エリア別の広告戦略からブランド戦略を読み解く

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広告・マーケティング
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エリア別の広告戦略からブランド戦略を読み解く

最近、エリアデータに関するお問い合わせをよく頂きます。ブランドステータスのエリア差に留まらず、CM出稿に関するお問い合わせも増えてきました。CM出稿は各社各ブランドの事情に合わせて様ざまですが、ブランドステータスのエリア差は、出稿量だけで説明できるものではありません。配荷や販路の問題、地域で商品が受け入れられるかなど多様な要因が考えられますが、今回はブランドステータスとCM出稿をエリア別で比較することで、ブランドのエリア戦略について考えていきます。

ブランドに関する指標は当社「ACR/ex」で年1回、調査対象7地区でそれぞれおさえています。CM出稿量は、従来は東阪名のみで展開していましたが、18年度より視聴率サービスエリア27地区のCM情報サービスを開始しています(全国テレビCMデータ)。これらのCM出稿動向からブランドのエリア戦略をみていきます。

事例として、2018年1−3月の出稿動向から、ブランドステータスの変化を読み取ることでそれぞれのブランドのエリア戦略を考えてみます。

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【全国テレビCMデータ】 【ACR/ex】

■シャンプーカテゴリーのあるブランド場合
①エリアで平等に出稿するブランドAの例
ブランドAのブランド利用(直近3ヶ月)について、18年1−3月のCM出稿の前後で確認しました(図1)。エリア別でみると、出稿前(17年4−6月)の時点では、相対的に東京、札幌、広島では低く、関西、北部九州、名古屋、仙台は高めとなっています。それをCM出稿後(18年4−6月)でみると札幌、広島のブランド利用が上昇しています。一方、名古屋や北部九州では低下するトレンドがみられました。

図1:エリア別ブランドAの17年4月、18年4月のブランド利用率とテレビCMの出稿量

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さらにCM出稿量(18年1-3月、以下すべて世帯データ)を確認してみると広島でやや多いものの、各エリア1,300GRP前後で、出稿量には大きなエリア差はありませんでした。このケースにおいてはCM出稿量とブランド利用の連動が薄いことが読み取れます。

ブランドAの例ではブランド利用のエリア差に関係なく均一に出稿しているようですが、この差に対応し、戦略的に出稿量をコントロールすることで、弱点を克服することが理想です。こうした戦略を立てていると思われるブランドも存在します。次のブランドBはそのような例です。

②エリアで出稿量に差があるブランドBの例
ブランドBの場合、17年のブランド利用率が4%以上の比較的高い地区(関西・東京・仙台・札幌)と3%台の地区(広島・名古屋・北部九州)に分けられます(図2)。

図2:エリア別ブランドBの17年4月、18年4月のブランド利用率とテレビCMの出稿量

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CM出稿量を見ると、17年のブランド利用が低い地区(広島・名古屋・北部九州)では4,000GRP以上の出稿があり、高い地区(関西・東京・札幌)では2,500GRP前後の出稿となり、各エリアのブランド利用に応じて出稿量をコントロールしていることがうかがえます。結果、ブランド利用が低かった広島・名古屋・北部九州でブランド利用が若干上昇しています。一方、ブランド利用が高かった関西では、出稿量をおさえたためかブランド利用は低下しています。

出稿量傾斜をもたせた結果、従来高かったエリアで逆に低下してしまいました。今後は低いエリアの戦略を継続しつつ、従来高いエリアへのケアも必要といえるでしょう。

このように、エリアのブランドコンディションに合わせて出稿量を変えているブランドとそうでないブランドが存在することが、エリア別出稿量の確認から明らかになりました。

■シャンプーに限らないエリア別の出稿戦略差
エリア別に出稿戦略を変えているのは、シャンプーカテゴリーに限らないことがさらなる分析で明らかになりました。すべてのカテゴリーを確認していくことは困難なため、ここでは掃除機とファッションのブランドについて見ていきたいと思います。

●掃除機ブランドCの場合
家電製品は単価も高く買い回りサイクルが長いため、CM出稿が直接的にブランド利用に結びつきづらいことが想像されます。そこで、ブランド利用ではなくブランド認知とCM出稿の関係をエリアごとにみていきます。
17年の掃除機ブランドCのブランド認知は東京・関西で82~84%であるのに対し、それ以外のエリアでは80%と若干エリア差がありました。都市部以外のマインドシェア上昇が課題のようです。

図3:エリア別ブランドCの17年4月、18年4月のブランド認知率とテレビCMの出稿量

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18年1-3月の出稿量をみると、東京・関西とそれ以外のエリアで約100〜200GRPの差がみられます。ブランド認知が最も低かった広島では、出稿量が東京の1.25倍になっていました。

出稿後のブランド認知を見てみると、最も出稿の多かった広島で3.3%伸張、次いで出稿の多い札幌で4.4%伸張しています。出稿の少なかった東京・関西では、概ね17年のブランド認知水準を維持している一方、名古屋・北部九州・仙台では、出稿に関わらず低下しました。ブランドCでは、エリア差を補強するCM出稿戦略が成功しているエリアとそうでないエリアがあるようです。今後、成功していないエリアには出稿量のコントロールをはじめ、何らかの施策が必要そうです。

●ファッションブランドDの場合
ファッションブランドでは、ブランド好意と出稿の関係を見ていきます。
ブランドDの17年における好意率は、名古屋や札幌で他エリアに比べて低い傾向がみられます。一方、関西や仙台では好意率が比較的高く、高いエリアと低いエリアで3~4%ほどの差がありました(図4)。
CM出稿量をエリア別に見てみると、好意率が低めの名古屋・札幌では8,000GRP超の出稿量に対し、好意率が高い関西・仙台では7,000GRP程度と、約1,000GRPの出稿量差をつける戦略です。明らかにエリア差を埋めることを意識しているといえます。

図4:エリア別ブランドDの17年4月、18年4月のブランド好意率とテレビCMの出稿量

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出稿後でその反応をみると、好意率が低かったエリアでは札幌で2.7%伸張するも、名古屋では-0.7%とやや低下、出稿が少なかったエリアでは、関西+1.8%、仙台+4.0%と伸張するという結果でした。このケースでは、少ない出稿量で大きな効果を出せたエリアがある一方、出稿量を多くしても顕著な効果が得られないエリアがあり、課題があることがうかがえます。次期戦略として、好意率が高いエリアの出稿量を維持か抑えつつ、低いエリアの出稿量を増やす検討が必要なようです。

●ブランドステータス×出稿量でみえること
こうした分析から、各ブランドがエリア差に対してどのように考えているのかを類推することができます。今回取り上げた4つのブランドのコンディションを図5にまとめした。ブランドB〜Dのようにブランドステータスや出稿のエリア差が似たコンディションでも、その戦略成否や今後の課題が異なる点は、興味深いです。

図5:ブランドA〜Bの分析知見まとめ

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各ブランドのエリア戦略の捉え方が分析から浮き彫りになりました。競合ブランドのエリア戦略の捉え方を知ることで、自社ブランドの戦略が変わります。例えばシャンプーブランドの場合、競合がブランドAなのかBなのかで自社の戦略は大きく異なるでしょう。ブランドAではそもそもエリア差を問題視していないと考えられるため、弱いエリアに集中出稿を仕掛けることでシェア拡大を狙えるでしょう。ブランドBが競合の場合、従来強いエリアでシェア拡大のチャンスがあります。こうした情報は自社ブランド戦略を立てる上で非常に重要であるといえます。

今回ご紹介したような示唆はエリア別のブランド指標を確認するだけではみえてきません。ブランド指標と対になるCM出稿量を確認することではじめてみえてきます。エリア別の戦略を立てる際、競合の動きは重要になります。競合のエリア別コンディションを確認するだけでなく、エリア別の打ち手(=出稿量)を確認すると、自社ブランドがとるべきエリア施策がみえてきそうです。このようにエリア別データをおさえることで、より精度が高いPDCAをまわしていくことができます。
もちろんエリア差のすべてをCM出稿量で説明することはできませんが、CM出稿の観点から競合他社のエリア戦略を推定し自社ブランドのエリア戦略立案に活かしているケースもあるようです。
CM出稿量は「全国テレビCMデータ(テレビCM速報)27地区データ」により、視聴率調査のある各エリアでデータ化が可能です。もしご関心をもたれましたら、ぜひ弊社営業担当までお声掛けください。

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