特集

第1回 関西電通 僕たちのCMづくり。

山本良電通関西支社 クリエーティブ局 局長/エクゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター 山本良二

今回のプレゼンター

「CMなんて誰も見たくない。だから工夫しています」

1958年、福岡県生まれ。
TCC新人賞、TCC部門賞、ACC郵政大臣賞、朝日広告賞、フジサンケイ広告大賞、ニューヨークADC賞など受賞。

人間の本音の部分を探りつつ、ヒットCMを連発し続けた関西電通「堀井グループ」のなかで、仕事を学んできた山本さん。
クリエーティブの考え方や仕事のしかた、CMづくりの根っこを語っていただきます。

yamamoto's philosophy

下の表を見てください。
人は一ヶ月に4000本以上ものCMに接触しているのに、記憶してもらっているCMとなると、わずか3本弱です。
みなさんが「印象に残ってるCMは? 」って聞かれたときも、同じような反応なのではないでしょうか。
CMに興味がある人なんてほとんどいないんです。古典的な話ですが、うちの娘はCMになると、トイレに行きます。CMに携わってる僕も、CMになるとチャンネルを変えてしまうことがけっこうあるんです。
それに15秒、30秒ってあっという間です。みなさんが家に帰って冷蔵庫からビールを取り出してぐびっと一口飲むあいだに、僕たちががんばって作ったCMはもう終わっています。
でも、それは当たり前のことで、CMを見るよりもおいしいビールを飲みたいというのが人間なんですよね。というような前提に立つことが大事なんだと僕たちは思っています。
「CMなんて誰も見たくない。だから工夫しなくちゃ効果は上がらない」ということです。人はCMを見てくれないというところから出発するから、どうすれば興味を持ってもらえるか、好きになってもらえるか、共感してもらえるか、という工夫に入っていけるんやと、ずっと言われながら仕事をしてきました。
そういうことをはじめとして、CM作りの基本を教えてくれたのは、堀井博次さん、田井中邦彦さん、石井達矢さんという先輩たちです。この先輩たちは、数々のヒットCMを世に送り出しました。そのチームのなかにいて、劣等生なりに学んだことをお話しさせていただきます。
人に何かを伝えるとき、大事にすべきこととかコミュニケーションの根本的なところは、東京も大阪も同じじゃないかと思っていますが、東京に住んでいる人と大阪に住んでいる人とでは、やっぱりものの考え方やCMの作り方は違う部分があると思います。そういったことも踏まえながらお聞きください。
前置きが長くなりましたが、最初に紹介するのは、『ケンミン食品』さんの焼ビーフンのCMです。この仕事に僕たちがどんな意図を込めたのか。以下から具体的にお話ししたいと思います。

人は、見たCMをほとんど覚えていないのである

私たちはそもそもどのくらいのCMに触れているのか いかに私たちがCMを覚えていないか。

(ビデオリサーチ調べ)

私たちが職場にいたり眠っていたりするあいだも当然テレビは放送されていて、CMもオンエアされている。
その数、おどろくべきことに1ヶ月平均約12万4000本。
そのうち4000本以上も目には触れていることになるのだ。
左は、私たちが接触したCMのうち、記憶しているものの割合を表したもの。言われてみれば思い出すCMもあるがフリーアンサーで答えると、ひと月平均わずか3作弱。
“ 覚えてる率”、なんと0.07%以下……。

01 いかに目立つか。

まず、僕たちがクライアントに提案させてもらったのは「ケンミンの焼ビーフン」の知名度を上げましょう、ということでした。
知らない食べ物を食べたいと思うはずがないからです。
この商品には、「簡単に作れる」とか「野菜といっしょに食べられるからヘルシー」とか「米からできた麺」など、伝えたいことはたくさんあるのですが、あえて「知名度を上げる」という目的ひとつにしぼりました。
わずか15秒にいろんなことを詰めこんでしまうと必ず失敗しますし、食品など日常品は知名度が上がれば売り上げが上がる場合が多いんです。
知名度を上げることを目的にしたのですから、CMの主役は「商品名」。
第1弾CMの行列篇も、商品名を徹底的に連呼していますし、他のCMでも「ケンミンの焼ビーフン」という商品名が必ず出てきます。
オンエア回数はあまり多くなかったので、商品名を覚えてもらうには、一度見ただけで印象に残る、目立つCMにする必要がありました。目立つためには、人と違うことを考えることが基本だと思います。
おかげさまで、商品は売れました。やはり広告は、目立てば効果が上がります。
これからも、目立って効果が上がるCM作りをめざしたいと思っていますが、そういう考え方を採用してくださったケンミン食品さんのご決断があったからこそ、このCMは世に出たんです。そのことを忘れたらあかんと思っています。

02 笑いや愛嬌は武器になる。

先輩たちからずっと言われてきたことは、「15秒では泣けないし、感動もできない。でも、15秒で人を笑わせることはできるんや」ということです。しかも、人は笑わせてくれた相手を嫌いにならないし、笑いは人の気持ちのなかに入っていきやすいんです。
そういう笑いや愛嬌は、CMにとって大きな武器になると思います。
CMを見て、子どもが笑ってくれるかどうか、それはひとつの目安になると考えています。というようなことを、あるクライアントで話したところ、「うちの商品は大人向けですよ。子どもにウケてもしょうがないでしょう」と返されました。そのときにうちの先輩は、「私たちは子ども向けのCMを作ろうしているのではないんです。
人間はいくつになっても子どもの心を持っています。
そして、その心は大人の理屈や建前にしばられない無防備な部分です。私たちは、その大人の中にある子どもの心を狙っていくんです。そこにうまく命中すれば、ヒットCMになる可能性が高いからです」と言いました。先輩のこの話に、クライアントさんはなるほどと頷いてくださいました。
関西テレビさんが引越すというCMも、ハチエモンというキャラクターも、ダスキンさんの子犬のCMも、僕たち自身の中にある子どもの心で考え、作ったんだと思っています。
自分がいくつになっても、子どもの心を失わず、笑いながら仕事をしたいです。

  • 03 庶民の気持ちで考える。
    広告は芸術ではありません。
    普通の人にわかってもらわないと意味がないんです。
    昔、先輩からこんなことを言われました。
    「オマエの企画はいきなり1億人に伝えようとしてるから、あかんのや。実際にテレビを見ている人は、お茶の間の2~3人やろ。
    その2~3人の気持ちに届くように考えたらいいんや。その2~3人が積み重なって100万人になる。
    いきなり1億人なんて思うから、たった1人の気持ちもつかめないんや。もっと気楽に、リラックスして考えろ」
    目からうろこが落ちました。
    志は高く、目線は低く。そういう気持ちを忘れず、多くの人たちに届くコミュニケーションをめざしたいと思ってます。
  • 04 自分の実感で考える。
    ある商品を担当したとき、僕が最初に考えることは、自分はその商品を買いたいか、です。
    買うとすれば、どこを気に入って買うのか。そういうことを自分の実感で具体的に考えたほうが、命中率は高くなるように思います。
    アイデアは自分のまわりにいっぱい落ちています。月桂冠さんのCMも、僕の若い頃の体験がもとになっています。
    ある仕事で、営業部長から「この仕事はオマエらの好きにやっていい。ただな、この仕事は絶対に取れと言われててな。好きにやっていいんやで、ただな……」と(笑)。
    ドコモさんのCMも、ある人から言われたひと言がうれしくて……そんな実感から発想したんです。

05 結局のところ、アイデア。

今回お話ししたのは、僕が堀井グループの端っこにいたときに、自分なりに学び取ってきたことです。
先輩も後輩も、みんなが仕事に対してまじめで、しつこくて、あほな話が好きで、笑いながら、そしてプライドを持って仕事をする、そういうチームの中で働けた自分は幸運だったと思っています。
これまで 「新しいものを作らんでもいい。珍しいものを作ろう」とか、「完成度より、伝達度を上げることが大事なんや」、「金がなければ、知恵を出せ」などと言われながら仕事をしてきました。
人と違う珍しいものを作って話題を作りたい、伝達度を高めて商品を売りたい、たとえ予算が少なくても、アイデアの力で突破したい。そういったみんなの思いの積み重ねが、関西電通クリエーティブのエネルギーになってきたのだと思っています。
後輩たちもがんばっています。下で紹介しているのは、後輩たちの仕事ですが、とてもいい仕事だと僕は思っています。
広告を取り巻く環境が変化しているなかで、僕たち制作者も変わっていかなければなりません。でも、どんなに環境が変わっても、アイデアの大切さは変わりません。マスであっても、デジタルであっても、成功するかどうかはやっぱりアイデア次第。
メディアが多種多彩になればなるほど、いいコンテンツが必要になるし、質の高いアイデアが求められるようになるんじゃないでしょうか。

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