自由連想データによる新ブランド診断~ブランド自由連想によるPoint of ParityとPoint of Differenceの分析~― part1 ―

- VRDigest編集部
※本記事は2002年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。
1.はじめに
ブランド・マネジメントの領域は、日々、複椎多様に拡大し、様々な管理指標が要求されるようになってきています。当社ではこのたび、コミュニケーション戦略の策定に役立てることを目的とした、新しいブランド診断指標(及び手法)を開発しましたのでご紹介をいたします。
この分析手法は、ブランド名刺激の自由連想調査法を行い、カテゴリーに所属するために備えるべきイメージと差別化すべきイメージの導出を行うものです。指標開発にあたり、活況を帯びている『無糖お茶飲料』の主要ブランドを取り上げ実験調査を行ないました。
この分析事例を絡めながら、ご説明していきたいと思います。なおこの研究は、法政大学大学院 豊田裕貴氏と共同で行っております。
2.ブランド診断を捉える視点
2.1 ケラーのブランド知識構造
顧客ベースのブランド・エクイティ(資産)は一般的に、「当該ブランドに帰属している固有のマーケティング効果」と定義されます。そのブランド名がついているが故に生じる効果一同レベルの製品・サービスが、同等のマーケティングを行なっても得られないような差異的な効果-がブランド・エクイティですム例えば「OEM製品」において、同等の製品特性にも関わらずどんなブランド名をつけるかによって価格差が生じる例などは、このブランド・エクイティを端的に表しています。デューク大学のケビン・ケラー教陵は、「ブランド知識が消費者の頭の中にどのように存在しているかを説明することが、ブランド・エクイティを構築するカギ」であるとし、下記のブランド知識構造の概念モデルを提
唱しています。
【図表1】ブランド知識の概念モデル
〔出所〕Keller(1998)「戦略的ブランド・マネジメント」邦訳(2000)
ケラー教陵の知識構造モデルはブランド認知とブランド・イメージの2つの要素からなり、消費者が当該ブランドをよく知っており、記憶内に好意的かつ強固で、ユニークなブランド連想を保持している場合に、強いブランド・エクイティが構成されると考えています。
弊社では、ケラーのブランド知識モデルをベースにブランド・エクイティの測定問題を考えてきました。定期的に想起率などの指標を提供する当社のMind-TOP®は、彼の概念モデルの認知部分に着目して企画しています。そして概念モデルのもう一方の要素であるブランド・イメージについても測定方法の研究をしてきました。
特に、ケラー教授のいう「ブランド連想のユニークさ」には2つの側面を持っています。
ひとつは文字通りの、そのブランドを購入せずにはいられなくなるような他ブランドと差別化されるブランド特有の連想です。これを『Point of Difference』と呼んでいます。
一方、『Point of Parity』とは、カテゴリーにふさわしく信頼できる製品だと消費者が認めるうえで必要な連想と、競合ブランドの相違点を打ち消すための連想です。消費者に「選を労しない理由を与えない」連想ということです。
Point of Parity
そのブランドにとって必ずしもユニークではなく、他のブランドと事実上共有される連想。
カテゴリー類似点連想と競争的類似点連想がある。
Point of Difference
消費者が強く記憶し、好ましく評価するブランド特有の連想。
一般的には、「総ての点で競合ブランドとの差別化を図る」といった戦略方針が取られますが、彼によると、これは賢いやり方ではなく、『カテゴリーにおいて、どのブランドも共通して押さえるべきポイントがあり=Point of Parity)、それをはずさずに、他のポイント=Point of Difference)で如何に差異を出すかが問題になるのだ』というのがケラー教授の主張です。これらの概念は、広告戦略に重要な競合ブランドとの位匿付けに対する示唆を与えうると考え、その測定方法について検討を重ねてきました。
2.2問題意識
従来、Point of ParityとPoint of Differenceに関して、自由連想データを分析する際には、ブランドごとに連想語の出現頻度をとり、そのブランド×連想語の集計表からコレスポンデンス分析を行い解釈を行なっていました。
図表2は、今回の実験調査のブランド自由連想データを使って、各ブランドと自由連発回答との関係を視覚化したコレスポンデンス分析の結果ですムこの分析を行うと、特定のブランドに関連の深い連想語が、そのブランドの近くに布置されます。例えば、『爽健美茶や十六茶は、「体によい」というイメージが他ブランドとの差別化に効いていそうだ。』ということがマップから読めます。またマップの中心部には、どのブランドからも出現した共通したイメージの連想語が布置される傾向があります。
【図蓑2】ブランド×連想語関連図(コレスポンデンス分析)
マップの中心部に位置する連想語の中には、まさにPoint of Parityといえるような連想語がみられます。また、ブランドの近くに位置する連想語には、Point of Differenceといえるような連想語が出現するようです。
しかし、Point of ParityやPoint of Differenceとなる連想を選択するには、連想語とブランド間の距離だけで判断できません)ケラー教陵の定義に従えば、「信頼できる製品」「好ましく評価」という具合に何らかの価値判断を付与して、他ブランドと共有される連想、あるいは差別化される適思の中から、ブランド・イメージに貢献するであろうイメージを選び出すことが必要と思われます。そこで、連想語とブランド間の距離を測る尺度の開発と、その尺度に、何か別の価値を付与して、Point of ParityやPoint of Differenceのスコアを定式化して測ることはできないか?というのが、今回の分析テーマです。平たく言えば、例えば、上記のマップを見ると、まろ茶の周辺に、「織田裕二」と「井川造」が布置され他のブランドとの差別化に貢献している様に思われますが、彼らの中でどちらがより差別化において貢献度が高いのかを、数量化したいということです。また、「おいしさ」「飲みやすい」という連想は、どのくらいカテゴリーに所属するために、なくてはならない必要なイメージで、そうしたイメージを当該ブランドは充分に持っているかを数量化したいということです。これらを数量化することによって、より強力なブランドを創るためのキーとなるイメージを明確にできるはずです。
3.実験調査・分析データの概要
3.1実験調査概要
●調査方法 :インターネット調査
●調査期間 :2002年5月8日(水)~2002年5月14日(火)
●調査エリア :関東1都6県に居住
●対象 :18~49歳 男女(当社所有のインターネットバネル)
●サンプル数 :522s(回収)/630s(依頼)
※10歳刻み(20代は18,19歳含む)で男女、各105sずつに依頼した
3.2分析データの概要
●自由連想調査の対象ブランド:生茶、おーいお茶、爽健美茶、十六茶、旨茶、聞茶、まろ茶、サントリー烏龍茶(対象ブランドは、当社のシンジケートデータであるMind-TOP®の結果を参考に、考慮率上位8ブランドを選択した)
●今回の分析に関連する質問内容:
<自由連想質問>
「〇〇(ブランド名呈示)」と聞いて思い浮べることを、いくつでも結構ですので、1つずつ簡潔な言葉でお知らせ下さい。
<連想後のプラス・マイナスイメージ評価>
お答えになったお言葉は、その銘柄にとって、プラスですか,それともマイナスですか。
それぞれあてはまるところにチェックしてください。(プラス/マイナス評価は11点尺度により測定)
4.POPスコア・PODスコアの定式化
Point of Parity・Point of Differenceを見つけ出すためのブランド診断指標POPスコア・PODスコアの算定方法を3つのStepに分けて説明していきます。
4.1 Step1:共通性-独自性尺度の作成
まず、連想語がブランド固有のイメージか密かを測る尺度を考えました。それを判断するには、ブランド間の距離を考慮に入れながら、連想語間の距離を決める手法でなければなりません。最初にご紹介したコレスポンデンス分析から、ブランドと連想語との点間距離を測定する方法が頭に浮かびましたが、連想語をいくつ選択するかで、空間が変わってしまうという問題があり別の方法を考えました。
Parity=共通性と考えれば、Parityが高いとは、多くのブランドで共有される連想語に高い値を与えることであり、Difference=独自性と考えればその逆で、ある特定のブランドにのみ多く出現する連想語に高い値を付与できればよいと思われます。
そこで、情報工学の成果である情報エントロピーを用いた式を共通性一独自性尺度として利用しました。
採用した式では、連想語が各ブランドに均等に出現するほど0に近い値になり、逆に少数の限られたブランドにしか出現しない場合には1に近い値となります。実験調査で得られた尺度値のランキングは、次ページのようになります。
【図表3】 【図表4】
共通性が高い連想語 独自性が高い連想語
「くせがない」「飲みやすい」「おいしい」「ペットボトル」というような適恕語が、共通性の高いものとして上がっています。一方、独自性の高い連想語は、「小林聡美」「中谷美紀」「藤原紀香」「内山理名」などタレント名が目立ちます。
4.2 Step 2:付与する価値の特定
次に、共通性一独自性尺度に、どんな価値を付与するのかについて述べます。情報検索の学問分野では索引語を作成する際に、高頻度あるいは高比率で出現する連想語を重要度が高いとみなし、重み付けにあたり大きな値を与えたりします。これを応用すると、「高頻度・高比率で出現する連想語」=「ブランド・イメージへの貢献度が高い連想語」とすることが考えられます。
しかし、例えば「おいしい」と「おいしくない」では、同じ頻度の適瞥語であっても、ブランド・イメージに対する貢献度は全く違うはずです。また、「渋い」や「苦い」、「松嶋菜々子」という連想語のように、対象者によって評価が異なるものもあります。
これらの事は調査実施前に見込んでいて、Webリサーチの利点であるインタラクティブ性を利用し、対象者にブラン偶刺激による自由連想質問を終えた後に、お答えいただいた連想語を呈示し、「そのブランドにとってプラスなのかマイナスなのか」を11点尺度にて測定していました。これを、ブランド・イメージに貢献する価値として付与しようと考えたのです。
全体において、評価の高い連想語は下記のようになります。
【図表5】評価点の高い連想語
4.3 Step3:POPスコア・PODスコアの算出
Step1の共通性一独自性尺度とStep2の連想語の評価点(全ブランド合算)の関係は下記のようになります。
【図表6】共通性一独自性尺度とイメージ評価点の関係(全体)
共通性が高くイメージ評価の高い所には、無糖お茶飲料において押さえるべきPoint of Parityであろう連想語が位置すると考えます。一方、独自性がありイメージ評価の高いところには、それぞれブランド固有のPoint of Differenceであろう連想語が位置すると考えます。
ブランド毎に散布図を描くことで、それぞれのPoint of ParityやPoint of Differenceを確認することができますが、より容易に把握するために下記の式によって、2つの指標を1次元に合成します。
●jブランドへの連想語iのPOPスコア・PODスコア
全体でみて、POPスコア・PODスコアの高い連想語は下記のとおりです。
【図表7】 【図表8】
POPが高い連想語 PODが高い適臨
POPスコアが高い連想語として、「おいしい」「CMJ「飲みやすい」「さっぱり」「すっきり」といったものがあげられ、これらが無糖お茶飲料におけるPoint of Parityであると考えられます。またPODスコアが高い連想語として、「松嶋菜々子」「井上陽水」「まろや机「伊藤園」といった連想語があげられ、それぞれブランド特有のPoint of Differenceとえられます。
次号予告
今回は、紙面の関係上、ブランド診断をどういった視点で捉えるかという点と診断指標の仕組みについてご説明させていただきました。次回の内容は、実験調査の結果に基づき
● ブランド診断指標のもつ特徴
● 実務への応用
ということについてご紹介させていただきます。
参考文献 Keller, K. L. (1998)Strategic Brand Management, Prentice Hall
(恩蔵直人、亀井昭宏(2000)『戦略的ブランド・マネジメント』東急エージェンシー)
青木幸弘(抄訳)「顧客ベース・ブランドエクイティーの概念規定、測定、および管理」
『流通情事報』1993.9-1994.1流通経済研究所
(研究開発部 青島弘幸)