【ラジオレコメンダー" やきそばかおる "の I love RADIO】たくさんの人の口角を上げたい~放送作家・脚本家 前田知礼さん~

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【ラジオレコメンダー" やきそばかおる "の I love RADIO】たくさんの人の口角を上げたい~放送作家・脚本家 前田知礼さん~

ラジオ レコメンダー" やきそばかおる "の I love RADIO  第92回


今回は放送作家、脚本家の前田知礼(とものり)さんに話を伺いました。1998年広島県生まれ。2021年に日本大学芸術学部放送学科を卒業しました。会社員時代を経て、自身のnoteに「『古畑任三郎vs霜降り明星』の脚本を全部書く」を執筆。その公開後、放送関係者の目に止まり放送作家に。

脚本担当作品『崖』(テレビ朝日)、『架空名作劇場』(テレビ東京)、『僕たちの校内放送』(フジテレビ)、『本日も絶体絶命。』(ショートコント)、『あの卓が気になる』(ショートドラマ)。

そのほか構成作家として、ダウ90000、アニメコントチャンネル『マリマリマリー』、『推しといつまでも』(MBS)、『にっぽんPOV紀行』(日本テレビ)、『カチッと!』(東海テレビ)、『最初のテレビ』(テレビ朝日)などを担当。『映画チャンネル』コラム連載など、多岐にわたり活躍しています。

ラジオで披露したものまねを機に、まさかのサプライズ

前田さんが初めて聴いた番組は『一文字弥太郎の週末ナチュラリスト朝ナマ!』(広島・RCCラジオ)でした。その後『国分太一 Radio Box』(JFN系列で放送)を聴き始めたことをきっかけにラジオにハマったそうです。

ラジオネーム「だるまボーイ」として、地元の番組『大窪シゲキの9ジラジ』(広島FM)、『平成ラヂオバラエティ ごぜん様さま』(RCCラジオ)にもハマり、メールで投稿をしていました。

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▲『9ジラジ』の大窪シゲキさん(写真右)と

 

『9ジラジ』では番組に出演してものまねを披露し、番組の大型イベント「9ジラジ卒業式」では答辞を担当。ユーモアを交えた内容が好評で大いに話題になりました。

やきそば 特に『9ジラジ』にはよく参加していたそうですね。

前田さん そうなんです。初めて電話出演した回で当時の特技だったものまねを披露したんですけど、その放送中に、とあるリスナーの方が「あなたのものまねを聴いて元気が出た」というメールを送ってきたことがあったんです。

学校でいじめられて泣いていたんだけど、そんな時に『9ジラジ』で僕がものまねをしているのを聴いて久しぶりに笑ったという内容でした。

この時に「僕の稚拙なものまねでも誰かの口角を上げることができるんだ」と初めて感じました。あとになって考えると、僕がお笑いに興味を持ち、それを仕事にしたいと思い始めたきっかけのひとつだったのかもしれません。

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▲「9ジラジ卒業式」にて

やきそば 素敵な話! ほかに印象的だった出来事を教えてください。

前田さん 番組内で披露していたレパートリーのひとつにシンガーソングライターの高橋優さんのものまねがあるんですけど。ある日の『9ジラジ』に優さんがゲスト出演された時に、よせばいいのに僕がものまねをしている音源を流したんです。

僕は優さんが大好きだから嬉しい反面「あ〜、これで嫌われちゃった...」とかなり凹みました。そうしたら後日、優さんの広島LIVE終わりに大窪さんから「優くんに会いに行こう」といきなり言われて、急に楽屋挨拶をすることになったんですよ。

僕は心の準備もできないまま、ガチガチに緊張しながら「こないだ、ものまねをさせていただいた、ラジオネーム『だるまボーイ』です」と挨拶させていただきました。『9ジラジ』の皆さんのおかげでできた貴重な経験でした。

やきそば すごい!

小学校の時にさだまさしさんにハマる

やきそば ところで、初めて読んでもらった番組は何ですか?

前田さん 実は初採用はラジオではなくて、NHKのテレビ番組『今夜も生でさだまさし』なんです。確か、水戸放送局からの放送だったかと思います。

やきそば そうなんですか!

前田さん 親が持ってたCDでさださんを知って、さださんのファンクラブにも入会してコンサートにも行っていましたからね。『生さだ』も毎週見ていました。

やきそば 小学生の時にさださんファンになったなんて、貴重な存在ですね! 私もさださんファンの一人ではありますが、小学生でさださんの魅力に気付いたのはすごい!

前田さん 曲ももちろん良いんですが、話が超面白いんです! 特に、コンサートのトーク部分だけを集めた4枚組のCD『さだまさしトークベスト』が大好きで繰り返し聴いてました。なかでも「嗚呼!十津川村」は特におすすめですね。

ちなみに、早稲田大学には「さだまさし研究会」というインカレサークルがありまして、僕も一瞬だけ入ってました。なのでいつか「さだ研」を舞台にした青春ドラマの脚本を書きたいと思っています。

一日で書き上げたシナリオで大反響

大学は、日本大学芸術学部放送学科に入学。モザイクという劇団を作りました。その後、テレビの制作会社に勤めたあと、自身のnoteに綴った脚本「『古畑任三郎vs霜降り明星』の脚本を全部書く」がきっかけで放送作家デビューしました。

やきそば 公開された時、ものすごい反響でしたよね! しかも、すぐに脚本として使えそうなくらい、よくできてますし。

前田さん 会社を辞めてアルバイトをしていた頃、まず始めたのがシナリオコンクールに脚本を応募しまくることだったんです。「フジテレビヤングシナリオ大賞」とか「テレビ朝日新人シナリオ大賞」とか。コンクール用のシナリオ執筆が一段落した3月初旬に「一旦好きなことやろう」と思って書いたのが「古畑vs霜降り」でした。

最初は冒頭部分だけでも書いて投稿しようと思ったのですが、いざ書き始めたら止まらなくなって、そのまま全部書きました。で、その秋に、それを読んでくださったとあるテレビ局の方に深夜番組に誘っていただいて放送作家デビューします。それが4年前の話です。

やきそば まさに行動力の賜物ですね。

使命を感じた平和特番

前田さんは8月15日に放送された特別番組『もう一つのパレード~復興を支えた高校球児たち~』(広島FM)のドラマパートの脚本を担当しました。

被爆後の広島の復興のため懸命に生きてきた人たちの心を、時に躍らせ、時に勇気づけていたのが、 スポーツの力。なかでも、戦後12年目に全国優勝を果たした広島商業高校(現 広島県立広島商業高等学校)野球部が戦後の混乱や苦労を乗り越えていく姿は、多くの人たちの希望となりました。

番組では戦前から戦後にかけて広島県内における高校野球の歴史、戦後初めて広島県勢として優勝を飾った広島商業高校 野球部にスポットライトを当てて、優勝パレードまでの道のりを、本人たちの貴重な証言とラジオドラマで描きました。(番組公式サイト参照)

やきそば 2025年は終戦80年ということもあり、例年以上に戦争と平和にスポットを当てた番組が多かったように感じられます。前田さんは27歳の若さで大役を務めたわけですが、ひょっとすると前田さんが20代ということも白羽の矢が立った要因のひとつかもしれませんね。

前田さん お話を聞いた時はビックリしました。いつもティーン向けの縦型コントばかり書いてるのに、急に平和特番。でも逆に考えると、普段若者に向けて分かりやすいショート動画を作っている僕だからこそ、この平和特番を同世代の人たちに届けられるのではないかと思ったんです。

若者だからこそ作れる平和特番になるんじゃないかと。それで言うと実はナレーションを担当した永谷治香さん(『大窪シゲキの9ジラジ』アシスタントDJ、『9ジラジFRIDAY』DJ)も同世代なんです。

やきそば そうなんですね!

前田さん これまでも平和の大切さを伝える特別番組はたくさん作られてきましたが、正直若い世代の人々に届きにくいものが多かった気がします。当たり前と言えば当たり前ですが、重いしかたいし暗いんで。だから10代20代は観ないし聴かない。

なので若い人にも聞いてもらえるような、ライトなタッチの脚本を心がけました。特に今回、いただいたお話が広島商業高校野球部に焦点を当てたものでしたので、そことの相性も良かったんじゃないかなと思います。

やきそば 苦心した点は?

前田さん まずは、8月6日のシーンですね。午前8時15分にアメリカ軍が原子爆弾投下する前後の様子は、ドラマの主人公の一人である曽根さんご本人のインタビューを聞いたり、新聞資料と照らし合わせたりしながら書きました。

それと、野球の試合をラジオドラマの台本に落とし込むのも難しかったですね。実況のアナウンサーの言葉、球場の観客の様子からボールの行方まで、音だけできちんと伝わるかどうか不安でした。テンポも大事なので、『アイシールド21』などのスポーツ漫画の表現を参考にしました。

やきそば 私も拝聴しまして、とても丁寧な描き方で、食い入るように聴きました。余談ですが『9ジラジ』の大窪さんがギャラクシー賞を受賞した時に「いつか『大窪シゲキ物語』の脚本を書きたい」と仰っていましたが、その前に意外な依頼が届きましたね。

前田さん そうなんですよ! 僕は軽い気持ちで「オオクボックスのラジオドラマを書かせてくださいよ!」って言ってただけなのに、思わぬ大仕事をさせていただきました。僕は長年「9ジラー」(『9ジラジ』リスナーの愛称)をやらせてもらっているので、今度こそは大窪さんが歩んだ『9ジラジ』の歴史を辿るドラマの脚本を書きたいです。

"今"に合わせたネタ作り

やきそば いろいろな仕事でたくさんのアイデア出しをしてらっしゃいますよね。

前田さん 多いときは週に60案くらいコント案を考えてます。

やきそば 驚異的な多さですね!!

前田さん ラジオに投稿していた頃は、なぜ自分のメールが採用されなかったのか分からないけど、会議だと演出の方の反応が分かるんです。読まれる保証がないのに闇雲にメールを送っていたハガキ職人時代とは違って、今はネタを考えることが仕事になっているのが嬉しいですね。映像化もされて、名前も表記されて、お金ももらえて(笑)。

やきそば お金は大事ですね(笑)。ネタの種のようなものはどこから浮かんでくるんですか?

前田さん いわゆる"降りてくる"なんてことはなくて、絞り出したり辿り着いたりする感じです。あとは、日頃気になったことをメモしています。気になったこととか、ムカついたこととか。

例えば、仕事を振る時に「投げる」という人がいるじゃないですか。「来週くらいに宿題を投げるので打ち返していただいて...」って。すると「『人にものを投げるのは良くない』と言われて育ってきたはずなのに、なんでビジネスの場でその言葉が使われてるんだろう」って思うんです(笑)。

そういうのがコントの種になっています。だから、こうして喋っているうちに違和感を抱いたら、やきそばさんもネタにされるかもしれないので気をつけてください。

やきそば ひぇ〜〜。それは大変! でもちょっと嬉しいような気もします(笑)。ところで、ネタの会議はどんな雰囲気ですか?

前田さん 例えば、『あの卓が気になる』は作家がみんな同じ世代なので本当にゆるいです。内容を説明しているうちにこっちが饒舌になって、全員で盛り上がれるネタは採用率が高い印象です。

「2時間ドラマあるある」をドラマに

前田さんは10〜20代向けの作品の脚本を手がける一方、"存在しない名作"を勝手に作ってお送りする『架空名作劇場』、友近主演のショートドラマ『崖』のように昭和のドラマをモチーフにしたものもあります。

やきそば 前田さんが生まれる前の世界観ですが、面白さの要素をドラマに落とし込むのが絶妙ですね(笑)。

前田さん 僕は2時間ドラマの元気がなくなってきている時期に育ったので、2時間ドラマそのものというよりは、いろんな芸人さんの2時間ドラマあるあるをフリにしたコントを見ていた世代なんです。ロバートの秋山さんの「終わり際コメディ」とか、バカリズムさんの「熊谷さん」とか。

やきそば 前田さんは、昨今のエンターテイメントの動きをどのようにみていますか?

前田さん 映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』(監督・脚本 原恵一。2001年公開)が大好きなんです。古き良き昭和を取り戻そうとする組織「イエスタディ・ワンスモア」に、未来を取り戻すために立ち向かうしんのすけが本当にかっこよくて。

ただ、今年僕が関わった作品を振り返ってみると、霜降り明星のせいやさんの主演で作った"全編モノクロ"のコント番組『最初のテレビ』(テレビ朝日)、往年の2サスの最後だけをやる『崖』(テレビ朝日)、あの頃の名作を勝手に作る『架空名作劇場』(テレビ東京)、全部「イエスタディ・ワンスモア」寄りの番組なんですよ(笑)。 

やきそば 今、日本テレビで昭和・平成に放送された伝説のクイズ番組に令和の解答者が「タイムリープ」して当時の問題に挑戦する『クイズタイムリープ』を不定期で放送していますよね。『マジカル頭脳パワー!!』はまさに学生の時に観ていたので「最新技術を使った面白い企画!」だと思いました。

前田さん 僕も好きなんですよ。ただ、『嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』では最後のほうで、しんちゃんが「父ちゃんや母ちゃんとこの先の未来を歩みたい」「オラ、大きくなって綺麗なお姉さんと結婚したい」と言って、20世紀の懐かしい匂いが充満するのを阻止しようとするんです。

だから、懐かしい作品をもとに作品を作る一方で、新しい作品も作っていかないといけないという思いもあります。

やきそば 確かに、懐かしいものの話って盛り上がるんですよね。僕みたいなおじさんになると、若い人にやたらと教えたがって煙たがれるという(笑)。

前田さん 縦型コントとあの頃のサスペンス、懐かしいものと新しいものを半々で作っています。

やきそば 今、新しいもので溢れていて、生成AIに関してもSNS上で「どんどん把握していかないと置いていかれる」といった広告に溢れているので疲れているんでしょうね。

運命が運命を呼ぶ人生

やきそば 以前、前田さんが僕のラジオ※ に出演した時、「前田さんはNHKの朝ドラの主人公のような人生っぽい」と思ったんです。

広島のラジオ番組『大窪シゲキの9ジラジ』やお笑いにハマって日本大学芸術学部に入学して、同じく日本大学卒業の蓮見翔さん率いるダウ90000の構成の仕事をするようになり、仕事を通じて爆笑問題に出会って、さらに活躍の場をどんどん広げているという。しかもここ10年ほどの間で。

前田さん ありがたいですね(笑)。

やきそば 展望を教えてください。

前田さん 地元の広島の人がテレビで観られる番組でも仕事をしたいです。僕が脚本を書いた番組ってテレビ放送だと全て関東ローカルなんです。毎回一応、地元広島の番組表を見に行くんですが、案の定ネットされてない。

まぁでもTVerで観られるんだからいいじゃないと思いきや、アプリを入れて、広告の動画を2、3本観てもらったあとで本編を観てもらうってのはなかなかハードルが高いと思うんです。もし全国ネットが難しければ、あとは、広島ローカルでもいいので、地元を舞台にした作品の脚本を書きたいですね。

やきそば 先ほど『9ジラジ』で前田さんがものまねをしているのを聴いてくれた人の口角が上がった話がありましたが、今後もたくさんの人の口角を上げていくわけですね。

前田さん 「誰かの口角を上げたい」と言うと素敵風に聞こえると思うのですが、それはただ単純に「ウケたい」っていう気持ちだけなんです(笑)。SNSで反応をみていて「これはウケるけど、こっちは反響が薄いな」とか思いながら。

やきそば さすが!! 楽しいことに対する探求心がすごいですね(笑)。

※『やきそばかおるのラジオコンシェルジュ』(渋谷のラジオ)は「渋谷のラジオ」のサイトでアーカイブを聴くことができます(無料)。前田さんは2025年5月23日、6月20日放送に出演。

<了>