デジタルメディア教室(13)~『ADSLテレビ放送』~

VRDigest編集部
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本記事は2002年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

■ブロードバンド時代の幕開け

昨年は、有線ブロードバンドが100MbsのFTTH(Fiber To The Home)サービスを、ヤフー・ジャパンが低価格なADSLサービスを開始するなどまさに「2001年はブロードバンド元年」の年であったと言えるでしょう。そして、2002年の今年は、ADSLサービスの価格が充分に下がってきているため、ブロードバンドの世帯普及は順調に伸びるものと思われます。ADSLは光ファイバーまでのつなぎのインフラとも呼ばれていますが、低価格化に伴い、着実に普及してきております。契約者数は昨年末で150万、今年の12月末までに200万を超えるとも言われています。

ただ、日本においてはADSLに加入しても、まだ動画系のコンテンツが豊富には揃っていないため、ブロードバンドを充分に享受できる環境にはなってはいません。しかし、テレビ局のブロードバンド事業への参入や、WOWOWやスカパーによるブロードバンドによるオンディマンド・サービスが予定されていることより、今後は、ADSL、ケーブル、FTTHなどのインフラが進むと同時に、動画コンテンツも徐々に揃い、両者の相乗効果的により、利用者も増えていくものと思われます。2002年は、"ブロードバンド離陸の年"、-ブロードバンド時代の幕開けの年になると思われます。

■ADSL放送 - Kingston lnteractive Television

 ブロードバンド化、すなわち伝送路の帯域が広がることは大量な情報をスムースに送れるため、映像コンテンツなどを、オンディマンド型、リアルタイム型の両方で提供できるようになります。日本では、まだこのブロードバンド(ADSL、FTTH)を通じて、テレビ番組を見ることはできませんが、ADSLの普及の高い韓国では、前日のテレビ番組がネット経由で見られるサービスが始まっています。また、英国の一部の地域では、すでにADSLモデムを通じて、PCではなく既存のテレビ画面で、通常のテレビ放送が見られるサービスが始まっています。

 ロンドンから電車で約3時間のほどのところに、Kingston-upon-Hull市(ハル市)という約18万世帯の町があります。ここの地元電話局であるKingston Communicationsが、BT(British Telecom)より一足早く、ADSLを使ったブロードバンド放送を開始しました。同社は、Kingston Interactive Television(KIT)という子会社を作り、1998年よりブロードバンド放送の実験を開始し、2000年1月には、BBC、ITVなどの地上波アナログの再送信サービスを有料で開始しました。また、同年3月、BskyBのデジタル・チャンネルのサービスもスタートさせ、その年の10月には60チャンネルの再送信サービスを開始しており、2001年9月には、契約数は3万世帯までに広がっています。

このKITのシステムはとてもシンプルなもので、ADSLモデムの他に、専用のSTB(セットトップボックス)とリモコンが必要なだけで、後は家庭の電話線とテレビがあれば利用することができます。普通の電話線でテレビが見られるこのKITのサービスは、まさにインターネットもできる"完全双方向のケーブルテレビ"と同じようなものです。さて、気になるサービス料金ですが、設置費は約2万円ほどかかりますが、STBやリモコンは無料です。また、インターネット契約をすれば、キーボードも無料で利用できます。月々の料金は、11チャンネルが見られるベーシック・パッケージで6ポンド(約1,100

円)、40チャンネルのポピュラー・パッケージで15ポンド(約2,700円)と、比較的安い料金設定になっています。この他にも、オプション契約として、スポーツ番組が楽しめる"Sky Sportsパッケージ"(15.5ポンド)、映画が楽しめる"Sky Moviesパッケージ"(17.5ポンド)などが用意されており、とても魅力的なサービスとなっています。また、高速インターネットとメールのサービスは、月額10ポンド(約1, 800円)となっており、全体的にリーズナブルな料金体系になっています。

このKITのサービスは、地上波や衛星放送の再送信のADSL放送とインターネットだけではなく、メール、VOD(ビデオ・オン・ディマンド)、ホームショッピング、ゲーム&レジャー、ローカル情報などのメニューが用意されています。右の写真が、シンプルでわかりやすいKITの初期画面です。

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写真1 KIT初期画面&システム

  すでに、おわかりのように、このKITのサービスは、放送サービスと通信サービスが融合したものになっています。電話回線1本で、通常の電話と高速インターネットが利用でき、さらに専用のSTBを既存のテレビの接続するだけで、テレビ放送、VOD、ショッピング、ローカル情報などが利用できるようになる仕組みとなっています。実際の画面を見たところ、下り回線の帯域4.3Mbsが保証されている環境でのADSLテレビ放送は、空中波を受信したテレビ画像と差はほとんど感じませんでした。また、リモコンの反応もよく、双方向性のレスポンスは、地上波デジタルのOndigital、ケーブルのntlの双方向システムよりも早く、ストレスを感じない反応のよさがあります。

 このKITのシステムのよさは、既存のインフラである電話、テレビを使用しているため、低コストで導入できる点と、STBは無料、そして40チャンネルのテレビ・サービスと高速インターネットサービスが使い放題で月額25ポンド(約4,500円)という低価格さにあると思います。また、この1台のシステムで、ビデオ・レンタルのオンライン版であるVODサービスも利用でき、かつ、ローカル・ニュースなどのコンテンツを楽しめる点は、利用者にとってとても魅力あるものです。

 右の写真は、ローカル情報の中でも人気の高いコンテンツのひとつで、地元小学校で開かれた音楽会の映像です。テレビに自分の子倶や知り合いが放映される番組は、利用者の間ではとても人気があるそうです。

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写真2 KITローカル番組画面

■インフラとしてのADSLは疑問?

 実は、このKITのデモンストレーションを見ている間に、2度ほどSTBがハングアップするトラブルがありました。再立ち上げをすればすぐに復帰する訳ですが、通常無故障のテレビを見ている消費者にとっては、テレビ画面がカタマル現象には最初は戸惑うことでしょう。まさに、STBの中身はPC、テレビは単なるモニターになっているため、ある程度のトラブルはつきものかも知れませんが、このようなトラブルが日常頻繁に起きることは、一般の消費者にとってあまり歓迎できるものではないでしょう。

 また、このKITの視察をしていた時に、米国の同時多発テロ(2001年9月11日)が起きました。デモの説明の途中で、KITの担当者にBBC Interactiveにチャンネルを合わせてもらい、ツインタワー(TWC)が炎上している映像が流れているニュース番組を見せてもらいました。最初は、オンディマンドですぐに最新のニュースが見られるというADSL放送のインタラクティブ性に感動していたのですが、KITのデモ説明の後に、ニューヨークのTWCが気になっていたので、再度BBC Interactiveにチャンネルを合わせてもらったところ、つながらないという事態が発生しました。これは、利用者が一斉にアクセスし、回線が満杯状態になってしまったということでしたが、ADSLサービスの脆さを強く感じました。

■将来の情報インフラ

 今後放送や通信のデジタル化が進み、一般家庭へのインフラも急速に進むと思われますが、非常時を考えた場合、安定した情報基盤としては、バックアップの意味も含めて、無線系、有線系の2つのものを各家庭に引き込んでおく必要があると思います。確かに、KITのシステムは、ユーザー・インターフェースを考慮した使いやすい画面になっていましたが、地震等の災害時の際に回線トラブルやサーバー・トラブルで、電話もインターネットもテレビも見られなくなる事態は、極めて不安な状況に陥るのではないでしょうか。放送は無線系、通信は有線系という従来の概念は、IT革命による両者融合の中で変わりつつありますが、情報基盤として考えた場合、ひとつの世帯に有線系のものと無線系のもの2つを必要であることは間違いないと思われます。

 今後注目していきたいことは、ハル市の町から、地上波用のアンテナやパラボラ・アンテナが消え、電話線が放送と通信のインフラとして定着するのだろうか?という点です。また、このハル市の家庭において、既存のテレビ・ディバイスが家庭の"娯楽&情報ポータル"として利用されていくのかどうかとういう視点においても、今後の浸透、利用状況が気になるところです。

 日本も、有線、無線を問わずブロードバンド環境が整い、放送と通信の融合が進み、新しいビジネススキームが誕生するものと思われますが、一生活者の立場に立って考えた場合、放送と通信の融合に期待することは、魅力的なコンテンツを伝送路を問わず、放送も通信も安定して利用できる環境ではないでしょうか。すなわち、非常時を考えた場合、将来の情報インフラは、有線、無線による二重化が必要であるという結論になりそうです。

メディアマーケティング局デジタルメディア部  小黒 直弘

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