ラジオのはなし 聴取率測定編(第5回)

VRDigest編集部
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※本記事は2000年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

~音声比較方式その1

【あなたならどうします?】

 

今月は、いきなり質問からスタートです。

Aさんのラジオのスピーカから何かの番組の音が流れています。もしあなたが、それはどの放送局かを当てるとしたら、どうしますか?(図1)

<方法1>「ラジオのダイアルを読む」

ダイアルという言葉はちょっと古かったですね。Aさんのラジオの選局液晶画面の「ⅩⅩkHz」という表示を見ることで周波数を知ることができます。

<方法2>「局名がアナウンスされるまで待つ」

もしダイアルを見ることが出来ないなら、注意深く、そして辛抱強く、局名が流されるまで待ち続けるという方法もあります。

<方法3>「自分のラジオを使って耳で聞き比べる」

そして3番目の方法として、自分のラジオを使って、Aさんのラジオの音と、同じ放送局を探すのもひとつの方法でしょう。

この他にも番組名を聞き取り、新聞の番組欄で捜す方法もありますが、これは<方法2>に含まれるものとします。

さて、近年ラジオの聴取状況を機械式で捕えようという試みが世界各国で提唱されるようになりました。機械だと何か特別難しい理論があると思われるかも知れませんが、実は今挙げた3つの方法と同様に分類できるのです。

【方法1の機械式手法】

例えば「ラジオのダイアルを読む」方法を機械式測定に置きかえるならば、ローカルピックアップ方式に相当します。この方経では、絶対的な物理量である周波数を知ることができますが、「ⅩⅩkHz」は「○○放送局」であるという知識が別に必要です。最大のメリットはラジオの「聞こえ加減」に左右されない非常に安定した選局状況をリアルタイムで測定できることです。

【方法2の機械式手法】

「局名がアナウンスされるまで待つ」方法は放送局側で「こちらはⅩⅩ放送局です」と頻繁にアナウンスしてもらい、それを機械で聞き取ろうという考えです。最近よく話題になる「すかし(WM:ウオーターマーク)方式」に相当します。他の調査手法と異なるのは、調査システム(装置)を調査会社と放送局の両社で、共同運用しなければならない点です。技術的にも興味深い話題なので、この手法については、あらためてじっくりお話したいと思います。

【方法3の機械式手法】

「自分のラジオを使って耳で聞き比べる」方法は、音声比較(オーディオ・マッチング)という手法そのものです。なお、ここでいう音声とは人の「声」に限定したものではなく、ラジオから流れる楽音や効果音なども含んだ全ての放送音の総称です。また、比較とは、その言葉通り何かと何かを比べ、両者間の類似度を求めることです。

【音声比較方式とは】

「音声比較方式」は受信品位、すなわち「聞え加減」に影響されます。

同じラジオ局の放送音で、一方は非常にクリアな状態、他方は雑音まじりの品位の良くない状態で、両者の類似度を求めてみます。残念ながら思うように点数は上がりません。それでは両方クリアな状態であれば、類似度が100点満点で100点になるかというと、そうでもありません。そもそも100点というのは無いのです。機械の耳では微妙な音の違いも計算過程で現れてしまうからです。

 ですから、例えば77点以上ならば「同じである」と結論づけるしかありません。この判定基準値のことを「しきい値」と呼び、私たち開発者は最適な「しきい値」を決定することに、多大な労力を注ぎます。

 また100点という「疑う余地の無い確定値」が存在しないということは、仮に、しきい値を上回る80点というスコアが取れても、とりあえず候補の全てを最後まで調べてみる必要があります。もしかすると、他に89点というスコアが出る可能性があるからです。全ての候補局と比較しなければならないため、多チャンネル時代になればなるほど、大変になってきます。

【すかしとの違い】

「すかし(WM)方式」も同じく受信品位の影響を強く受けますが、実は全く異質な問題なのです。「すかし方式」では受信品位の良し悪しによって、埋め込まれたIDを「検出できた」か、取出しに「失敗した」かのどちらかになります。うまくピックアップさえできれば(先ほどの類似度的に言えば)100点です。そして、この検出できた瞬間をもって直ちに確定します。つまり100点か0点しかありません。しかし音声比較では中間値を扱います。たとえばラジオ受信状態が悪くて、音声比較による類似度が、最も高い局でも60点、そしてそれ以外の局は全て40点以下だったとします。その場合は「しきい値(77点)」を満たしていないので、「同じである」との結論は下せませんが、いろんな後処理での判定データとして有効です。

 来月号では音声比較をさらに深く掘り下げ、「端末比較方式」「センター比較方式」という区分でお話します。

技術開発部 田中 博

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