ラジオのはなし デジタル概論編(最終回)

VRDigest編集部
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※本記事は2000年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

 しばらくデジタル概論編で寄道してしまいましたが、今月号では「測定編」で触れなかった、新しく提唱されているラジオ聴取率測定手法について、まとめてご紹介します。

【協力に頼る機械式】

 テレビ視聴率測定にはない、ラジオ聴取率測定の難しさは何でしょうか?私は対象者が接触する全てのラジオ番組を測定しなければならない点ではないかと思っています。

 例えば、昼の定食屋で聞いたラジオも、タクシーに乗車した時に流れていたラジオであっても測定対象にしなければなりません。これは世の中に存在する全てのラジオに聴取率測定器を付けることを意味します。

 しかし、現実にはそんなことは出来ないのですから、残された方法は調査対象者の側に測定器を取付け、その人が接触したラジオ番組を記録するしかないのです。ここに問題があります。たとえ人間の体に測定器を埋込むことが技術的にクリアできても、社会の常識としては到底受け入れられないことだからです。ましてやランダムサンプリングに基づく統計調査ですから、なおさら困難です。

 さて、テレビ視聴率調査では「日記式」「機械式」という言葉に、日記式は人の記憶に頼るが、機械式なら正確といった一般的な認識があります。ラジオではこの意味で言うところの「日記式」と「機械式」の中間に相当する「人の協力に頼る機械式」という新しいジャンルの研究が盛んです。

【携帯型音声認識】

 一口でいうと、以前ご紹介しました当社のカーラジオメータの超小型版です。マイクロフォンで周囲の音を電子録音しメモリーします。一方でセンターでは全局の24時間音声をデーターベースとしてマスターメモリーに蓄積します。

 調査対象者の電子録音装置は1~2週間ほどの調査期間終了後センターへ現物呵収するものや、携帯電話機能でオンライン回収するものが提唱されています。回収されたデータは、センター内のマスターと音声認識をします。

 この方式でキーとなる技術は、ラジオ音声に限らず周囲の環境音をすべて電子録音する際に、電子録音する際に、いかに認識精度を落とさずに音声特徴を的確に把握したより小さなデータで保管するかでしょう。問題点はカーラジオメータと同じく、ネットワーク配信される同時同音局を分離できないことにあります。そして当然のことながら、マスターメモリーがなければ認識できないことです。これは多局化が進行すればするほど、(技術的にも、経済的にも、またリスク管理上も)センター側の負荷が大きくなることを暗示しています。

 それら以外にもマイクで周囲音をピックアップする方法であるがゆえに、イヤホン式の通勤ラジオ等には適用できません。

【携帯型IDデコーダ】

 同じくマイクロフォンを搭載した小型装置ですが、放送局側で放送音にIDを埋め込み、スピーカーから流れてくる放送音の中から、そのIDを解読しようとするものです。

 放送音の極狭帯域部分だけを無音になるよう削り取る模様でコード化したり、耳には聞き取りにくい超高音部にうっすらとコードを重畳する方法や、音声電子すかし(脚注参照)を用いて、人間の耳には知覚できない方法などが提唱されています。

 この方式ではIDの埋込み技術ばかりに目が行きがちではありますが、従来の調査会社だけで完結する調査手法ではないため、運用面P研究は非常に重要だと思います。

 また、マイク式であるためイヤホンラジオに対しては、先ほどの携帯型音声認識と同じ悩みがあります。

【携帯型電子日記】

 2年前に発表しました当社のPDD(ポケット・デジタル・ダイアリー)がこれにあたります。あくまで日記式です。

 日記式と機械式の中間というよりも、限りなく日記式に近いといえますが、日記の良さを残しながら、聞き始めと聞き終わりにボタンを押すだけで時刻は自動記録します。

 問題点としては、局リストを表示しその中から選ぶため、多局化には対応しにくい点や、電子機器の苦手な人や、年配者への使い勝手の配慮(ユーザーインターフェース)が十分検討されなければ実用には適さないという点が挙げられるでしょう。今後さらなる研究・改良が必要です。

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【最後に】

 ざっと大急ぎで新しい「人の協力に頼る機械式」についてご紹介しました。いろんな新しい方法がこれからも提唱されることでしょう。ですが、基本系はこの3つの手法に集約されるものと思います。

 さて、今月号をもって「ラジオのはなし」を終了させていただきます。

 2.6GHz帯のサテライトラジオやインターネットラジオの話題、短波や長波ラジオのことなど、とうとう触れられずじまいでした。

 また、あらためて筆を執る機会もあろうかと思います。どうぞお許し下さい。

 長らくご愛読いただきましてありがとうございました。

 <脚注>音声電子すかし

 最近、『電子すかし』(ウォーターマーク)という言葉を良く耳にされることと思います。コピープロテクションや著作権管理の分野での研究が盛んです。

 一番身近な例は、BSのように日本国外へ電波が漏れ出る放送では、番組画像の右上コーナーに半透明の局名マークを刷り込んでいますね。これは『見えるウォーターマーク』と呼ばれるものです。『見えないウォーターマーク』より不正利用への抑止力があるといえます。

 しかし、ここで話題にしているのはラジオですから『聞こえないウォーターマーク』つまり『音声電子すかし』です。この背景技術は「マスキング」です。

 パチンコ屋から外に出た瞬間、耳が詰まったような、良く聞こえない状態になった経験はありませんか?

 人間の耳は大きな音の直後は一瞬耳が遠くなります(もちろん時間の経過により直ぐに回復します)。これを「時間軸方向のマスキング」と呼びます。

 もうひとつ「周波数軸方向のマスキング」があります。非常に周波数が近い(高低が近い)音は隠し込まれて聞こえないという現象です。

 マスキングとは、耳の鼓膜は確かに揺さぶられ、届いているのに、脳が知覚できない(つまり聞こえない)現象です。

 これらをまとめてサイコ・アコースティック(心理音響)と呼び」MPEG-AUDlOでも圧縮の際に「どうせ聞こえないなら捨てても大丈夫だろう」と高圧縮レートの実現に利用されています。『ウォーターマーク』の世界ではどうせ聞こえないのだから、コードを入れても大丈夫。という発想です。

技術開発局 技術開発部 田中 博

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