VRホームスキャン・データ分析事例(3) ホームスキャン・データによるマーケットセグメンテーションの試み

- VRDigest編集部
※本記事は1987年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。
今回は記述的方法で市場構造を把握することを目的として、インスタントカップ麺市場を分析した例を紹介する。
今年の4月に正式にスタートしたVRホームスキャンシステム(以下VHSと略称)も6カ月以上を経過し、半期で市場のマクロな分析に耐えられるだけのデータの蓄積ができてきた。そこでカップ麺市場について分析の基礎となる購入データからのセグメンテーションを試みた。
〈基 本 指 標〉
浸 透 率 72.9%
購入世帯当り個数 13.9個
平均購入個数 10.1個
消費者パネルにおいて該当市場を記述するのに最も基本的なものが上記の指標である。浸透率はこの期間内での購入経験世帯率の意味で、6カ月間に1度でもカップ麺を購入したことのある世帯が1、000世帯のうち729世帯あったということである。
その購入世帯の平均購入個数が13.9個、購入しなかった世帯も含めた平均値が10.1個となっている。
この平均値に母集団数を掛ければ、エリア内の市場規模が拡大推計できる。
10.1(個)×5万(世帯)=505(千食)
このエリアのカップ麺の市場規模(マーケットサイズ)は半年で約51万食ということになる。(但し、単身世帯は除く)
次からは各世帯別に6カ月間の購入ヒストリーをサマライズしたデータで世帯をセグメントしてみる。
購入個数による世帯セグメント
カップ麺購入世帯を6カ月間の購入個数で分類してその度数分布を示したのが図1である。
1個しか購入しない世帯から最高158個購入した世帯まで分布している。
世帯数と購入個数の構成を累積グラフにしたのが図2である。
この図から以下の基準で世帯を分割した。
全体市場の半分以上を占める ............ Heavy
〝 次の25% 〝 ............ Medium
〝 残りの25%〝 ............ Light
そして世帯数と購入個数で市場に占めるウエイトを示したのが図3である。
これをみると、カップ麺市場は全世帯のわずか13.8%のHeavy層で全体市場の半分以上を支えており、世帯数では44.9%を占めるLight層は市場の22.8%にしかすぎないという市場構造になっているのがわかる。
単純に考えれば、この13.8%のHeavy層にマーケティング努力を集中できれば、少ない努力で全体市場の半分以上に影響を与えられることになりマーケティング効率上非常に優位になるといえる。
このように世帯を購入量でセグメントすることを一般に量層分析というが、これは市場分析の基本となるものである。特にパネルデータにおいてはこの分析は精度が高く行え・かつトレンド比較ができるという優位性を持っている。
マーケットセグメンテーションの有効性
この量層分析はもちろんマーケットセグメンテーションの.ひとつである。
セグメンテーションの基準にはこの他にもたくさんあるが、マーケティング上有効であるための条件として一般に以下の5つがあげられている。
1.たやすく確定・測定できる
2.十分な潜在性をもつ
3.効果的な需要を示す
4.経済的に到達可能である
5.マーケティング努力にユニークに反応する。
今回のVHSデータによる購入量層セグメントはこの条件のうち1~3は満たしているといえる。
そこで次に5の検証のためにカップ麺の新製品に対する反応を量層別にみてみた。
この期間に発売された新製品は2アイテムであった。
2アイテムのうちいずれかの購入のあった世帯は10.2%で、これをメーカーのマーケティング努力ヘの反応率と考える。
(世帯構成) 反応率(浸透率) 世帯シェア(新製品購入世帯=100)
Heavy (13.8) 28.2% 39.2%
Medium(14.2) 20.4 28.4
Light (44.9) 7.2 31.4
NOT.P (26.9) 0.4 1.0
上記をみれば明らかなようにHeavy層の新製品反応が最も高く、新製品購入世帯の39%もが全体の13.8%しか存在しないHeavy層で占められている。
新製品導入時はメーカーのマーケティング努力が集中する。
それへの反応の最終結果である購入行動に結びつく確率がHeavy層で最も高いということは、さきの条件5をこのセグメンテーションの方法が満たしているといえる。
(もちろん、テレビCM、や店頭プロモーションなど個別のマーケティング努力への反応も捉えられるがここでは紹介しない)
購入バラエティによる世帯セグメント
今までは一定期間の購入個数をセグメントの基準としてきた。
次に購入バラエティに注目し、一定期間の購入アイテム数で世帯をセグメントしてみた。
個数の場合と同じように6カ月間の購入ヒストリーから各世帯のJANの種類をカウントし、バラエティの数と市場でのウエイトの関係をみたのが図4である。
6アイテム以上をバラエティ層、それ以下を習慣層と仮に名づけてみた。
この2層別に先と同じ条件で新製品への反応率を比較してみると以下のようになる。
反応率 世帯シェア
バラエティ( 6.5) 87.7% 55.9%
習 慣 層(66.4) 6.6% 43.1%
NOT.P (27.1) 0.4% 1.0%
購入量(Heavy-Light)でセグメントするより、バラエティ指向性でセグメントした方が、新製品への反応率をよりクリアに説明できるとの仮説のもとに分析した。
結果は図4をみれば明らかなようにバラエティ指向でセグメントした方が新製品の反応率の格差が大きくなることがわかる。
このことから新製品への反応というテーマに対しては購入量層よりバラエティ指向に有効性があると結論できよう。
今後の展開
今回はVHSデータを使った非常にプリミティブなセグメンテーションを行った。
マーケティング上、セグメンテーションの有効性については疑う余地はないが、その方法論では議論が多い。
過去、様々なセグメンテーションの基準が提示されたが、決め手になるものは出ていない。特に、多変量解析を用いたセグメンテーションは、先にあげた条件のうち、1の測定可能性(特に再現性の問題)や、4の到達可能性などの問題で行き詰まっており、結局、単純な方法がよいと結論される傾向がある。
ただ、VHSデータは多くのマーケティング変数をシングルソースで継続的に蓄積しており、従来の批判に充分耐えられる多くの変数をとり込んだより的確なセグメンテーションの方法論を近い将来、提案できると考えている。
また各セグメント(ターゲット)別に
1.CM接触とブランド選択の関係
2.プロモーションへの反応
3.チラシへの反応
4.購入水準、シェアなどの各指標のトレンド
などが継続的に分析できる。
これは従来、他の調査方法では不可能でVHSだけに可能な分析である。
(消費者行動分析部 石井栄造)