デジタルメディア教室(17)~有料放送の成立条件を考える~

VRDigest編集部
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本記事は2002年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

 3月未に経営破綻したイギリスの有料テレビ会社ITVデジタル社が、再建を断念し近く精算手続きに入ることになりました。同社は有料テレビとして先発のBスカイBに習い、巨費を投じてプロサッカー下位リーグの放映権を獲得しましたが、加入者が思うように伸びず資金繰りが悪化、管財人の管理下に入っていました。また、ドイツのデジタル衛星有料テレビ局であるプレミエールでも、グループの中核企業であるキルヒメディアが、サッカーなどのスポーツに多額の放映権料を支払い債務が膨張、先月8日に破産手続きを申請しています。

 このような相次ぐメディアの破綻は「デジタル化による多チャンネルの実現がもたらしたコンテンツ不足」と、それ故の「有料放送というビジネスモデルの難しさ」を示しているように思います。日本とイギリスやドイツではそれぞれ放送環境が異なるので、これら一連の出来事を単純に比較することはできませんが、デジタル化が進み徐々に本格的な多チャンネル化が始まりつつある日本にとっても、これは決して他人事といえないエピソードです。

 日本のテレビ放送は、1953年の登場以来NHKを除く民放各社において、広告放送の形をとってきました。このため、我々国民にとって一部の有料放送や公共放送を除けば、「テレビは無料(タダ)である」という認識がほぼできあがっているといえます。しかし先述のように、放送のデジタル化が進むことで現在チャンネル数は増加傾向にあり、今後は既存の広告放送とは異なる新たなビジネスモデルを模索していかなければならない状況にあります。そこで当然話題になってくるのが有料放送モデルです。しかし本来が無料(タダ)と認識されているテレビ放送に、国民はお金を払うようになるのでしょうか。

 少し唐突なようですが、日本において"従来は無料だったが、昨今有料の商品として定着してきたもの"に「水」と「カレンダー」があげられると思います。例えば「水」は昔から「水道料金」として費用が発生していますが、あくまで公共料金としての位置づけにすぎず、直接飲用できる「飲料水」として考えた場合、欧米その他の諸外国と比べて、その料金は果てしなく無料に近いものであったといえますも しかし、周知のように最近は飲料用にミネラルウオーターを購入する人が増えています。これは人々の「水」に対する意識に変化があったことを示しているといえるでしょう。では何が、どう変わったのでしょうか。

 第一に「水道水の劣化」があげられます。水源の汚染が進んで浄化に使用する塩素の量が増え、結果として飲用時のカルキ臭が増加している可能性が考えられます。加えて元々水に含まれている有機物と塩素が化合することにより、トリハロメタンという発ガ性物質が生成されるといった知識が広く一般化されたことなどから、人々の「健康志向」を高めたことも考えられますこまた、過去に経験したバブル時代の名残として、全般的に「高級志向」が進んでいることもあげられるでしょう。更に「ダイエット」や「美容」などのためにミネラル成分の豊富なミネラルウオーターを飲用しているケースも多いと思われます。同様に、企業が広告用に制作したものが定番だった「カレンダー」も、「インテリア感覚の目覚め」に伴い、年末の書店や文房具店で特設スペースが設けられる程に市場が大きくなっています。以上のような意識や行動の変化をまとめると、「無償提供物(=水)の質の低下」と、「被供給者の噂好性、関与度のアップ」(=健康志向・高級志向・ダイエット・美容・インテリア感覚)が、水やカレンダーの"有料化"を受容するインセンティブとなったということになるでしょうか。

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これをテレビに当てはめてみると、「(無料放送の)テレビ番組内容の質の低下」及び「視聴者のテレビへの噂好性・関与度のアップ」が、テレビの有料化モデルを成立させることになりますも しかし前者は、企業としてのモラルに反する後ろ向きな方策であり、現実的ではありませんので、実際には公社が実現されるのが理想といえるでしょう。

 しかし言うまでもなく、水やカレンダーと違ってテレビは視聴者の時間を他の生活行動と奪い合うものであり、仮に視聴意向とお金があっても、時間的な余裕がなければ新たに有料放送に加入することは考えにくいでしょう。また、漠然と「視聴者のテレビへの噂好性・関与度のアップ」といっても、その方策はあくまで番組内容の工夫・充実や入念な広報活動など、スタンダードな手法で視聴者関与度をあげていく事しか考えられないでしょう。

 とはいえチャンネル敗が増えることによって、テレビの位置づけが従来の受動的な娯楽・情報摂取メディアにとどまらず、雑誌や新聞、インターネットなどの活字メディアのような、積極的な情報摂取メディアとしての側面を合わせ持ち、それぞれに棲み分けされるようになってくるかもしれません。どのような形になるにせよ、これからの新しいテレビメディアは、今までのテレビとどう違い、(そのメディアが)何を目指しているのか、といったメディアコンセプトを、予め明確にすることが必要になってくるでしょう。

 現在でもWOWOWやスカパー、ケーブルテレビなどの有料放送は存在します。これらの競合として、2000年12月に放送が開始されたBSデジタノ嶋女送(民放系の5局は無料放送)や今春始まったばかりの東経110度CS放送をはじめ、地上波デジタル放送の移動体向け放送(現状はサイマル放送の予定)、モバイル放送、インターネット放送など、有料 無料を問わず今後様々な放送がこぞって国民の生活時間を狙ってきますムその中で視聴者に更なる出費を認めさせる有力な放送メディアが出現するのかどうか、有料放送モデルの第二の黎明期は、放送メディア全体にとっての大きな転勝といえます。

                 (デジタル戦略室 デジタルメディア部  安増理恵子)


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