US Media Hot News 「AT & Tのサバイバル・プラン」

VRDigest編集部
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※本記事は2001年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

 20世紀後半、タイム・ワーナー、クライスラーなど、米国を代表する主要産業の巨大企業が、M &Aにより次々と名前が変わっていったことは記憶に新しいことと思います。

 業界を支配し、財力や名声を欲しいままにした優良企業ですら、オートメーション化やインターネットといった技術革新の波に打ち勝てず、過去の輝きを失っていきました。かつて、唯一の長距離電話会社として業界に君臨したAT & Tも例外ではありません。他社による買収や合併から逃れはしましたが、昨年10月25日、自社を4分割するリストラ案を発表しました。その後、リストラ計画は着々と進んでおり、ベビー・ベル(GTE、ベライゾンといった地域電話会社)分割以後、独走体制を敷いてきた123年の歴史の幕を、今閉じようとしています。

 巨大企業AT & Tのフィナーレを指揮しているのは、3年前に就任したM・アームストロング会長兼最高経営責任者(CEO)です。IBMやヒューズ・エレクトロニクスを渡り歩き、「米国が誇る偉大な経営者の一人」として賛辞を浴びる同会長は、AT & Tで残された"最後の偉業"を成功させるべく、昼も無く夜も無くリストラ計画に取り組んでいます。

分割案の発表から約4ヶ月同社の株価は業績不振などを理由に低迷していますが、通信業界の流れを見据えた勇気ある決断であるという評価も挙っています。

 AT & Tが進めている分割案は、全体を「ブロードバンド」、「ワイヤレス」、「ビジネス」、「コンシューマー」の4部門に分けるという内容です。それぞれにAT & Tの名前を冠しますが、4つは独立した別会社となります。

 AT & Tブロードバンドは、ケーブル事業を受け継ぎ、業界最大手の地位を維持しながら、約1600万人の顧客に高速ネット疲続やケーブルテレビのサービスを提供していきます。売上高は83億ドル(2000年実績)と4つの中では最も小さな部門ですが、技術力やマーケティングカから見て、AT & Tの名を語るのにふさわしい優良部門です。目下のライバルはAOL・タイムワーナー。また、ケーブルテレビ事業に再度挑もうとしている"ベビー・ベル"も手強い相手になりそうです。

 AT & Tワイヤレスは、携帯電話サービスや無線データ送信が主力の成長セクター。部門売り上げは103億ドルで前年に比べて35%アップと、業界平均をはるかに上回る躍進ぶりを見せました。向かう敵は多く、海外企業も入り交じり混戦模様になりそうですが、成長市場だけに新規ユーザーを多数獲得して、ますます飛躍できそうです。資金面でも、新規株式公開(IPO)で巨額を得、NTTドコモからの出資も取り付けて準備は万全です。ただ、従来のネットワークより高速で信頼性の高い「第3世代(3G)」と呼ばれる技術は、ハード面の不備や必要性の有無といった点から・疑問視されはじめており、過剰投資は禁物です。

 AT & Tビジネスは、チッカーシンボル(株式取引における略称)といったAT & T本体の屋台骨を引き継ぎます。法人向けサービスは儲けが多く、売上高は約292億ドルと社内で4割以上のシェアを占めています。しかし、長距離通信サービスの競争激化で、前途は多難な兆しです。

 ビジネスに次いで大きなセクターから成るAT & Tコンシューマーも、長距離通信サービスやベビー・ベル参入の脅威の前に先行き懸念が広がっています。

 分割を決定した背景の一つには、長距離通信サービスの不振があります。米連邦通信委員会(FCC)が、異業種の参入や地域電話会社との相互乗り入れといった規制緩和を推し進めたことで過当競争が進み、業界そのものが地盤沈下しています。ブロードバンドやワイヤレス市場の急成長について行くため、個々の事業にあった経営が必要になってきたことも一因です。

 巨額の負債を抱えてリストラ益をひねり出す必要に迫られた台所事情もありました。アームストロング会長の目利きでAT & Tを「ただの電話会社」から脱皮させるために買収したテレ・コミュニケーションズ(TCI)とメディア・ワンですが、両社合わせて1050億ドルという金額は財務内容を大きく圧迫しました。同社の株価は今年に入って一株16ドル台まで下落し、資金繰りは悪化しました。

 音声、データ、携帯電話、ケーブルテレビ、インターネット、動画像などブロードバンドを一手に担うサービス会社に変貌を遂げつつあったAT & Tですが、予想外に速く進行した長距離電話サービスの地盤沈下で債務返済の計画が狂い、「このままでは行き倒れになる」と判断したアームストロング会長が大きな賭けに出たわけです。

 周囲には「株式市場第一主義」といった批判や、180度の戦略転換を悲劇的にとらえる声もありますが、会長は「正しい決断だった」と言い切ります。会長によれば、ブロードバンド企業とは必ずしも一社で全サービスを提供する「ワン・ストップ型」を意味するのではありません。AT & Tではケーブル回線をデジタル化したネットワークを持ち、電話、テレビ放映、インターネット接続などに利用しています。ワイヤレス網も域内サービスと域外サービスの両方を提供できます。これが事実上のブロードバンド企業で、AT & Tは他社に先駆けて到達済みなのです。

 リストラ計画は順調に進んでおり、予定通り2002年末までには完了する見込みです。気になるのはその後ですが、当面はいったん流出してしまった優秀な人材を再び確保したり、互いのテリトリーを確

認したりといった作業に追われそうです。巨人AT & T時代に、魅力を放ったストック・オプションやスケール・メリットといった武器がなくなりますが、ミニチュアAT & Tは身軽になって、自力で道を切り開いて行くものと思われます。

Video Research USA, Inc.

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