VRホームスキャン・データ分析事例(15)世帯ベースのプロモーション効果モデルの研究 ―(その1)

VRDigest編集部
VRDigest編集部
  • facebook
  • facebook
  • Twitter
  • HatenaB!

本記事は1989年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

 このシリーズの(8)でもプロモーション効果の研究事例を紹介したが、それはクロスセクション分析と集計データを使った重回帰分析に基くものであった。今回は、最近の計量的マーケティング研究の分野でクローズアップされ 実務レベルでの研究も進んでいるロジット型の世帯ベースでのプロモーション効果モデルの研究成果の一部を紹介したい。尚、この資料は、88年秋の日本マーケティング・サイエンス学会において東京大学経済学部片平助教授との共同研究として発表したものの-部である。今回のこの紹介記事中不適切な解釈があれば、それは聾者の理解の至らぬ為であることを最初にお断りさせていただく。

1.研究の枠組

 繰返し購入のあるパッケージ商品のプロモーション効果を研究するに当たり、ある世帯がある時点で特定のブランドを購入するプロセスを図1のように想定する。

 先ず、ある世帯は一定期間ごとにその商品種類に含まれる商品を購入するかしないかをあるルールのもとに決定している。(この商品購入決定ルールは「購買決定モデル」として後程定式化する。)そして、その商品種類商品の今期購入が決定されると次は、別のルールのもとでどのブランドを選択するかが決定される(「ブランド選択モデル」)というものである。

vol248_08.jpg

2.モデルの定式化

 先に示した枠組の中でのモデルの定式化であるが、説明の都合上まず「ブランド選択モデル」から話を進める。

●ブランド選択モデル

vol248_09.jpg

 このモデルでは、まずブランドごとに"吸引力"というものを想定する。そして、その吸引力の相対的強さがそのブランドの選択確率を左右しているものとする。この吸引力は、消費世帯やマーケティング変数によって変化するものとし、更に消費世帯ごとにそのブランドがその世帯の選択集合(choice set)に含まれない場合は無条件で吸引力は0とする。

 以上の考え方がブランド選択モデル式に表現されている。今回は、吸引力に影響を与えるマーケティング変数として商品の価格掛率(正価に対する売価の比率)と商品購入を行ったストアでの店頭プロモーション(ISP)の有無を使用し、選択集合は研究に使用したデータから購入経験ブランド群を世帯ごとに集計しそれを代用した。

●購買決定モデル

 各世帯ごとの購買決定は、その期のその世帯の購買性向の強さで決定され、購買性向は商品の世帯内在庫量と商品魅力度に影響されるものとする。この購買性向は無限小から無限大まで変化する性質の定式化であるため(3)式の形式で定式化されている。今回の研究では、魅力度には各ブランド中最大の吸引力を持つブランドの吸引力を充てている。

vol248_10.jpg

 尚、世帯内在庫(推定値)は注に示した通り、Neslin、Henderson and Quelch(1985)の方法を使っている。簡単に説明すると、(ある期の在庫量)=(初期値)+(その期までの総購入量)-(平均消費量)×(その期までの経過時間)という形である。初期値は1回当り平均購入量であり、平均消費量は分析期間内の総購入量を最終請人時点までの経過時間で割算したものである。

3.使用データ

 使用したデータは、'87年4月~'88年3月のインスタントコーヒーに関するVR home Scanデータである。研究には、このうち次の条件を満たす61世帯の52週間データを使った。①8回以上の購入経験、②3ブランド以上の購入経験、③贈答品データの発生しない世帯、④インストアブロモーションを'87年4月以降継続的に調査しているスーパーマーケット7店('88年は14店調査)の利用世帯。これらの条件を満たす世帯は、当然のことながらヘビーユーザーであり、あるレベル以上のスイッチャー世帯である。今回の研究では、ブランド選択に関して推定の比較的容易であると想定されるブランドロイヤルユーザーや、マーケットシェア予測に影響の小さなライトユーザーは除外していることになる。ちなみ

に研究対象世帯の平均購入(ブランド選択)回数は12.1回、購入時点あたり平均点数は1.14個、平均容量は1428、購入価格の平均掛率は0.704、世帯当り購入店数平均は3.72店であった。

 また、使用データの購入ブランドはマーケットシェア上位のブランド7つを独立したブランドとして取扱い、それ以外のブランドは「その他ブランド」として一括して取扱っている。世帯ごとのブランド選択回数シェアのばらつき具合は図2参照。

vol248_11.jpg

4.パラメータ推定とモデルの検証

今回の2つのモデルのパラメータ推定には、ふだん使われることの多い最小2乗法ではなく最尤法を使っている。また、2つのモデルの妥当性についてそれぞれ以下の手順で検証を行った。

4-1.ブランド選択モデル

  Step1.説明変数の有効性チェック

 61世帯延740回のブランド選択データを使い、モデルのパラメータ推定を行なうとともにモデル式の対数尤度(log-1ikelihood)の計算を、ブランドダミー、価格掛率、ISPのそれぞれの説明変数を使った場合と使わない場合について行った。次に、それぞれのケースの対数尤度の比較を行ったところ1%水準で各変数が有意に働いている(統計的に意味のある変数)ことを確認(対数尤度の差の2倍の値が、与えた変数の数という制約数の自由度でのx2検定)。

  Step2.推定パラメータの符号適合度とt検定

 価格掛率のパラメータ符号がマイナス、ISPパラメータの符号がプラスに合致するか。更に、各パラメータの漸近t値が2より大きく検定有意かをチェックした。(ブランドダミーのパラメータについては、t値が有意でないものも含まれるが、更に有意なものだけを残し、再計算することはしていない)このチェックに全てのケース(後のステップで各セグメント別にもパラメータ推定を行っているが、このケースも含めて)が合格した。

  Step3.モデルが適切な答を出すか......

 各世帯のブランド選択時点ごとに計算された各ブランドの選択確率が実際の選択ブランドを反映したものかをチェックしたものが図3である。もしも、各世帯が毎回モデルの定義通りのルールに従って"合理的"にブランド選択を行っているとすれば、毎回最も選択確率の高いブランドを選択していたはずである。図をみればNo.1の世帯では10/12のケースで一致しており、以下No.10の世帯では15/18、No.25の世帯では7/8のケースで-致している。現実の店頭におけるブランド選択時での気紛れ行動を想定すれば、よく一致していると判断した。ちなみに、全ての世帯での全ての選択時点の各ブランドの選択確率を合計すれば、実際の各ブランドの選択回数とほぼ完全に一致する。

vol248_12.jpg

  Step4.このモデルとパラメータに頑健性があるか......

 本来ならば、パラメータ推定を行った期間以降のデータを使ってブランド選択を適確に推定することができるかを試すことになるが、今回は用意されたデータの範囲内でその検証を行っている。手順は以下の通りである。

 ①研究対象世帯と同質なA、B2グループに分類する。同質な2グループに分類する為の下準備として、先ず各世帯ごとに最も多く選択したブランドによってセグメントをつくる。

次に各セグメントごとにメンバーの世帯を順にA、B2グループに振り分けて行く。

 ②Aグループのデータ(説明変数と目的変数)を使ってパラメータ推定をする。

 ③AグループのパラメータとBグループのデータ(説明変数)を使って各ブランドの選択確率を計算し、Bグループの各ブランドの選択回数と比較する。

 ④次にグループを代え②、③の手順を実行する。

 以上の手続きによるチェックの結果、推定誤差はマーケットシェアの値の10%程度(タイルの不一致係数は、AからBを推定したケースで0.118、逆のケースで0.116)であった。(図4参照)次に、もう少し丁寧な推定を行ったが、その手続は以下の通り。

 ⑤最初に用意された各セグメントごとに半数の世帯データからパラメータ推定をし、先程と同じ要領で残りの世帯のブランド選択を推定する。

 ⑥推定された各セグメント毎のブランド選択シェアを合計し全セグメントの推定値とする。

 結果は図5に示す通り、推定誤差は1/2に縮少することができ、かなりの推定精度を発揮することが確認された。

vol248_13.jpg

vol248_14.jpg

 以上のステップを経て、今回のこの研究範囲ではブランド選択モデルはかなりの精度で現実のマーケットにおける消費者行動(ブランド選択)を反映していると結論づけるに至った。

 次号では、購買決定モデルのモデル適用結果と今後のモデル改良に関して研究の現状を紹介する予定である。

※「ホームスキャン」はビデオ・リサーチの登録商標です。

                          (消費者分析部  八木 滋)

この記事をシェアする
  • facebook
  • facebook
  • Twitter
  • HatenaB!