【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】2025年米映画界総括。復調の裏で進む地殻変動

最終更新日:
メディア
#動画配信 #小西未来 #映画 #海外
【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】2025年米映画界総括。復調の裏で進む地殻変動

2025年の北米映画興行収入は86.5億ドルに達し、前年を上回ってコロナ禍以降、最高を記録した。ちなみに史上最高は2018年の119億ドルで、完全復活にはまだ距離がある。 それでも表面上、ハリウッドは復調したかにみえる。だが、その数字の裏では、業界のルールが静かに書き換わっていた。

もっとも象徴的な出来事が、中国発のアニメ映画『ナタ 魔童の大暴れ』が約22億ドルを稼ぎ出し、年間世界興収トップに立ったことだ。世界の映画産業の中心として君臨してきたハリウッドの地位が、確実に揺らぎ始めている。

ハリウッドが長年頼りにしてきたスーパーヒーロー映画も、風向きが変わった。2025年、マーベルの『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』は苦戦。高評価を得た『サンダーボルツ*』すら興収不振に終わり、クオリティの高さが必ずしも成功を保証しなくなった。

一方でDCの『スーパーマン』は2025年のスーパーヒーロー映画トップの成績を収めたが、それでも7億ドルには届かず、かつてのような爆発的ヒットは生まれなかった。

人気キャラクターであっても、作品のクオリティ次第で成否が大きく割れる。「出せば当たる」時代は終わり、スーパーヒーロー映画は普通の大作ジャンルのひとつになったと言える。

その一方で、低予算のホラー映画が好調だ。『死霊館』シリーズ最新作『死霊館 最後の儀式』は世界総興収5億ドル近くに到達し、シリーズ最高記録を打ち立てた。

ライアン・クーグラー監督のオリジナル作品『罪人たち』、ザック・クレッガー監督の『WEAPONS/ウェポンズ』と、R指定ホラーが次々とヒットを飛ばしており、スタジオにとって、リスクの低いジャンルとして存在感を増している。

ディズニーの実写リメイク『白雪姫』は巨額を投じながらも大赤字に終わり、同じくディズニーのSF大作『トロン:アレス』も失敗した。「IPさえあれば安泰」という時代が完全に終わったことを示している。

その一方で、ゲーム原作の『マインクラフト/ザ・ムービー』は世界総興収9億ドル超えの大ヒットを記録。IPの価値はブランドの知名度ではなく、そのIPでしか提供できない体験にあるようだ。

2023年、全米脚本家組合と全米映画俳優組合がストライキを起こし、AI脚本生成や俳優のデジタルレプリカをめぐる規制を勝ち取った。大きく報じられた成果だった。

しかし2025年、AI活用はむしろ加速している。メジャー作品の制作現場では、プリプロダクションやポストプロダクションにおいて生成AIツールが当たり前のように組み込まれている。2025年のアカデミー賞候補のうち、少なくとも2本で音響作りにAIを活用したと報じられた。

AIはコスト削減ツールとして重宝される。しかし同時に、ハリウッドのクリエイターたちの仕事を静かに浸食している。AIは規制されたのではない。ただ見えにくくなっただけだ。

配信優先の流れも止まらない。Netflixによるワーナー・ブラザース・ディスカバリー買収計画が報じられたことで、劇場公開の衰退は決定的なものになろうとしている。

Netflixのビジネスモデルは会員向け配信が中心だ。劇場公開は、アカデミー賞の出品資格を満たすための最低限の上映にとどまる。買収が成立すれば、映画監督にとって作品を大スクリーンで長期間観客に届ける機会は、ほぼ失われてしまう。

「映画館で観る」という体験は、かつて映画産業の根幹だった。しかし今や、それは例外的なイベントになりつつある。劇場は『アバター』のような特別な作品だけが選ばれる場所へと変わっていっているように映る。

そんな流れに逆らおうとしているのが、劇場体験に強いこだわりをもつクリストファー・ノーラン監督だ。今夏公開の最新作『オデュッセイア』は全編IMAXカメラで撮影した超大作である。

ノーラン監督といえば、『バービー』(グレタ・ガーウィグ監督作)と同時公開した『オッペンハイマー』で"バーベンハイマー"現象を巻き起こした。この最新作で、再び劇場へ観客を引き戻すことができるか。今後のハリウッドを占う試金石になりそうだ。

<了>