ラジオのはなし 聴取率測定編(第9回) ~音声比較方式その5~

VRDigest編集部
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※本記事は2000年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

 首都圏に散らばる各車両端末装置と、東京都中央区入船に設置したセンター設備の関係のように、離れた場所にある複数の時計を常に正確に一致させておくことは大変むずかしいことです。しかし思考錯誤の末、GPS(*1)衛星を使い、これらが皆「同じ時刻」を共有できるようになった事を先月号でお話しました。

*1...GPS(Global Positioning System]全地球測位システム

【位置データも取得】

 しかし考えてみれば、せっかくGPSレシーバーを搭載したのだから、位置も取得することにしました。というより、位置データはデータ量が大きいため受信しても捨てていました。

 なにぶん毎秒単位で、北緯東経の非常に細かい数字が得られるのですが全て受け入れていたら、カーラジオメータのメモリーがすぐにオーバーフローするからです。

(図1-a、b)は2年ほど前の実際の実験データです。築地から新宿まで車がラジオ局No.3を聴きながら移動している様子がおわかりいただけるかと思います。

 位置データは10分間に1データだけをメモリーに残す方法をとりました。音声データは5分間ごとに10秒間サンプリングしました。

 データの回収方法ですが、カーラジオメータのメモリーがある量に達すると、自動的にないぞう内蔵した携帯電話でセンターへ送り出す方法をとりました。

 センターでは24時間体制で、ラジオ局No.1からNo.5までの音声をサンプリングし、ハードディスクに毎日保存してあります。携帯電話で送られてきた車両端末からの音声サンプリングデータはここで、No.1からNo.5のどれに合致するかを計算し判定を下します。

(図1-a、b)の例はこのようにしてNo.3のラジオ局であると判定しました。局データは5分単位ですが、位置データが10分単位なので、地図には10分単位でプロットしてあります。

図1-a

vol385_20.jpg

図1-b

vol385_21.jpg

【時刻同期のもう一つのメリット】

 今まで認識精度の面から、時刻同期の大切さについて書いてきましたが、それだけではありません。センター側が24時間サンプリングする際に、車両と同じく5分間間隔で、初めの10秒間をサンプリングするだけで済みました。

 もし、時計無校正システムであれば各車両の時計のバラツキを考慮して、前後にさらに数10秒もの保険代のサンプリングをしなければなりません。これはとかく肥大化しやすい「音声(センター)比較」方式の欠点でもあります。

 これを最小限に押さえられただけではなく、比較の際に時間を前後にシフトさせ最良点を探す作業が省略できたのは、やはりGPSの導入によるところでした。

【その他の機能】

 カーラジオメータには、この他に乗員情報を入力するハンディボタン入力装置(PMボタンに相当)や、エンジンキーの電圧情報から車両の稼動時間帯を記録するセンサーも搭載しました。これで「ラジオ利用率=ラジオON期間÷車両稼動時間」という指標を求めようとしたものです。

 もう一つは、やはりGPSを使い車両の移動速度が測定できますので渋滞やスイスイ走れる状況下でのラジオの利用のされ方の違いを探ろうとしました。しかし、これはあまりGPSでの速度測定はあまり精度が良くなかったので初期の段階で中断しました。

【わらいばなし】

私達にとってはとても笑えない、開発裏話をひとつご紹介します。テレビ視聴率メータをはじめとする当社の調査測定機では、例えばモデムであっても独自に回路設計を行います。

それが初めてカーラジオメータで既製品を2つ使いました。携帯電話とGPSレシーバー(屋根につけるアンテナ部のみ)です。

 カーラジオメータは、ドコモ201型の携帯電話を内部収納するよう設計していました。ところが試作機が完成した時には、すでに201型は廃品で203型になっていました。固定収納用の受台などの寸法が若干変わってしまい、仕方なく無理やり、しばって固定しました。この時はまだそれほど事の重大さを認識していませんでした。

 そして試作機でデバッグを重ね、社員車両テストのための改良版実験機をした時のことです。なんと携帯電話は205型にまたまた変わっていました。加えて今度はGPSレシーバーがモデルチェンジにあたり入手不可になりました。製造計画・実験計画は大きく減速せざるを得ない事態に巻き込まれました。産業用電子装置に既製品を使うことの恐ろしさを、身にしみて考えさせられました。

【音声(センター)比較の欠点】

 技術上、4つほど問題があることがわかりました。

1)ネット中継時で同音の局は分離できない

2)センターでサンプリングしていない局は、すべて不明になる。その他のラジオというカテゴリーを作ることが出来ない。つまりラジオかCDかテープか一切区別がつかないのでSIU(*2)が出せない。

3)リスク集中型である。センターがダウンすると全てがダウンする。調査が停止する。音声(端末)比較方式だと、現場で認識するので、特定サンプルの脱落はあっても調査全体が止まることはない。

4)走行中に携帯電話でデータ伝送すると、エラー再送率が高くカタログ定格の9600BPSなど現実にはとても期待できない。

 *2...SIU(Sets In Use):調査対象世帯のラジオのスインチが入れられている受信機の割合

 通信がなかなか終わらないから、走行中の電波状況によるエラーの確率がさらに高くなる。そしてエラーが起きて、再送でまた伝送時間が延びる。まるであり地獄でした。いつまでたってもデータを吐き出せないうちに、電波状況の悪い車庫に入ってしまい、数日間も音信不能になるケースがありました。この場合センター側のサンプリングデータを消去できません。何日も保存していると、ついにセンターがハードディスクの容量不足に陥りシステムが円滑に回らなくなってしまいました。

そのほか運用面でも、人様の大切な車に機械を設置する大変さが想像以上のものでした。このように多くの問題を抱えたカーラジオメータですが、移動体測定という新しい分野で、我々に多くのノウハウをあたえてくれたメータでもありました。

技術開発局 技術開発部  田中 博

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