が、17年4月に在京、在阪、在名局を受け入れ先として第三者増資を実施。

5月にはTBS、日経新聞、テレビ東京、WOWOW、電通、博報堂DYメディアパートナーズの出資による株式会社プレミアム・プラットフォーム・ジャパン(PPJ)の設立が発表されました。前者はCDNなので配信インフラそのもの、後者は配信サービスブランドと解釈されますが、流通≒プラットフォームが価格決定権を握ることが多い現状に鑑みて、それぞれに当初想定と実際のビジネス範囲は徐々に変化する可能性もありそうです。

いずれにしても、送りっぱなしと揶揄される放送が、通信や課金領域に直接関与することで、改めて「双方向メディア」としてトライアルが加速する、そういう潮流になりそうです。

検索窓CMの次は、スマートスピーカージャックが流行るのかも

 ここ数年、まったく新しいデバイスの登場感に乏しく、既にあるものの性能改善、機能拡張の範囲に収まるものを取り上げてきましたが、今年は久々に「スマートスピーカー」が現れてくれました。といっても、日本での発売が今年に集中しただけで、米国でのGoogle Homeの発売は2016年11月、Amazon Echoはさらにその1年前には市場に投入されています。

この2社(2種)に加えて、LINEのClova WAVE、ソニーからもGoogleアシスタント対応の製品が発表されたので一層話題になりました。来年にはAppleがHomePodで参入する予定もあり、それでまた勢力図が変わることもあるかもしれません。

 音声アシスタントは、スマホでは標準搭載のものもあり、機能が珍しいわけではありませんが、海外から届けられるレポートでの利用シーンの多様さ、老若男女を問わない敷居の低さから、今後の生活を大きく変えうるものとして期待されているように感じます。

 米国では、テレビCMの呼びかけにスマートスピーカーが反応して、CMでは伝えきれない情報を勝手に検索して読み上げてくれたり、ニュース原稿の読み上げが商品注文の誤操作につながったりといったことが既に起きているそうです。CMによるスマートスピーカージャックは日本でもきっと企画されるでしょう。

 個人的には、日本人が「OK Google」「Alexa!」「Hey!Siri」と呼びかけている光景には違和感を感じたりしますし、スマホの音声アシスタントはそんなに使われているだろうか???と疑問に思う気持ちもありますが、これは世代・リテラシーの問題なのかもしれません。

ただ、それで得られる便利さの一方で、国内企業ではなく、GoogleやAmazonやAppleに様々な情報をささげている状態の是非を思ったりします。また、検索で「Google八分」という言葉があるように、スマートスピーカーのアシスタンス対象になるように内外でプログラム的な操作や介入が増えた時、それに頼る生活のあり方に一抹の不安や不信というのもあるのではないでしょうか。

フェイクニュースの蔓延を阻止できるか?マスメディアの責任と課題

 英国のEU離脱やトランプ氏の大統領当選には、少なからずフェイクニュースの影響があったのではないかといわれています。フェイクニュースとは、虚偽の情報で作られたニュースを指し、ネット上で発信、とりわけSNS上で拡散されることへの危惧が第一義と考えられます。

英国ではEUへの負担金が実際の2倍以上で広まったことが離脱派を後押した可能性とか、米国では「ローマ法王のトランプ支持」などなどがフェイクニュースの具体例とされますが(※知恵蔵を参考)、日本でもかなり際どい状態はあるように思われます。

 例えば「モリ・カケ問題」と「日馬富士暴行事件」におけるネットニュース、まとめサイト、それに対するSNSでのコメントなど、ちょっと見るだけで「プチ カルト化」とでもいえそうな状況を目の当たりにすることになります。

前者は安倍総理ないし政権への親か反かで相手をまったく容認しない論点提示やコメントがあふれることになっていますし、後者では、あるニュースサイトのコメント欄の場合になりますが、当初9割がたは貴乃花親方への積極的な応援であったのに、冬巡業の休場届けの未提出あたりからはむしろ批判の方が多いというように、以前にも増して極端な情報の流通に遭遇するようになってきたように感じます。

 2016年に表面化し、サイトの閉鎖にまで至ったWELQ問題では、そもそもの医療専門家の監修の欠如、記事の実質的な無断転載(著作権の問題)など、まとめサイト、キュレーションサイトのあり方が「フェイクニュース」の典型であったかもしれません。

しかし、17年の風景としてはマスメディアの報道に対して、正誤の混ざった批評・批判が「フェイクニュース」の温床になり、ひいては「マスメディアこそがフェイクニュースの発信源」のような主張も、生活者が普通に目にするようなメジャーなサイトでも流通していることを軽視できないように思うのです。

 人の心理は不思議なもので、「○○には何かウラがあるのでは?」と疑う気持ちがあれば、様々な情報を探し、検証し、真実にたどり着けそうなものですが、疑った気持ちに応える「心地よい答え」に出合うと、そこで探求心に決着がついてしまうのでしょう。

この状況を踏まえると、勿論、何事もきっぱり白黒つくものではありませんが、視聴者(生活者)の疑問や疑いを解けるまでの専門家のわかりやすい解説、証言などが、今以上にテレビ・マスメディアには求められそうです。

それを突き詰めていけば、80年代に番組形式に登場し、一般化した「コメンテーター」の存在・役割りの見直しであったり、転じて、いわゆるワイドショーや情報番組の典型的な作りを変えるべき時に直面しているということかもしれません。

2018年に向けて

 11月に開催されたINTER BEE CONNECTEDでは、電通メディアイノベーションラボとご一緒した新しいアプローチの研究(ソーシャル・シークエンス・アナリシス)を当社ひと研メンバーの渡辺から報告させていただきました。2000年の初めと今を比較しても、若年層の働き方=暮らしぶりは大きく変化していますし(社会的要因)、ネットの普及拡大、それを利用するデバイスもPCからスマホへ、利用するサービスの中身も変わる中で、生活者のテレビとの向き合いも変化しています。

ご報告上、やや"盛った"ところはありますが、以前から若年層では相応にテレビのライト層がおり、他に選択肢が少ない時代には加齢に応じてテレビが刈り取れていたのに対して、今はメディア・デバイスの原体験が「スマホ」に移る可能性を示唆しているものでした。

この変化を踏まえるならば、放送局が放送とテレビの外側にも「番組の届け方」を考える必要と必然を示しています。また、そこ(通信)・それ(デバイス)で見ることを想定した場合、尺やフォーマット、内容が「テレビのまま」でよいのか?といった問題も、もう少し具体的なものになってくるかもしれません。その延長には「フェイクニュース」で指摘したような番組の作り方ともあわせて、"転換"を試す必要がありそうです。

 15年は「ざわついて」、16年に「激震」が走り、17年は「転換に向けた1歩」が踏み出された、そんな流れを感じます。勿論テーマによっては、方向感が定まらないこと、揺さぶりの最中にあることもあるでしょうし、そうそう1年ごとに順を追って環境が変わり、整っていくほど、世の中は単純ではないと思います。

 ただ、テレビ広告の取引指標が変わることであったり、テレビとネットの垣根が以前にも増して曖昧になる中で打たれている施策の数々は、"次にどうするか"を決めるための布石に違いなく、当社としても、それに応じたデータの整備であったり、システムやサービスの提供であったりを18年にはこれまで以上に進めていく必要があると認識しています。

 視聴率調査の今後については、エリア別にご意見を伺うことも始めておりますが、テレビを取り巻く環境変化を踏まえ、まとまった形でもご説明する機会を持つことも検討しております。

 また、デジタルの領域では、サービス利用者(生活者)のコンディション把握(リサーチ)と対応施策が直結することも多いため、当社も「調査会社」の顔だけでは"足りない"であろうことへの認識もあり、協業などの取り組みも進めています。こちらについてもご説明の必要があると考えています。遠からずのご案内をお待ちいただけますと幸いです。

 「申酉騒ぐ」を経て、2018年は「戌笑う」。皆様におかれまして、当社においても、置いた布石の某かの成果を得て、「笑った1年」になることを願ってやみません。

 2018年もどうぞよろしくお願い致します。

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