ラジオのはなし 聴取率測定編(第8回)

VRDigest編集部
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※本記事は2000年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

~音声比較方式その4

 先月号で相関係数を使った初歩的な音声比較例をご紹介しました。1万分の1秒の時刻ずれでも、かなり影響を受けます。実際には、この影響を軽減するために、いろんな前処理を施すのですが、やはり限界があります。

「どうも、ありがとうございます。」という音声と、これを1秒ずらした「りがとうございます。今後とも」という音声とを比較して「同じものである」と判定するのはやはり無理があります。

【サンプリングとタイムスタンプ】

 カーラジオメータ第2試作機で最も問題になったのがこの時刻同期の問題です。センター施設では、放送波を受信しながら各ラジオ局の音声サンプリングデータを記録します。この時に各データにはⅩ時:Ⅹ分:千分のⅩⅩⅩ秒という時刻をスタンプしてあります。

 一方、調査対象の車両でも同様にラジオの音声をサンプリングしてⅩ時:Ⅹ分:千分のⅩⅩⅩ秒とタイムスタンプし蓄積します。そしてある一定量のデータがカーラジオメータに蓄積されたのち、携帯電話でセンターに送信します。

【タイムスタンプを参照した認識】

 

まず、センターの認識装置は、車両から送られてきたデータのタイムスタンプに注目します。そして、センター側で記録してある、各放送局ごとの同時刻のサンプリングデータを引き出してきて、どの放送局の音声と一番似ているかを調べます。この時の両者のタイムスタンプの時刻精度が高ければ高いほど良好な認識精度が得られることは、容易にご想像いただけると思います。

【電子式時計の精度】

 

つまり、車両内のカーラジオメータに内蔵された時計と、センター設備の時計が高精度で一致していなければなりません。それでは、電子式時計はどのような仕組みなのでしょうか?

キーとなるのは常に正確に一定の間隔で「カチッ・カチッ」つと動きつづける振動部にあります。そして、この振動部は「水晶発振子」と呼ばれる部品で作られます。水晶発振子の弱点は周囲温度の変化です。常に温度を一定に保つために、魔法瓶と電気ヒータを一体にした恒温槽に、この水晶発振子を密閉するのですが、バッテリー能力に限りのあるカーラジオメータでは、常時電気ヒータにパワーを供給し続けることが困難です。そのために時計は(日常生活では問題化しないレベルではありますが)常にフラフラ変動します。

【時刻の同期】

「センター設備の時計と、関東一円を走り回る複数の調査対象車両がすべて精密に同じ時刻の時計を共有することができないだろうか?」これが大きな課題でした。

 もしこれが不可能なら、2枚の紙を重ねて電球にすかして位置をずらせながら、一致する点を探すように、車両からのデータを少しずつ時刻目盛りを前後にずらせながら、センターデータとの一致点を探すという、とても骨の折れるシステムとなってしまいます。その点「音声(端末)比較方式」はその瞬間に、つまりリアルタイムに音Aと音Bが同じかどうかの比較を実行するので、こういった時刻同期の問題はありません。

【GPSを利用する】

 長い試行錯誤の末、たどり着いたのが米国の国防省が管理するGPS衛星を利用することでした。GPS衛星というとカーナビゲーションを思い出される方が多いことでしょう。しかし、位置情報の他にも、原子時計精度の超精密な時刻データも送信しています。センター設備も、複数の調査対象車両も、すべてがGPS衛星の時計を共通の基準時計にすることで両者間で「同じ時刻」を共有が可能になりました(図1)。

 当時は、まだカーナビが一般的ではなかった時代ですから、いろいろ苦労話もありますが、まずは「音声(センター)比較」方式の大きな問題点がひとつクリアーできました。

<補足>

 GPS(全地球測位システム)は,米国国防省が管理する2万km上空の宇宙空間を飛び回る24個の人工衛星を使った測位システム。冷戦終結により民間に無料開放された。

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技術開発局 技術開発部  田中 博

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