デジタルメディア教室(20)~放送と通信の融合 「数多い種類の伝送路の融合」が及ぼす地上波への影響~

VRDigest編集部
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※本記事は2002年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

■はじめに...「放送と通信の融合」とは?

 放送のデジタル化の議論をする際に、必ず出てくる言葉の一つに「放送と通信の融合」があります。放送・広告業界にいるわたしたちにとって、この言葉はここ数年は何度となく耳にしたことのあるものだと思います。

 しかし、法律上の定義をみてみると、放送とは、放送法第2条1項で「公衆によって直接受信されることを目的とする無線通信の送信」と定義されており、「放送とは、放送をする無線局(同条3項)」のことを示すものなのでした。その意味においては、そもそも「融合」を問う以前に、放送とは通信に「含まれる存在」と言えるのかもしれません。

 では、具体的にどのようなことを言うのか?と、もう一歩詰めた場合はどうでしょうか?みなさんはどの程度、その「内容」を理解されていますか?実はこの言葉、一種の呪文のように響いてはくるものなのですが、筆者としては、もしかすると単なる「イメージ」として流布しているだけに過ぎないのではないか?とも感じております。

■「放送と通信の融合」を分けて捉える

 そもそも「放送と通信の融合」とはいくつかの局面において捉える必要があると思われます。筆者はそれを大きく「サービスの融合」「デバイスの融合」「事業体の融合」「プログラム言語の融合」そして「伝送路の融合」の5つに分けて整理しています。

 「サービスの融合」とは、例えば、もともとの成り立ちが1対1であった通信が1対nの特徴を持つサービスを開始したことです。インターネット上における電子掲示板などはその好例と言えるでしょう。逆に1対nが成り立ちであった放送が1対1の特徴を持ったものとしてはCSデジタル放送のように「視聴者を特定するサービス」の例がわかりやすいと思います。

 「デバイスの融合」とは、BSデジタル放送における双方向サービスが身近な例としてあげられるでしょう。これはテレビ受像機による「ワンスクリーン」アプローチのことと言うこともできますが、一つのデバイスで放送と通信の両方がコンテンツを起点に融合していることは、単なるデバイスの融合をさらに深めている存在と位置づけることができるでしょう。

 「事業体の融合」とは、同一事業者が放送と通信の両方を兼業することですが、CATV事業者が第一種電気通信事業者に参入して、インターネット接続サービネを開始したことが象徴的と言えるのではないでしょうか。

 「プログラムの融合」は、BMLとHTMLの関係が最もわかりやすいと思います。つまり、今頃在は融合していないわけですが、今後は徐々にこうしたコンテンツ制作プログム言語の融合も図られるようになると予見できますム。

 さて、「伝送路の融合」です。これは例えば、CATV事業者が共通の伝送路を放送と通信に用いることなどが例としてあげられます(「事業体の融合」の別の捉え方でもあります)。これは今回の本題ですので、少し詳しくご説明致します。

■「伝送路の融合」

 既に述べたように、地上波放送については、「放送局とは無線局」と定義されており、放送事業者とは放送局の免許を受けた者とし、かつ、番組や編集の基準も定められています。すなわちこれは、「ハードとソフトの一体化」を表していると言えます。

 ところが、これに対してCSデジタル放送に関しては、地上波放送とは異なり、放送番組を制作・編集する委託放送事業者と、通信衛星を所有して放送波を送信する受託放送授業者が分離されているとともに、顧客管理や課金、普及促進を計るプラットフォームという事業者が別に存在しています。このようなハードとソフトの分離というものは、それ自体に「伝送路の融合」を引き起こす可能性を持つものと考えられます。また、前述したように、CATV事業者においては、放送と通信を共通の伝送路を用いてサービス提供するケースも少なくありません。

 こうした放送・通信事業者のハード・ソフトの分離に関しては、平成14年1月28日に施行された電気通信役務利用放送法によって、現在、図のように整備されています。このような「伝送路の融合」はこれまでの放送の在り方に今後影響を与えていく可能性があると思われます。

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■「伝送路の融合」に関する新しい動き

 ここにきて、この7月24日にブロードメディア・ティーピー企画株式会社(6月27日に株主の移動がありましたが、要するに現場もソフトバンク関連会社です)がこの牲律に則った第1号として、CS専門チャンネルをBBで提供しようということを発表しました。

これは家庭内に引き込んだADSLのモデムからテレビ受像機に分岐させたラインを引き、ADSL経由でCS専門チャンネルが視聴可能になる、というサービスを打ち出したものです。筆者の知る限りでは、どの程度の画質になるのかは公表されていないと聞いておりますが(2002年7月31日現在)、既に13チャンネルが決まっているようです。

 これに関しては、ADSLである以上、間にプロキシーサーバーを設置しなければならない可能性が指摘できるため、著作権処理などが従来のCSデジタル放送やCATVとは異なるなどいくつかの問題点が想定されますが、このまま進んだ場合、それはCSデジタル放送だけではなく、地上波を含め、現在の放送の枠組み全体にも確実に影響を与えることになると予見できます。

 一方、NTTとSKYPerfecTV!が共同実験を実施している「光波長多重技術を用いたFTTHによる集合住宅内における各世帯配信」の動きや、デジタルケーブルにおける光波長多重技術を用いたFTTHによる放送と通信の融合サービスの普及動向も今後は見落とすことができないものと言えるでしょう。

 これらの技術は、今後、恐らく地上波デジタルの「あまねく普及」の問題解決に、コストとの兼ね合いを含め、何らかのカタチで応用されることになるかもしれません。この時、気になるのは、こうしたFTTHのインフラがどのタイミングで、どの程度普及してくるのか?ということになります。

 この議論をする際に、まず参考にすべきは政府IT戦略本部が計画している「e-Japan戦略」になるでしょう。これは2001年1月段階の決定では、2005年までに超高速インターネットを1000万世帯、高速インターネットを3000万世帯普及させることを目標に掲げていました。このうち、FTTHとは1000万世帯の方を言いますが、同年10月に総務省が発表した「全国ブロードバンド構想」では773万世帯への普及と若干抑えた予測になっています。

 もちろん、こうした予測が当たるかどうかという問題はありますし、また、ラストワンマイルの問題も軽視できないものとは思われますが、今後の地上波デジタル放送の浸透過程においてこれら一連の流れは無関係ではないと考えられるでしょう。

■地上波デジタル放送はどうなるのか?

 こうしたことを視野に入れた時、地上波デジタル放送はどのような状況になっていくのでしょうか?

 これを予測することは容易ではないでしょう。例えば、インフラを用意する事業者の種類だけを考えても、通信事業者や電力事業者の他にも、電鉄系やMSO、いわゆるローカルCATVなど、全然別の成り立ちや行動規範を持ったものがいくつも存在するからです。

 また、こうした光波長多重技術を用いたFTTHなどの技術レベルの話以外にも、新たな伏兵が現れる可能性はあると思います。しかし、ここではあえてそのことを無視した上で、「現行の地上波」の立場(主に広告放送)から、論点を藍埋してみたいと思います。それは大きく次の4つがあげられると考えられます。

①どれだけの世帯が直接受信世帯になるのか?

②FTTH経由になったとして、放送のサービス自体が、現状とどの程度変化するのか?

③最終的な受像機であるテレビのポータ/摘面はどのようになるのか?

④インフラ事業者はコンテンツプロバイダーへの事業拡大をどの程度意識するのか?

 ①に関しては、実は現在でもCATV+集合住宅での視聴は約5割に達している実態が一つの目安になるかもしれません。

 ②は通信側の特徴である「1対1」や「インタラクティブ」「VOD」などがどの程度用意されるのか?という問題と同時に、それらのサービスをより際立たせるため、受像機側に「タイムシフト」や「エージェント」などの機能がどの程度付加されるのか?ということがポイントになってくると思われます。

 それは③とも呼応してくるでしょう。多機能なデバイスであれば、ポータル画面はテレビでなくなっている可能性も考えられるからです。つまり、テレビ受像機はテレビ放送を見るためのものという意味合いが減って、初期画面では、「放送を見るか?」「VODを見るか?」「タイムシフトコンテンツを見るか?」などの選択画面になってしまっているか?

という問題がそれになります。この時、コンテンツに関係するものだけではなく、遠隔医療や教育などといった全然別のメニューも入ってくるかどうか?という点も気になるところではあります。

 最後に④ですが、これは裏を返すと、そうなった時に放送事業者側にどの程度、編成権が維持できているのか?ということに関わってくるものです。特に、ローカル局にとっては、より大きな意味を持ってくるのではないでしょうか?

■おわりに...「視聴態度の融合」へ

 さて、今回のデジタルメディア教室では、「伝送路の融合」を起点に、今後の地上波放送に与えうる影響についてシビアに(どちらかと言うと、不安材料という視点で)考えてきました。ただ、ここで確認しておきたいのは、このような技術的な選択肢が拡がったからと言って、視聴者自体のテレビ視聴行動というものが、実際にどのような影響を受けるのか?ということは別の問題だということです例えば、視聴者から見た場合、いつの時代になっても「テレビはテレビ」と考える人が相当数いるかもしれません)。そのことは、調査会社という事実確認をキチンと行わなければならない立場から言えば「普及はするのか?仮に普及したとしてどの程度利用されるのか?」ということを把握していかなければならないということを示しているのだと思います。

 「放送と通信の融合」も最終的には視暗者の「視聴態度の融合」を示していることに他ならないと思います。ビデオリサーチと致しましては、そうした目線も持ちつつ、放送のデジタル化の変化を見極め、対応をしていかなければならないと考えております。

                   デジタル戦略室 デジタルメディア部 尾関光司

                                  V005647@videor.co.jp

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