マスターブランドに対する広告クリエイティブ効果の可視化について

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広告・マーケティング
#広告 #広告効果検証

※本記事は2017年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。著者の所属部署は当時。

本稿の要旨

マスターブランドの名前を冠し次々にクリエイティブを投下していくと、マスターブランドと個々の素材との関係性は不明確になりやすい。そこで、ブランド力を表す時系列データをもとに統計モデルによって、マスターブランドに対する各クリエイティブの効果を把握する方法を提示する。

1.本稿のテーマ

今日、ブランドは持続的に売るための重要なファクターであり、多くの企業でブランド力を高めることは経営的な課題と捉えられています。Part.1で述べたようにブランド力を高めることで様々なマーケティング効率が高まるからです。企業はこのことを定性的には理解しており、既存ブランドを利用した戦術が目立つようになってきています。

例えば、企業は顧客ニーズの多様化に対応するため様々な製品を発売しますが、機能・特徴から新しい名前を付けてもおかしくないモノまでマスターブランドの名前を冠して発売するケースが多々みられます。これは、個々の製品の名前を1つ1つ認知させるのにはコストがかかるため、既に多くの人に認知されているブランドの名前をつけることで、市場に浸透させやすくなるからです。また、マスターブランドの名前は製品の品質を保証するのにも機能するからです(エンドーサーと呼ばれます)。

しかし、これによりマスターブランドの広告効果のマネジメントは難しくなります。マスターブランドの名前を冠した個々の製品を展開するので、マスターブランドの母体から多くの広告クリエイティブが投下されることでしょう。例えばビールの「一番搾り」の昨年1年間に関東で投下されたCMは39作品にも及びます。このように多くの広告クリエイティブが出されると、個々のクリエイティブとマスターブランドとの関係性をつかむのは容易ではありません。一般的に、広告評価からマスターブランドへの貢献を推し量るという手段がとられていますが、同じような評価の広告を投下しても、マーケット状況によりブランドへの反応は変化します。広告への評価が非常に高かったとしても、「競合が非常に強くなっていて、この表現戦略では消費者の心は動かなかった」ということがありえます。また、「ブランドへの反応もよかったが、時間が経過すると、実はマスターブランドの概念を細分化してしまっていて、そこから競合へ流出してしまう」ということも考えられます。

ではマスターブランドの広告クリエイティブの管理はどうすればよいでしょうか。

2.ブランド評価の時系列データから広告効果を捉える方法

まず、ブランド力を測定するために最適な指標を定めることです。広告が消費者の心を動かすものならば、心の中を計ることが求められます。そして変化を追うためには定期的に測定することが重要です。測定指標については、既に広く知れ渡ったマスターブランドの場合、助成指標では変化しづらく非助成の指標の方が変動するのでお奨めです。ただし、スコア変動だけを眺めても広告効果に関する情報は得られにくいでしょう。広告効果を推し量るには、スコアの背後に広告効果のメカニズムを仮定して捉える必要があります。

具体的には、【図表1】のようにGRPやブランド力を表すデータに対して各広告クリエイティブの効果が働いているというような因果関係を仮定し図式化します。本稿の分析では、弊社で自主調査しているブランド再生・広告想起調査「Mind-TOP®」から、ブランド考慮率をブランド力の代表指標として用います。

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【図表1】のモデルの説明ですが、ブランド考慮率のモデル値は、1期前の考慮率から維持される分と当期のGRPの効果によって決まると捉えています。ブランド考慮率の実測値は、このモデル値を中心にした確率分布から得られたものと考えます。1GRP当たりの効果は期によって一定ではなく、個々のクリエイティブの効果とその素材のGRPの配分によって異なると捉えます。この個々のクリエイティブの効果を求めることが本稿のテーマです。

各広告クリエイティブの効果量は確率分布から発生していると仮定し、その形状を決定する係数をシミュレーションにより推定します。図表のように2階建て、3階建てに分析モデルを組み立てて解析する手法は階層ベイズモデルといわれます。これまで伝統的な手法では歯が立たなかった課題に対してデータから情報を取り出すことができ、実務で利用する機会が増えています。

3.事例紹介

3-1.アリエールの実測値とモデル値について

では、前述の広告効果モデルを適用した事例をご紹介します。今回、洗濯用洗剤のアリエールについて分析してみました。アリエールは分析期間の2012年1月〜2017年1月の約5年間に65CM作品を投下しています。クリエイティブの類似性から32素材(60秒以上のCMをその他としてまとめる)に分類しモデル解析を行いました。【図表2】は、アリエールの女性20〜34歳と女性50〜59歳のブランド考慮率についてモデル値と実測値をプロットしたものです。

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女性35-49歳はグラフの複雑さ回避の為省略しています。また世帯GRPを図示していますがモデル解析時には週次のターゲットGRPを用いました。これにより、実測データは2週間隔で調査されていますがモデル値は週単位で予測しています。ベイズモデリングの長所として調査されていない時点の推定ができることがあげられます。

どちらのターゲットも生田斗真さんの起用直後にやや反応がみられますが、ジェルボール発売後、より高い反応がみられています。女性50〜59歳のブランド考慮率は直近にかけて上昇していますが、女性20〜34歳では直近にかけてやや下降気味にみえます。このような実測値に各ターゲットのモデル値はフィットしているようですが、モデル値の計算元になっている各クリエイティブの効果はターゲット間でどのような違いがみられるでしょうか。

3-2.各ターゲットのクリエイティブの効果

【図表3】はその他CMを除く31素材のクリエイティブ効果の係数についてまとめたものです。アリエールのCM訴求は、消臭・抗菌、(洗濯槽の)防カビ、白洗・汚れ落ち、時短、まとめ洗い、ダメージケアなど実に多彩です。特に消臭・抗菌と白洗・汚れ落ちが主な訴求点ですが、直近では、まとめ洗い(スマ洗)の訴求を強めており、ブランド特性の重要点を変える戦略をとっています。

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発売時に高い反応がみられたジェルボールは当初、消臭・抗菌をテーマに訴求していましたが、上市から3ヶ月後にコンパクト洗剤では落ちなかったシミが落ちるということを富岡佳子さん(モデル)が証言するCMを投下しています。これは分類NO15の素材のことですが、どのターゲットも高いクリエイティブ効果を示していることが見て取れます。

その後、分類NO18ではバス通学時に幼児同士が触れ合う設定の中、「冬は子供の衣服にウイルスが付着する心配がある。それをアリエールは除去します。」という訴求をしています。これに対し、女性20〜34歳の効果係数が高くなっており、小さな子供を守る訴求は若い女性の心を動かすことが分かります。

一方、女性50〜59歳では16年8月から始めた「1粒でどんな汚れにも対応するのでまとめ洗いができます。」と訴求するCMに反応しています。これには、ジェルボールが分量を調整できないことが今後更に売り上げを伸ばす為に弱みになっており、ポジショニングを変える狙いがあると思われます。このまとめ洗い(スマ洗)訴求に対して、女性20〜34歳の方はあまり高い効果を示していません。若い女性の方が衣類への関与が高く、仕分けして大切に洗いたいということなのでしょうか。あるいは、CMの作りから容量調整できない点が逆にクローズアップされてしまったのかもしれません。いずれにせよ若い女性には新しいコンセプトが受け入れられていない状況なので、このターゲットを重視する場合は、商品特性CMではなく、この商品で問題認知−ブランド使用−問題解決する場面をターゲットの生活の中で具体的に描くニーズ喚起CMを投下して、伝わる土壌を作る必要があると考えます。

4.本稿の分析の応用について

本稿ではアリエールをもとに、多くのクリエイティブを繰り出すマスターブランドについて、ブランド力に対する広告クリエイティブの効果管理の事例を示しました。構築したモデルを使えば、ブランド考慮率に対する広告出稿量のシミュレーションが可能です。ただし、統計的な予測は過去と条件や環境が変わらないことを前提としていて、クリエイティブが刷新された場合、その反応を予測するのは難しいことです。自分たちが過去に投下してきた「このクリエイティブのパワーと同等」というような仮定をおいてシミュレーションすることになります。

また、分析では素材単位にクリエイティブの効果を示しましたが、CMタイプやキャスティングの仕方でまとめることで有用な知見が得られます。例えば、CMの訴求タイプでまとめれば、「抗菌・消臭訴求の方が出稿は多いけれど、白洗・汚れ落ち訴求の方が効果は高いので、こちらの出稿量を増やしたほうがよい」などの判断に使えます。

Mind-TOP®による分析は他に、ブランドスイッチやイメージの変化、広告認知経路による媒体施策の反応についてなどの視点で広告効果を可視化することができます。是非、Mind-TOP®の活用をご検討ください。

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