ブランドイメージを守る広告の在り方とは?製品カテゴリー別のブランド毀損リスクとその背景をデータで検証(ひと研究所/広告研究シリーズvol.6)
- この記事はこんな方にオススメ!
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- 広告キャンペーンのメディア・プランニングを担当される方
- テレビCM・動画広告のブランドセーフティに関心がある方
はじめに
マーケティング活動におけるブランド毀損リスクは企業価値に直結する重要課題です。この問題に対処するためには、ブランド毀損が発生するメカニズムを理解し、リスクを最小化することが不可欠です。前回の記事(広告研究シリーズvol.5)では、「道徳的に問題があるサイトでの広告表示」や「大規模災害の緊急報道番組でのCM放送」など、広告出稿場所に関する要因がブランド毀損に大きく影響することを説明しました。
また、ブランド毀損の程度を左右する要因として、「広告主による管理可能性」や「事案自体のネガティブイメージの強度」などがあることを指摘しました。
前回は「缶・ペットボトルコーヒー」に焦点を当てましたが、今回は「スマートフォン」と「外食チェーン」も含めた分析を行い、製品カテゴリー間でブランド毀損リスクに違いがあるのか、そしてその背景にあるものは何か考察します。
製品カテゴリー別のブランド毀損リスクの測定
比較対象の製品カテゴリー(缶・ペットボトルコーヒー、スマートフォン端末、外食チェーン)は、いずれも生活者が頻繁に購入・利用するものです。一方、これらの製品カテゴリーは、ブランドを選択する際のブランドイメージの重要度や、生活者のブランドロイヤルティ(ブランドへの愛着)の形成のしやすさなどに違いがあると考えられます。
このような違いが、ブランド毀損の発生のしやすさに直接影響します。例えば、ブランドイメージが購入決定に強く影響するカテゴリーでは、不適切な広告の掲載場所や問題のあるタレントの起用がもたらすリスクは高くなるでしょう。
製品カテゴリー間での違いを検証するため、カテゴリーごとにブランド毀損リスクを測定しました。測定方法は以下のとおりです(図1)。
- 調査対象者は、特定の製品カテゴリー(缶・ペットボトルコーヒー、スマートフォン端末、外食チェーン)の中で、最も頻繁に利用しているブランドを選択
- 選択したブランドに対する評価を回答
- 以下のいずれか1つのブランド毀損シナリオを提示
- 道徳的に問題があるサイトでの広告表示
- 大規模災害の緊急報道番組でのCM放送
- 不倫や浮気が発覚した有名人の広告出演
- 不適切発言(中傷発言など)をした有名人の広告出演
- シナリオ提示後、再度同じブランドの評価を回答
- シナリオ提示前後のブランド評価の変化を測定することで、各シナリオによるブランド毀損の程度を数値化
「道徳的に問題があるサイトの広告表示」の不適切性
まず、各ブランド毀損シナリオと製品カテゴリーの組み合わせについて、どの程度不適切だと感じるのかを確認します。不適切性の評価は7段階(1:とてもあてはまる ~ 7:まったくあてはまらない)で聴取し、上位2段階の比率を集計しました(図2)。
結果を見ると、今回の比較対象であるいずれの製品各カテゴリーにおいても、「道徳的に問題があるサイトでの広告表示」の不適切性が高いことが確認できます。このことから、生活者は製品カテゴリーに関係なく、企業の広告出稿先の選定に対して、高い倫理性を求めていることが明らかになりました。一方、どの製品カテゴリーにおいても、「大規模災害の緊急報道番組でのCM放送」の不適切性のスコアが最も低いことも確認できます。この結果から、製品カテゴリーに関係なく、生活者は災害のような予期せぬ状況下での広告出稿については、ある程度やむを得ないという評価をしていると判断できます。
「道徳的に問題があるサイトでの広告表示」のブランド毀損リスク
次に、各ブランド毀損シナリオがブランド評価に与える影響を製品カテゴリー別に確認します。ブランド評価は以下の3つの指標について測定しています。
- ブランド好意度:「このブランドについて好感を持てる」
- ブランド信頼感:「このブランドについて信頼感を感じる」
- 購入・利用意向:「このブランドを今後も購入・利用したいと思う」
各指標は11段階(1:とてもあてはまる ~ 11:まったくあてはまらない)で回答してもらい、「あてはまる」に該当する選択肢のうち上位3段階の比率について集計しました。図3では、各カテゴリーと毀損要因の組み合わせごとに、シナリオ提示前と提示後のブランド評価の差分を示しています。
結果を確認すると、いずれのカテゴリーにおいても「道徳的に問題があるサイトでの広告表示」が最も大きなブランド毀損(ブランド好意度、信頼感、購入・利用意向のいずれでも)につながることが分かります。また、製品カテゴリー共通の傾向として、広告出演者の要因よりも広告出演場所の要因の方が、ブランド毀損への影響が大きいことが確認できます。この結果から、製品カテゴリーを問わず、生活者は広告企業に対して、有名人の不祥事を不可抗力としてある程度の許容を示す一方、広告掲載場所については企業の直接的な管理責任が問われるという認識があると考えられます。
興味深いことに、不適切性の評価ではすべての製品カテゴリーで最も低いスコアだった「大規模災害の緊急報道番組でのCM放送」は、実際のブランド毀損効果では製品カテゴリーを問わず比較的大きな影響を示しています。前回の記事でも考察しましたが、これは大規模災害の報道という非常に強い印象を伴う場面で広告が表示されることで、視聴者の記憶の中で「災害」と「ブランド」が意図せず結びつけられてしまう可能性を示唆しています。つまり、どのブランドであっても、大規模災害というネガティブな感情を伴う文脈の中でブランドが露出することにより、「災害」という望ましくないブランド連想が生じやすくなるリスクがあるということです。
ブランド購入・利用意向の毀損リスクが特に高い「飲食系カテゴリー」
図4は、図3のブランド購入・利用意向の部分を抜粋し、製品カテゴリー間で比較がしやすいように色分けしたものです。すべてのシナリオにおいて、「缶・ペットボトルコーヒー」と「外食チェーン」のスコアの減少が、「スマートフォン端末」よりも大きいことが確認できます。つまり、飲食系カテゴリーの購入・利用意向の毀損リスクは他の製品カテゴリーよりも高い傾向にあることがわかります。
この傾向の背景要因を探るため、図5では調査で収集した「購入・利用の際に重視する要素」の3項目について、製品カテゴリー別に比較しています。3カテゴリーに共通して、最も重視されるのは「価格」で、次いで「機能・利便性や特徴」、そして「イメージ」の順となっています。
注目すべきは「イメージ」の重要度です。製品カテゴリー間で比較すると、「缶コーヒー・ペットボトルコーヒー」で最もスコアが高く、次いで外食サービスとなっており、「価格」「機能・利便性や特徴」とは異なる傾向となっています。このことから、飲食系カテゴリーはスマートフォン端末よりも、ブランドイメージが購入・利用意向に影響しやすいと推察されます。したがって、飲食系カテゴリーで購入・利用意向の毀損リスクが高い理由の一つに、ブランドイメージが購入・利用意向に結びついていることが影響していると言えそうです。
おわりに
今回は、異なる製品カテゴリーにおけるブランド毀損リスクの差異を検証しました。主な発見として、特に飲食系カテゴリーにおいて、ブランド毀損の影響がより大きくなる傾向が明らかになりました。この傾向は、飲食系カテゴリーでは、生活者の購買意思決定においてブランドイメージが比較的重要な役割を果たしているためと考えられます。飲食系ブランドを展開する企業は、広告出稿場所やタレント起用に伴うイメージ醸成について特に慎重な意思決定を行うべきでしょう。
ひと研究所では、ブランド毀損のメカニズム全体の解明に向け、今後も生活者心理と市場構造の両面から継続的な研究をすすめてまいります。
【ひと研究所 ブランド毀損調査2024年11月 調査概要】
調査日 :2024年11月1日(金)~11月7日(木)
調査手法 :web調査
調査エリア :全国
サンプルサイズ :5,925
対象者属性 :男女15~69歳(なるべく均等になるように回収)