AIが公開前動画の視聴者反応を"予測"する~新商品宣伝CMは「インパクト不足」!クリエイティブ改善でクリック率165%UP~

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広告・マーケティング
#Emolyzer #動画広告 #広告効果検証
AIが公開前動画の視聴者反応を
この記事はこんな方にオススメ!
  • CMやWEB動画など、動画広告の制作に関与している方
  • より視聴者にウケる番組やコーナーなどの動画コンテンツを作りたい方
  • AIを業務に活用したいとお考えの方

近年、WEB動画やコネクテッドTVなど、「動画」での発信手段が注目を集めています。
その大きな理由の1つは「(静止画よりも)情報が伝わりやすく、視聴者の感情を動かしやすいから」ではないでしょうか。
言葉や表情、音楽を通じて短時間で印象を残す動画は、広告やコンテンツ制作、PRなど各種マーケティング活動に欠かせない存在になっていると言えます。

ビデオリサーチでは、そんな動画制作時にお役立ていただける新AIソリューション「Emolyzer(エモライザー) 」を発表しました。今回は開発担当の中野と、普段から企業向けに広告クリエイティブの分析・改善支援を行っているマーケティングコンサルタントの宮田に、実際にEmolyzerを活用した動画分析の経験を踏まえ、動画制作におけるAI活用への想いを聞きました。

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話し手
中野 恵那(写真右)
新規事業開発部署にてAIを活用したソリューションサービス「Emolyzer」の企画・開発に従事。

宮田 正晃(写真左)
ソリューションユニット ビジネスソリューショングループ コンサルタント
中小企業診断士で産業カウンセラー。「事業課題整理と構造化」「市場分析」「新規サービスの加入見込み推定」「KPI設計」「広告コミュニケーションPDCA構築」「多変量解析」などを得意とする。2012年京都大学にて数学の修士課程を修了し、同年株式会社ビデオリサーチ入社。

記事の中で使用しているサービス「Emolyzer」

1.この動画、公開前に視聴者反応を予測できないか?

感情認識AIとは異なる「感情予測」からのアプローチ

【図1】「感情予測AI」と「感情認識AI」の違い

編集部さっそくですが、Emolyzerとはどういうソリューションでしょうか?

中野Emolyzerは一言で言うと『動画の感情予測AI』です。動画を読み込むと、その動画を見た視聴者がどういう感情を抱くのかを予測してくれます。

編集部例えば私(編集部担当者)が、読み込んだ動画について「面白い」と感じたのか「平凡だ」と感じたのかが分かる・・・みたいなことですか?

中野ちょっと違いますね。それは一般的には「感情認識AI」と呼ばれるジャンルで、顔の表情や声からその人の感情を読み解くものです。自動車にカメラを搭載し、運転者が眠そうにしていないかなどを読み取り安全性向上に活かすなど、感情認識AIも多くのシーンで活用が始まっていますね。Emolyzerは、特定の1人ではなく「その動画を見た視聴者たちが、動画に対しどういう感情を抱くことが多いか」を評価する「感情予測」のAIなんです 。

中野Emolyzerでは、以下の18の視聴者感情を予測することができるので、様々な種類の動画の評価にお使いいただけます。

面白い、ざん新な、高級感のある、情緒のある、親しみやすい、癒される、さわやかな、インパクトのある、スタイリッシュな、わかりやすい、説得力のある、共感できる、信頼感を感じる、独自性を感じる、こだわりを感じる、平凡な、しつこい、あきる

ABテストができなければ「事前テスト」すればいい

編集部なるほど、理解できました。「事前評価調査」をAIで行いましょうってことですね。
「事前評価」と言えば、かつては街中で会議室を借りて道行く人に声をかけ、会議室内で動画を見てもらいアンケートに答えてもらったり、WEB調査内で動画を見せてアンケートをかけたりしてビデオリサーチでも多く実施していましたが、最近はあまり聞かなくなりました。

中野そうなんです。今の主流は「事前に評価する」のではなく、「やりながら評価し、改善していく」スタイルだと思っています。いわゆるABテストですね。

編集部ABテストが主流になってきている中で、なぜ今Emolyzerを開発したんですか?

中野ABテストは確かに有用です。例えばWEB動画広告では、3~10本ほどの動画を事前に用意し、出稿しながら成果の出やすい素材を見極めていくことができます。
一方で、どの素材も視聴者の反応がイマイチなままで終わってしまうケースも出てきますよね。

また、動画制作は静止画に比べてコストが高く、より多くの人手や専門的なスキルが必要となります。複数動画を作成するぶん制作費がかさむのであまり多くの素材数を用意できないケースや、企業HPに載せるコンセプトムービーなど、公開前に1素材に絞らないといけないケースも存在します。

そうなると、やっぱり動画を「事前に評価しておく」ことで費用対効果や成果に結びつきやすい場合もあるのでは?と考え、Emolyzerの開発に着手しました。開発に際しては、イギリスに拠点を置くグローバルなクリエイティブデータプロバイダーであるDAIVID社と協業を行っています。WPP、Snapchat、Nikeなどの世界的な企業との実績を有するDAIVID社のAIエンジンをベースに、過去に放映された動画広告の評価データを蓄積しているビデオリサーチのクリエイティブカルテのデータを活用し、日本版へのローカライズを実施いたしました。

【図2】公開前の動画を「事前評価」するのが有効なケース

宮田僕らは普段、テレビCMやWEB動画広告、WEBの動画コンテンツなど複数の"動画"を組み合わせてプロモーションを行うお客様に対し、データを用いてサポートさせていただくことが多いんです。マーケティング予算内でテレビCMを作る場合、1本あたりの単価が高額になるので安易に何本も動画を作れないんですよね。
そのうえ、特に新しい商品やサービスの場合は、情報漏洩リスクの観点から事前評価でアンケート調査を行うのも難しい。

その点Emolyzerは「AIが事前評価するので情報漏洩もなく、客観的な根拠を持った動画クリエイティブの改善ポイントを抽出できる」ため、この状況の中でも企業にとって"珠玉の1本"を作るお手伝いができるんです。

編集部確かにAIならSNSでうっかりつぶやいたり、他の媒体に情報提供されたりするリスクはゼロですからね。特に著名人を起用した動画の場合、一度公開してしまうと修正が効かないので、事前評価調査を行うことでよりよいクリエイティブにするひと手間の重要性を感じました。

編集部でも、評価するのがAIっていうのが「結果の信ぴょう性に欠ける」という意見も正直、あるんじゃないですか?流行りの生成AIもそうですが、AIはウソをつく、とよく言われますし。

中野そうですね。Emolyzerで出力したデータはあくまでもAIの予測値となります。先程協業パートナーであるDAIVID社について触れましたが、どのように開発したか、少し例を交えてご説明させていただきます。

EmolyzerはDAIVID社が欧米で提供しているAIエンジンをベースに、日本版へのローカライズを実施しています。例えるなら、DAIVID社のAIエンジンは、「海外で育った優秀な料理人」のようなものです。ただ、そのままだと"日本人の味覚"とは少しズレがあるかもしれません。そこで、ビデオリサーチが動画クリエイティブ評価調査サービス「クリエイティブカルテ」で取得してきた調査データをもとに、「もう少し醤油を効かせよう」といった調整をして、日本人にもおいしいと感じるようにレシピを整えたのです。

宮田このように開発されているので、クリエイティブカルテを使って動画の評価を何度も行ってきた私から見ても、Emolyzerは日本での肌感に合う結果を出していると感じていますし、その結果を活用することでクリエイティブ改善がやりやすくなっているとも思います。

中野実際に私たちがWEB動画広告を「事前評価」してクリエイティブ改善を行った結果、出稿成果がUPした事例をご紹介します。

2.出稿前の動画広告評価を"予測"してみた

作った動画は「インパクト不足」

【図3】実験調査概要

中野ビデオリサーチが提供するソリューションサービス「Asclone 」の新規リード獲得のため、WEB動画広告を作成しました。
Ascloneは、AIにより作り上げた一般生活者の「デジタルクローン」に対し、デプスインタビュー(N=1分析)やグループインタビュー調査ができるビデオリサーチのAIソリューションです。新商品なのでテキストだけだとこのサービスの特徴が伝わりきれないと思い、動画で訴求し、サービス案内資料のダウンロードを促進するキャンペーンを打つことにしました。動画広告は、Emolyzerによる分析結果をもとに、素材A→素材B→素材Cの順で改良を重ねながら制作しました。それぞれの素材について、2024年12月18日~12月25日の期間に広告出稿を行い、広告クリック率および資料ダウンロード率といった広告効果にどのような差が生まれるかを検証しました。

宮田動画制作にあたり特に意識したのが、次の2点です。
①スキップされにくいよう冒頭にインパクトのあるシーンを盛り込み、動画視聴者を惹きつけたい
②新規性の高い商品なので、サービス特徴を分かりやすく伝えて動画視聴者の理解を促進したい

①が動画で表現できているか確認するためにEmolyzerでは感情予測評価指標のうち「インパクトのある」を、②については指標「わかりやすい」がどうスコア化されるかを確認しました。

制作会社さんに作っていただいた動画の初案(以下、「素材A」)の結果が【図4】です。

【図4】動画広告素材AをEmolyzerで検証した結果

編集部動画折れ線グラフがありますが、これは何ですか?

中野この折れ線グラフでは、18の視聴者感情のスコアが1秒単位でどう推移していくかを見ることができます。「この動画はインパクトがあったなぁ」と思った・・・という予測結果だけだと、制作時に意識した「冒頭にインパクトがあるシーンを盛り込めているか」を立証できないため、1秒単位にすることで動画のどのシーンにインパクトがあったのか/なかったのかを明らかにしています。

編集部なるほど!図4を見ると、素材Aは「インパクトのある」「わかりやすい」ともに終盤に盛り上がりが集中していますね。

冒頭のシーン改良で感情の盛り上がりを確保

宮田そうなんです。盛り上がったのはいいことなのですが、一方でWEB動画広告はスキップされる可能性もあるため、この盛り上がりはなるべく前半にあったほうが視聴者の離脱が防げるのではと考えました。
そこで、動画冒頭のフックになるシーンを改良したのが「素材B」です。【図5】を見ると、冒頭に折れ線グラフで山場ができたことが確認できます。

【図5】動画冒頭シーンを改良した素材BをAと比較すると・・・

編集部おお、これは分かりやすく変化が出ていますね!素材Bでは素材の最初と最後に折れ線グラフがぽこっとヤマを作っています。

商品の現物を見せて中盤も改善

宮田制作側の意図通りに視聴者の反応が改善されたことが分かりますよね。ただ、これだと冒頭のシーンで視聴者を惹きつけたあと15秒近く感情の波が起きないシーンが続くため、視聴者が飽きてしまうリスクがあると考えました。
そこで、中盤に商品の画面UIを見せるカットを追加して、再度Emolyzerで評価した結果が【図6】です。

【図6】動画中盤にUIに見せるカットを追加した素材CとBを比較すると

編集部これもまた分かりやすく、中盤にも感情のヤマができていることがグラフから分かりますね!「わかりやすい」に関してはその後のスコアも高位置をキープできています。中盤の早い段階に商品の現物を見せるカットを入れたことで、そのあとのシーンの理解も促進させている感じがしますね。

宮田僕もそう解釈しました。代わりに「インパクトのある」が動画の終盤の盛り上がりをなくしてしまいましたが、終盤にインパクトがあることの重要性は低いと判断し、素材Cが最も出来の良いクリエイティブであると結論付けました。

中野動画制作においては、このように完成までに何度も微修正を加えることが多いと思います。Emolyzerはブラウザ上でログインし、動画をサイトにアップロードするだけで予測結果を出せるのでスピーディな動画修正作業にも対応できるのがおすすめポイントです。

3.予測結果を基にしたクリエイティブ改善、その効果は?

クリック率は165%UP、コンバージョンにも大きく影響

【図7】素材A,B,CをSNSで動画広告として出稿した結果

編集部Emolyzerの分析結果を踏まえ、「素材A」→「素材B」→「素材C」とクリエイティブの改良を重ねていった3つの動画広告を同時にSNSに出稿した結果は・・・どうなったんでしょうか?

中野【図7】は、動画広告をクリックした人の割合(クリック率:CTR)と、クリック後に遷移したビデオリサーチのホームページ経由で商品案内資料をダウンロードしたり、お問い合わせをした人の割合(コンバージョン率:CVR)をグラフ比較したものです。
きれいにA<B<Cと右肩上がりで広告効果が高い結果となりました。広告出稿前にEmolyzerを用いて事前評価を行ったことで、広告キャンペーン成果の向上に繋げられたのではないかと思います。

宮田CVRを見ると、Emolyzerでの分析結果がまったく反映されていない「素材A」ではCVRが0%=広告きっかけでの新規リード獲得がゼロ件だったということが分かります。せっかく広告を出稿したのに、目に見える営業成果が1件も得られなかったとなると・・・広告宣伝担当者はきっと、「まずい!」と思うことでしょう(苦笑)

編集部その「まずい!」は、あとで関係者に報告するときに気が重いです(苦笑)。

中野ですよね・・・。なので、事前に分析をかけるひと手間はありますが、広告出稿でより確実な成果を得るためと考えれば、Emolyzerはきっと皆さんのクリエイティブ制作業務の一助としてお役立ていただけると考えています。

4.公開前の"ネガティブチェック"にも

宮田Emolyzerでは「しつこい」「あきる」といったネガティブな評価を出すこともできます。
例えばテレビCMで「企業名/サービス名を大声で連呼され、しつこい」とSNSで意図せず話題になってしまい、CMクリエイティブを変更した事例があります。このように動画を公開してから世間で批判を浴びる前に、事前評価をかけておくことで公開前の"ネガティブチェック"にも使えそうです。

中野Emolyzerはローンチしたばかりのサービスなので、これから多くのお客様に使っていただき、フィードバックを頂きながら新たな機能をどんどん追加していきたいと思っています。
例えば、動画を見た後の商品・サービスの印象度や興味関心喚起度、購入・利用喚起度といった評価軸となるような、KPIの予測指標を入れていくなども構想中です。

宮田ビデオリサーチには「テレビ広告統計 」「digiads」といった広告の出稿量が分かるサービスや「タレントイメージ調査」というタレント認知・人気度・イメージが分かるサービスなど、クリエイティブ評価に役立つデータアセットが多数あります。多様なデータを駆使しながら、皆さまのクリエイティブ制作、そして、クリエイティブにより生活者のココロを動かし、広告効果を高めていくご支援をさせて頂きたいと思います。

編集部お2人とも本日はありがとうございました!
そしてここまでお読みいただいた皆さまへ、Emolyzerにご興味お持ちいただけましたら、以下よりサービス案内資料をダウンロードいただくか、お問合せください。

【本記事で紹介したサービス】
・サービス名:ビデオリサーチ「Emolyzer

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