US Media Hot News 米国インターネットラジオ動向~ストリーミング配信するネットラジオ局の諸問題

VRDigest編集部
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※本記事は2002年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

 米国では、インターネット・ラジオ局を巡る議論が白熱しています。発端は著作権使用料の支払い規定がこの9月に施行されたことですが、料金設定に関してネットラジオ局とレコード会社の双方がいまだに不服を申し立てており、裁判所の審理を仰いでいるところです。しかし、規定そのものを問題視する声は多く、経営難を見越して早々に音楽配信を断念したラジオ局も出てきました。このままネットラジオ局は消滅してしまうのか?今後の行方が気になるところです。

 ネットラジオが普及しはじめたのは90年代後半です。一般家庭でのインターネット利用が定着し、ブロードバンド通信の普及でストリーミングといった音楽配信技術が向上したのがきっかけでした。従来のラジオ局と違い、認可が要らずスタジオや特殊機材が無くてもホームページを作成するような気軽さで始められるネットラジオ局は瞬く間に増え、現在1万局以上が存在すると言われます。大手ラジオ局より音楽のジャンルを絞れることなどが受け、リスナー数は2000年の70万人前後から3年間で110万人以上に増えるとの予測もあります。人気に着目した音楽放送局のMTVや娯楽のソニー・エンターテインメント、PCのインテルなどメディア大手も市場に参入し、インターネット・ストリーミング放送業界団体(DiMA)と呼ばれる団体を形成するなどして業界のすそ野は広がっていきました。

 ネットラジオ局の台頭に慌てたのはレコード業界です。インターネットの普及で楽曲のダウンロードが盛んになり、違法コピーが出回る事態に頭を抱えていた折です。ネットラジオ局は決して違法でないにも拘わらず、レコード会社側は「CDの売れ行きを阻む」と主張して取り締まるよう求めました。1998年10月、旧勢力に圧されるかのようにして米連邦議会はデジタルミレニアム著作権法(DMCA)を可決し、デジタル著作物の所有権が確立されました。これにより、ネットラジオや従来(電波放送)のラジオ局がオンラインで楽曲を流す場合にレコード会社にライセンス料を支払うことが義務付けられたのでした。ただし、料金や料率は言及されず、詳細の決定は米国著作権局の手に委ねられたのでした。

 ネットラジオ局は勿論困惑しました。全米レコード工業会(RIAA)は最近の調査で「音楽のネット配信が盛んになって以来、CDの売り上げが2割以上減った」と主張しますが、一説には「ネットラジオ局がCD販売を促進している」との声も聞かれます。実際、ストリーミング技術を使って流される音楽データはリアルタイム放送のため録音するのが難しく、違法コピーが出回る心配はわずかです。中にはリスナーが聴いたCDをすぐ購入できるようにショッピングサイトヘリンクしているラジオ局もあり、まるで宣伝手段のようです。

 そもそも、ネットラジオ局は決して採算性のいいビジネスではありません。リスナー数がいくら増えても放送コストが一定している電波放送と違い、ストリーミング配信はリスナー1人につき1時間当たり0.05セントから0.1セントのコストがかかります。リスナーが増えるとコストもかさむジレンマを抱える上、インターネットの特性としてリスナーが分散しているため、従来型のラジオ局が約8割の広告収入を得ている地元スポンサーをなかなか集められないのが実情です。さらにライセンス料を徴収されてはたまりません。

 そこにとどめを刺すかのような料率を今年6月、著作権当局が決定しました。ネットラジオ局は「リスナー1人、1曲につき0.07セント(つまり14曲につき1セント)」をレコード会社に支払うという設定で、しかもDMCAが制定された98年10月まで遡って徴収するとの内容です。従来のラジオ局が音楽番組をオンライン化する場合も同額の著作権料を支払うことも決まりました。基準にされたリスナー数は人気のバロメーターにはなっても、必ずしも利益につながる数字ではありません。多くのネットラジオ局は収益を上回る使用料を支払う羽目になりそうで、存続の危機を迎えるのは必至です。

 それでも、レコード会社側は当初に希望した「リスナー1人、1曲につき0.40セント」に比べてライセンス料が安すぎるとして不服を訴えています。他方、ネットラジオ局側は「高すぎる」として裁判所に審理を申し立てました。

 審理の結果が出るのはおそらく数ヶ月先になりますが、支払い義務は9月からスタートし、最初の納入期限は11月に迫っています。現行のままでは市場の90%以上を占める独立系ネットラジオ局の大半は運営に行き詰まり、閉鎖を余儀なくされるとの見方が優勢です。実際、前途を悲観して早々に放送を中止したネットラジオ局もあります。今後の審理で当局がよほど料率を下げるか収益に基づく設定に変更しないかぎり、生き残れるのはDiMAに所属するような大手の後ろ盾を持つラジオ局に限られることでしょう。独立系ラジオ局は広告収入に頼らざるを得なくなり、売り物だった個性の強さを捨てて万人受けする放送内容に甘んじなければいけないかもしれません。そしてリスナー数は伸び悩み、政府が躍起になっているブロードバンド普及をも阻む可能性が出ています。

 こうした流れを規制当局やレコード会社は「市場が成熟するのに必要なプロセス」と片付けているようですが、周囲の目には「またもや新しいビジネスの芽が旧勢力に摘み取られようとしている」と映っています。批判をよそにレコード会社は次に通信衛星を利用したラジオ局の規制に動いていますが、果たして保守保身ばかりでいいものか?むしろ、新しい一歩を踏み出すべきとの気がします。

Video Research USA, Inc.

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