世代という視点での分析~コウホート分析を用いたACRデータの分析~

VRDigest編集部
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本記事は2002年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

1.はじめに

 市場調査では、人の意識や態度・行動といったことをアンケートによって調べています。

そのデータを性別や年齢の区分ごとに集計し、それらの違いを分析しています。 また、同様の調査が繰り返し行なわれているならば、そのデータを時系列に並べ、変化を見ることでしょう。当社のACR注においても、同様の方法で分析されていることと思います。今回は、こういった分析の視点に加えて、「世代」といった視点で見る方法をご紹介します。

注:ACR=Audience and Consumer Report

2.コウホート分析とは、

 我々は、若い時の経験や価値観をその後も持ち続けていることがありますも例えば、若い頃好きだった音楽をその後も聴き続けていたり、20代後半に採用した整髪料をその後も使い続けている男性もいらっしゃることと思います。このように、継続データでは、生まれた時期を同じくする人の集まりによる違いを確認することができます。

継続データを分析する時に「コウホート(=世代)」という視点を加えて、①年齢による違いの視点(年齢効果)、②時代による違いの視点(時代効果)、③コウホートによる違いの視点(コウホート効果)の3つに分離して、読み取っていこうとしているのがコウホート分析です。

これらの3つの要因にうまく分離できれば、過去の意見や態度、行動などの時系列変化の構造を明らかにするばかりでなく、将来の動向に関してある程度の予測をすることができるようになるわけです。

注:出生コウホート、以下「コウホート」ないしは「世代」とします。

3.分析上の課題

 年齢・時代・コウホートの3効果を分離するのは、それほど簡単ではありません。つまり、1960年代生れの人と1970年代生れの人のデータを比較することは、同時に30代と20代の比較をすることになり、コウホート効果と年齢効果の分離ができません。 同様に、30代の人のデータを10年前のデータと比較することは、時代の変化と世代の変化が混在してしまうからです。これをコウホート分析の「識別問題」と呼んでいます。

 これを解決するためには、何らかの制約条件を必要とされます。文部科学省統計数理研究所の中村教授は、パラメータの「漸進的変化の条件」を考えました。つまり、各効果の隣り合うパラメータの値がなるべく近くなるようにするという条件です。パラメータの漸進的変化の条件を取り込んだコウホートモデルでは、隣り合うパラメータの差を小さくすることと、データへのあてはまりをよくすることとのバランスをとりながら、データの意な情報を抽出しています。 このために、ベイズ型モデルを想定し、エントロピー最大化原理に基づく赤池のABIC最小化法によって最適モデルを選択しています

注:詳しくは、中村(1982)、Akaike(1980)を参照してください

4.分析事例

先頃、電通シニア・プロジェクトのご依頼により、ACRデータのいくつかの項目についてコウホート分析を行っています。ご好意より、その一部を紹介させて頂きます。また、同プロジェクトの和田氏が「シニア・マーケティング」という本を出版されました。同書では、切口齢(エイジング)」、「ライフステージ」、「世代」という3つの視点でシニアを捉えようとしています。特に、「世代」では「団塊の世代」といわれる戦後のベビー・ブーマー世代に着目しています。彼らの意識や生活価値観をコウホート分析という方法を通して見ることで、次の時代のシニア層を検討しています。 コウホート分析を利用した分析事例としてご紹介させて頂きます。

図1は、1985年~2000年の4期のACRデータを使い、「だしは自分で作るようにしている」(女性のみ)という質問をコウホート分析したものです(和田p.142)。

今回用いたコウホート分析の方法では、

ある時代のある年齢

層を特徴づける数量

   =<時代効果>+<年齢効果>+<コウホート効果>+<誤差>

     時勢による  加齢による  世代に

     変化の部分  変化の部分  固有の部分

という、3つの効果に分解しています。つまり、上段の図[PERIOD]が時代効果を示しており、この効果はあまり変化がありません。中段の図[AGE]は年齢効果を示しています。20代後半と30代前半が高くなっているのがわかります。 この年齢は、料理学校をなどに通われる方が多いことと推察されます。更に、下段の図[COHORT]はコウホート効基を示しています。昭和11年~15年生まれの世代ぐらいから徐々に低下し、昭和21年~25年生まれの世代(ベビー・ブーマーの世代に相当)の後の世代から急激に低下していることがわかります。和田氏は、「インスタント食品の利用」や「添加物への留意」などと合せて、ベビー・ブーマーの世代を「家事の簡略化の過渡期に位置する」と分析しています。

【図1】だしは自分で作るようにしている」(女性のみ)

vol408_10.jpg

 注:適用しているモデルが、若干異なるため、和田p.142とは僅かに違います(APC)

5.まとめ

 ACRなど長期に渡り、意識や態度・行動について調べているデータでは、コウホート分析を適応することで、人の価値観や社会の大きな流れを観察することができますこACRのように大規模な調査でも、年齢別にブレイクダウンすると単年のデータでは、その傾向がわかりにくいことがあります。こういった時、複数年のデータを使い分析することではっきりとした傾向を見ることができることでしょう。

 また、マーケティングの視点からみると、時代とともに変化する顧客特性をどのように捉えて行くかということは重要な課題ですム製品カテゴリーやブランドの趨勢を見て行くと、特定の世代に愛好され顧客とともに加齢しているものもあります。また、常に特定の年代に愛好されているものもあるようです。今後、顧客との関係を考える時に、こういった分析が一定の示唆を与えてくれるものと思います。

 弊社では、中村敦陵の論文に基づき、独自に開発した解析プログラムを所有しておりましたが、電通 シニアプロジェクトの分析を機にコウホート分析を改めて見直し、同プログラムの換作性の向上と機能の追加を行っています。

参考文献;

Akaike, H.(1980)Likelihood and Bayes procedure.Bayesian Statistics.(eds. J. M. Benard,

M. H. DeGreet,D. V. Lindley and A. F. Smith),University Press, Valencia, 143-166.

中村隆(1982)「ベイズ型コウホート・モデル」『統計数理研究所彙報』第29巻第2号.

中村隆(1987)「公開講演会要旨:年齢・時代・世代の違いを探る...コウホート分析の方法

 ...http://www.ism.ac.jp/~nakamura/cohort.htm

森宏編(2001)『食料消費のコウホート分析--一年齢・世代・時代』専修大学出版局.

和田有子(2002)『シニア・マーケティング』電通.

                              (研究開発部  塚原新一)

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