広告効果におけるメディア別の役割~メディア・エンゲージメントの観点から~

吉田 正寛
ソリューション事業局 マーケティングソリューション部
吉田 正寛
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広告メディアの評価軸として、リーチへの関心は依然高いですが、一方でリーチした際の広告への反応はメディアによって異なることが想像されます。同じ広告クリエイティブであっても、テレビCMで見る場合とネット動画で見る場合では反応も異なるでしょう。広告接触時に、広告のクリエイティブ以前にメディアそのものに対して起こる心理的反応は「メディア・エンゲージメント」と呼ばれています。

メディア・エンゲージメントには広告効果を押し上げたり、押し下げたりする力が存在すると言われており(Calder & Malthouse 2008, 広瀬 2008)、それが高まると広告表現効果が高まるという一時的関係が存在すると考えられています(Wang 2006)。各メディアのメディア・エンゲージメントを把握することでその効果を最大化することができるでしょう。そのため、メディア別の広告効果を考える際、リーチだけでなくメディア・エンゲージメントも変数として考慮することが重要であるといえます。
 

広告効果を考える上で、メディア・エンゲージメントの考えをどのように用いることができるでしょうか。一例として、各メディアの広告プランニング上の役割をこれに基づいて考えることができるのではないでしょうか。広告メディアのプランニング上の役割については、以前からよく検討されていました。例えば、インパクト形成のためにテレビCMを活用する、ターゲットに効果的にアプローチするためにWeb広告を用いるという具合です。今回は、これについて当社保有の生活者データ「ACR/ex」を用いて数値化し検討します。広告メディアの特徴を描写しメディア・エンゲージメントを数値化することで、各メディアの広告プランニング上の役割を明確にします。

■メディア・エンゲージメントを数値化する項目
メディア・エンゲージメントは、広告クリエイティブによらず広告メディアそのものに対して起こる心理的反応です。広告効果の研究領域では、過去、様ざまなアプローチでメディア・エンゲージメントの測定を試みられてきましたが、測定について共通の見解はないようです(石崎 2009)。ここでは、各メディアの広告に対して一般的にどのように反応するのかをメディア横並びで比較することで、メディア・エンゲージメントを数値化します。ACR/exでは、各メディアの広告印象32項目それぞれについて、当てはまる広告メディアを複数選択してもらう質問形式で取得しています。今回は東京50km圏の男女12-69才を対象に分析を行いました。

■広告出稿の蓄積量が関係
各メディアの広告印象項目をみるとストレスを感じる」を除くすべての項目でテレビCMがトップとなりました。32項目のうち、ネガティブ項目である「ストレスを感じる」を除く項目のスコアを足し上げてメディア・エンゲージメントの総量(図表1の最下部)を算出すると、テレビ(1,367pt)が、次ぐ新聞(612pt)を倍以上高くなっていました。

テレビや新聞、雑誌など広告メディアとして歴史のあるメディアに加え、新しい広告メディアでも広告掲出の場が多いネット静止画広告のサイト(PC)でメディア・エンゲージメントが高い傾向がみられます。テレビ、新聞、雑誌は黎明期から広告が入っているため、生活者にとって広告が生活の一部として馴染んでいる実態があるのではないでしょうか。生活者の浴びる広告量が多いものほどエンゲージメントが強くなるのかも知れません。もしそうであると、新しい広告メディアではエンゲージメントが弱いため、そのメディアのエンゲージメント特性が表面化しづらくなります。こうした結果から、広告出稿の蓄積量的な要素が関係していると考えられます。

そこで、次の章ではメディア内の広告印象の大小に着目してみたいと思います。

■印象の比較からそのメディアの強みを考える
各メディアの広告印象で高い項目を抽出しました【図表1】。メディア内で特に高い5つの項目に赤網掛けをつけています。メディアそれぞれの役割上の強みとして共通なのは「新発売された事を知る」「興味がわく」です。これらは広告メディアによらず共通する基本的なイメージといえるでしょう。次に、各メディア個別の強みをみていきます。

図表1:各広告印象項目該当広告メディア(%;各広告メディア接触者ベース;)
koukoku-1.png

【画像をクリックで拡大】

■各メディアのエンゲージメントの特徴
テレビCMは習慣性の高さが際立つ
メディア・エンゲージメントの総量が最も多いテレビCMは、各メディア共通の「新発売された事を知る」「興味がわく」に加え、名前を覚えやすい」「印象に残る」という印象が特徴的です。また、「つい見てしまう」も高く、習慣性が強いことがうかがえます。

ネット動画広告は内容理解・イメージ促進に効果的
同じ動画メディアでも、ネット動画広告だと「内容理解」「イメージが広がる」という印象が強くなります。Lean Forwardな視聴態度から、内容がより深く生活者に届くメディア像がうかがえます。ネット動画広告の課題は、やはり「ストレスを感じる」点でしょう。これを克服するカギとして、ネット動画のサイト(スマホ)で「欲しい情報がタイミングよく」という点が印象として強いことから、リタゲを中心とした個人への最適化が考えられそうです。

ラジオCMはインパクトの強さ
ラジオCMでは、テレビCMと同様で「名前を覚えやすい」「印象に残る」という印象が強くなっています。音声メディアですが、テレビに近いエンゲージメントの性質があります。上位5項目からは外れましたが「ひとつの広告を何度もよく見聞きする」も高いことから、ラジオCMはつい聴くものではなく意識的に聴いているものであると考えることもできます。

新聞広告・雑誌広告は内容訴求力、注視性の高さ
紙メディアの広告では、上述の動画メディアと印象が異なります。新聞・雑誌ともに「内容理解」「しっかり見る」という印象が強く、紙メディアならではの注視性と内容訴求力が明確になりました。ここに、新聞では「信頼」、雑誌では「品質性能詳細」が加わり、いずれも訴求内容理解と商品信頼性をはじめとするポジティブイメージ醸成が期待できることがわかります。これら新聞・雑誌の特徴は、紙として手元に残るためテレビCMやWeb動画広告、デジタルサイネージのように情報が流れていかず手元に留まるという特性に起因していると推察できます。

ネット静止画広告はニーズをより喚起させる
広告提示にターゲティングなどのコントロールが容易なネット広告の場合、「欲しい情報をタイミングよく得られる」「詳しく知る」「他と比較できて選択に役立つ」という印象が強くなります。むしろ、詳しく知ることや比較するという広告そのものより、その先の検索行動に対するイメージが強いようです。加えてターゲティングが可能でより関与のある人にタイミングよく広告出稿できる特性が、「タイミングよく」という印象として現れているようです。

イメージ醸成や内容理解よりも、生活者のその時々のニーズにあった訴求に役割を見出せそうです。ネット静止画広告でも「ストレスを感じる」の印象が、特にSNS(スマホ)で顕著になりました。SNSは他者との交流を目的に活用していますが、そこに無関係の広告が入ることに対する心理的ハードルはやはり課題といえます。

電車内・駅構内広告は誘目性の高さ
電車内・駅構内広告では、「目につくようになる」「つい見てしまう」という誘目性が強く、「商品名印象」が強い印象です。詳細を伝えるというよりは、商品名をしっかり認識させる点に強みがあるといえます。テレビ同様「つい見てしまう」という習慣性は、日々通勤・通学で電車を利用することに起因しているといえます。


以上で確認したメディア・エンゲージメント特徴をメディアごとにまとめました。図表2は、特定メディアで特徴的な項目のスコア(各メディア内での偏差値)をレーダーチャート化したものです。

図表2:各広告印象項目をまとめたメディアの特徴整理
koukoku-2.png

テレビやラジオではインパクトの要素が強く、内容理解では紙メディアが、詳細やタイミング的要素ではネットに特徴があることがわかります。総合的なメディア・エンゲージメントはテレビCMや新聞広告といったマスメディア且つ、歴史のあるメディアが強い結果となっていましたが、メディアそれぞれにおいて固有の特徴を抽出することができました。

テレビ・ラジオの出稿は商品インパクト醸成を狙い、紙メディアで詳細を訴求説明し理解を得つつ、同様にネットでも詳細をタイミングよく訴求するという一般的なセオリーがデータで裏付けられたといえます。
リーチ観点では、メディア別のリーチの高低というひとつの尺度でしか広告メディアを捉えることができませんが、メディア・エンゲージメントの視点ではそれぞれ広告メディアで担う役割の違いから広告メディアを多角的に捉えることができます。

商品特徴が細分化され広告で狙うターゲットが複雑になる昨今では、広告プランニングの際にリーチの観点だけでなく、広告の役割の観点からも検討することがより重要になると考えられます。各メディアのエンゲージメント特徴を鑑みて、メディア選定を行うことやクリエイティブの方向性を考えることで、より強いクロスメディア効果を引き出すことが可能となるでしょう。

今回は、広告メディアの印象の側面からメディア・エンゲージメントを定義し、メディアの役割比較を行いました。
得られた役割の差はプランニング上留意すべきメディア特徴を事前に知るうえで有用です。


今回の分析は男女12-69才の結果であるため、ターゲットが変わった場合(例えば女性若年層など)では結果が異なる可能性も考えられます。ターゲット別の観点からも検討する必要がありそうです。
今後、プランニングに組み込む際にメディアの役割に応じたアロケーションにこの考え方を活かすことができないか検討したいと考えています。また、メディア・エンゲージメントの総量が既存メディアで高くなる傾向がみられた点は各メディアの特徴をあぶりだす上での考察上の改善課題といえます。しかしこの差は広告メディアとして生活者に受け入れられている程度の差であると解釈することも可能です。そのメディアの歴史や累積出稿量に先立つエンゲージメントをあぶりだす分析ができないかについても、引き続き検討していきたいと考えています。

【参考文献】
Calder, Bobby J., and Edward C. Malthouse (2008) , "Media Engagement and
Advertising Effectiveness," in Bobby J. Calder, ed., Kellogg on Adveyiising & Media, Willey, pp. 1-36.
広瀬盛・ (2008) 「広告メディア」 石崎徹編著(2008) 『わかりやすい広告論』八千代HIJ版,
134-148ページ。
石崎徹(2009)「広告媒体の質的効果の観点によるメディア・エンゲージメント概念の検討」 
専修大学経営研究所報 178 1-16ページ。
Wang, Alex (2006) , ``Advertising Engagement.・ A Driver of Message
Involvement on Message Effects,''Journal of Advertising Reseach, December, pp. 355-368.

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