デジタルメディア教室(5)~次世代放送技術~

VRDigest編集部
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※本記事は2001年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

今年4月、総務省から「次世代放送技術に関する研究会報告書」がリリースされています。この報告書は、「次世代放送技術に関する研究会」(座長:鳥羽光俊 国立障報研究所情報メディア系研究主幹 平成12年6月より開催)において、情報通信技術の発展動向を踏まえ、10~15年彼の次世代放送システムのイメージとその実現に必要な研究開発要素、標準化等の課題について検討された結果がまとめられたものです。

(総務省HP:http://www.mpt.go.jp/pressrelease/japanese/joho_tsusin/010412_2.html)次世代放送システムでは、家庭内に設置する据置型のハイパービジョン、個人が常に持ち歩く携帯型のハイパーエージェントという2種類の受信機を想定して、「いつでも視聴」「どこでも視聴」「誰でも容易に操作」「好みの番組を視聴」「リアリティある映像と音響」「多機能受信機」の実現を目指すといった方向性が示されています。

据置型であるハイパービジョンの特長についてみると、4000時間規模の番組蓄積機能とその録画番組の自動選択、エージェント機能等が目標とされていますが、何よりもまず4000時間という規模は特筆に値するかもしれません。

乱暴な計算ではありますが、4000時間といえば、一般世帯の平均家族人数を2.5人、個人の1日当たりのテレビ平均視聴時間を3.5時間、家族全員が全く別の番組を見るとしても、その世帯の1年間のテレビ総視聴時間を軽く上回ります。

チューナーの積み方(同時間帯の番組を何チャンネル分録画することが出来るか)次第で、その魅力度は異なりそうですが、放送のタイムテーブルに関係なく「見たい時に、見たい番組が見られる」ということが『当たり前』となった時には、生活者のテレビ視聴行動というのも大きく変わりそうです。

このような話を見聞きするにつけ、「今後テレビはどうなっていくのだろう?」ということは当社としても非常に気になるところです。

さて、このようなテレビの高機能化については、技術的可能性、そこでビジネスを展開する関係各社の思惑、そして生活者の受容態度といった部分で、なかなか「未来予想図」が描きににくい状況です。特に普及予測では、そのようなテレビの高機能化に対して、生活者にどのような範囲(スペックやコスト,タイムスケジュールなど)で選択権があるのかわからない、といったことが予測を不透明にしている点として指摘できるでしょう。

また、これから数年にわたる放送のデジタル化の移行期においては、テレビの「標準的なスペック」が実質毎年のように世代交代していく可能性があります。そのようなことを踏まえると、デジタル放送の普及は単純な累積値ではなく、ことと次第によっては一定量の普及とそのリセットで考えざるを得ない事態になることも想像に難しくありません。

そのような時に問われることは「そもそもテレビとは?」という極めて素朴なことであるような気がします。

例えば、BSデジタル放送では、画質・音質の向上、データ放送、双方向機能が実現され、デジタルハイビジョンの美しさや番組に直接参加する興奮など以外に、そこで視聴者が体験した「これまでのテレビにはない驚き」の中には、「テレビが固まる」という現象も含まれるのではないでしょうか。「フリーズ→強制終了→再起動」ということは、パソコンの世界では日常でありますが、テレビの世界では『非日常』といえるでしょう。これもデジタル放送のチューナーが実態としてパソコンそのものという常識に照らせば、ある意味やむ得ないことであり、実際BSデジタル放送では、そのようなことは「了解済み」の視聴者も多いと聞きます。

しかし、今後テレビ受像機がデジタノ叫ヒしていく中で、生活者の意志とは直接関係なく高機能化していった場合、例えば「フリーズ」にどう対処すればよいのかわからない視聴者が、相当数出現する可能性は否定出来ないように思われます。そのようなことを考えると、テレビを家庭の情報端末の中心に位置づけようとする発想でよく言われる「パソコンを使いこなすことに不安のある人でもテレビなら」というコンセプトには、やや無理がありはしないだろうか?ということは冷静に問い直す必要があるのではないでしょうか。

やや、次世代デジタル放送システムに対してネガティブな論調を展開してしまいましたが、「技術」の進歩は非常に早いので、「フリーズ」しないような仕組みであったり、高機能化しても「直感的操作性」を保つ仕組みなどは、思いの外早く実現されることかもしれません。また、デジタル放送を視聴するために生活者が負担するコストというのも、新しい技術や部品の量産効果によっては、今後取り立てて割高なものでもなくなる可能性もあります。

そういった意味では、デジタル放送がそのシステムとともに「自ずと普及する」というシナリオを

描くことは出来ます。

しかし、注意しなければならない点として、そのように「物理的な障壁」が取り除かれたとしても、生活者がそのメディアの特長を自覚的に理解していなければ、そのメディア本来の成長はおぼつかない、ということがあるのではないかと思われます。それは、例えば、多くの携帯電話ユーザーが503iシリーズの携帯電話を持っていても、通常通話にしか使ってくれなければ、iモードのある部分のビジネスモデルは壊れてしまう、そういうことも起こりうるということです。

メディアにおいて、生活者がハードを使いこなす「情報リテラシー」、メディアに求める機能や気分が「合意されていること」は不可欠です。そういった意味では、生活者から見た現在の各種メディアの価値や使いこなしを把握していくことと、各メディア業界の生活者に対する啓蒙活動とのその評価・反応を追跡することは非常に重要と考えられます。

 当社でもそのようなことをふまえつつ、生活者研究を行っていきたいと考えております。

メディアマーケティング局 デジタルメディア部  石松 俊之

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