クーポン・プロモーションの理論と実際 10 --クーポン広告テストマーケットの結果を見てみると--

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広告・マーケティング
#マーケティング #広告

※本記事は1988年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

クーポン広告テストマーケットの結果を見てみると

クリアリングハウスの紹介で少し時間が取られたが、この辺で話を少し実際編に移してみよう。

昨年の秋から実施してきたクーポン広告テストマーケットの結果が愈々まとまりだした。テストマーケットの企画内容は昨年の本誌9月号(Nα231)で詳細を紹介したが、再びその概要をここにまとめておく。

企画概要

1.テスト地域 調布市、府中市、多摩市の3市全域

2.クーポン・プロモーションの内容

1)クーポン広告特集冊子「はい!クーポン」の制作、全戸宅配'87年10月末、'88年1月末、3月末の3回配布

2)クーポン取り扱い加盟店の獲得

テストマーケットの地域の中で食品、日用雑貨品を取り扱うと思われる946店に対し「はい!クーポン」のクーポン取り扱いを要請。最終的に357店の了解を得る。

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3)取り扱いクーポンの回収と精算業務

加盟店が取り扱ったクーポンを毎月、月初めに回収。小売店のクーポン額面立て替え額に取り扱い手数料を加え清算、取り扱い手数料は1枚当り7円。(小売店の取り扱い手数料7円に8円を加えた15円を1枚当りのクリアリングフイー とする。)

3.クーポン・プロモーション効果調査

今回採用したクーポン広告(米国のF.S.I.スタイル)のテクニックは、数多くあるクーポンのテクニックの中でも、広告形態を取っているためコミュニケーション効果が強いことが想定される。(本紙'88年1月号・No.235参照) その(クーポン広告の)本質を見極めるため、単にクーポンの利用状況を把握するだけにとどまらず以下の調査を別途行った。

1)配荷状況チェック調査

クーポン・プロモーションの実施前の、87年10/26〜28実施、以後一週置きに全加盟店に対し実施。

2)クーポン広告効果調査

① マーケットシェア及びブランドスイッチ状況把握調査

調布市、府中市、多摩市に住む2人家族以上の世帯で満59歳以下の主婦がいる世帯1、000世帯を無作為に抽出し、'87年11月から'88年4月までの6か月間、クーポン対象商品と同一商品群の商品を購入した時、買い物状況を記入してもらうもの

◎ マインド効果及び商品の用途・特徴理解状況把撞調査

クーポン・プロモーション実施前の'87年10月下旬とクーポン冊子3回目配布後の'88年4月下旬に同一内容の調査を実施。冊子配布前と配布後の違いをみることにより、冊子の広告効果を把握する。効果把握項目は次の3点、(1)商品名の認知、(2)商品イメージ、(3)商品の用途、特徴の理解。なお、冊子を配布しないコントロール地域を設け、同様に同時期に調査を行い、地区間比較を行うことにより他の要因による影響を排除し、冊子の効果を明確にする。

3)POSデータ分析

'87年10月より'88年6月までの9か月間のPOSデータより、クーポン対象商品の販売動向をみる。小売店側からとらえたマーケットシェアの変動の把握。

この他、4)クーポン広告冊子の受容皮調査、5)クーポンに対する小売店反応調査、6)クーポン利用意向状況電話調査を実施する。

1.クーポン利用状況結果

3回のクーポン回収結果は下表の通り。(各回全アイテムの合計)

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1回目より2回目は利用枚数が伸びたが、3回目は2回目とほぼ同じ利用枚数にとどまった。1アイテム平均の回収率でみると1回目0.09%、2回目0.1%、3回目0.1%で当初目標1%の約1/10という結果に終った。1回のプロモーションで最も利用枚数が多かったアイテムは579枚、回収率0.26%。

今回、有効期限を2カ月としたが、1カ月目と2カ月目の利用状況は下表の通り。

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1か月日と2か月日の利用枚数の対比を、米国のF.S.I.とくらべてみるとほぼ同じ傾向をみせている。この種の冊子に対する日米の消費者の反応の強弱に違いはあるが、利用のパターンは同じものとみられる。また、1カ月目にくらベ2カ月目でもかなりの利用があるということは、その商品に対するマインドがそれだけ長期にわたり持続されているということで、クーポンが日本に根付いてきた時メディアとして評価されよう。

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業態別に回収枚数をみると、参加アイテムに日用雑貨品が多いこともあり、薬局・薬店が半数を占め、ついではGMS、日用雑貨店と続く。食品、日用雑貨品に分けてみると、食品は総回収枚数1、155枚のうち52%を占める605枚をGMSが扱い、ついで−般食料品店、スーパーレットと続く。GMSにSM、スーパーレットを加えたスーパー全体で約7割を占める。日用雑貨品は総回収枚数4,387枚のうち67%を占める2,920枚を薬局・薬店が扱い、ついでGMS444枚、日用維貨店440枚と続く。食品とくらべるとスーパーの比重は低くスーパー全体で16%。日用雑貨品の場合、一般小売店を無視してプロモーションは行えず、食品の場合はスーパーの参加が鍵となる。

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全プロモーションの回収状況を値引額別にみてみよう。50円未満の小額の値引のプロモーションの場合、回収率が低く終る傾向がみられるが、50円以上でも低回収率に終っているプロモーションも多く、値引額よりも商品力が影響しているとみられる。

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次に、店頭配荷率別に回収状況をみてみよう。50%以上の配荷率を得ながら低回収率にとどまっているプロモーションが多くみられるが、この多くは特殊なプロモーション(1ページに同一ブランドで異るアイテムを複数掲載したもの)で、それらを除くと値引額別よりも配荷率が回収率に影響する傾向がみられる。

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2.クーポン利用状況及び利用意向状況電話調査からの吟味

〜「はい!クーポン」利用意向状況電話調査結果より〜

「はい!クーポン」の冊子が配布された直後、3回にわたり3市に住む主婦を対象に電話により冊子の認知及びクーポンの利用意向を調べたが、その結果概要は次の通り。

■「はい!クーポン」冊子認知状況

第1回目配布 26.2%

第2回目配布 40.6%

第3回目配布 45.1%

■「はい!クーポン」の内容閲読状況

第1回目 20.8%

第2回目 26.9%

第3回目 340%

■「はい!クーポン」クーポン利用意向状況

第1回目 10.0%

夢2回目 8.8%

第3回目 12.8%

回数を増すことにより消費者に慣じみ冊子そのものへの注意は喚起されるが、利用意向には直接結びついていず各回ともほぼ1割の利用意向

<第1回目利用意向がありながら結局のところ利用しなかった人の理由>

●利用する機会がなかった.............................................15人

●買い物に行く時クーポンを持って行くのを忘れた............11

●クーポンを持って買物に行ったが商品が見当らなかった...6

●クーポン商品を取り扱っていなかった...........................4

●クーポン商品より他の商品のほうが安く売っていた.........6

●使おうと思ったが使う時に何か抵抗があった..................1

●以前使っていた商品が品切れせずにまだある..................11

●ふだん行く店でクーポンを取り扱っていない..................8

●結局のところクーポンの中に欲しい商品がなかった.........22

●冊子が見当らなかった................................................8

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利用意向者ではアイテムの問題と購入・利用する機会がなかったこと、買い物時の習慣としてクーポンを持参する習慣が根付いていないことなどが利用を阻んでいる。非利用意向看では取り扱い店のカバー率とアイテムの問題が使いたくない主な理由

☆クーポンの利用枚数が思うように伸びなかった要因

電話調査の結果から次の3点が主要因として考えられる。

① 消費者の消費習慣の問題

② 取り扱い店のカバー率の問題

③ アイテムの商品力の問題

「はい!クーポン」の利用意向者は都合3回の電話調査で、それぞれ約1割の利用意向が得られた。しかし、実際に利用実行に移したかとなると、「買い物時に持っていくのを忘れた」といった消費習慣に根付いていないことや、「結局のところ欲しい商品がなかった」といった消費者ニーズを満す商品がなかったことが原因で,その多くは利用されていず、低い利用率にとどまっている。もし、1割の利用意向層が毎回参加アイテムのうち1アイテムでも利用していれば、1アイテムの平均回収目標1.0%は確保できていたことになる。また,非利用意向層の利用したくない理由をみると、先程の「欲しい商品がない」といった参加アイテムの商品力の問題のはか、「ふだん行く店が取り扱い店ではない」「近所に取

り扱い店がない」といった取り扱い店のカバー率の問題がもう一つの主要因としてあげられている。(買い物)時間の価値と受けられる恩典(値引額)の価値の針の振れ具合であろうが、消費者に慣じんでいない今、できるだけ多くの店で取り扱えるようにすることが肝要であろう。

商品力の問題は利用枚数にも如実に出ており、1カ月における購入率が高いアイテムは利用枚数も多い。したがって、単に目標回収率といっても、同じ条件下では商品によっては大きく違うことになろう。最終的にどの程度の商品力のものが、どの程度の利用率になるかということは、多くのテストを繰り返し見極めて行かなければならないが、少なくとも今回と同一条件下で行った時、どの程度の回収率になるかが判明したことは、今後、クーポンプロモーション採用の是非及びその進め方について判断材料が得られたことになる。今回の結果からみると、今回と同一条件下でクーポンを行ったとすると、そのマーケットにおけるその商品の月間購入率の5%〜20%が回収率になると思われる。

(米国ではクーポンによるマーケットシェアのアップを通常20%とみている)

米国では回収率に影響を及ぼす要素として次の22項目をあげているが、やはり商品力の要素が多くあげられている。その他、値引額、値引率による回収率の影響などが考えられるが、今回の結果ではその影響はみられない。

しかし、その中である特定層に使用頻度が多く必需品である商品は、1カ月の購入率からみると利用枚数が多く、商品種類が利用枚数に影響を及ぼす面はみられる。

(クーポン企画室 大木眞煕)

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