ドクターKの「ブランド・コミュニケーション論」講座 ACT 6 マーケティング活動と新ブランドの長期的成果の関係※

VRDigest編集部
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※本記事は2000年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

§1日本型のブランド政策の特徴

 日本型のブランド政策の特徴ともいわれるコーポレイト・ブランディングのケースを中心に新ブランドの長期的成果を規定する客観要因について考察します。

 一般に、企業ではその存立を維持するため基本的に成長を前提とした市場戦略に基づいてさまざまな経営的な意思決定がなされています。特に、定常的な「新製品」の市場導入は企業の成長を支える原動力であると同時に、財務的には非常に大きなリスクを抱え込む事を意味します。革新的新製品の収益上の不確実性を補完するリスク・ヘッジとして部分的改良商品や副次的改良商品の開発が行われます。新製品のマーケティング戦略は企業全体の製品ミックス戦略とそれに対応する製品ライン政策の中でどのように位置づけるべきであるかと云う点で非常に重要な検討課題の一つです。

 新製品の市場導入にあたって重要なマーケティング戦略上の検討課題の-つは、「ブランド戦略」です。

 即ち、既存「ブランド」の傘の下で新製品の市場導入を計るか、もしくは新しい「ブランド」名の下で市場を開拓するかは、参入しようとする市場の成熟度合いや競合状況、新製品自体の品質や製品力など諸々の要因が密接に関連している為、定石的な戦略はないといえます。

 しかし、ブランド拡張政策は既存の評価の確立したブランド名を冠することによって新製品の市場導入時の失敗を回避するという一種の保険政策としての位置づけはかなり明確です。

§2.コーポレートブランディング

 ブランド拡張あるいはライン拡張に関する米国での研究事例をみるかぎり、コア・ブランドあるいは親ブランドの一種の「強さ」が拡張先での成功要因であることが実証されています。

 ブランド拡張と新ブランド育成の是非をめぐる議論は、経営戦略上の意思決定の問題としてとりあげられることが多いです。海外の研究者からは、日本企業が製品ブランドではなく企業ブランドを世界中で掲げている事実をさして、経営資源としてのブランドの活用例として紹介されています。特に、ソニーやキヤノンを例にとって高品質の企業名ブランドが各国の市場(消費者)に浸透することによる新製品の発売時のレバレッジ効果が高いことが指摘されています。

Tanaka(1993)は、広告表現を中心にさまざまな角度から我が国におけるコーポレート・ブランディングの実態を分析しています。

小川・金澤・田中(1995)は、「ブランド拡張の成功条件」に関する論文の中で、欧米の研究成果とともに我が国の研究事例をあげて、日本的企業ブランド政策の有効性に言及しています。

コーポレート・ブランディング型ライン拡張

 ビデオ・リサーチのVRホームスキャン・システムにおいて1988年4月から1990年5月の26カ月間を対象に食品と雑貨の新製品として新規にコード番号が発行されたものについて、ブランド名称を調べたところ、604事例のほとんどがメーカーを冠したブランドでした。例外としては、「マルちゃん」というファミリー・ブランドを冠した東洋水産の新ブランドがあるのみでした。また、この期間の新製品市場導入事例では、ライン拡張的新製品が非常に多く、他の分野(カテゴリー)から参入したブランド拡張的新製品の事例は、全体の12%でした。

 このように日本における消費財の新製品の市場導入の多くは、同一品目内でのメーカー名(企業名)を冠したコーポレートブランディング型ライン拡張の事例が主流です。

§3.実証研究:新製品の長期的成果の規定要因

 本論では、コーポレート・ブランディング型ライン拡張の新製品の事例を対象に、その長期的な成果を規定する導入初期の要因について、実証的考察を試みます。特に、スキャン・パネル調査から得られる非心理的な測定データのみによってブランド拡張の成果を規定する要因を分析します。

3-1規定要因と成果尺度

ここでは、日本型のコーポレートブランディングの長期的成果の規定要因として、次の3つの導入初期要因を設定しました。

(1)市場環境要因

(2)コーポレート・ブランド要因

(3)広告・店頭プロモーション(マーケティング)活動要因

そして、長期的成果の尺度としては、次の3つの指標を用いました。

(1)マーケット・シェア

(2)市場浸透率

(3)再購入(リピート)率

3-2.分析データ

 分析データは先に事例として紹介した1988年4月~1990年3月に新しく市場導入された食品と雑貨の新ブランドのうち分析可能なメーカー名を冠したコーポレート・ブランディング型ライン拡張ブランド、309ケースを対象としました。成果尺度(指標)と各規定要因を慌成する変数の内訳は、「表1」の通りです。

 今回の分析対象とした309ブランドの品目構成は、以下の通りです。

(1)食品系 78%(240件)

(2)雑貨系 22%(69件)

 下図は88年度から89年度の2年間に新発売されたブランドのうち今回の分析対象としたブランドの95年度までの「生存率」の推移をしめしたものです。95年度まで存続したブランドは全件の21%でした。(図1)

図1 新ブランドの生存率の推移

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3-3新ブランドの生存条件

この'95年度までの存続ブランド群とドロップアウトしていったブランド群について導入初期の条件にどのような違いがあるのかを今回の分析に用いた測定変数について両群間の平均値の差の検定を行いました。(図2)

「表1」の結果からも明らかなように、存続ブランド群は導入初期における「マーケティング活動要因」のほとんどの変数について平均値が有意に高いです。特にテレビ広告の投下量(GRP)とインストア・プロモーション(ISP)の回数の差が著しいです。このことは存続ブランド群がその導入初期に相対的にかなり手厚いマーケティング・サポートを受けていたことを物語っています。

表1 存続ブランドとドロップアウトブランドの初期条件の比較

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(検定有意水準記号:***0.1%,*1%,*5%)

図2 生存ブランドGRPとドロップアウトブランドGRPの比較

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3-4.分析方法

新ブランドが市場導入された初期の各規定要因がその後の長期的成果をどの程度規定しているかを分析する方法として共分散構造分析法を用いました。

 今回の分析では、新ブランドの市場導入初期の各要因とその彼の成果との因果関係の強度を「図3」の因果モデルのγ1、γ2、γ3の各パスの標準化係数の値で表現しています。

図3 長期的成果因果モデル

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3-5.分析結果の要約

 今回はコーポレート・ブランディング型のライン拡張の事例について発売一年以内の短期的成果と2年から6年後の長期的成果が各ブランドの導入初期の諸条件にどの程度左右されるかを実証的に検討しました。結果は長期存続ブランド群と市場からドロップアウトしていったブランド群についてその初期条件(要因)を構成する変数別の平均値の検定結果「表1」で明らかになった傾向をそのまま反映したものとなっています。

 具体的には、309事例全体でみると広告と店頭プロモーション(マーケティング)活動要因からのパス係数は発売1年時点で0.71、その後は年々低下するものの6年後の時期でも0.51の水準にある。初期のマーケティング活動要因によって長期的な成果が規定されていると判断できる結果です。

 市場環境要因からのパス係数の水準はその影響を無視できるほどではないものの0.03から0.11と極めて小さい値を示しています。マイナス符号のパス係数を示す時期(ケース)がほとんどで市場の競合度が成果にマイナスの影響をあたえていることがわかります。但し、この構成概念を構成する測定変数の内、「商品数」の符号はプラスです。これは新発売時点で、その品目内で多くのブランドが存在するほうが長期的には生存のチャンスが高いことを示唆するものです。

 コーポレート/ブランド要因からのパス係数は発売1年時点では0.54と、かなり高水準です。

その後の時点では0.20から0.18の水準を保ち6年後の時点では0.30となっています。この構成変数を構成する測定変数は新発売前1年間の親ブランド(メーカー)の該当品目内での相対シェアです。この相対シェアだけでは不十分ですがそのブランドの持っている過去からの資産の一部を継承しているとみなすことができる指標です。(表2)

 以上を要約すると、コーポレート・ブランディング型のライン拡張の長期的な成果は導入初期の広告・店頭プロモーションを中心とするマーケティング活動によって60%から70%が規定され、コーポレイト/ブランド要因は残りの20%から30%を規定し、導入時の市場環境要因は10%前後を規定することがわかりました。但し、分析精度及びモデルとしての適合度をしめすGFIは0.6から0.9未満で全体として良いとは言えません。しかし、個々の測定変数の係数(因子負荷量)の推定に関してはほとんどのケースでt値が2以上あり、統計的に有意でした。

表2 成果時期別標準化パス係数

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*印は5%水準以下でt値が有意であることを示しています。

§4.結果の考察

今回の分析の過程で明らかになったことの1つは、新ブランドの生存率の低さです。1988年~1990年に導入されたライン拡張ブランドのうち、1996年3月までの時点で、同一ブランドとして生存していたブランドは、64ブランドしかなく、"生存率"21%でした。

 米国の研究事例でも、新製品の成功率が15%前後と低いことが報告されている。日本においても同様であることは否めません。日本型のメーカー名を冠したコーポレート・ブランディング政策をとったとしても、1つのブランドを長期的に存続させ、且つ成功に導いていくことがいかに困難であるかを示す結果ともいえます。

 今回の分析の結果から、長期的に強いブランドの育成を行うためには、導入初期の広告と店頭プロモーションを中心としたマーケティング活動が非常に重要であることがあらためて確認されたことです。但し、食品、雑貨という消費財に、限定しての話であることに留意する必要があるのは言うまでもありません。

 傾向として、食品・雑貨とも、広告・プロモーションを中心とするマーケティング活動要因のウエイトが最も高いことでは共通していますが、食品と雑貨では、他の規定要因のウエイトが相対的に異なることも明らかになりました。

 具体的には、食品の場合、初期の市瘍環境要因に多少左右されるが拡張元のブランド力そのもののは相対的にあまり大きなウエイトを占めていません。

 一方、雑貨は、その逆に拡張元のブランドカがその後の成果に強く関与しており、導入初期の市場環境要因はあまり強い影響力を持っていないことがわかりました。

全体として、ライン拡張の長期的な成果は導入初期の広告・プロモーションを中心とするマーケティング活動によって60%から70%が規定され、コーポレイト/ブランド要因は20%から30%を規定し、導入時の市場環境要因は10%前後を規定すると言えそうです。

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§5.インプリケーション

これまでの米国を中心とする欧米でのブランド拡張に関する研究成果から拡張元のブランドの給合的な「強さ」即ち、ブランド・エクイティの大きさがその長期的な成功を規定しているという事が一般的な見解です。今回の分析事例ではブランド力も大切であるが、ブランドとして長期的に存続するためには導入初期に本格的な広告・プロモーションによるマーケティング・サポートが不可欠であることが因果関係として検証されました。

                        

 eマーケティング室  木戸 茂

 ※本論は法政大学大学院紀要 第38号(1997年3月)に掲載した論文をもとに広告・プロモーションの長期的成果という観点から再構成・修正したものです。

参考文献

Aaker, David A. (1991) , Managing Brand Equity : Capitalizing on the Value of a Brand Name. New York: The Free Press.

______(l996), Building Strong Brand, New York: The Free Press.

______and Kevin L. Keller (l990), " Consumer Evaluations of Brand Extensions, "Journal of Marketing, 54 (January), 27-41.

______and Alexander L. Biel ed. (l993), Brand Equity & Advertising : Advertising's Role in Building Strong Brands , Lawrence Erlbaum Associates.

Keller, Kevin L. (l993), " Conceptualizing, Measuring, and Managing Customer-Based Brand Equity," Journal of Marketing , 57(January), 1-22

.

______and David A. Aaker (l992), " The Effects of Sequential Introduction of Brand Extensions, " Journal of Marketing Research , 29 (February), 35-50.

Tanaka, Hiroshi (1993)," Branding in Japan ," in D. A. Aaker and Alexander L. Biel(Eds.), Brand Equity & Advertising : Advertising's Role in Building Strong Brands, Lawrence Erlbaum Associates.

木戸茂(1994)、「ブランド・エクイティ概念に基づく因果モデルの検証」、『マーケティング・サイエンス』、Vol.3、No.1・2、17-41。

______(1995)、「ブランド・エクイティ概念と広告効果に関する試論」、『日経広告研究所報』、159号、7-11。

______(1997)、「ブランドの長期的成果と広告サポートとの関係」、『消費者行動研究』、第5巻1号、33-59。

小川 孔輔、金澤 良昭、田中 洋(1995)「ブランド拡張の成功条件」、『マーケティング・ジャーナル』(9月),No.58、31-43。

仁科 禎文、松浦 祥子、田中 洋、丸岡 吾人、(1994)、「企業ブランドのエクステンションと広告の役割」、『広告科学』第28集

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