US Media Hot News 米国発 モバイル社会到来前夜 『GPSをめぐる是非』

VRDigest編集部
VRDigest編集部
  • facebook
  • facebook
  • Twitter
  • HatenaB!

※本記事は2000年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

 日本や欧州に遅れて、米国でもようやくモバイル通信が盛んになってきました。都市部では二人に一人が携帯電話を持ち、手の平サイズの小型端末をのぞきこんで何やら操作する姿も珍しくありません。どこからでも電話をかけたり、Eメールをチェックしたりでき、忙しいビジネスマンにとって必携アイテムになりつつあります。

 小型で軽量、どこへでも持ち運べて、操作も簡単。いいこと尽くしの携帯機器ですが、最近になって弊害も心配されはじめています。その原因は、GPS(グローバル・ポジショニング・システム=全地球測位システム)です。GPSとは人工衛星を利用してユーザーの位置を測定できるシステムで、身近なところではカーナビゲーションなどに応用されていますが、「ストーカー行為を招きかねない」などとしてプライバシー保護団体らが眉をつりあげています。

 GPSはもともとアメリカの国防総省が軍事利用のために開発したシステムです。1983年の大韓航空撃墜事件をきっかけに、時のレーガン大統領が民生航空機に用いるよう命令したため、1993年12月、民事利用が解禁となりました。1996年3月に発表したGPS政策では、海外での利用も許可されました。その際に解除を取り決めたSA(セレクティブ・アバイラビリテイ=誤差誘発機能)を計画通り今年解除し、GPSの精度は一段と増して応用範囲が広がりました。

 米国のある運送会社では、GPS機器をトラックに取り付けて、各トラックがどこを走っているか、規定以上の時間を走っていないかなどを監視しています。テキサス州にある保険会社では、ボランティアの自動車にGPSを装着してもらい、保険料を安くする代わりに各ドライバーから走行データを集めています。カーナビはもちろん、ゴルフ・カートに受信機を装備してプレーヤーを支援するといった事例もあり、今後も用途は広がる見込みです。

 最近では、GPS機能を携帯電話やPCSに組み込む動きが盛んです。米ハンドスプリング社からは、カートリッジを取り付けるとGPSやMP3プレーヤー機能などを追加できる商品「バイザー」が発売されています。業界予測ではGPS対応の機器メーカーの売り上げが99年の1億6900万ドルから3年後には3億ドル以上まで増える見込みです。GPSの内蔵コストが現在の20ドル前後から一台当り5ドル程度まで下がり、ネットワーク・ベースの基地局設置は1万ドルから3万5千ドルの間で済むようになると見られ、コストダウンを追い風にGPS搭載の動きに拍車がかかりそうです。

 GPS内蔵の携帯機器は、緊急事態での対応に役立つと歓迎されています。警察署や消防署に110番通報が入った場合、GPSを利用すれば発信人の正確な位置が瞬時に割り出せ、迅速に処置できます。ユーザー自身が知らない場所に迷い込んだ時も、GPSで自分の居る位置を確認して、正しい方向へ進むことができます。

 用途はそれだけにとどまりません。広告業界では今、GPSを利用して多様なマーケティング活動を展開しようと意気込んでいます。相手の居所を把握できる特性をいかして、場所に適した情報をタイムリーに送信しようというわけです。例えば、ユーザーがショッピング・センターにいることをつかんだら、最寄の店の宣伝を流したり、近くでバーゲンを始める店の情報を即座に送ります。店の割引券でも添えればさらに効果は上がり、消費者の購買意欲も増すでしょう。

 実際、モバイル機器ソフト開発の米ビンディゴは洋酒メーカーと提携し、ユーザーがモバイル端末を使ってレストランやバーを検索する度に洋酒の宣伝をしています。さらに、そのお酒を使ったカクテルのレシピを掲載し、どのレストランに行けば飲めるかを案内しています。

 GPS市場の広がりに期待は膨らむ一方ですが、問題も浮上してきています。

 「スパム」がそのひとつです。すでにインターネットの世界ではおなじみになっているように、一度ユーザー情報が流出したりすると、どこからともなく様々なダイレクトメールが送られてきて、メールボックスが屑のような情報で溢れ返ってしまいます。携帯機器を使ってメールをやり取りする場合も同じことで、移動中さえも利用するせっかくの貴重な時間を、無駄なメールの開封に使う羽目になってしまいます。

さらに大きな議論を招いているのは、プライバシーの問題です。

 携帯ユーザーは機器のスイッチをオンにしている限り、技術的には四六時中どこかで誰かに居所を押さえられている可能性があります。年齢、性別、職業、住所、噂好といった個人情報だけでなく、物理的に居る場所を知られているのです。これでは、誰でも他人から追い掛け回される状態になり、最悪の場合にはストーカー行為にまで発展しかねないと、警告する声もあります。

 もちろん、プライバシーを守る条例は存在し、1999年に制定された「ワイヤレス通信と公衆安全に関する法」で、ユーザー本人の承諾なしに、居場所を情報として流すことを禁止しています。自動車大手の米ゼネラル・モーターなどは自社でガイドラインを制定し、カーナビなどにより集めたドライバー情報を他社と共有しないと決めています。

 しかし、個人情報は巨万の富が潜むとされる市場です。プライバシー保護団体が「抜け道はいくらでもある」と反論する通り、数多くの新興企業があの手この事でチャレンジを重ねることでしょう。来るべきワイヤレス機器時代に向けて、これからどのようにプライバシー問題をクリアし、収集した個人情報をどのように有効利用していくかをじっくり検討していく必要がありそうです。

                                  Video Research USA, lnc.

この記事をシェアする
  • facebook
  • facebook
  • Twitter
  • HatenaB!