US Media Hot News 盛り上がりに欠けた 米国でのシドニーオリンピック放送

VRDigest編集部
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※本記事は2000年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

 ミレニアム(2000年)を飾る記念すべきシドニー五輪が歓喜に包まれて幕を閉じました。日本勢では高橋尚子選手が陸上競技界初という女子マラソンでの金メダルを獲得し、地元に駆けつけた応援団は

もちろんのこと、テレビの前にくぎ付けになっていた視聴者やその他大勢のファンを沸かせてくれました。

 米国勢は今回のオリンピックでも国別のメダル獲得数で一位となり、相変わらずの選手層の厚さと強さを見せつけてくれました。毎晩、ニュース速報で各選手の快挙が報じられ、メダル獲得レースで常に先頭を走りつづける様子が知らされました。しかし、これだけ魅力ある大会となったにもかかわらず、米国では今回の五輪ほど盛り上がらなかった年はないというのが正直な感想です。実際、全大会を通じての視聴率は13.8%で、1968年に開かれた五輪以来過去最低という輝かしくない記録を作りました。

 盛り上がりに欠けた原因は、今回の五輪の放映権を握っていた全米ネットワーク局NBCの報道スタンスにあったと言われています。

 NBCのスポーツ専門局で陣頭指挿を取るディック・エバーソル会長は、「五輪報道にドラマを」という考え方の持ち主です。しかし、この"ドラマ"というのは「草野球は筋書きの無いドラマ」と表現されるように、「スポーツ競技は必然的にハプニングのドラマ性を秘めている」ということではありません。五輪報道は単純に試合を中継するのではなく、出場選手の横顔や種目に関するバックグラウンド情報を提供しようというのがエバーソル流のドラマの考え方です。こうした主義に、米国とオーストラリアを隔てる半日以上の時差が加わったため、放映は録画したものばかりとなり、視聴者から大変不評を買いました。

 にもかかわらず、番組シーズンの入れ替え時期に当たったためかオリンピック放映は他局の番組よりも高視聴率を維持できた上、早期から黒字が見込めたことで、NBCは録画放映を最後まで貫きました。

 今後も、放映権を握っている2008年の大会まで録画放映を続けるつもりで、2002年の冬季五輪は生中継と録画の両方、2004年のアテネ大会は時差を考慮して再び録画報道のみに徹する計画です。4年に1度の世界的イベントを生中継せず、何時間もあとで録画を見せる―――頑固なまでのNBCの姿勢に不満の声は多いのですが、ある意味では正しい選択かもしれません。

 今や時代はインターネットです。レース結果はパソコンのマウス操作ひとつで簡単に手に入ります。情報は時差に関係なくリアルタイム。ストリーミング技術の発達で映像もテレビと同じように流せる日が来ています。

 こうした時代の流れを踏まえ、かつて新聞がテレビ報道の脅威をかわすために内容に厚みを加えて付加価値を高めたように、テレビも加工した情報を流そうという方針をNBCは試みているのではないでしょうか。いつまでもテレビ全盛の過去にとらわれず、メディアの未来を見据えた賢い方策と言えるかもしれません。

 さて、報道スタイルはともかくとして、オリンピックの放映権料の巨額ぶりには驚かされます。米国ではスポーツ番組の放映権を巡り、各局が激しい争奪戦を繰り広げるため、権利は高騰し続けるばかりです。

今日プロ・フットボール(NFL)の試合やプロ・バスケットボール(NBA)の試合中継は特に人気があって、億ドル単位のお金が動きます。

 今回のシドニー大会に、NBCは6億3300万ドルを払いました。2008年までの五輪放映権もひとまとめで確保しており、その金額はおよそ35億ドルと見られています。

 放映権の値上がりもさることながら広告料の上昇も顕著で、80年代に比べて広告レートは平均500%上がりました。しかし、広く全世界へ向けてブランド名をアピールできる折角のチャンスを逃す手はありません。コカ・コーラは今大会に5500万ドルを注ぎ込んで、広告・宣伝活動を展開したという話です。急成長しているスプリントPCSやAT&Tワイヤレスなどモバイル通信関連企業も積極的にコマーシャルを打ちました。スポンサー企業は今後の大会における広告枠の確保に動いており、2年後の大会ですでに55%、アテネ大会では25%の粋が埋まっているそうです。

 視聴率の良し悪しを議論する米国内の声をよそに、オリンピック開催地のオーストラリアでは、"五輪特需"に喜びの悲鳴を上げていたようです。この3カ月だけでも、チケット販売やスポンサー料でオーストラリアの国民総生産(GDP)を推定1%押し上げました。今年を挟んだ前後1~2年の間に、新規雇用の創出や観光売り上げの増加により合計36億ドルの収入が見込めるという試算もあります。オリンピックの余韻が残るオーストラリアへの観光客も増えると予想され、向こう4年間で100万人以上が初めてオーストラリア大陸に足を踏み入れる見込みです。また、オーストラリアドルの急落が米ドル建ての旅行に割安感を与えており、一部では「オーストラリア旅行は今がチャンス」との認識が広がっている様子です。

 為替変動で得をしたのは観光客ばかりでなく、オーストラリア政府も思わぬボーナスを手にしました。放映権の契約を米ドルベースで結んでいたため、権利料が自動的に約2800万ドル債上がりしたのです。

 モントリオール大会やバルセロナ大会など五輪で赤字を出した国も多い中、控え目に「収支トントン」を目標にしていたオーストラリアは予想以上の結果を上げ、黒字を計上できたようです。また、NBCでも収益面では数百万ドルの黒字になったと明かしていますが、「視聴者のための報道」という観点からは盛り上がりに欠けるシドニー・オリンピックでした。このことは、今後の放送スタイルに課題を残したと言えるようです。

Video Research USA, lnc.

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