US Media Hot News  米音楽業界に広がる"ナップスター・ショック"

VRDigest編集部
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※本記事は2000年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

 米国では今、インターネット上の音楽配信を巡る問題が大きくなっています。とりわけホットなのは、音楽交換ソフト「ナッブスター」を取り巻く論争です。大規模な海賊版が出回る可能性をもたらしたソフトの浸透は「ナッブスター・ショック」と言われるほどに音楽業界を揺るがし、その波紋は、娯楽産業、メディア産業にも広がっています。

 ナッブスターは、インターネット上のサーバーを通じてユーザーが音楽ファイルを無料で入手できるソフトです。物々交換を基本にしているのが特徴で、ユーザーは自分の欲しいファイルの検索サービスを受ける代わりに、それぞれ手持ちの音楽ファイルを公開する必要があります。ナッブスターのサーバーはいわば「取引所」で、ここには音源が保存されていません。取引所を伸介にして何百万人、何千万人と膨らむユーザーのファイルにアクセスすれば、短い時間で欲しい曲がほとんど手に入ります。

 そもそもナッブスターが生まれたきっかけは、欲しいファイルがなかなか見つからないことに不満を覚え、自前でサイトを作ろうと考えた大学生のお遊びから始まりました。同じ不満を抱く音楽ファンは多く、タダで簡単に好きな曲が手に入るとあって、新しいサービスはわずか一年足らずで普及しました。

 ネット上で音楽を「タダ聞き」することは今に始まったことではありません。リアルオーディオのようなサイトを通じて音楽を聞くいわゆる「ストリーミング」から、MP3と呼ばれる音声圧縮技術を使って楽曲をいったんダウンロードし、再生して聞く方法などが存在します。ただ、ナッブスターの騒動は、あまりの規模の大きさと浸透スピードの速さに業界が慌てた様子です。

 業界はこれまでネット音楽配信を巡るさまざまな変化を、手をこまねいて見ていたわけではありません。全米レコード協会はMP3を開発した"MP3・ドット・コム"や"ナップスター"を相手取り、ソフトの使用禁止や損害賠償を求める訴えを起こしました。一部アーチストも、ソフトを利用するユーザーが多数いる大学などを提訴しています。ただ、論点とされている「誰が法を犯しているのか」ということの線引きが難しく、訴訟の進行に時間がかかっています。

 ソフト配信側は1996年に改定された米著作権法の保護規定を盾に取り、自分たちの身の潔白を主張しています。この法律によると、「悪いのは海賊版を作ったユーザーたちで、サービス提供側には何の責任もない」ことになっています。しかし、ニューヨーク地裁は4月末、MP3・ドット・コムに対して、同社の行為は違法で、賠償金を支払うべきだとの判断を下しました。ナッブスターも「自分たちはプロバイダーに過ぎない」と主張して裁判の取り下げを願い出ていましたが、「保護規定の適用はAOLのような正当なプロバイダーに限る」として、申し出は棄却されました。どうも情勢は新興勢力にとって不利に傾いているようです。

 しかし、これで騒ぎが収まるわけでなく、残る訴訟のすべてに勝ったとしても、音楽協会側の勝利とは言えません。インターネットの世界は無限大です。大学生のお遊びから発展した"ナップスター"や子供のクリスマスプレゼントを探すために始まった"イーベイ"など、日常のささいなニーズを満たすために作ったサイトやプログラムが成長してビジネスモデルや社会構造の変革を迫ることはしばしです。すぐにまた業界を揺さぶる新しい何かが登場するに違いありません。

 迎え撃つ音楽業界は押し寄せる波をブロックするのではなく、その波に乗ろうとする動きが出てきました。音楽レーベル大手のソニー・ミュージック・エンターテインメントは今年4月からデジタル方式でCDシングルのネット販売を始めました。また、ユニバーサル・ミュージック・グループと共同で、契約ベースの音楽配信サービスを開発する計画にも取り組んでいます。ただし、流通業者のことを気にしてか、いずれも課金制のサービスです。これでは無料サービスに太刀打ちできないのが目に見えています。「ネット音楽は無料だ」という概念は半ば常識化しており、料金を支払ってインターネットから音楽ファイルをダウンロードしているユーザーは全体の2%に過ぎないという統計があります。

 そうこうしている間に、新しい技術は続々と開発されています。ナップスターを超えて音楽業界にさらに脅威を与えると言われているのは「ヌーテラ」と呼ばれる交換ソフトです。サーバーを中心とする中央集権型のナップスターと異なり、ヌーテラはねずみ講式にユーザーが増えていく分散型です。履歴データを残せるサーバーが無いためユーザーの利用状況を辿れず、活動をコントロールすることができません。さらに強調すべきは、音楽ファイルだけでなく写真やビデオなど、あらゆる形式のファイルに使えることです。映像といった大量データのダウンロードが一般ユーザーの間でなされるのは先のことだろうと予測していた業界ですが、通信インフラの劇的な改良とヌーテラのような手軽なソフトの出現で事態は急変し、関係者は懸念を膨らませています。

 世間では、こうした問題を解決するには知的所有権の概念を大きく変えることが必要だと言われています。そもそも海賊版が出回るのは、消費者がCDなりビデオなりオリジナル製品の値段を高いと考えていることが前提にあります。同じものを無料で入手できたり、安くコピーできる方法があれば、消費者が飛びつくのは当然の現象かも知れません。

 この5月に、ユニバーサル・ミュージックやタイムワーナーなど大手音楽レーベルは、「小売業者に働きかけてCD価格を吊り上げている」という米連邦取引委員会の追求に対し、値段を下げることで決着しました。音楽レーベルやアーチストが知的所有権を盾に取り、高い値段で販売する時代は終わりにきているのかも知れません。

Video Research USA, Inc.

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