デジタルメディア教室(24)~地上波デジタル放送の視聴率は...?普及率に応じて考え方も...~

VRDigest編集部
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本記事は2002年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。

■はじめに...~遠くのデジタル、近くのデジタル~

 三大広域圏において地上波デジタル放送が開始するまで、あと1年に迫りました。今月(12月)18日には免許申請も行われ、いよいよ現実味を帯びてきています。これから、編成面や営業面などのサービス内容もさらに具体化していくことでしょう。

 それに伴い、最近では「ビデオさん、地上波デジタル放送の視聴率、どうするんですか?」というご質問をいただく機会が非常に多くなりました。実は、本デジタルメディア教室でも2001年4月に「デジタル放送時代の視聴率」というテーマで一度基本的な考え方をご紹介させていただいております。ただ、その時はどちらかと言うとデジタル放送というものが、ある程度、世の中に浸透した「少し先の未来を想定」して書いた内容であったかと思います。ですから、その号は必然的に「タイムシフト(=いつでも)」「モバイル(=どこでも)」「インタラクティブ(=視聴者から)」「マルチメディア(=デバイスを選ばずに)」といったデジタルキーワードを用いて、今後のデジタル放送の変化を、引いては、視

聴率の変化を説明しているものになっておりました。

 もちろん、これはこれで当社としても対応を考えていかなければならないことだと思っております。」 しかし、1年後に訪れる地上波デジタル放送の開始時期に、これらの変化が世の中の多くの世帯に浸透しているとは言い難いと考えられます。まして、地上波は100%リーチメディアです。そうした目線から見ても、まだ全体に及ぼす影響はさほど大きくなっていないと判断することが適切なのではないでしょうか?(本稿では詳しく論じませんが、当社ではこうした「普及」「利用」の変化をデータで確許することもしております)

■地上波デジタル放送普及初期を現実的に考える

 このような状況を考慮して、また、現行のテレビ放送・広告ビジネスの「連続性」を考慮して、当社としては地上波デジタル放甚の普及初期においては、「視聴率の定義は変更しない」ことに判断致しました。つまり、地上波デジタル放送が開始されても、当面はデータとしてアウトプットされるものに、根本的な変化はないというわけです。

 ここまでをお読みになられて、皆さんはどのような感想をお持ちになられましたでしょうか?「安心した」?「拍子抜けした」?それとも「当然でしょう!」とお思いになられたでしょうか?

 でも、でもですよ。実は、「今までと同じ」と一口に言いましても、このテーマにはいくつかの重た~い課題が潜んでいるのでありました。

地上波デジタル放送に対応した視聴率の集計処理は...?

 地上波デジタル放送の普及過渡期に際しては、「一つのテレビ局において、デジタル放送とアナログ放送が同時に存在」します。また、「デジタル放送においては、SD複数チャンネルの運用が可能」となります。

 当社のこれまでの視聴率は、同時間帯であれば「テレビ局=チャンネル=番組」という構図の中で視聴率の集計が行われていましたが、デジタル放送の開始とともに、この構図は崩れてしまうことになるのです。この難問に当社としてはどのように向き合えばよいのでしょうか?

 例えば「アナログとデジタルで同じ番組を放送していた場合、それを同一番組として扱い、合算してよい(同一世帯内における同時同局視聴を除く)」のでしょうか?ちょうど、これまでの現行視聴率も直接受信とケーブル経由を分けて算出しておらず、合わせた数字を発表しているのと同じようにです。では、「デジタル放送においては、SD1とSD2を合算してよい」のでしょうか?例えば、プロ野球の中継でSD1を通常放送、SD2をマルチアングルで放送していた場合は合算してもよいのでしょうか?それならば、プロ野球とドラマのように、全く別の番組を放送していた場合はどうなのでしょうか?

 SD1やSD2のチャンネルの視聴率は、将来、デジタル放送の普及が100%になった段階においては、個別に開示することになるかと思われます。しかし、2003年12月における初期段階においては、どうでしょうか?そもそも、どの程度SD複数チャンネルの独自編成が展開されるか?は現時点ではわかりません。それにデジタノ嶋廷送が開始したからと言っても当面はアナログの普及率の方が比較にならないくらい高いわけであり、その段階ではビジネス目線としても、当然しばらくはアナログが「主」であることは確かだと思うわけです。

 そうした点を踏まえると、この課題は「編成」や「営業」と密接に関わっている話であり、そう簡単に結論を出せる話ではないと考えることができるでしょう。それに「売り」は1本であったとしても、技術的・理念的にはCM素材を差し替えることは可能です。この話はネットワークの事情が絡んでくると、さらに複維になってくると思われます。現実は落ち着くところに落ち着いていくのでしょうけれど、従来のデジタル系の諸に比べて、実務的であるだけに、しっかりとした運用上の確認をしていかなければならない課題であると認識しております。

「現行移行」の奥は深い

 2001年4月の号で述べたように、やや「遠くのデジタル」ではなく、「近くのデジタル」の最大の課題は、新しいことを始めることの難しさではなく、現行の仕組みをうまく移行させていく中にあると言えます。これは放送事業者の皆さんが、サイマル放送を行う努力そのものを示していると言えるでしょう。その意味において、デジタル対応の課題の本質は、アナログ後にあるのではなく、過渡期にこそあるのだと考えられるでしょう。

 これを視聴率調査の立場から見てみるのならば、「視聴率の定義を再検討すること」や、「集計の仕方を再考すること」にも、深い問題が内包されていると受け止めておりますが、同時にその一方で、「現在の視聴率データの使用場面を再確認すること」もかなり重要な課題であることに気づくわけです。と言いますのも、視聴率データとは、それ自体が独立して存在しているわけではなく、放送・広告業界内において「共通尺度として流通しているもの」だからです。これは視聴率というものが、業界のビジネスの中にカッチリとはめ込まれていることを示していることに他ならず、具体的には、各社のコンピューターシステムの中で日々ご利用いただいていることを表しているのだと思われます。したがいまして、

仮に「視聴率の集計方法を変える」ということになったと致しましても、それが広く業界内に認識され、共通尺度として、現行の運用に支障がないように十分配慮してことが進まなければならないと言えるでしょう。

 実際、各社のシステムに修正を加えるとするのならば、それなりの時間が必要だと思われます。また、それには業界内共通のロジックが不可欠ですから、前述した①におきましても十分なコンセンサスが必要であると考えられます。またこの時、同時に目を向けなければならないこととしては、各社のコンピューターシステムに加えて、当社のiNEXも多くのユーザーのインフラとしてご利用いただいているものでありますから、ここにおきましてもその修正の考え方が十分に反映された状態ができあがっていることは現行移行の条件の一つとして考えられると思うわけです。

対応のタイムスケジュールは...?

 では、ここまで述べてきたことについての対応は具体的にはどのように進んでいくのでしょうか?これは一概には言えません。それは地上波デジタル放送の普及がどの程度のスピードで進んでいくのか?がなかなか予測しづらいところがあるからです。

 ただ、当社としてはこれまでもデジタル放送に対応できる視聴率メータの開発努力を継続的に行ってきましたし、仮に2003年12月より京阪名の3地区において地上波デジタル放送視聴可能世帯が調査対象世帯となった場合は、そのテレビ受像機に応じた視聴率メータを設置しにいくことには変わりはないと言えるでしょう。そして、その際①で行った議論をもとに、データ処理を行うことになると思われます。それは、仮に視聴可能世帯が1世帯であったとしてもです。そして、その集計された数字が、ユーザーの皆様のところでうまく運用されるように、②の視点をもってコンピューターシステムを検討していかなければならないでしょう。但し、これにはシステム設計・構築にそれなりの時間が必要になるかと存じます。2003年12月の放送と同時にこうした運用がすべて整うか?逆に言えば、普及初期段階ではどこまで準侍すべきか?につきましては、できるだけ早い段階でユーザーの皆様と十分な協議が必要であると思われます。

 またその一方で、デジタル放送のデータをどの段階で、単独に公表していくのか?という論点もあるかと存じます。これには前述したように、普及とのバランスの中で、編成目線(=そもそもデジタル放送の独自番組がどの程度編成されるのか?)や営業目線(=その「売り」はどのようになるのか?)との兼ね合いを考慮することが現実的であると思われますが、調査会社としては、統計理論的な背景をもとに、その開示時期を検討していくことも不可欠であると認識しております。この件におきましても、今後、業界の皆様と意見交換をさせていただければと考えております。

■おわりに...

 現在、当社と致しましては、社内外におきまして本稿で述べたような点について日々活発な意見交換をしている状況にあります。

 ただ、こうした議論をしていて改めて思うのは、「デジタル化によって、地上波というメディアが決してわかりにくいものになってはならない」ということです。なんと言っても、地上波の良さは100%リーチに他ならないものであり、「いい意味でのシンプルさ」を持っていることだと思います。デジタルへの移行を検討する際に、そのややこしさから、もし、こうした長所を見失ってしまったとするのならば、それは本末転倒と言わざるを得ません。

 気がつけば、あと1年です。当社とつとむし致しましても、デジタル化の変化に夢を膨らませつつ、地に足の着いた対応をさせていただければと思います。よろしくお願い致します。

デジタル戦略室 デジタルメディア部 尾関光司

V005647@videor.co.jp

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