ラジオのはなし デジタル概論編(第3回)

VRDigest編集部
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※本記事は2000年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

 さて今月はデジタル概論締のまとめです。

【デジタルとアナログのまとめ】

 私は『デジタルだからきれい・美しいという事ではない』とお話してきました。しかし『アナログの方がきれいだ』というつもりでもないのです。最後にこの理解しにくい部分を、もう一度考えてみます。

 大阪にすごくおいしい秘伝の料理を食べさせてくれるお店があったとします。出されたその料理を、その場で舌戦を打ちながら食べろ。これがアナログです。一方デジタルはこの料理をある瞬間において数字化したものです。

 つまり表面温度ⅩⅩ度、内部温度ⅩⅩ度、成分は○○がⅩgで△△がⅩg、□□がⅩgというように数字化したものがデジタルなのです。

 でもここで考えてください。ウエイターがこのようなレシピというか、成分分析表のようなものをお皿にのせてテーブルに運んできても私達はそれを食べられないのです。人間の舌が旨味を感じ、それに満足するにはアナログに戻さなくてはいけないのです。

 また、料理の香りや見た目も人間にとっては重要な要素です。香りの化学分析表の数値を見せられても、色成分や形状の数値を見せられても、ちっとも食欲はそそられないでしょう。

【デジタルは最後はアナログに】

 ひとつ目のポイントは、機械と機械はデジタルだけでコミュニケーションできますが、人間には(デジタルを)元のアナログに戻してやらないとコミュニケーションがとれないということです。

たとえば、色や輝度情報のデジタルデトタをブラウン管や硬晶画面ヤプリンターなどで、人間の目に訴えられるようなアナログ(この頃合は光)に戻してはじめて価値があります。

 また、音の周波数成分や振幅情報の数値(デジタル)をスピーカーなどで人間の耳に聞こえるようにアナログ(この場合は音波)に戻して初めて電話の声や、ラジオの番組の音として我々の聴覚に情報を伝達されます。

 デジタルテレビを買っても、我々人間はデジタルで視聴しているのではありません。テレビの最終部分の電子回路で光(番組画像)や音波(番組音声)というアナログに戻しています。

 これを念頭に、先ほどの料理の話に戻りましょう。

 ウエイターがお皿に、数値データを乗せてテーブルに運んできたところでしたね。ここで別の料理人がさっと登場して、お客さんのテーブルの横で、数値データを解読しながらもとの料理(アナログ)そっくりに調理復元してくれました。これでめでたくお客さんは秘伝の料理を楽しむことが出来ました。

【デジタルは近似値】

 ポイント2は、デジタルはアナログの近似値でしかない。ということです。

 今の例でわかるようにお客さんの食べた料理は、厨房で凄腕料理長が完成させた料理のある瞬間を数字化してたサンプリングデータ(デジタル)を基にしたものであるため、どれほど忠実に料理長の料理を数字化できているかが重要です。いままで連載で書いてきた『美しいデジタル』とは大量の分析項目でこの料理を数値化したデジタルです。どこまで詳しく数値化するかはそのレストランの経営方針ですから高品位のデジタルもあれば低品位のデジタルもあるのです。

【デジタルはアナログを超えられない】

 ポイント3として、デジタルはアナログ以上に高品位にはならないという事実があります。

 なぜならアナログはサンプリングされる対象(真備)であり、デジタルはそれをサンプリンタした近似値ですから絶対に、デジタルはアナログを上回らないのです。厨房で凄腕料盤長の料理をどれほど膨大な量のデジタル化を行っても、それを客席では100%同じ料理に復元できないのです。なぜならデータがサンプリング(飛び飛び)だからです。必ず欠落する隙間があります。

【デジタル化の必要があったか?】

 それではこのレストランでデジタル化する意義はあったのでしょうか?

「厨房(アナログ)→ウエイター(デジタル)→客席(アナログ)」もともとアナログだった料理をわざわざデジタル化して運び、それを客席でもう一度料理してアナログに戻すメリットはないのです。アナログのまま厨房から客席に運べば、それがまぼろしの秘伝料理を一番おいしく頂ける手段のはずです。

【いよいよデジタルの出番】

 ではここで、この大阪の秘伝料理を東京で待つ家族にも食べさせようと持ち帰ることにしたらどうでしょう。レストランから自宅向かう途中で料理は冷めるし、硬くなり、味はどんどん低下していくことでしょう。こうして離れた場所に持って行くことを電気の世界では『伝送』と呼びます。大阪一束京を伝送する途中で、料理が冷めたり、ホコリをかぶったり、形が崩れたりするように、アナログは伝送中にさまざまな劣イヒを受けます。伝送の世界ではデジタルは非常に優秀です。先月号で書いたようにデジタルは「1と0」で表現します。マークシートでいえば黒く塗りつぶした項目が1。白のままが0です。多少ホコリをかぶり、カードが灰色になっても白だったか、黒だったかを判定できれば、完壁に大阪―束京間を一切の劣化無しに送れます。そして東京の自宅で再度アナログに戻して、すばらしい料理に舌鼓を打てるのです。一方、アナログで東京まで持ち帰った料理は、不味くて箸を付けれらたものではないかもしれません。

【さて謎解きです】

 デジタルなら一切の劣化無しに送れました。伝送において俄然その強みを発揮します。よく考えてみましょう。

 大阪のレストラン内で食べるならば、アナログの方がおいしかったはずです。それが、伝送によりアナログが品位を著しく落としたので、結果的に(東京では)『近似値であるデジタルの方が、真値が崩れたアナログよりはおいしかった』のです。これが今月の冒頭で書きました、『デジタルだからきれい・美しいという事ではない』しかし、『アナログの方がきれいだ』でもないということです。

【伝送での実際の性能】

 私達の身近にある『伝送』の最たる例が、放送や通信です。電波を使った伝送でデジタルとアナログの品位は【図1】~【図4】のどれが正しいのでしょうか?

 横軸は電波の強さ、縦軸は品位とします。一番電波が強い時を100として、この時一番品位が良く100とすると、アナログは電波が弱くなると共に、品位も低下していきます。デジタルは果たしてこの4つのどのグラフになるのでしょうか?

 それでは解答です。

vol389_15.jpg

まず、【図3】は同じ傾きのまま上方にスライドしたグラフです。これは、従来のアナログでアンテナだけを高性能なものに交換した場合です。

 また、【図2】はアナログ同志でも伝送手法の異なる場合に起きる違いです。

 さて、正解は【図1】です。1か0かを判定できるレベルまでは、完全に劣化せずに伝送できます。しかし判定がつかないほど汚れてしまうと、完全に見えなくなります。

【伝送上の損益分岐点】

 この図1を良く見ると途中で逆転しています。画面がゴーストだらけでも、外国電波が混信していても、電波が弱くてザラザラしたスノーが出ていても、アナログは目を細めたり我慢すれば(品位は別にして)見られるのです。アナログとデジタルにはこのように逆転するポイントがあります。この逆転ポイントは避け難いものですが、少しでも図上で左の方へ移動させるよう技術研究が盛んです。

【それでもデジタル】

 いろいろデジタルの紹介されにくいマイナス面も書いてしまいましたが、それでもやはりデジタル化は今後も進むことでしょう。なぜならば、アナログは『生もの』だからです。目の前をさっと通り過ぎ、どんどん過去に消え去っていくため、サンプリングにより数字化(デジタル化)する以外再利用できないからです。そして、数字化(デジタル化)がこれからのIT社会との結びつきだからです。

 今、デジタルのメリットを高品位・多チャンネルというような過去の物差しでの比較ではなく、従来アナログでは出来なかった新しいジャンルの物差しで語られはじめています。

 デジタルには新しい文化を創造するパワーが秘められているのではないでしょうか。

                             技術開発局 技術開発部  田中 博

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