第5部 ネットの普及と連動するメディア

2003-2011
2004年、世間ではパソコン(以下、PC)や携帯電話の普及率が大幅に増加し、それに伴い当社でもインタラクティブ領域における事業基盤の強化に注力していきました。と同時に、視聴率日報サービスの地区拡大や、広告接触と購買行動の関係をみるマーケティングリサーチの最新版「VR Personal Scan」サービスを開始しました。2011年には、未曾有の被害をもたらした東日本大震災で甚大な影響を受けた東北3県を除き、地上デジタル放送完全移行に伴う対応を全地区で完了。デジタル放送への対応は「テレビ視聴率」の継続・発展を意味し、成し遂げなければない最重要課題であり、デジタル放送対応の視聴率センサーとなる測定技術の開発や安定運用への取り組みを推進しました。さらにPCによるテレビ視聴率データの測定にもこぎつけました。
ビデオリサーチインタラクティブ

ビデオリサーチ
インタラクティブの誕生

2003

2003年12月、当社100%出資のビデオリサーチネットコムと、かねてからインターネット広告効果測定調査手法「AD Value net」で同社と協業関係にあった、インターネット広告の第三者配信を展開するアドソリューションX社との合併により、ビデオリサーチインタラクティブ(以下、VRI)が誕生しました。

一般消費者におけるインターネットの普及がさらに進み、世帯普及率が50%を超えた翌2004年は、VRIの歴史において激動とも言える1年になりました。同年1月、競合であるネットレイティングス社との間で、業務提携を締結。両社保有のオーディエンスパネルを統合し、パネル管理事業を共同で始めました。

また、2004年3月、VRIは、携帯電話によるインターネット接触に関する調査を開始。2001年にiモード(NTTドコモ)、2003年にEZweb(KDDI)が登場し、市場の急速な拡大が予想されたことを受け、新サービスとなる「ケータイ2004」(以後、年1回発刊し、2009年に終了)をスタートさせたのです。
当社のブランドがほとんど通用しないインターネットの世界では、サービス提供企業そのものが自動的にアクセスを蓄積・集計できるため、アクセス者の顔がみえなくても、膨大なデータを入手できます。当時は、統計学に裏付けられた正確・厳密な設計のリサーチそのものが評価されにくい状況でした。
時代の動きを最先端で捉え、最速のスピードで対応することを目指して設立されたVRIは、設立5年目の2008年に、2代目社長の小島雄二のもとで、初めて単年度黒字を達成しました。

こういった背景から、VRIは抜本的なてこ入れを実施。苦境・苦難を乗り越え、ようやく黒字に結びつけることができたのです。

新社屋 三番町ビル(2006年)

日報サービスのエリア拡大と、PM調査三大都市カバー

2002-2006

2002年、当社は、地上デジタル放送に対応する前段階として、既存の視聴率提供事業を充実させることで、規模拡大を図りました。

2002年4月に新潟地区、2004年10月に福島地区での視聴率日報サービスを開始。さらにその1週間後には、年に24週間調査する地区である青森、秋田、岩手、山形、長野、金沢、富山、鳥取・島根、山口、愛媛、高知、長崎、熊本、大分、鹿児島、沖縄の17地区においても日報サービスを開始しました。

三大都市圏をカバーし、データの価値向上へ

機械式世帯視聴率調査地区(2005年)

1996年に関東地区、2001年に関西地区で開始したPM調査の実施地域に2005年、名古屋地区が加わったことで、三大都市圏をカバーできることとなり、データの付加価値はこれまで以上に大きく高まりました。

機械式世帯視聴率調査地区(2005年)
VR Personal Scanシステム

マーケティング事業の強化

2004-2010

次世代「ACR」の開発に着手

1976年の「ACR」開始から30余年を経る中、とりわけインターネットが加速度的に普及した1990年代後半以降、生活者の意識、メディア環境、広告管理概念などが大きく変化。メディアや広告プランニングにおける説明責任が増大し、データに対してよりスピーディかつ精緻に求められる動きが強まっていました。その流れの中で、「ACR」に対しても調査のコンセプトやフレームについて抜本的な見直しが求められてきました。こうした環境変化や業界の要請を受ける形で当社は2010年から「ACR」の将来像について本格的な検討を開始しました。

「VR Personal Scan」の開始と撤退

VR Personal Scan

マーケティング事業は、1990年代から当社の新規事業開発の軸となっており、2003年9月には、「VR Personal Scan」の実験サービスがスタートしました。このサービスは、当社がホームスキャンというかたちで追求してきた広告接触と購買行動の関係をみるマーケティングリサーチの最新版です。
東京30km圏の男女個人15~39歳の2,000名をパネル化(調査対象を固定化)して、買い物記録を携帯型バーコードリーダを使って入力してもらうことで、消費者の広告接触購買行動の関連性を、より精緻に把握することが可能になったのです。
2004年7月からは、有料サービスを開始。さらに、A・C・ニールセン社の日本法人ニールセン・カンパニー社からバーコードの商品マスターの提供を受けるために、業務提携契約を締結しました。

VR Personal Scan

こうしてスタートした「VR Personal Scan」でしたが、サービス開発の前提であったコアユーザーが離脱。採算性改善の見通しも立たないことなどから、2007年3月をもって同サービスを停止することになりました。

それでも、サービスを展開していた3年半の間に蓄積されたデータは、のちに登場する広告効果管理サポートシステム「V′+(ブイダッシュプラス)」ヘと活かされ、当社が未来に向けて掲げる「リサーチからソリューションへ」の方向性を示した商品でもありました。

SOTOセミナー

屋外メディアの“標準化”への取り組み

2007

2007年3月、メディアの単媒体調査としては5年ぶりの新商品となる、屋外メディア総合調査「SOTO(後の、SOTO/ex)」をリリースしました。類似の調査として、「TMR(Transit Media Report)」や「街メディア」などがすでに存在していましたが、これらは「ACR」のデータがベースで、屋外広告や交通(鉄道)広告の特長を表すのに十分とは言えないものでした。「SOTO」は、これら既存サービスでは不十分だったことを解消するための新サービスとして開発されたのです。

その背景には、世の中におけるデジタルサイネージの増加も関係していました。技術の向上により、フラットディスプレイとブロードバンド、大容量記憶装置によって、多種多様な広告を含めた情報・コンテンツをタイムリーに流せる環境が整い、ビルの壁面からコンビニの店頭まで、街中に大小さまざまなデジタルサイネージが設置されるようになったのです。交換の手間がかからず、設置場所に即した内容を集中的に流せるデジタルサイネージは、屋外広告や交通広告に新たな活気をもたらしました。

2010年に屋外広告調査フォーラム傘下で立ち上がった、屋外広告指標調査研究プロジェクトでは、事務局兼調査担当社として参画。2011年度には歩行者媒体を対象に、業界共通で使える屋外広告視認者数算定モデルを発表しました。

2012年度には、ロードサイドボードの共通指標化の取り組みにも参画。また、交通広告関連では、日本鉄道広告協会(JAFRA)傘下に設置された交通広告アカウンタビリティ向上委員会にオブザーバー兼調査担当社として参画するなど、交通広告の業界共通指標策定に向けても積極的に活動しました。

書類が散乱した東北支社内

震災を乗り越え、地上デジタル放送完全移行への対応

2011

2011年は、テレビがさらなる進化を遂げると同時に、その普遍的な価値を改めて示した年となりました。ここでいう進化とは、同年7月の地上波放送における全面デジタル移行のことを指します。同年、1億台を超えるデジタル放送受信機器が日本中に出荷されました。これは、デジタル化のメリットである双方向性を享受できるインフラが、日本中に行き渡ったことを意味していました。

他方、2011年3月11日に発生した東日本大震災を忘れてはなりません。当時、各局では東北地方を中心に多方面で刻々と変わる状況を細かに伝える役割を果たすなど、未曽有の天災の実情を連日伝え、多くの国民が被災地の状況を目の当たりにし、復興への想いを共有しました。

アナログから地上デジタルへの移行を完遂

地デジへの移行 総務省地デジコールセンター
(2011年7月24日 写真:共同通信社)

このような時世に、2011年7月24日をもって地上波放送のアナログ停波、デジタルヘの全面移行の実施が決定。当社は、切り替えの準備に万全を期して取り組みました。

アナログ停波が迫ると、視聴率調査の世帯数を確保するために予備サンプルを抽出。調査対象世帯が地デジ対応のテレビを全面移行日までに所有していなかった場合、サンプル世帯数が欠けてしまうので、予備世帯を確保したのです。
また、全面移行直前に集中する可能性のあったテレビの買い替えに伴う新測定機設置作業の急増も予想し、設置要員を増員。対象世帯の秘匿が絶対条件の中、対象世帯からなるべく早く買い替え情報を入手しなければならない点にも気を配りました。

地デジへの移行 総務省地デジコールセンター
(2011年7月24日 写真:共同通信社)

搬入当日は、古いテレビの測定機を外して、地デジ対応テレビが設置されるまで外で待機し、設置終了後すぐに新しいテレビに視聴率測定機をつける、という手間のかかる手順を各世帯で繰り返し、新測定機の設置作業を完遂しました。

さらに、7月24日正午のアナログ停波の際は、対応に漏れがあった場合に備えて、メータ調査部をはじめ、関連する部署が特別対応体制を敷いて臨みました。このような社員・スタッフの頑張りもあって、予定どおりデータを提供することができたのです。

こうして、2011年7月、アナログ停波前の繁忙を乗り切り、10年近くにわたって進められてきた地上デジタル放送対応は、東日本大震災の影響が大きかった東北3県を除いて、全地区で完了しました。

デスクトップパソコンによるテレビ視聴測定への対応

パソコンによるテレビ視聴の測定開始‐プレイスシフト、タイムシフト視聴へ対応

2011

デジタル化は、視聴形態の多様化をもたらすことになりました。このことは、すなわち、録画によるタイムシフト視聴の増加やPCおよび携帯電話などによるプレイスシフト視聴(いつでも、どこでも視聴)です。

プレイスシフト視聴に対応するため、2011年7月当社はPCによるテレビ視聴率の測定を開始。テレビ視聴率調査実施27地区で、「12セグメントの地上デジタル放送が視聴可能なこと」「自宅内で利用すること」「据え置きで利用すること」、この3つの条件をすべて満たすPCテレビを調査対象に追加しました。

ただ、測定にあたっては、PCでのテレビ視聴に特有の大きく不安定な“ズレ”をどう処理するかという技術的な問題が横たわっていました。
デジタル放送は、エンコードされた情報をテレビでデコードして映像・音声を処理する仕組み。厳密に測定すると、デコードする処理スピードの違いから、3種のテレビがあるとすれば、3種それぞれの放送時間にわずかなズレが生じます。PCの場合はこのズレ幅が、CPUの能力や他のアプリケーションの使用状況などにより、さらに大きくなります。
そのため、ズレを補正して視聴率を正しく測定できるような技術開発を早急に進めていきました。

運用面では、PCがプライバシーの塊とも言える機器であるだけに、PCテレビ視聴データの提供についてはさまざまな課題が噴出しました。しかし、調査世帯を尊重した仕様での対応に努め、これらの問題発生を回避し、PCテレビ視聴データの提供開始にこぎつけることができました。

また、タイムシフト視聴については、1985年開始した「ホームビデオ録画率・再生率報告書」で把握できていましたが、地上デジタル放送によってリアルタイム視聴と録画の比率が高まることが予想されました。当社としてはタイムシフト視聴への新たな対応が必要となり、準備を始めました。