US Media Hot News アメリカのセキュリティ技術の現状~テロ事件後にどう変わったか~認証技術やサイバーテロ対策のハイテク技術etc.

VRDigest編集部
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※本記事は2002年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

 世界を震撼させた忌まわしい世界貿易センター(WTC)テロ事件から1年が経ちました。WTCの跡地は今でもぽっかり穴があき、事件の壮絶さを物語っています。1年という歳月の間に政府や民間企業は「新たなテロを未然に防ぐ」という共通の目標を掲げて動き出しました。これまでになく安全に対する意識が高まっており、セキュリティ技術の開発や安全保障システムの向上を急いでいるところです。

 産業界で動きが目覚しいのはハイテク企業です。IBMはテロ事件の直後に災害復旧からデータ保護といった様々なセキュリティ・サービスの提供やコンサルティングを一手に請け負う部門を新設しました。マイクロソフトは機能を追加するよりもユーザーのセキュリティーを優先させる方針を打ち出し、セキュリティー専任の責任者を置きました。政府もIT企業の活躍を期待し、首都ワシントンD.C.へ経営陣を招いては対策案などの会合を重ねています。セキュリティ関連支出は改府、地方自治体、プライべ-トセクターを合わせると2003年に1380億ドルまで膨れ上がる見通しで、時流に乗って新規株式公開(IPO)に踏みきる企業が後を絶ちません。

 こうした取り組みの中で最も脚光を浴びているのがバイオメトリクスや顔面認識技術です。バイオメトリクスとは、DNAや指紋、虹彩スキャン、掌の形状といった人間の身体特徴を使って本人を確認する技術です。これまで銀行口座のアクセス認証といった用途で着目されていましたが、テロ事件後は空港ターミナルでの犯罪者発見という重要な任務への利用が目立っています。最近では一層の技術普及を目的に標準化団体のOASISが拡張マークアップ言語(XML)の採用を勧めています。XMLのおかげで従来は機械でしか解読できなかった情報を人間も読めるようになる上、情報のインターネット転送も容易になり技術の応用範囲が広がりそうです。

 顔面認識技術はカメラを設置して個人の顔を写し、例えば、あらかじめデータベースに蓄えられた犯罪者ファイルと照合して危険人物を摘出したりする技術です。昨年の米プロフットボール公式試合「スーパーボウル」で適用されて効果は実証済みです。今後、空港やショッピングセンターといった公共施設で活躍しそうです。

 サイバーテロを想定したハイテク技術の開発も盛んです。世界各地に支店・支社を抱え、ネットワークを遮断されると甚大な被害を受けかねない大企業はウイルス対策ソフトウエアや侵入探知システム、ファイアーウォールといった防御技術の導入を急いでいます。業界調査によると、ネットワーク保護サービスの売り上げは2000年の約7億2千万ドルから2005年には22億ドル強に成長すると予想され、各社がこぞって市場へ参入しています。

 個人データを搭載し、国民ひとりひとりに携帯を呼びかける国家発行IDカードの開発も進んでいます。提唱しているのは米オラクルや米サン・マイクロシステムズで、すでにデータ記録用のマイクロチップを開発済みです。飛行機に搭乗する際や海外からの出入国管理を円滑にし、不審者の往来を阻止するのに役立ちそうです。

 通信網の再構築も急ピッチで推し進められています。今回のテロで直撃に遭ったニューヨーク市では通信網の分散が優先課題で、ネットワークの補完システムを確立するため未使用の地下水道管を利用した光ファイバーを増設したり、街頭やビルの屋根を利用して無線通信基地を設置する計画が立てられています。緊急事態に連邦政府と地方自治体が連携プレーを行なえるように行政各機関のデータソースへ無線でアクセスできるネット網の構築も進んでいます。

 こうした一連の取り組みに弾みをつけそうなのが、今月にも設置を予定されている米国土保障安全局です。同局は国境および交通の安全確保、生物・化学・核兵器対策、緊急事態への対応、情報の集約・分析が主な仕事です。連邦緊急管理庁や沿岸警備隊、入国帰化局(INS)シークレットサービスなどテロにかかわる8省庁、約50部局を統合し、職員数は17万人、予算規模は380億ドルという強大な機関です。

 しかし、一連のセキュリティ対策を「プライバシーを侵害する行為」として危倶する声も上がっています。以前から米国はプライバシー問題に敏感でした。それがテロ直後はプライバシーよりセキュリティ重視へと変わっていたのですが、顔面認識カメラの設置や国民IDカード発行といった具体策の前に、再び個人情報漏えいに対する懸念が高まっています。データを一局に掌握する監視社会の到来、情報を悪用した人種差別の横行、データ管理を装った覗き主義の台頭など懸念はさまざまです。

 企業の間では、セキュリティ対策の導入が煩わしいとの声も出ています。とくに中小企業の場合、特別に資金や人材を投入する必要があるため、大企業に比べてセキュリティ問題への対応が遅れています。未知なものに対する取り組みだけに必要性を測りがたく、どこまでリソースを投じるか難しいところです。

 こうした批判の声に対し、国民IDカードについては「すべての国民ではなく、希望者のみ所有すればよい」といった意見が出ているほか、顔面認識カメラについては「画像による本人確認はむしろ身分詐称の防止に役立ち個人のプライバシーを向上させる」との抗弁がなされています。セキュリティとプライバシーの問題は背中合わせでご時世によって意見が分かれやすく、線引きは難しいところです。ただ言えるのは、いっときの風向きで、国民の生活を脅かすような技術を政府が慌しく導入し、産業界

がそれを助長するようなことは避けたいということでしょうか。

Video Research USA, Inc.

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