【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】ディズニー、AI生成動画でユーザー参加型プラットフォームへ転換

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【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】ディズニー、AI生成動画でユーザー参加型プラットフォームへ転換

ディズニーが変わった。これまでAI企業を次々と提訴し、知的財産の保護に躍起になってきた同社が、驚くべき方針転換を見せている。

第4四半期決算説明会においてロバート・アイガー最高経営責任者(CEO)は、動画配信サービス「Disney+(ディズニープラス)」にAI生成のユーザー作成コンテンツ(UGC)機能を導入する計画を明らかにした。AI技術に対して防衛的だった同社が、一転して積極活用へと舵を切った形だ。

新機能により、ユーザーはAI技術を使って短編動画を制作・投稿でき、さらに他のユーザーが生み出したコンテンツも視聴できるようになる。具体的なプラットフォームの構造はまだ明らかにされていないが、これは単なる機能追加ではない。

従来の映画やドラマを一方的に配信するモデルから、ユーザーがクリエイターとして参加し、コミュニティが形成される双方向型のエコシステムへの転換を意味している。TikTokやYouTubeが切り開いたUGCの領域に、ディズニーという巨大IPホルダーが本格参入する構図だ。

「AIによって、Disney+のユーザーにはるかに魅力的な体験を提供できる」とアイガーCEOは説明する。「ユーザーがコンテンツを作成し、他のユーザーが作った短編動画を楽しむという双方向の体験を可能にする」

興味深いのは、ディズニーがどの映像制作AI企業と提携するのかを明言していない点だ。

OpenAIのSoraやGoogleのVeoなど、生成AI動画の分野では複数の有力プレイヤーが存在する。あるいは、ディズニーが独自のAIモデルを開発している可能性も排除できない。テクノロジーパートナーの選択は、この戦略の成否を左右する重要な要素となるだろう。

ディズニーのAI戦略は劇的な転換点を迎えている。同社はこれまで、AI企業に対して攻撃的な法的措置を取ってきた。2025年6月には画像生成AI企業Midjourneyを著作権侵害で提訴し、9月には中国のAI動画生成企業MiniMaxを「意図的で大胆な」著作権侵害で訴えた。

同じく9月には、AIチャットボット企業Character.AIに対し、ディズニーキャラクターの無断使用を停止するよう警告を発している。

さらにOpenAIの動画生成ツール「Sora 2」に対しても、ディズニーはローンチ直後に即座に自社コンテンツの学習利用を拒否する「オプトアウト」の措置を取った。

Sora 2では当初、ユーザーが著作権で保護されたキャラクターの動画を容易に生成できる状態になっており、ディズニーのIPが無防備に晒されるリスクがあったためだ。わずか数ヶ月前まで、ディズニーは生成AI技術を脅威と見なし、法的手段を辞さない姿勢を貫いていた。

しかしいま、ディズニーはAI企業を敵ではなく、パートナーとして迎え入れようとしている。この180度の方針転換を可能にしたのは、好調なストリーミング事業だ。

Disney+の会員数は第4四半期に380万人増加し、世界で1億3,160万人に達した。成長の勢いを維持するには、ユーザーエンゲージメントを高める新たな施策が不可欠だった。

そしてディズニーは、自社のIPを守りながらAI技術を活用する道を選んだ。管理されたプラットフォーム内でユーザーにクリエイティブな自由を与えることで、防御から攻勢へと転じたのである。

ディズニーは2026年、コンテンツへの投資を前年比10億ドル増やす計画も発表している。この大規模投資は、従来型コンテンツの強化だけでなく、AI関連の技術開発やパートナーシップにも振り向けられる可能性が高い。AI企業との契約が成立すれば、ファンがディズニーのキャラクターを使って自由に創作できる時代が現実のものとなる。

ただし、ディズニーが直面するのは極めて繊細な舵取りだ。知的財産の保護と創造性の解放という、相反する二つの目標のバランスをどう取るか。

厳格すぎるガイドラインはユーザーの創作意欲を削ぎ、緩すぎる管理はブランド価値の毀損を招く。その絶妙なさじ加減が、エンターテインメント業界全体のAI活用のロードマップとなりそうだ。

<了>